出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/01/25 22:10:24」(JST)
アルデヒド (aldehyde) とは、分子内に、カルボニル炭素に水素原子が一つ置換した構造を有する有機化合物の総称である。カルボニル基とその炭素原子に結合した水素原子および任意の基(-R)から構成されるため、一般式は R-CHO で表される[1]。任意の基(-R)を取り除いた部分をホルミル基(formyl group)といい、アルデヒド基と呼ぶのは間違いである。アルデヒドとケトンとでは、前者は炭素骨格の終端となるが、ケトンは炭素骨格の中間点となる点で異なる。多くのアルデヒドは特有の臭気を持つ。
アルデヒドは、その中心炭素がsp2混成軌道であり、これに酸素原子が二重結合、水素原子が単結合で結合した平面構造をとる。この炭素-水素結合(C-H)は酸性ではない。しかし、アルデヒドのα水素では、共役塩基の共鳴安定化のためpKaは約17になり[2]、一般的なアルカンのpKa=30よりも酸性度はずっと大きい。これは、ホルミル中心の電子求引性が大きいのと、共役塩基であるエノラートアニオンにより陰電荷が非局在化するためと考えられている。
ホルムアルデヒドを除くアルデヒドにはケト-エノール互変異性があり、酸または塩基によって触媒される。通常、平衡はケト型へ傾いている。
IUPACではアルデヒドの命名法を以下のように定めている[3][4][5]。
水素結合を作らないために、アルコールに比べて極性溶媒に溶けにくいが、極性があるため水によく溶ける(水和されやすい)。また、炭化水素基をもつため有機溶媒にも溶ける。還元性を持ち、酸化されるとカルボン酸になる。銀鏡反応、フェーリング反応に陽性。アルデヒドのIUPAC名はアルカンの語尾 -ane を -anal に置き換えることで命名できる。アルデヒドの語源は脱水素アルコールを意味するラテン語 alcohol dehydrogenatum の al + dehyd + eである。ユストゥス・フォン・リービッヒが使い始めたとされる。
多くの生物にとって有害で、アルデヒド基がタンパク質の側鎖のアミノ基と反応を起こし、さらには架橋反応に進むため、これを凝固させる作用を持つ。それを利用したものに生物学研究におけるホルマリン固定やグルタールアルデヒド固定があるし、ブドウ糖のようなアルドースが、糖尿病において次第に血管のコラーゲンやエラスチン、水晶体のクリスタリンなどといった高寿命タンパク質を蝕み、こうしたタンパク質を多く含む器官に損傷を与えるのも、同じ原理による。また、アルデヒドの一種であるアセトアルデヒドはエタノールがアルコールデヒドロゲナーゼの触媒作用によって生成し、アルデヒドデヒドロゲナーゼの働きで酢酸となる。弱い型のアルデヒドデヒドロゲナーゼを持つ人はアセトアルデヒドの中毒(=二日酔い)になりやすい。
低級アルデヒドは強い刺激臭をもつ。また、アルデヒドは全体的に辛味を有し、特に芳香族アルデヒドは一部のスパイスの辛味成分ともなっている。
沸点を同じ炭素数について比べると、エーテル<アルデヒド<アルコール の順である。
アルデヒド基は -CHO と構造が表される 1価の官能基のこと。ホルミル基 (formyl group) とも呼ばれ、「ホルミル-」は IUPAC命名法の接頭辞として用いられる。第一級アルコールの -CH2OH の部位を酸化することで得られる。また、アルデヒド基を酸化するとカルボキシル基を得ることができる。水素結合がごく弱いため、自己会合は弱く、水との親和性も弱い。
ジカルボン酸の片方のカルボキシル基が還元されてアルデヒド基になったものは通俗的にセミアルデヒドと呼ぶことがある。(例:コハク酸セミアルデヒド、グルタミン酸-1-セミアルデヒド、2-アミノアジピン酸-6-セミアルデヒド)
単糖類はアルデヒド基とケトン基を持つものに大別されるが、前者のアルデヒドの性質を持つ糖をアルドース、後者のケトンの性質を持つ糖をケトースと呼ぶ。
アルデヒドは実験室的には第一級アルコールを弱い酸化剤(例えばクロロクロム酸ピリジニウム (PCC))で酸化すると生成する。
PCC酸化の他にも多くの酸化法が知られる。PDC酸化、スワーン酸化、TPAP酸化、デス・マーチン酸化 、TEMPO酸化、向山酸化 などを参照されたい。工業的な酸化方法では、銅などの触媒を用いてアルコールを空気または酸素で酸化する方法がよく用いられる。
ワッカー酸化は、末端アルケンに水を付加してアルデヒドを得る手法として工業的に利用される(エチレンからアセトアルデヒドの工業的生成)。
DIBAL は、カルボン酸エステルを還元してアルデヒドを得るための試薬として用いられる。ニトリルは酸と塩化スズ(II)の作用でアルデヒドに変わる(スチーブン合成)。
上記の酸化・還元反応のほか、芳香族化合物やアルケンに直接ホルミル基を導入する反応がビルスマイヤー・ハック反応などいくつか知られる。それらはホルミル化、ホルミル化反応と総称される。詳細は記事: ホルミル化 を参照のこと。
工業的なアルデヒド合成法としては、ワッカー酸化とともに、アルケンの二重結合に対して水素と一酸化炭素を触媒を用いて付加させるヒドロホルミル化(オキソ法)が多用される。
アルデヒドとグリニャール試薬を反応させて、酸で処理するとアルコールが生成する。
アルデヒドを適切な酸化剤(例えば亜塩素酸ナトリウム)で酸化するとカルボン酸になる。
LAH などで還元するとアルコールに変わる。
酸触媒の存在下、アルコールと脱水反応を行わせると、アセタールが得られる。この反応はホルミル基の保護に利用される。
銀鏡反応やフェーリング反応では、アルデヒドの還元力を利用している。
ほかアルデヒドはオキシム、イミンの原料となる。
アルデヒドを基質とする人名反応は数多く、代表例のごく一部としてクネーフェナーゲル縮合、ウィッティヒ反応 を挙げる。これらはいずれも炭素-炭素結合生成として重要な反応である。
|
ウィキメディア・コモンズには、アルデヒドに関連するカテゴリがあります。 |
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
リンク元 | 「ヘミアセタール」 |
関連記事 | 「基」 |
.