出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2017/03/03 05:31:06」(JST)
α-リノレン酸 | |
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IUPAC名 | all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸 |
別名 | リノレン酸 cis,cis,cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸 |
分子式 | C18H30O2 |
分子量 | 278.43 |
CAS登録番号 | [463-40-1] |
密度と相 | 0.914 g/cm3, |
融点 | -11 °C |
α-リノレン酸(アルファ-リノレンさん、英: Alpha-linolenic acid、ALA、数値表現 18:3(n-3)または18:3(Δ9,12,15))は、多くの植物油で見られる有機化合物である。分子式 C18H30O2、示性式 CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6COOH、IUPAC名 all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸となる[2]。また、生理学では18:3(n-3)と表記される。
α-リノレン酸は直鎖18炭素で3つのcis二重結合を持つカルボン酸である。最初の二重結合はω末端から数えて3番目の炭素に位置する。したがって、α-リノレン酸は多不飽和脂肪酸であり、ω3 脂肪酸である。二重結合の場所が違う異性体にω6 脂肪酸のγ-リノレン酸がある。
栄養学では、摂取することが必須の栄養素である必須脂肪酸である。ヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産することができるが、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は10-15%程度である[3]。
植物及び微生物中で、ω3位に二重結合を作るΔ15-脂肪酸デサチュラーゼ によりリノール酸の二重結合が一個増えてα-リノレン酸が生成される[4]。ヒトを含めた動物はΔ15-脂肪酸デサチュラーゼを有さないので、α-リノレン酸を自ら合成することができない。
ヒトを含めた動物の体内ではΔ6-脂肪酸デサチュラーゼにより18:3(n-3)のα-リノレン酸(ALA)のΔ6の位置に不飽和結合を作りエロンガーゼにより炭素2個伸張して20:4(n-3)のエイコサテトラエン酸を生成し、Δ5-脂肪酸デサチュラーゼにより不飽和結合を増やして20:5(n-3)のエイコサペンタエン酸(EPA)を生成し、このエイコサペンタエン酸から22:5(n-3)のドコサペンタエン酸(DPA)を経るかSprecher's shuntと呼ばれる経路いずれかを経て22:6(n-3)のドコサヘキサエン酸(DHA)が生成される(詳細はデサチュラーゼを参照のこと。)[4]。 このようにヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産することができるが、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は10-15%程度である[3]。
不飽和化するデサチュラーゼも炭素2個伸張するエロンガーゼもω-3脂肪酸もω-6脂肪酸も共通しているので、ω-3脂肪酸の最初の出発物質であるα-リノレン酸を摂取することで、ω-6脂肪酸の最初の出発物質であるリノール酸がより多不飽和化されたω-6脂肪酸であるアラキドン酸に代謝させるのを抑制する。α-リノレン酸の摂取が少なく、アラキドン酸が過剰に存在するようになるとアラキドン酸カスケードを経て多数の作用の強い生理活性物質が産生されて炎症が起こることがある。α-リノレン酸から生成されるDHAは脳や網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある。健常者と比較してうつ病患者はω-3脂肪酸の蓄積量が有意に低くω-6とω-3の比率は有意に高かったことが指摘されている[3]。
2011年にハーバード大学で発表された10年以上にわたる50,000人以上の女性を対象とした調査で、α-リノレン酸を豊富に摂取し、同時にリノール酸をあまり摂取しないことは、有意にうつ病の発生を減少させることが認められた。また、この結果と対照的にこの調査では、魚油に含まれるEPAやDHAの摂取は、うつ病の発生を減少させないことが認められた[5]。
α-リノレン酸を摂取すると心血管疾患のリスクが軽減されるとの報告がある[6][7]。
1日約2gのα-リノレン酸の摂取が必要である。詳しくは必須脂肪酸#必要摂取量を参照のこと。
種油にはα-リノレン酸が含まれているものがあり、エゴマ、アブラナ(キャノーラ)、ダイズ、アマに含まれている。特にエゴマに多く含まれている。その他の食用油には含まれていないか、わずかしか含まれていない。
また、α-リノレン酸は広葉植物の葉のチラコイドの膜組織(光合成に関わる)からも得られる[8]。実際、ホウレンソウやチンゲンサイなどの青物野菜からα-リノレン酸が検出されている。ゆえに、葉は草食動物の格好のα-リノレン酸の供給源である。ヒトのα-リノレン酸の1日あたりの必要量は2g程度であり、仮にホウレンソウに換算すると1日1.4kgに相当し、草食動物なら可能な量かもしれないがヒトにはホウレンソウ等の野菜から摂取するには非現実的な量に相当する。α-リノレン酸1日あたり2gはキャノーラ油なら1日20gに相当する。
動物性脂肪にもわずかながらα-リノレン酸が含まれているが、ヘット(牛脂)の場合では1日300g摂取しないと上記のα-リノレン酸の必要量が満たせず、心臓病予防の観点からも現実的ではない。前述のように牧草等の葉には微量ではあるもののリノール酸に比べてα-リノレン酸が比較的多く存在している。このため牧草を飼料として与えられている羊の肉(マトン、ラム)では他の肉に比べてα-リノレン酸とリノール酸との比率が高くなり、α-リノレン酸をほとんど含まない穀物の飼料を多く与えられている鶏や豚の肉では他の肉に比べてα-リノレン酸とリノール酸との比率が低くなっている。
植物油の脂肪酸組成[9][10][11] | |||||||
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種類 | 飽和脂肪酸 | 一価不飽和脂肪酸 | 多価不飽和脂肪酸 | オレイン酸 (ω-9) |
発煙点 | ||
多価合計 | α-リノレン酸 (ω-3) |
リノール酸 (ω-6) |
|||||
非水素添加 | |||||||
キャノーラ油 | 7.365 | 63.276 | 28.142 | 10 | 22 | 62 | 400 °F (204 °C) [12] |
ココナッツ油 | 86.500 | 5.800 | 1.800 | - | 2 | 6 | 350 °F (177 °C) [13] |
コーン油 | 12.948 | 27.576 | 54.677 | 1 | 58 | 28 | 450 °F (232 °C) [12] |
綿実油 | 25.900 | 17.800 | 51.900 | 1 | 54 | 19 | 420 °F (216 °C) [12] |
オリーブ油 | 13.808 | 72.961 | 10.523 | 1 | 10 | 71 | 374 °F (190 °C) [14] |
パーム油 | 49.300 | 37.000 | 9.300 | - | 10 | 40 | 455 °F (235 °C) [15] |
ピーナッツオイル | 16.900 | 46.200 | 32.000 | - | 32 | 48 | 437 °F (225 °C) [12] |
ひまわり油 (中オレイン種) |
9.009 | 57.334 | 28.962 | 0.037 | 28.705 | 57.029 | 510 °F (266 °C) [12] |
大豆油 | 15.650 | 22.783 | 57.740 | 7 | 54 | 24 | 460 °F (238 °C) [12] |
ベニバナ油 (高オレイン種) |
7.541 | 75.221 | 12.820 | 0.096 | 12.724 | 74.742 | 510 °F (266 °C) [12] |
米油 | 19.7 | 39.3 | 35 | 1.6 | 33.4 | 39.1 | 450 °F (232 °C) [要出典] |
グレープ シード |
9.6 | 16 | 69.9 | 0.1 | 69.6 | 15.8 | 421 °F (216 °C) [要出典] |
アマニ油 (フラックスシードオイル) |
8.976 | 18.438 | 67.849 | 53.368 | 14.327 | 18.316 | 225 °F (107 °C) [要出典] |
ごま油 | 14.2 | 39.7 | 41.7 | 0.3 | 41.3 | 39.3 | 350 °F (177 °C) ~450 °F (232 °C) [16] |
水素添加済 | |||||||
綿実油 (水素添加) |
93.600 | 1.529 | 0.587 | 0.2 | 0.287 | 0.957 | |
パーム油 (水素添加) |
47.500 | 40.600 | 7.500 | ||||
大豆油 (水素添加) |
21.100 | 73.700 | 0.400 | 0.096[9] | |||
値は重量パーセント |
魚介類100g中の主な脂肪酸については魚介類の脂肪酸を参照のこと。
肉類100g中の必須脂肪酸については必須脂肪酸#肉類中の必須脂肪酸を参照のこと。
野菜 | 部位、状態 | ω-3 α‐リノレン酸 |
ω-6 リノール酸 |
---|---|---|---|
えだまめ | 生 | 500 | 2000 |
えだまめ | 冷凍 | 500 | 3000 |
グリンピース | 生 | 10 | 70 |
グリンピース | 冷凍 | 30 | 200 |
日本かぼちゃ | 果実、生 | 20 | 7 |
西洋かぼちゃ | 果実、生 | 20 | 40 |
キャベツ | 結球葉、生 | 9 | 10 |
レッドキャベツ | 結球葉、生 | 7 | 6 |
きゅうり | 果実、生 | 8 | 4 |
ケール | 葉、生 | 40 | 20 |
こまつな | 葉、生 | 60 | 8 |
しゅんぎく | 葉、生 | 70 | 30 |
セロリ | 葉柄、生 | 5 | 30 |
そらまめ | 未熟豆、生 | 4 | 50 |
だいこん | 葉、生 | 20 | 3 |
だいこん | 根、皮つき、生 | 20 | 6 |
つまみな | 葉、生 | 60 | 10 |
たまねぎ | りん茎、生 | 1 | 20 |
スイートコーン | 未熟種子、生 | 20 | 500 |
スイートコーン | 未熟種子、ホール、冷凍 | 20 | 600 |
スイートコーン | 未熟種子、カーネル、冷凍 | 20 | 500 |
トマト | 果実、生 | 3 | 20 |
トレビス | 葉、生 | 20 | 30 |
とんぶり | ゆで | 100 | 1000 |
なす | 果実、生 | 0.9 | 4 |
にんじん | 根、皮つき、生 | 4 | 30 |
きんとき | 根、皮つき、生 | 5 | 30 |
きんとき | 根、皮むき、生 | 7 | 50 |
にんにく | りん茎、生 | 40 | 400 |
葉ねぎ | 葉、生 | 40 | 40 |
はくさい | 結球葉、生 | 20 | 3 |
青ピーマン | 果実、生 | 10 | 30 |
ほうれんそう | 葉、生 | 100 | 30 |
まこも | 茎、生 | 5 | 30 |
むかご | 肉芽、生 | 10 | 50 |
大豆もやし | 生 | 100 | 600 |
レタス | 結球葉、生 | 10 | 10 |
サラダ菜 | 葉、生 | 50 | 20 |
コスレタス | 葉、生 | 20 | 10 |
れんこん | 根茎、生 | 3 | 20 |
ロケットサラダ | 葉、生 | 50 | 10 |
植物油として | 別名 | リンネ名 | % ALA† | ref. |
---|---|---|---|---|
シソ(エゴマ) | shiso(perilla) | Perilla frutescens | 58% | [18] |
アマ | linseed | Linum usitatissimum | 55% | [18] |
アブラナ | canola | Brassica napus | 10% | [2] |
ダイズ | soya | Glycine max | 8% | [2] |
†平均値 |
α-リノレン酸(ALA)は乾性油の中でも最も豊富な不飽和化合物である(例:シソ油、アマニ油)。
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