出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/06/20 17:43:06」(JST)
がん検診(がんけんしん)とは、がんの症状がない人々において、存在が知られていないがんを見つけようとする検診である。がん検診は多くの健康な人々に対して行うものであるから、比較的安価で、安全で、体をあまり侵襲しない、偽りの陽性の割合が許容範囲内のものでなければならない。もし、がん検診でがんの徴候が見つかれば、がんの診断を確実なものにするために、引き続いてもっと確実でより侵襲的な検査が行われる。
がん検診により、特定の症例ではより早期に診断を行うことが可能になる。早期診断は寿命を実際に延ばすであろうが、単にそう見えるだけの場合もある。治療効果がない場合でも早期診断されれば診断から死亡までの時間は長くなるので寿命は延びたように見える。また、早期診断されやすいがんは早期の段階に長くとどまるがんであり、悪性度の低いがんであるため、治療効果はなくても、平均的な悪性度のがんと比較すれば、寿命は延びたように見える。
それぞれの悪性腫瘍に対して、多くの種類のがん検査が考案されてきた。乳がん検診は乳房を自分で調べることによって行い得るが、この方法は2005年に30万人を越える中国人女性に対して行われた研究により効果が否定された。マンモグラフィーを用いた乳がん検診は対象の集団において乳がんをより早期の段階で診断できることが証明されている。マンモグラフィーを用いた乳がん検診が実施されると、10年以内にその国で診断される乳がんの病期がより早期になることが示された。大腸がんは便潜血反応や大腸鏡を用いて検査することができるが、おそらくは悪性化する前のポリープを除去することにより大腸がんの発生率と死亡率を下げていると考えられる。同様に、パップテストを用いた子宮頸部がん検診は前がん病変を見つけて切除することを可能にしている。この方法の子宮頸部がん検診が実施されて時間が経過すると子宮頸部がんの発生率と死亡率が劇的に低下することが示されている。睾丸がんを見つけるために、15歳以上の男性は睾丸を自分で調べることが推奨されている。前立腺がんは肛門指診とPSA(前立腺特異抗原)の血液検査の併用により検査することができるが、アメリカ合衆国予防サービス事業(en:US Preventive Services Task Force)のような政府組織はすべての男性が定期的にPSAテストを受けるよう推奨している。
がん検診はその検診が本当に命を救うかどうか明らかでない場合には議論の対象になる。検診による利益が、引き続く検査や治療のリスクを上回ることが明らかでない場合には議論が巻き起こる。例えば、前立腺がんの検診において、PSAテストは決して生命を脅かすことのないような小さながんを見つけることがあり、不必要な治療が行われることがある。この過剰診断の状況では手術や放射線治療などの不必要な治療による合併症の危険にさらされる。前立腺がんの診断に引き続いて行われる検査(前立腺の生検)は出血や感染などの副作用を引き起こすことがある。また、前立腺がんの治療は失禁(尿の流れをコントロールできないこと)や勃起障害(性交渉における不充分な勃起)を引き起こすことがある。同様に、乳がんについても、いくつかの国の乳がん検診は解決するトラブルよりも多くのトラブルを引き起こしているという批判がある。一般の人々に対する乳がん検診は、「偽りの陽性」の女性を多数生み出し、がんを除外するために引き続く積極的な検査を必要とするので、1人の早期がん患者を見つけるために多数の女性に検診をして生検をしなければならないのである。
パップテストを用いた子宮頸がん検診は、公衆衛生の観点から、費用対効果の点で、最も優れたがん検診である。なぜなら、子宮頸がんは主にあるウイルスによって引き起こされ、明確なリスク要因(性的交渉)があり、自然経過は通常は何年もかかってゆっくり広がってゆき、それゆえがん検診で早期の状態で見つけられる期間が長いのである。さらにこの検査は施行が簡単で比較的安価である。
これらの理由により、がん検診を行うかどうかを決める場合には診断と治療の処置による効果とリスクを比較計量することが重要である。
はっきりした症状がない人々に対してがん検査の目的で画像検査を行うことは同様にトラブルを引き起こす場合がある。画像検査により、近年「偶発腫瘍」と呼ばれる良性の腫瘍を発見して、悪性の腫瘍と受け取られ、引き続いて、本来危険な検査の対象になってしまう少なからぬ危険があるのである。喫煙者に対するCTスキャンを用いた肺がん検診に対する最近のいくつかの研究はその効果が疑わしいと結論しており、2007年7月において、組織的な肺がん検診は推奨されていない。また、喫煙者に対する胸部X線写真を用いた肺がん検診に関するいくつかの無作為臨床試験はこの方法では効果がまったくないと結論している。
犬に対するがん検診も見込みがあるが、まだ研究初期の段階である。
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