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この項目では、日本における地域保険制度について説明しています。
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国民健康保険(こくみんけんこうほけん、英: National Health Insurance)は、日本の国民健康保険法等を根拠とする、法定強制保険の医療保険である。主に市町村が運営し、被用者保険などとともに、日本におけるユニバーサルヘルスケア制度の中核をなすものである。
医療保険事務上の略称は国保(こくほ)と呼ばれ、社保(しゃほ)と呼ばれる被用者保険(健康保険等)と区別される。日本の人口のうち27.5%が市町村国保への加入者、2.5%が国保組合の加入者である(2011年)[1]。
公費負担医療給付 | 2兆9792億円 (007.4%) | ||
後期高齢者医療給付 | 13兆0821億円 (032.7%) | ||
医療保険等給付 18兆8109億円 |
被用者保険 8兆8815億円 |
協会けんぽ | 4兆4926億円 (011.2%) |
健保組合 | 3兆3238億円 (008.3%) | ||
船員保険 | 189億円 (000.0%) | ||
共済組合 | 1兆0461億円 (002.6%) | ||
国民健康保険 | 9兆5331億円 (024.0%) | ||
その他労災など | 2981億円 (000.7%) | ||
患者等負担 | 4兆9918億円 (012.5%) | ||
軽減特例措置 | 1970億円 (000.5%) | ||
総額 | 40兆0610億円 (100.0%) |
日本において最初の公的医療保険は、1922年(大正11年)に施行された健康保険法であり、これは企業雇用者の職域健康保険であった[3]。
農家・自営業者の地域保険については、埼玉県越ヶ谷町(現・越谷市)の一般住民を対象とした、日本初の地域健康保険制度「越ヶ谷順正会」が1935年(昭和10年)に発足し、その3年後の1938年(昭和13年)に、政府レベルでの国民健康保険法(旧法)が創設された。このため越谷市は「越ヶ谷順正会」を「国民健康保険の発祥」と称しており、国民健康保険法施行10周年を記念して、1948年(昭和23年)には「越ヶ谷順正会」を顕彰する「相扶共済の碑」が、現在の越谷市役所の敷地内に立てられている。
また、山形県角川村(現・戸沢村)は、当時無医村だった村に村営診療所を設立するため、1936年(昭和11年)に「角川村健康保険組合」を発足させ、その2年後の1938年(昭和13年)の国民健康保険法の下で認可された国民健康保険組合第1号となったことにより、「国民健康保険の発祥の地」と称しており、国民健康保険法施行20周年を記念して、1958年(昭和33年)に、現在の農村環境改善センターの敷地内に「相扶共済の碑」と「国民健康保険発祥地の由来の碑」を立てている。
1938年(昭和13年)の旧法制度では、当時は組合方式であり農山漁村の住民を対象としていた[3]。市町村運営方式により、官庁や企業に組織化されていない日本国民が対象となったのは、1958年(昭和33年)であり、1961年(昭和36年)には、日本国民全てが「公的医療保険」に加入する国民皆保険体制が整えられた[3]。
国民健康保険法は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もって社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする(第1条)。そしてこの目的を達するために、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して、必要な保険給付を行う(第2条)。
国は、国民健康保険事業の運営が健全に行われるようにつとめなければならない。また都道府県は、国民健康保険事業の運営が健全に行われるように、必要な指導をしなければならない(第4条)。
保険者数 | 世帯数(千世帯) | 被保険者数(千人) | |
---|---|---|---|
市町村国保 | 1,723 | 20,372 | 35,493 |
国保組合 | 165 | 1,542 | 3,227 |
計 | 1,888 | 21,914 | 38,769 |
加入者から徴収した国民健康保険税(又は国民健康保険料)と国庫負担金等の収入によって、保険加入者が疾病、負傷、出産又は死亡したときに、保険給付を行う事業主のことを保険者という。以下が存在する(第3条)。
国民健康保険事業の運営に関する重要事項を審議するため、すべての市町村に市町村長の諮問機関として、国民健康保険運営協議会が置かれる(第11条)。協議会の委員は、被保険者代表、保険医・保険薬剤師代表、公益代表各同数で組織される。
国保組合の内訳は以下となっている。
組合には組合会が置かれ、規約の変更、収入・支出の予算、決算等の事項については、組合会の議決を経なければならない(第27条)。また役員として、理事及び監事が置かれ、理事の定数は5人以上、監事の定数は2人以上、理事及び監事の任期は、3年をこえない範囲内において、それぞれ規約で定める(第23条)。
国民健康保険組合を設立しようとするときは、15人以上の発起人が規約を作成し、組合員となるべき者300人以上の同意を得て、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けなければならない。都道府県知事は、認可の申請があった場合、組合の地区を含む市町村長の意見を聴き、これらの市町村の国民健康保険事業の運営に支障を及ぼさないと認めるときでなければ認可をしてはならない。組合は、設立の認可を受けた時に成立する(第17条)。組合は、その名称中に「国民健康保険組合」という文字を用いなければならず、組合以外の者は、「国民健康保険組合」という名称又はこれに類する名称を用いてはならない(第15条)。組合の規約には、以下の事項を記載しなければならない(第18条)。
市町村国保を原則とする立場から、厚生省は1959年(昭和34年)以降、原則として新規設立を認めていないが、特例として認可されることもある。実例は以下の通り。
被保険者証の保険者番号は、6桁の番号からなる。
農林水産業 | 3.1% | |
---|---|---|
自営業 | 15.5% | |
被用者 | 35.3% | |
無職者 (40.8%) |
うち60歳以上 | 32.4% |
30〜59歳 | 7.0% | |
〜29歳 | 1.4% | |
その他 | 5.2% |
市町村の区域内に住所を有する者で、適用除外に該当しない者はその意思のいかんにかかわらず、全員が当該市町村が行う国民健康保険の被保険者とされる(第5条)。外国人であっても、90日以上の在留期間が決定された中長期在留者(施行規則第1条)や、資料上90日以上の国内滞在者であると認められる者は、国保への加入義務が発生する[7]。
市町村国保の被保険者は、当該市町村の区域内に住所を有するに至った日又は適用除外のいずれにも該当しなくなった日から、その資格を取得し(第7条)、その日から14日以内に市町村に所定の事項を記載した届出をしなければならない(施行規則第2条)。
ただし、学校等に修学のため他市町村に居住する学生については、自ら生活している場合や結婚して配偶者の所得で生計を維持しているような場合を除き、親元の市町村の国民健康保険の適用を受ける。また、病院等に入院することにより他市町村からその病院等のある市町村に転入した場合は、入院した際に現に住所を有していた従来の市町村の国民健康保険の被保険者とされる。
市町村国保の対象となるのは、具体的には農林水産業従事者、自営業、被用者保険に該当しない非正規労働者、退職者、無職者であり、被扶養者という概念は国民健康保険にはない(家族も「被保険者」となる。ただし#退職者医療制度に係る場合をのぞく)ため、専業主婦・専業主夫、学生や未成年者等も被保険者となりうる。かつては自営業者を加入者の代表例とする場合が多かったが、最近は退職者など無職者が加入者の4割を超える[1]。
国民健康保険組合は、同種の事業又は業務に従事する者で当該組合の地区内に住所を有するものを組合員として組織する(第13条1項)。世帯主が適用除外に該当しても、その者の世帯に適用除外に該当しない者(他の国保組合員である者を除く)がいれば、組合員となることができる(第13条3項)。組合に使用される者(他の国保組合員である者を除く)も、適用除外に該当しなければ組合員となることができる(第13条4項)。
国保組合の組合員及び組合員の世帯に属する者は、適用除外に該当しない限り当該組合が行う国民健康保険の被保険者となる(第19条1項)。ただし、規約で定めることにより、組合員の世帯に属する者を包括的に被保険者としないことができる(第19条2項)。
国保組合の被保険者は、当該組合員となった日又は適用除外に該当しなくなった日からその資格を取得する(第20条)。
次の各号のいずれかに該当する者は、上記の規定にかかわらず国民健康保険の被保険者としない(第6条、第13条3項)。
65~74歳の高齢者を前期高齢者(准高齢者)と呼ぶ[8]。受給サービスは同じであるが、これらの加入者財政については保険者間にてリスク構造調整がなされている[8]。被用者保険(協会けんぽ、健保組合、共済組合)から国保に対して計3兆円規模の財政移転となる[8]。
現在は退職者医療制度への新規加入は廃止され経過措置である[8]。対象者は、被保険者のうち、厚生年金や共済年金などの被用者年金制度の老齢(退職)年金を受給している65歳未満の者(退職被保険者)、及びその65歳未満の被扶養者(被用者保険とは異なり、配偶者や直系尊属であっても「同一世帯」に属していなければならない)である[8]。
なお、通算老齢(退職)年金受給者については、被用者年金に20年以上又は40歳以後10年以上加入している者が対象になる[9][8]。被保険者証の保険者番号は、67から始まる8桁の番号となる。
退職者医療制度はあくまでも国民健康保険の中に含まれる[8]。一般の国民健康保険と比べると
となっている。対象者に直接の利益はないが、リスク構造調整により財政安定につながるという意味がある。
事務費の負担については、国保組合の場合は全額国庫負担であるが(第69条)、市町村国保については国庫負担は行われず、市町村ごとに特別会計を設けなければならない。
療養の給付等に要する費用の負担については、市町村国保では費用の32%を国が補助し、国保組合では組合の財政力を勘案して費用の13〜32%を国が補助することができる。
市町村国保の場合、市町村は国民健康保険特別会計を設けなければならない(第10条)。
市町村国保の主な財源は、国、都道府県及び保険者(市区町村)の負担金及び世帯主からの保険料又は国民健康保険税からなっている。内訳は以下の通りである。下記4つの方式の全部又は一部が採用されるが、自治体によりその組み合わせや所得割の掛け率、世帯ごとの保険料の上限は異なっている[11]。他の保険制度と比べ所得に対する負担率が高いが、個人事業主には従業員の有無と関係なく、より重い負担を求める制度になっている自治体が多い。
被保険者の給付に要する費用(医療費から患者負担分を除いた費用)は(#退職者医療制度世帯を除く)、50%が公費、残り50%が保険料で賄われることとされる。公費の内訳は、国41%(給付費等負担金32%、調整交付金9%)、都道府県9%である。加えて様々な支援がなされているので[12]、加入者の保険料収入は41.6%であった[13]。#退職者医療制度世帯の給付に要する費用は、保険料と、療養給付費等交付金(被用者保険の保険者からの拠出金)で賄っている(リスク構造調整)。
年間保険料は、市町村によって決められた納期までに納めなければならない。納付方法は、原則として介護保険や後期高齢者医療制度と共通である。
納付方法は「口座振替」または前もって郵便にて送られてくる「納付書」の2つを採用しているところが多い。世帯主を含む加入者全員が65歳以上75歳未満の者の世帯については、世帯主が受ける公的年金が18万円以上であり、かつ保険料(介護保険料との合算)が年金額の2分の1以下である場合は、特に口座振替の申し出をしない限り、保険料は年金からの天引きとなる(特別徴収)(第76条の3)。公的年金は高齢者の所得保障のために給付するものであるから、65歳未満の者の保険料を公的年金から控除するのは不合理である、という理由から、65歳未満の被保険者が属する世帯に属する者は特別徴収の対象とはならない。ここでいう「公的年金」とは、老齢基礎年金のみならず障害基礎年金・障害厚生年金、遺族基礎年金・遺族厚生年金も含むが、老齢厚生年金は含まない(老齢厚生年金受給者は、既に老齢基礎年金が支給されているため)。なお国民健康保険組合の場合は、特別徴収は行われない。
市町村が徴収する世帯主に対する保険料の賦課額のうち、基礎賦課額は54万円を、後期高齢者支援金等賦課額は19万円を、介護納付金賦課額は16万円を超えることはできない(施行令第29条の7)。
なお、国民健康保険における保険料(税)納付義務者は世帯主であり、個々の被保険者ではない。また、加入や脱退等の届出義務者も世帯主である。また、世帯主自身が国民健康保険の被保険者でなくても、世帯の構成員に被保険者がいる場合は、世帯主が保険料(税)の納付義務を負うことになっている。したがって、保険料(税)の通知や被保険者証などは世帯主宛てに送付されることになっている。この場合における世帯主を、実務上「擬制世帯主(ぎせいせたいぬし)」または略して「擬主(ぎぬし・ぎしゅ)」という。介護保険や国民年金などの保険料の第一次的納付義務者が被保険者であるのと異なっている。
世帯数 | 国保加入世帯に 占める割合 |
||
---|---|---|---|
滞納世帯数 | 372.1万 | 18.1% | |
うち短期被保険者証交付 | 116.9万 | 5.7% | |
うち被保険者資格証明書交付 | 27.7万 | 1.3% |
自治体規模 | 出納率 | |
---|---|---|
市部平均 | 89.4% | |
政令都市・特別区 | 87.9% | |
中核市 | 89.0% | |
10万人以上 | 87.6% | |
5-10万人 | 88.5% | |
5万人未満 | 91.2% | |
町村部平均 | 93.4% | |
全国平均 | 89.8% |
市町村国保の滞納者に対しては、短期保険証や被保険者資格証明書の発行によって保険証の使用が制限される。
市町村は保険料滞納が長引く場合、以下の場合を除いて世帯主に対し被保険者証の返還を求めている。求められた世帯主は応じる義務がある(第9条、施行令第1条)。
保険料を1年を超えて滞納した者は、被保険者証を返還しなければならない(第9条3項〜5項)。そのため返還後疾病などに罹患して療養を受けた際には、いったん窓口で費用の全額を支払い(療養の給付等を受けることができない)、被保険者証の代わりに交付される被保険者資格証明書(第9条6項)を窓口で提示し、後日自己負担額を除いた相当額を特別療養費として償還払いで支給される。
保険料滞納により被保険者証を返還した世帯主に、その世帯に属する18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある被保険者(要は高校生以下の子供)があるときは、市町村は、その世帯主に対し、その被保険者(子供)に係る有効期間を6ヶ月とする被保険者証を交付することとされる。この被保険者証は更新可能である。
国民健康保険の保険給付は、法律により給付を行う義務が課せられる法定給付と、そのような義務が課されていない任意給付とに大別される。さらに法定給付は、必ず実施しなければならない絶対的必要給付と、特別の理由があるときには行わないことができる相対的必要給付に大別される。
なお、国民健康保険においては、保険給付は個々の被保険者に対してではなく、(保険料納付義務者たる)世帯主又は組合員に対して支給される。したがって、一部負担金の支払義務も世帯主又は組合員が負う。また被用者保険における「家族給付」は国民健康保険には存在しないので、家族全員(退職被保険者の被扶養者を含む)が「被保険者」としての保険給付を受ける。
以上については、健康保険における給付とほぼ共通である。
条例または規約の定めるところにより行うものとされるが、特別の理由があるときにはその全部又は一部を行わないことができる(第58条1項)。
条例または規約の定めるところにより行うことができる(第58条2項)。
保険者は、保険医療機関等から療養の給付に関する費用の請求があったときは、法定の算定方法等に照らして審査した上、支払うものとする。保険者は、この審査及び支払に関する事務を都道府県の区域を区域とする国民健康保険団体連合会(加入している保険者の数がその区域内の保険者の総数の3分の2に達しないものを除く。)又は社会保険診療報酬支払基金に委託することができる(第45条)。また保険者は、出産育児一時金、葬祭費又は葬祭の給付、傷病手当金の支払いに関する事務を基金に委託できる。
国民健康保険団体連合会には国民健康保険診療報酬審査委員会(以下「審査委員会」という。)が置かれ、事務の遂行に支障のない範囲内で、診療報酬請求書の審査を審査委員会に行わせることができる(第87条)。
国民健康保険における保健事業は、より積極的な事前の措置として、傷病の発生を未然に防止し、あるいは早期発見により重症化・長期化を防止し、被保険者の健康保持及びその増進を図るため、健康教育、疾病予防、健康診断、母性及び乳幼児の保護、栄養改善、レクリエーション等の活動を実施するとともに、療養の給付を行うための国保病院、国保診療所を設置するなどの活動と施設の全体を総称していう(第82条)[16]。
市町村国保および組合国保には直営で医療機関を運営するところもあり、市町村国保直営施設は2011年では1,145施設であった[17]。
交通事故や傷害事件など、第三者の行為(故意か過失かを問わない)によって受けた傷病による医療費は、その第三者(加害者)が損害を賠償する責任を負うことになる。しかし、損害賠償が不十分であったり遅延したりしている場合もあり、被保険者たる被害者は、国民健康保険で治療が受けることが出来る。その場合は、保険者に「第三者行為による傷病届」を提出する必要がある(施行規則第32条の6)。保険者は、加害者に代わり、一時的に治療費を立替えて支払うことになり、後日加害者にその立替え分を請求することとなる(第64条)。
保険給付に関する処分・被保険者証の交付・返還に関する処分、又は保険料その他国民健康保険法の規定による徴収金に関する処分に不服がある者は、処分のあったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内に、国民健康保険審査会に審査請求をすることができる(一審制、第91条1項)。徴収金以外の処分については二審制をとる被用者保険との差異である。処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない(審査請求前置主義、第103条)。審査請求は、時効の中断に関しては、裁判上の請求とみなす(第91条2項)。
国民健康保険審査会は各都道府県に置かれ、被保険者を代表する委員、保険者を代表する委員及び公益を代表する委員各3人をもって組織する。委員の任期は、3年(補欠の委員の任期は、前任者の残任期間)とする(第92〜94条)。
保険料その他国民健康保険法の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によって消滅する。保険料その他国民健康保険法の規定による徴収金の徴収の告知又は督促は、民法の規定にかかわらず、時効中断の効力を生ずる(第110条)。
2012年度では市町村国保の47.7%(819保険者)が赤字決算であった[18]。
市町村国保の保険料は全国均一ではなく、各保険者ごとに独自で決められるようになっている。その理由は、地域の産業構造や人口構成を反映することを目指したもの。しかし、同じ年収金額帯でありながら保険料が自治体ごとに異なることがあり不公平感が生まれている。また、運営地域が市町村単位のため、企業の撤退や大量の退職者の発生、また高齢者人口比率が上がるなどが原因で運営が不安定になりやすいという欠点がある。その解決策として市町村国保への多額の一般会計からの繰り入れや、国保組合への国費投入などは、自分が加入していないはずの保険者に対する公費投入になるため、不公平感が指摘されている。
国民健康保険中央会は、すべての公的保険制度を国保に一本化するよう要望している[19]。OECD対日審査では、国保制度について市町村別から都道府県別に移行し規模の拡大を図るよう勧告されている[20]。2013年の社会保障国民会議においても同様の勧告がなされた[21]。また、後期高齢者医療制度支援金について、現在の「加入者割」から完全に「総報酬割」に移行するよう勧告された[21]。2015年にはこれらの改正を行う法案が可決し、平成29年度より完全総報酬割に移行し、平成30年度より市町村国保は都道府県主体で運営されることとなった[22]。
制度発足当初は、サラリーマンでない自営業者や農業従事者の医療保険制度として発足した。だが、産業構造の変化や高齢化の進展により、非正規雇用者や年金生活者や失業者等の無職者の割合が半数近くを占めている。また加入者1人あたりの医療費支出も高く、2010年は他の保険加入者の2倍であった[23]。自治体においては、一般財源等により補填を行っているが、自治体の財政状況により多分な負担ができなくなっている。2009年は市町村国保の約半数が赤字となった[24][25]。
また国保における、被用者保険対象外となるパートタイマー労働者の比率は32.4%まで上昇している[26]。そのため被用者保険の適用を拡大する法改正がなされ、2015年10月より要件を満たした一部のパートタイマー等への被用者保険の適用が始まり、将来の完全施行を目指している(健康保険#非正規労働者)。
市町村国保の保険料収納率は1980年(昭和55年)頃には95%程あったが、2009年には過去最低の88.08%を記録[27]、2012年では89.86%となった[28]。
なお、滞納分は滞納することなく支払った他の被保険者が負担することになっており、保険料は滞納分を見越して設定されているといわれている。また、それでも不足の場合は、一般会計からの繰り入れで補填されることになっている。
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財政難に苦しむ市町村国保からは、国保組合制度の存在および国保組合に対する税金投入に対して批判の声が上がっている。
加入時に病歴を申告させ虚偽だった場合、医療給付を受けられなくなるとの注意を促している国保組合が一部にある。財政安定化のため慢性疾患のある者の新規加入を防止するための措置であるが、国保組合に加入できないとしても市町村国保には問題なく加入できる。これは違法性はないとされるが保険者による加入者の選別といえ、市町村国保への負担増大の一因といえる。
医療関係者向け組合の多くは自家診療の場合は保険適用されない。ただし、診療コストがほぼ原価で済む場合があるため経済的には保険適用の3割負担と比べても必ずしも不利になるとはいえない。よって、可能な限りあえて全額負担の自家診療を選択することで、保険組合への負担軽減に貢献しているとの指摘がある。そのため、国保の一元化に関してはこうした自助努力をしている保険者にたいする公平性の確保も問題になる。2013年の社会保障国民会議では、所得の高い国保組合に対して、定率補助廃止の取り組みを進めるよう勧告された[21]。
日本は国民皆保険であり、日本国民および90日以上の在留者は、必ず何らかの健康保険に加入、または医療扶助を受給していることになっている。すなわち無保険者は制度上存在しない(生活保護受給者を除く)。にもかかわらず、保険証を持っていない事実上の無保険者が存在する(国民皆保険の形骸化)。
国民健康保険は雇用者でない自営業者などのための保険制度であるため、保険料の支払いは給料天引きではない。よって、滞納の問題が起こる。滞納者は短期被保険者証が交付され、滞納が1年間に渡ると保険証を没収され、有効期限を6か月とする被保険者資格証明書に切り替わり(第9条5-6)、さらに6か月を過ぎると保険給付そのものが停止される。この時、被保険者でありながら保険給付を受けることができない事実上の無保険者となる。保険料の支払い能力があるのに支払わず滞納していると口座などが差押される場合がある[30]。
経済的困窮者については、生活保護の申請により医療扶助が支給されるが、これはミーンズテストに該当する場合でなければならない。このため、生活保護を受けるに至らない程度の経済的困窮者が保険料を払えず滞納し事実上の無保険者になるケースもあり、全日本民医連の調査では2014年に受診が遅れて死亡したケースが56人で、うち無保険者は20人、短期被保険者は8人であった[31][32]。このような者を対象とした無料低額診療事業を行っている病院もある[33][34]。
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