出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/12 16:20:00」(JST)
ジエチルエーテル | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | ジエチルエーテル エトキシエタン |
分子式 | C4H10O |
分子量 | 74.12 g/mol |
形状 | 無色液体 |
CAS登録番号 | 60-29-7 |
SMILES | CCOCC |
性質 | |
密度と相 | 0.7134 g/cm3, 液体 |
水への溶解度 | 6.9 g/100 mL (20 ℃) |
融点 | −116 °C |
沸点 | 35 °C |
出典 | ICSC |
ジエチルエーテル (diethyl ether) はエーテルの一種。分子式は C4H10O で、示性式は CH3CH2OCH2CH3、又は、(CH3CH2)2O、分子量 74.12 。特徴的な甘い臭気を持つ、無色透明の液体である。エチルエーテル、硫酸エーテルとも呼び、また単にエーテルというときはこのジエチルエーテルのことを指す場合が多い。IUPAC名ではエトキシエタンとも呼ばれる。
溶媒抽出法に用いられる。水にやや溶けやすく、オクタノール/水分配係数は0.89。比重が水より小さいため、有機層は水層の上に位置する。グリニャール反応などの有機金属化学の溶剤としてもよく使われる。またアセチルセルロースなどの合成に使われる。
気化して吸入することで麻酔作用を得られるが、導入が遅い。麻酔深度の調節は非常に簡単である。致死量と麻酔作用を示す血中濃度の安全域(マージン)は極めて広いため、導入麻酔薬と維持麻酔薬に別の薬を使う麻酔法が確立した現在、発展途上国の維持麻酔薬の主流である。しかし、今日の最新医療では電子機器を沢山使うために、元々、静電気を溜め込みやすい性質に加えてきわめて発火しやすいため、日本の手術室ではまったく使われない。 麻酔薬としては筋弛緩作用が強く、呼吸器や循環系への抑止作用は弱く、また7~10%の気体濃度で使用するため酸素欠乏に陥りにくい特徴をもつ[1]。副作用としては、刺激性が強いため咳の原因となり、唾液腺や気管支を刺激して多量に唾液などの分泌物を分泌させることがあり、吸引の準備が一般的である。
ジエチルエーテルは発火点が低く(160°C)、セタン価が85-96と高いことから、ディーゼルエンジンの燃焼助剤として利用できる。
19世紀から20世紀初頭にかけて、エタノールの代替品としてエーテルの飲用が行われることがあった。 飲用の効果はエタノールと良く似ており、始めは上機嫌になり、そのうち酩酊して眠ってしまう。 特にアイルランドでは禁酒運動家がエタノールの代替として許容されると考えたために大流行したが、 ロシアやフランスなどでも流行していた。 アメリカ合衆国では、エタノールよりも害が少ないと考えられ、医師の会合から結婚式や裁縫会に至るまで幅広く飲まれていた。 [2] 実際には、エタノールの数倍程度の経口毒性があり、ヒトにおける最小致死量は260mg/kgである。
ポーランドでは、湯で割って、少量の砂糖、シナモン、蜂蜜、クローブなどを加えて飲まれた。鉱夫らはコーヒーやラズベリージュースに加えて飲んでいた。ストレートで少しずつ飲むのは効きが良かったが危険な方法である。エーテルは体温で沸騰するためしゃっくりを引き起こすし、極端な場合には胃が破裂することもあった。 [3]
ジエチルエーテルは酸を触媒としてエタノールの脱水縮合で合成できる。 エタノールを硫酸のような強酸と混ぜると、酸が解離してヒドロニウムイオンが生じる。 これがエタノールの酸素原子をプロトン化することで、エタノール分子は正電荷を持つ。
そこでプロトン化されていないエタノールの求核性の酸素原子が、プロトン化したエタノール分子の水と置換して、ジエチルエーテルが生じる。
この反応は可逆性であり、エーテルの収率を高めるためには、反応系からエーテルを留出させる必要がある。 また温度が高いとエタノールが脱水してエチレンを生じるので、この反応は150°C以下で行う必要がある。
工業的には、エチレンから気相水和でエタノールを合成する際の副産物として合成されている。 またエタノールからアルミナを触媒とした気相脱水でもジエチルエーテルを合成出来る。
エーテルの代謝にはシトクロムP450が関わっているとされる。[4]
エーテルはアルコール脱水素酵素を阻害するためエタノールの代謝を遅くする効果がある。 [5]
ジエチルエーテルは引火点 −45 ℃と非常に引火性が高い。電気の不良導体であるため静電気が発生しやすく、それによる火花放電による引火の危険がある(自己発火性は無い)。冷暗所、遮光保管が必要であるが、冷蔵庫を使用する場合には防爆仕様であること。また発火点は160℃なので、炎や火花がなくても高温の器具などで容易に着火する。実験室などでは、エーテルを加熱する際に水蒸気を利用することで温度が100℃以上にならないようにする。
大気中の酸素や直射日光によって酸化され、爆発性の過酸化物ジエチルエーテルペルオキシドを生成しやすい。抗酸化剤として微量のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が添加されている場合がある。再蒸留時に爆発する危険があるので蓄積した過酸化物の存在を事前に確認する必要がある。過酸化物は、金属ナトリウムとベンゾフェノンを用いた蒸留か、活性アルミナカラムを通すことで除去できる。 [6]
麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約の付表IIに記載されており、麻薬向精神薬原料としての規制を受ける。
日本では消防法に定める第4類危険物の特殊引火物に該当する。また有機溶剤中毒予防規則に定める第二種有機溶剤であり、労働安全衛生法上の規制を受ける。
この化合物を初めて合成したのは8世紀イスラムの科学者ジャービル・イブン=ハイヤーン[7]とも、1275年スペインの化学者ライムンドゥス・ルルス[7]とも言われているが確たる証拠はない。一般には1540年にドイツの医師ヴァレリウス・コルドゥスが「甘い礬油」(oleum dulce vitrioli)と名付け効能を記したのが最初だとされている。ほぼ同じ頃、パラケルススがエーテルの鎮痛効果を発見している。その後1730年ドイツの医師August Siegmund Frobeniusがエーテルという名を付けた。
1818年マイケル・ファラデーがエーテルに笑気ガスと似た麻酔作用があることを発見した。エーテルは液体で瓶に入れて持ち運べることから、欧米の大学生の間で「エーテル遊び」(Ether frolics)が流行することになる。[8] これを医学に応用しようとする試みもあり、イギリスでは1840年頃にエーテルとアヘンを処方することが行われていた。 [9]また、フランスの小説家ジャン・ロランはエーテル吸引常用者で、小説「仮面の孔」はエーテル吸引の幻覚に影響されたとも言われる。
1842年1月、当時医学生だったウィリアム・クラーク(William Edward Clarke)は抜歯術を受ける患者に対してエーテル麻酔を用いたが、自身この成果を過小評価しておりその後突き詰めることもしなかった。 1842年3月30日に、ジョージア州ジェファソンの開業医クロウフォード・ロングは、エーテルを全身麻酔薬として利用し腫瘍除去術を成功させ、その後繰り返しエーテル麻酔術を利用しまた公開した。ウィリアム・T・G・モートンは1846年10月16日にマサチューセッツ総合病院でエーテル麻酔を利用した手術を成功させた。このことは電報により欧米社会へ広く宣伝され、モートンは一躍著名になり「麻酔の父」と呼ばれるようになった。[10]
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