出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/07/04 23:15:21」(JST)
電界効果トランジスタ(でんかいこうかトランジスタ、Field effect transistor, FET)は、ゲート電極に電圧をかけ、チャネルの電界により電子または正孔の流れに関門(ゲート)を設ける原理で、ソース・ドレイン端子間の電流を制御するトランジスタである。電子と正孔の2種類のキャリアの働きによるバイポーラトランジスタに対し、いずれか1種類のキャリアだけを用いるユニポーラトランジスタである。FETは主にジャンクションFET(JFET)とMOSFETに大別される。他にMESFETなどがある。FETの動作原理は電界を使って電流を制御する点で真空管に類似している。
このページでは主にSiなどの無機半導体について述べる。有機半導体を用いたものについては有機電界効果トランジスタを参照。
FETには主な3種類の端子「ゲート」「ソース」「ドレイン」がある。ジャンクションFETは通常、以上の3端子のみである。
MOSFETではさらに半導体チップ基板が4番目の端子だが「バックゲート」「バルク」「サブストレートゲート」等、呼称は一定していない。1個1個パッケージされたディスクリート部品のMOSFETでは以上の4端子が別々に出ている品種もあるが、もっぱらソースとバックゲートを内部で直結して3端子になっており、回路図記号はその構造を反映している。MOS ICの内部では通常、バックゲートはp型とn型でそれぞれまとめてVddないしVssに接続されるため、回路図では省略されることもある。
特殊なものとしては、1つのチャネルに複数のゲートがあるデュアルゲートやマルチゲートのFETがある(マルチゲート素子も参照)。
高耐圧パワーMOSFETなど特殊なFETの品種を除いて、通常のFETはソースとドレインは対称であり構造的な違いはなく、電流を流す向きにより便宜的にソースとドレインとしている。ただし前述のようにディスクリートの3端子のMOSFETはソースとバックゲートが内部で直結されているため、ソースとドレインは逆にできない。
構造上、MOSFETのバックゲートとソースおよびドレインの間にはpn接合があり、寄生ダイオードと呼ぶ。MOSFETの回路図記号の中央に書かれることがある矢印はこのダイオードを反映している(横に別に大きく描くこともある)。パワーMOSFETで誘導性負荷やモータを駆動する際、オフ時の過渡的な逆起電力を逃すためのフリーホイールダイオードとして働かせるようにすると便利である。
FETでは、電界で流れるキャリアの量を制御し、オン・オフのスイッチングを行なうが、その際に半導体中でキャリアが流れ、制御される部分をチャネルと言う。このチャネルには、半導体にn型とp型が存在するように、n型チャネルとp型チャネルの2種類が存在する。n型チャネルは導電に寄与するキャリアが電子の場合、p型チャネルは導電に寄与するキャリアがホールの場合である。注意すべき点としては、導電に寄与するキャリアのタイプであるため、実際のチャネルを構成する半導体のn型・p型と一致しない場合がある点である。実際に、HEMTでは、チャネル部分の半導体はアンドープであり、MOSFETでは、n型チャネルの場合、p型の半導体中の反転層を電子が流れることになる。このチャネルの型を示すため、FETのタイプの前にnやpの文字をつけて表すこともある(例えば、NMOS、PMOS)。
なお、一般に使用されるCMOS(相補型MOS、Complemetary MOSの略)は、NMOSとPMOSを組み合わせた構造であることを示し、CMOSと呼ばれるMOSのタイプがあるわけではない。
(MOSFETについてはそちらの記事を参照のこと)
接合型 FET は通常ゲート端子がドレイン・ソース両端子よりも低い電圧で用いる。このときゲート端子は高インピーダンスでほとんど電流を流さない。よって考えるべき電流はドレインからソースへ流れる電流 iDS のみである。 ソース電圧を基準に取り、ゲート電圧を vGS (≤ 0)、ドレイン電圧を vDS と表せば、iDS はこれらの関数としてモデル化される。 ただし以下では vDS ≥ 0 とする。
この関数は、定義域をオーム領域(ohmic region, または線型領域)、飽和領域(saturation region)、ピンチオフ領域(pinch-off region)という3つの領域に分割する。ピンチオフ領域はゲート電圧がピンチオフ電圧(pinch-off voltage)Vp とよばれる負の決まった電圧以下の領域であり、この領域ではドレイン–ソース間に電流は流れない。すなわち、
である。 ピンチオフ電圧は FET の種類により異なるがおよそ Vp ≈ −3 V とされる。
飽和領域は、ゲート電圧がピンチオフ電圧よりも大きく、かつドレイン電圧がピンチオフ電圧からみたゲート電圧よりも大きな領域であり、ここでは実質的にドレイン–ソース電流はゲート電圧のみの関数である。すなわち、電流はドレイン電圧によらず一定である。ゲート電圧に関してはピンチオフ電圧から測って理想的には 2 乗の特性をもち、式では、
と表される。ただし、IDSS はドレイン飽和電流 (drain saturation current) とよばれる正の電流値で vGS = 0 であるときに流れるドレイン–ソース電流に相当する。このドレイン飽和電流は種類によっても個々の FET によってもかなりのばらつきがある。
これに対して、残りのオーム領域ではドレイン電圧が一定であればドレイン–ソース電流はゲート電圧とともに 1 次でしか増加しない。 一方、ドレイン電圧に関してはそれが 0 のときドレイン–ソース電流が 0 となり、ドレイン電圧とともに上に凸の 2 次曲線を描いて非線型で増加する。モデル上は飽和領域でのゲート電圧の上昇に関する電流の増加と、オーム領域でのドレイン電圧の減少に関する電流の減少は、符号を逆にして 2 乗のオーダーでまったく同じである。すなわち、
となる。
飽和領域は主として増幅用途に用いられるが、オーム領域は特に電圧制御抵抗(voltage-controlled resistor)として用いることができる。 またこのモデルの特性に基づけば、ゲート端子とゲート端子への入力 x、およびゲート端子とドレイン端子間に同じ大きさの抵抗をつなぎ、ゲート電圧を入力とドレイン電圧とのちょうど中間の電圧 vGS = (x + vDS) / 2 とすることによって、オーム領域での特性を線型化できる。 すなわち次のように電圧の積に比例した電流を得ることができる。
ただしこれは vDS ≥ 0 のオーム領域でのみ成立する補正であることに注意する必要がある。
FETはその特徴から、スイッチング素子や増幅素子として利用される。特にMOS型では消費電力を小さくできることに加え、構造が平面的であるため、バイポーラトランジスタと比較して作製や集積化(小型化)が容易である。そのため、電卓以降の電子機器で使用される集積回路では必要不可欠な素子となっている。デジタル回路では、論理回路の基本素子として使用され、アナログ回路では、WLAN等に代表されるトランシーバーにおいて、送受信に使用される各種回路(LNA、フィルタ、ミキサ等)においても使用され、アナログスイッチや電子ボリュームなどにも応用される。極超短波以上ではシリコンよりもキャリアの移動度が高いヒ化ガリウム(GaAs)のような化合物半導体などを用いたFETが用いられている。
FETは「ゲート電圧が一定であればドレイン電流が一定」という性質を持つため、回路に直列に接続しておけば、常に一定の電流が流れる定電流素子として使うことができる。これを利用する、JFETのゲートをソースと直結し2端子化して定電流ダイオードと称した部品がある。順方向の使用で定電流の性能を発揮し、発光ダイオードの電流制限などに利用されている。ダイオードの名で、パッケージもダイオードと同じものを使っているが、本来のダイオードとは構造は全く異なり,逆方向の電流を制限する整流作用もない。
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