出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/09/04 22:28:17」(JST)
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著作権(ちょさくけん)は、言語、音楽、絵画、建築、図形、映画、写真、コンピュータプログラムなどの表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した著作物を排他的に支配する財産的な権利である。著作権は特許権や商標権にならぶ知的財産権の一つとして位置づけられている。
著作者の権利には、人格的な権利である著作者人格権と、財産的な権利である(狭義の)著作権とがある。両者を合わせて(広義の)著作権と呼ぶ場合があるが、日本の著作権法では「著作権」という用語は狭義の財産的な権利を指して用いられており(著作権法第17条第1項)、本項においても、狭義の意味で用いる。
著作権の保護については、『文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約』(ベルヌ条約)、『万国著作権条約』、『著作権に関する世界知的所有権機関条約』(WIPO著作権条約)、『知的所有権の貿易関連の側面に関する協定』(TRIPS協定)などの条約が、保護の最低要件などを定めており、これらの条約の締約国が、条約上の要件を満たす形で、国内の著作権保護法令を定めている。
著作権者を表すコピーライトマーク「©」は、現在では、方式主義をとるカンボジア以外では著作権の発生要件としての法的な意味はないが、著作権者をわかりやすく表すなどのために広く使われている(#コピーライトマーク参照。)。
著作権は著作者に対して付与される財産権の一種であり、著作者に対して、著作権の対象である著作物を排他的に利用する権利を認めるものである。例えば、小説の作者は、その小説を排他的に出版、映画化、翻訳する権利を有しており、他人が著作者の許諾なしに無断で出版、映画化、翻訳した場合には、著作権を侵害することになる。著作権は、多くの支分権から成り立っており、しばしば「権利の束」と呼ばれる。
著作権は無体財産権であって、著作者が作品の媒体たる有体物の所有権を他人に譲渡した場合でも、その行為によって著作権が消滅したり、移転したりすることはない。一方、無体物である著作権自体についても、その全部又は一部を譲渡することが可能である。例えば、小説家は執筆原稿を出版者に譲渡しても、依然として著作者としての諸権利を有しているが、契約により著作権自体を譲渡することもできる。なお、著作権は、譲渡のほかに、利用許諾によって他者に利用させることもできる。
著作権は相対的独占権あるいは排他権である。特許権や意匠権のような絶対的独占権ではない。すなわち、既存の著作物Aと同一の著作物Bが作成された場合であっても、著作物Bが既存の著作物Aに依拠することなく独立して創作されたものであれば、両著作物の創作や公表の先後にかかわらず、著作物Aの著作権の効力は著作物Bの利用行為に及ばない。同様の性質は回路配置利用権にもみられる。
著作権は「変更」すなわち著作物(「思想又は感情」の「創作的」な「表現」であり、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)に対する保護を与える。ここで、「創作的」については表現者の個性が表れていれば足り、新規性や独創性までは要せず、他と区別できる程度であればよいとされる。
著作権の対象として想定されるのは、典型的には美術、音楽、文芸、学術に属する作品である。絵画、彫刻、建築、楽曲、詩、小説、戯曲、エッセイ、研究書などがその代表的な例である。他に、写真、映画、テレビゲームなど、新しい技術によって出現した著作物についても保護の対象として追加されてきた。
美術的分野では、著作権のほか、意匠権が工業デザインの権利を保護するが、著作権は原則として美術鑑賞のための作品などに適用され、実用品には適用されないとする。ただし、この境界線は必ずしも明解ではなく、美術工芸品は双方の権利が及ぶとする説もある。また、国によっては意匠法と著作権法をまとめて扱っている場合もある。
国によって保護の対象が異なる場合があり、例えば、フランスの著作権法では著作物本体のほかにそのタイトルも創作性があれば保護する旨を規定している。同じく、一部の衣服のデザインが保護されることが特に定められている。米国の著作権法では船舶の船体デザインを保護するために特に設けられた規定がある。他に、明文規定によるものではないが、活字の書体は日本法では原則として保護されないが、保護する国もある。
権利が生じず、保護の対象にならないものとして、典型的にはまったく創作性のない表現と情報やアイディア・ノウハウがある。例えば、五十音順に人名と電話番号を配しただけの電話帳や丁寧に書かれただけの正方形などは著作物ではないので保護されない(電話帳については、その配列によって創作性を有する編集著作物であるとされることもある[1])。最低限どのような創作性が必要になるかについては必ずしも明瞭な判断基準は存在しない。
また、非常に独創的な思想や非常に貴重な情報であっても、そうした思想自体、情報自体が著作権法によって保護されることはない。ここから、ある数学の問題の解法やニュース報道で取り上げられる事実などは、その発見や取材に非常な努力を要することがあっても、著作権で保護されることはない。ただし、その解法の表現や、ニュース報道における事実の表現などは著作権で保護されることがある。
特許権、意匠権、商標権などは登録が権利発生の要件であるが、著作権の発生要件について登録等を権利発生の要件とするか否かについては立法例が分かれる。ベルヌ条約は、加盟国に無方式主義の採用を義務付けている(ベルヌ条約5条2項、無方式主義)。なお、日本には著作権の登録があるものの、ベルヌ条約の加盟国であることもあり発生要件ではない。あくまでも、第三者対抗要件に過ぎない。
また、著作物が有形の媒体に固定されている必要があるか否かについても立法例が分かれる。ベルヌ条約では固定を要件とするか否かに関しては加盟国の立法に委ねている(ベルヌ条約2条2項)。アメリカ合衆国著作権法では、著作物が固定されていることが保護の要件となっており(102条(a))、未固定の著作物は専ら州法の規律による。日本の場合は固定を要件としていないが、映画の著作物については物への固定が要件であると一般的には解されている(ただし、この点には議論がある)[2]。
尚、北朝鮮もベルヌ条約加盟国であるが、日本は北朝鮮を国家として承認していない事を理由に、2011年12月、北朝鮮の著作物に関しては日本国内で保護義務が無いとの司法判断が最高裁によってなされた[3][4]。
詳細は「著作権表示」を参照
コピーライトマーク「©」は、著作権の発生要件として著作物への一定の表示を求める方式主義国において、要件を満たす著作権表示を行うために用いられるマークである。
一方、日本などの無方式主義を採る国においては著作物を創作した時点で著作権が発生するため、著作物に特定の表示を行う義務は課されていない。しかし、著作権は各国ごとに発生するため、無方式主義国における著作物でも、方式主義国において著作権保護を得るためにはその国での著作権の発生要件を満たす必要があり、このマークを付すことが一般的に行われていた。
かつては米国が方式主義国の代表的存在であり、長い間、方式主義と無方式主義の両方を許容する万国著作権条約のみを締結し、無方式主義を義務づけるベルヌ条約を締結していなかった。しかし、米国は1989年にベルヌ条約を締結して無方式主義を採用し、他の国においても無方式主義の採用が進んだ結果、結果、現在、万国著作権条約のみを締結して方式主義を採用している国はカンボジアだけとなっている[5][6]。このため、カンボジア以外では、このマークにはもはや著作権発生要件としての法的な意味は存在していない。
「著作者人格権」も参照
著作権は財産権の一種であるが、著作者に認められる権利(著作者の権利)としては、その他に著作者の人格的利益を保護するものとして、人格権の一種である著作者人格権がある。両者の関係については考え方及び立法例が分かれる。
まず、著作権法により著作者に対して保障する権利を純粋に財産権としての著作権として把握する考え方がある。この考え方を徹底しているのがアメリカ合衆国著作権法であり、著作者の人格的権利はコモン・ロー上の人格権の範疇に含まれる。もっとも、ベルヌ条約が加盟国に対して著作者人格権の保護を要求していることもあり、1990年の法改正により、視覚芸術著作物について限定された形で著作者人格権を保護する旨の規定を設けた(106A条)。
第2に、著作者に対して、財産的権利と人格的権利の双方を著作権法上保障する考え方がある。大陸法の著作権法は基本的にこのような考え方に立脚している。フランスの知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律がこの考え方に立脚しており、著作者の権利について、人格的な性質と財産的な性質を包含するものとして規定し(111の1条第2項)、いわゆる著作者人格権は処分できないものとする(121の1条第3項)のに対し、著作権は処分できるものとして(122の7 条)区別している点にこのような考え方が現れている。
第3に、著作者に対して、財産的権利と人格的権利の双方を著作権法上保障するが、両者は一体となっており分離できないものとして把握する考え方がある。ドイツの1965年9月9日の著作権及び著作隣接権に関する法律がこの考え方に立脚しており、著作者の権利の内容を構成するものとして著作者人格権に関する規定を置いているが(11条-14条)、財産権と人格権が一体化しているがゆえに、財産権をも含む著作者の権利について譲渡ができない旨の規定が置かれている(29条)点にこのような考え方が現れている。
日本法の法制は、著作権法上、著作者の権利として財産権たる著作権と人格権たる著作者人格権を保障しつつ、前者は譲渡可能なものとして理解し、後者は譲渡不可能なものとして理解している点でフランス法に近い。
詳細は「著作権の歴史」を参照
古来から書籍は貴重なもので、その閲覧や複写を制限しようという考え方はあり、また、真の著者をめぐって争われることもあった。
しかし、本格的に考慮されるようになったのは、15世紀にグーテンベルクによる印刷術が確立し[7]、読者層が従来の聖職者、学者[要出典]からブルジョワ階級に広がって以降である。
16世紀になると、ヴェネツィアなど出版の盛んな地域で出版権が認められるようになり、イギリスでも特許の一種として、しばしば、個別の著作が認定されていたが、1662年に最初の出版権を定めた法が制定された。1709年のアン法で著作者の権利、すなわち、著作権が認められた[7]。この法では、著作権の有効期間(著者の死後14年、1度更新可能で最大28年)や、その後のパブリック・ドメインの概念も制定されている[8]。
フランスでは革命時に、著作者の権利が宣言され、アメリカ合衆国では1790年に著作権法が制定されている。19世紀に入ると著作権の対象は印刷物以外(音楽、写真など)に拡大されていく。
その後、1886年のベルヌ条約で国際的な著作権の取り決めができ、1952年に万国著作権条約が締結された。
著作権法および著作権についての考え方は、著作者・著作権者・利用者など利害関係者の様々な要請を受け、広く一般に主張が起きたり、専門家の間で議論が起きたり、立法の場で話し合われたり、行政の場で検討されたり、司法の場で争われたりするなど絶えず変更を受け続けている[9]。
20-21世紀に入り、テクノロジーの著しい進歩及び権利ビジネスの伸張など経済社会の変化を受けた産業保護の観点からの要請と、著作物の自由な利用の要請(時には自由な言論の存続の希望を含む)との衝突が顕著な争点の一つになっている[10]。
1984年に判決が出た米国のベータマックス事件(ソニー勝訴)[11]、1992年に生まれた日本の私的録音録画補償金制度[12]、1997年に創設されたインタラクティブ送信に係る公衆送信権・送信可能化権(日本)[13]、1999年に起こされたソニー・ボノ法への違憲訴訟(米国、2003年に合憲判決)[14]、2001年のナップスター敗訴(米国)[15]などである。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
以下本節において、著作権という用語は日本の著作権法での定義どおり著作者人格権を含まない意味で用いる。
ウィキソースに日本国の著作権法の原文があります。 |
著作権法は以下で条数のみ記載する。
日本では、近代以前においては版木の所有者である版元が出版物に関する権利者と考えられ、著作権に相当する概念が存在しなかったとされている。明治初期に福沢諭吉らの紹介と政府への働きかけにより、「版権」として著作権の一部が保護を受けることになった。
19世紀末に日本がベルヌ条約への加盟をするにあたり、国内法の整備の一環として初めて著作権法が制定された。この著作権法は「旧著作権法」とも呼ばれるもので、1970年(昭和45年)に旧法を全部改正して制定された新著作権法とは通常区別される。
20世紀半ば以降、企業により著作物が製作されるようになると、便宜的に架空の人物を著作者とした事例が出てくるようになった(八手三郎、アラン・スミシーなど)。
日本の著作権法の下では、原則として、著作権は創作の時点で自動的に創作者(著作者)に帰属する(無方式主義 cf.方式主義)。つまり、原始的には著作者たる地位と著作権者たる地位が同一人に帰属する。
もっとも、著作権は財産権の一種であり、譲渡することが可能であり、さらには、以下のような支分権ごとにも譲渡可能と理解されている。したがって、創作を行った者と現時点の著作権者とは一致しないこともあるし、支分権ごとに権利者が異なることもありうる。また、映画の著作物については、著作権の原始的帰属について特例が設けられている(16条)。この場合でも人格権としての著作者人格権は著作者に残されるため(59条)、著作権者であるといえども無断で著作物を公表・改変したり、氏名表示を書き換えたりすることはできない。
なお、著作者と著作権者の用語の使い分けが分かりづらいためか、2005年(平成17年)1月に文化審議会著作権分科会から発表された「著作権法に関する今後の検討課題」の中では、用語の整理の検討が必要であると言及されている。
著作物の種類などについては「著作物」を参照
著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる(63条1項)。この許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる(63条2項)。また、この許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない(63条3項)。
共有著作権(共同著作物の著作権その他共有に係る著作権)は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができないが(65条2項)、各共有者は、正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない(65条3項)し、信義に反して合意の成立を妨げることができない(65条4項、64条2項)。また、代表権に加えられた制限は、善意の第三者に対抗することができない(65条4項、64条4項)。
10条2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第1号に掲げる著作物に該当しない」と規定している。
13条は、次の著作物が「この章の規定による権利の目的となることができない。」と規定している。これらの著作物の内容は、国民の権利や義務を形成するものであり、一般国民に対して広く周知されるべきものであるため、著作権による保護対象とすることは妥当でないと考えられるからである。
著作物の利用や使用について、その便宜上必要とされる範囲または著作権者の利権を害しない範囲において著作権が制限されることがある。主なものは以下の通り。
著作権に明るくない一般人においては、しばしば、著作物を表象した有体物の所有権を取得したことにより、著作権に類する権限も取得できると誤解する場合がある。しかし、所有権を取得したからといって著作権にかかる諸権利まで取得できるわけではない。このことは美術の著作物についての判例「顔真卿自書建中告身帖事件」[21]で明らかになっている。
ただし、美術の著作物についての原作品の所有者による著作物の展示や展示に伴う複製などの行為には著作権の効力が及ばないとする規定がある(45条、47条)。所有権者による当該行為にまで著作権の効力が及ぶものとすると、美術品の所有権を得た者の利益が著しく損なわれるため、著作権と所有権の調整を図ったものである。
「著作権の保護期間」を参照
本項の#著作者人格権との関係を参照
著作者によって制作された楽曲(著作物)は、著作者である作詞家・作曲家が著作権を有している。しかし、楽曲を演奏する実演家や、それを録音するレコード製作者、楽曲を放送する放送事業者・有線放送事業者も、著作者ではないものの著作物に密接に関わる活動を業としており、これらの利用者の実演には著作権に準じた一定の権利(著作隣接権)が認められる。著作隣接権は実演家の権利(著作権法90条~95条)、レコード製作者の権利(同96条~97条)、放送事業者の権利(同98条~100条)、有線放送事業者の権利(同100条)から成り、人格権と財産権が含まれる。保護期間は「作品が公開されてから」50年間。著作権と異なり著作物(楽曲)そのものの権利ではないため演奏権や翻案権は認められていない[22]。
現行の著作権法では、上述の通り実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者には著作隣接権が付与されているが、出版社には認められていない。そのため、2011年(平成23年)に自炊代行業者を相手どった提訴があり[23]、2012年(平成24年)1月20日、衆議院第2議員会館で出版社が公明党衆院議員池坊保子文部科学部会長や自民党議員らに出版社が著作隣接権を持てるよう要望した[24]。また著作者に対し著作隣接権を求めはじめている[25]。
「知的財産権」を参照
ウィキソースに現在の万国著作権条約(和訳)の原文があります。 |
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