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ナルシシズム(ドイツ語: Narzissmus, ギリシャ語: ναρκισσισμός, 英語: Narcissism)あるいは自己愛とは、自己を愛し、自己を性的な対象とみなす状態を言う[1]。転じて「自己陶酔」「うぬぼれ」といった意味で使われることもある[1]。語源はギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスが水面に映る自らの姿に恋をしたというエピソードに由来している。ナルシシズムを呈する人をナルシシスト(英: narcissist)と言うが、日本においてはナルシスト(蘭: narcist)という言葉で浸透している。
一次性のナルシシズムは人格形成期の6ヶ月から6歳でしばしばみられ、発達の分離個体化期において避けられない痛みや恐怖から自己を守るための働きである。
二次性のナルシシズムは病的な状態であって、思春期から成年にみられる、自己への陶酔と執着が他者の排除に至る思考パターンである。二次性ナルシシズムの特徴として、社会的地位や目標の達成により自分の満足と周囲の注目を得ようとすること、自慢、他人の感情に鈍感で感情移入が少ないこと、日常生活における自分の役割について過剰に他人に依存すること、が挙げられる。二次性ナルシシズムは自己愛性パーソナリティ障害の核となる。
目次
- 1 歴史
- 2 症状
- 3 発症機序
- 4 ナルシシズムの動態
- 4.1 原始的防衛機構
- 4.2 家族の機能障害
- 4.3 分離と個体化
- 4.4 幼年期のトラウマと自己愛型の発達
- 5 研究の流派
- 6 自己愛的防御
- 7 種別
- 7.1 共依存
- 7.2 悪性自己愛
- 7.3 Collective または Group narcissism (集合的ナルシシズムまたは集団ナルシシズム)
- 8 脚注
- 9 参考文献
- 10 関連項目
- 11 外部リンク
歴史
ナルシシズムという語はフロイトの心理学において初めて使われた。語の由来はギリシア神話に登場するナルキッソスである。ナルキッソスはギリシアの美しい青年で、エコーというニンフの求愛を拒んだ罰として、水たまりに映った自分の姿に恋するという呪いを受けた。彼はどうしても想いを遂げることができないので、やつれ果てスイセン(narcissus)の花になってしまった。
ナルシシズムの研究に貢献した心理学者には、メラニー・クライン、カレン・ホーナイ、ハイマン・スポトニッツ、ハインツ・コフート、オットー・カーンバーグ、セオドア・ミロン、エルザ・F・ロニングスタム、ジョン・ガンダーソン、ロバート・D・ヘア、スティーヴン・M・ジョンソンなどがいる。
症状
ナルシシズムのパーソナリティ変数として、リーダーシップ/権威、優位性/傲慢性、自己吸収/自己賞賛、悪用性/有資格の、4要素が挙げられている[2]。
ホッチキスの7つの致命的ナルシシズム
ホッチキス(Hotchkiss)は、ナルシシズムの7つの大罪を示している[3]。
- 恥知らず: 恥は、すべての不健全なナルシシストの下に潜む感情である。彼らは健全な方法で恥を処理できない。
- 呪術的思考:ナルシシストは「魔法の思考」として知られる認知の歪みや錯覚を使って自分自身を完璧と見なす。彼らはまた、他人に恥を「掃き出す」ために投影を用いる。
- 傲慢:自我収縮を感じているナルシシストは、他人の衰退、脱走、堕落を知ることで、自我を「再膨張」させることができる。
- 羨望:ナルシシストは「軽蔑」を使用して他人の存在や業績を最小化することで、他人の能力に直面した際に優位性を確保する。
- 有資格:自分が特別であると考えているため、ナルシシストは特別有利な扱いやノーチェック・パスなど、根拠のない期待をしている。彼らは求める承服がなされないと、その優位性への攻撃だとみなすため、周囲からは「厄介な人」「困難な人」とみなされている。ナルシシストへの意志の抵抗は、自己愛の傷つきとして自己愛憤怒を引き起こす。
- 搾取:他者の気持ちや関心に関わらず、ナルシシストは常に他者を搾取する存在であり、それは様々な形となる。それはしばしば抵抗が難しいか、不可能な立場の人をターゲットとする卑劣なものになりうる。時には従順になるがそれは本心からではない。
- 境界線の不全:ナルシシストは他者との間に境界線があることを理解していない。他人とは別個の存在であり、自分の延長線ではないことが分からない。己のニーズを満たさない他人は、存在しないのと同じである。ナルシシストに自己愛を供給する人々は、ナルシシストの一部として扱われ、主人の期待に応えることが要求される。ナルシシストの心には自己と他者の境界はない。
発症機序
病理的ナルシシズムが生じる原因は解明されていない。遺伝とも、育て方の問題とも、社会のアノミーが社会適応の過程を混乱させるためとも言われている。ナルシシズムについては研究が少なく、診断基準も曖昧である。
精神分析によると、誰でも子供のうちはナルシシズムをもっている。ほとんどの幼児は自分が世界の中心で、もっとも重要で、何でもできるし何でも知っていると感じる。一方、両親は神話の人物のように、不死で恐るべき力を持つが、子供を守り育てるためだけに存在するものとみなされる。このように、自他は観念的に位置づけられる。それを心理学のモデルでは原始的ナルシシズムと呼ぶ。
成長にしたがって、原始的ナルシシズムは現実に見合った認識に置き換えられてゆく。この過程が予測できないものだったり、過酷だったりすると、幼児の自尊心は深く傷つけられる。さらに重要なのは親の助けである。親の助けが足りなくてナルシシズムを育ててしまった大人は、自尊心の働きで、自他を観念的にきわめて重く見る理想化と、逆に軽く見る脱価値化の間で揺れ動く。幼い頃に、自分にとって重要な人物に根本から幻滅し、落胆することがナルシシズムにつながると考えられている。
ナルシシズムの動態
原始的防衛機構
ナルシシズムは、心理学で「隔離」(isoloation)と呼ばれるものと関連した防衛機制である。ナルシシストは他の人、環境、政党、国家、民族といったものを、よい要素と悪い要素が混じったものとして見ることができず、理想化か脱価値化のどちらかに偏る。すなわち、対象を完全な善か完全な悪に振り分けてしまうのである。悪い表象は常に投影されるか、別のもので置き換えられるか、外的要因に帰せられる。よい表象は、誇大的自己認識を支持し、自信喪失や幻滅を遠ざけるものとして内面化される。ナルシシストは自己愛備給、すなわち注目されることを求める。それによって傷つきやすい自尊心を制御するのである。
家族の機能障害
「機能不全家族」も参照
ナルシシストの多くは正常に機能していない家庭に産まれる。ナルシシストを生み出す家族の特徴は、家族に問題があることを内外に対して強く否定することである。このような家庭では虐待が珍しくない。子供は優秀になることを望まれるが、それは親自身の自己愛を満たす道具にすぎない。両親は、貧困や未熟な感情、そしてナルシシズムといった素因をもち、そのために子供の能力の限界と感情の要求を正しく認識して尊重することができない。その結果子供の社会化は不完全となり、アイデンティティー上の問題が起こる。
分離と個体化
精神動態理論によると、両親、特に母が社会化を促す最初の要素になる。子供はもっとも重要な、人生のすべてに関わる疑問の答えを母に見出す。その疑問とは、自分はどれくらい愛されているのか、世界はどれくらい理解できるのか、といったことである。より後の段階では、精神的な結合に加えて身体的な結合を漠然と望む初期のリビドーが、男の子なら母に向けられる。ここで母は概念化・内面化され、精神分析で「超自我」と呼ばれる良心の一部になる。
成長は母から離れることとエディプス・コンプレックスの解決、つまり性的関心を社会的に適切な対象へ向けなおすことを含む。これらは自立して世界を探求し、自我を強く意識するために重要である。どの段階が妨げられても、正常に分化することはできなくなり、自立した自我は形成されず、他人への依存と幼児性を呈する。ときには子離れしない母によってその障害が起こされることもある。子供が親から離れ、それに続いて個体化をとげることは広く認められている。
幼年期のトラウマと自己愛型の発達
幼年期の虐待とトラウマは、模倣戦略と、ナルシシズムを含む防衛機構を働かせる。模倣戦略のひとつは、内面に引きこもり、絶対に信頼できる源泉から、つまり自らの自我から満足を得ようとすることである。拒絶と虐待を恐れる子供は、他人に触れることを避け、愛と充足の妄想に逃げ込む。繰りかえし傷つけられることが自己愛性パーソナリティ障害の誘引になる。
研究の流派
フロイトとユング
ジークムント・フロイトはナルシシズムについて初めて一貫した理論を唱えた。フロイトは主体指導型リビドーから客体指導型リビドーへの移行が両親の働きに媒介されると説明した。この移行がうまく進まないと、神経症が引き起こされる。それゆえ子供は両親から愛されず軽んじられると、ナルシシズムに退行する。
一次性ナルシシズムの発生は、子供が頼るべきものを探して手元にある自我を選び、満足したと感じる適応的な現象である。しかし、後の段階から二次性ナルシシズムに退行することは適応的でない。それはリビドーを「正しい」対象に向けられなかったことの現れである。ナルシシズムが遷延すると、自己愛神経症が成立する。ナルシシストは自我を刺激して喜びを得ることに慣れ、現実よりも妄想を、現実的な評価よりも誇大な自己認識を、普通の性行為よりもマスターベーションと性的妄想を好むようになる。
自己愛神経症とは自己愛性パーソナリティ障害から精神分裂病までを含む対象転移の生じない一群の患者を指す。フロイトは対象に一切のリビドーが向かっていない事をナルシシズムと命名したが、二次的なナルシシズムで最も病理的なのは精神分裂病であると考えられ、それは空想などの対象表象などにも一切のリビドーが向かっていないような現象を指す。精神病においては自己の幻想の部分にリビドーや死の欲動が備給されており、故に現実とは全く関係ない「幻想」を見るのだと考えられている。
自己愛的防御
詳細は「自己愛的防衛」を参照
自己愛的防御(Narcissistic defences)とは、自己の理想化された側面が温存され、それから限界が否認されるという一連のプロセスである[4]。彼らは頑固であり、融通の利かない傾向がある[5]。彼らは意識的・無意識的にかかわらず、しばしば罪と恥の感情に駆られる[6] それは肥大した自己イメージが壊される事を恐れてであり、ゆえに彼等に対するあらゆる非難は理不尽なものであると断定する。
種別
共依存
詳細は「共依存」を参照
共依存(Codependency)関係においては、過度に受動的、もしくは過度に慎重に行動する傾向があるため、人間関係とQoLに悪影響を及ぼす。ナルシシストは共依存者たちを自然に引き付ける磁石であると考えられている。 Rappoportはナルシシズムの共依存者を「コ・ナルシシスト(Co-narcissists)」と認識している[7]。
一般的にナルシシズムの被害者はDVなどを受ける共依存性質の女性と考えられているが実際は必ずしもそうとは限っておらず、そもそもが女性であるとも限らない。女性は常に弱い立場であるという一般的思い込みもあり、また虐待の過程で共依存の状態に持っていく事もナルシシストには充分可能だからである。ゆえに被害者が女性であれば、社会的庇護は比較的に受けやすいが男性には世界的に見ても公共のサポートはほぼ皆無である。
悪性自己愛
詳細は「悪性自己愛」を参照
Collective または Group narcissism (集合的ナルシシズムまたは集団ナルシシズム)
Collective または Group narcissism (集合的ナルシシズムまたは集団ナルシシズム)は、個人的に関与するグループにまで拡げられた自己愛を持つナルシシズムの一種である。 ナルシシズムの古典的定義は個人に焦点を当てるが、Collective narcissism は、グループへの過剰な高評価を持ち、グループがナルシシズム的な実体として機能する。 Collective narcissism はエスノセントリズムに関係している。 しかしエスノセントリズムは主に民族的または文化的レベルでの自己中心主義に焦点を当てるが、Collective narcissismは文化や民族以外の どのような種類のグループにも拡張される。[8]
脚注
- ^ a b 広辞苑 第六版「ナルシシズム」
- ^ Horton, R. S.; Bleau, G.; Drwecki, B. (2006). “Parenting Narcissus: What Are the Links Between Parenting and Narcissism?”. Journal of Personality 74 (2): 345–76. doi:10.1111/j.1467-6494.2006.00378.x. http://persweb.wabash.edu/facstaff/hortonr/pubs/Horton%20et%20al.%20(2006).pdf. See p. 347.
- ^ Hotchkiss, Sandy & Masterson, James F. Why Is It Always About You?: The Seven Deadly Sins of Narcissism (2003)
- ^ Shaw J.A. (1999.) Sexual Aggression, American Psychiatric Publishing, pp. 28–29.
- ^ Gerald Alper, Self Defence in a Narcissistic World (2003) p. 10
- ^ Patrick Casement, Further Learning from the Patient (1990) p. 132
- ^ Rappoport, Alan, Ph. D.Co-Narcissism: How We Adapt to Narcissistic Parents. The Therapist, 2005.
- ^ Golec de Zavala, A,Cichocka, A., Eidelson, R., & Jayawickreme, N. "Collective narcissism and its social consequences" Journal of Personality and Social Psychology 97.6 (2009): 1074-1096. Psyc articles. EBSCO. Web. 26 Mar. 2011.
参考文献
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出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2012年11月) |
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- Freud, S. - On Narcissism - Standard Edition - Vol. 14 - pp. 73-107
- Golomb, Elan - Trapped in the Mirror : Adult Children of Narcissists in Their Struggle for Self - Quill, 1995 ISBN 0688140718
- Greenberg, Jay R. and Mitchell, Stephen A. - Object Relations in Psychoanalytic Theory - Cambridge, Mass., Harvard University Press, 1983 ISBN 0674629752
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- Kohut H. - The Analysis of the Self - New York, International Universities Press, 1971 ISBN 0823601455
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- Lowen, Alexander - Narcissism : Denial of the True Self - Touchstone Books, 1997 ISBN 0743255437
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- Zweig, Paul - The Heresy of Self-Love: A Study of Subversive Individualism - New York, Basic Books, 1968 ISBN 0691013713
関連項目
- 認知の歪み
- ヒュブリス
- ナルキッソス
- ピーターパン症候群
- ドリアン・グレイ症候群
- 自己愛的怒り
- 自己愛性パーソナリティ障害
- 反社会性パーソナリティ障害
- サディスティックパーソナリティ障害
- 精神分析学
- 自己心理学
- 新型うつ病
外部リンク
- A Primer on Narcissism
- Self-Esteem and Narcissism: Implications for Practice
- Self-Love and Narcissism
ナルシシズム |
形式 |
- 集合的
- エゴマニア
- 健康的
- 悪性
- メガロマニア
- 自己愛性パーソナリティ障害
- 唯物論
- 職場
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特性 |
- 裏切り
- 大言壮語
- 批判
- 自己中心性
- 自惚れ
- 共感 (の欠如)
- (誇張された) 権利
- 羨望
- 空想
- 誇大性
- 傲慢
- 魔術的思考
- 対人操作
- 自己愛的虐待
- 自己愛的高揚
- 自己愛的傷つき
- 自己愛的屈辱
- 自己愛的怒り
- 自己愛的供給
- 自己愛的ひきこもり
- 完璧主義
- 自尊心
- 独善性
- 厚顔無恥
- 表面的魅力
- 優越感
- 癇癪
- 偽りの自己
- 虚栄心
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防衛 |
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文化的現象 |
- コントロールフリーク
- ドンファン症候群
- ドリアン・グレイ症候群
- メトロセクシャル
- 従わないなら出ていけ (慣用句)
- プリマドンナ
- 自撮り
- ステータスシンボル
- ミスタートード
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関連項目 |
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典拠管理 |
- NDL: 00576263
- NKC: ph135726
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