出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/16 12:51:17」(JST)
肥料(肥糧、ひりょう)とは、植物を生育させるための栄養分として、人間が施すものである。
日本の法律では「肥料取締法第2条第1項」で、「植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため土壌に化学的変化をもたらすことを目的として土地に施される物及び植物の栄養に供することを目的として植物に施される物をいう」と定義されている。したがって、土壌に施されるものだけではなく、葉面散布などの形で施されるものも、肥料と呼ぶ。反面、養分としてではなく、土壌の改質のみを目的としたものは、肥料とは呼ばない。
また、人間が施したものではなく、もともと土壌中に含まれていた栄養分については、一般に「肥料分」などと言い分けることが多い。
農業は、土壌から栄養を吸って生育した植物を持ち去って利用する行為であるため、減少した窒素やリンなどを土壌に補給しなければ、持続可能な農業は不可能である。肥料はこの補給の目的で用いられる。
とりわけ、窒素・リン酸・カリは3大要素と呼ばれ、通常の配合肥料には必ずこれらが含まれる。この他に、後述するカルシウム、マグネシウムなどの要素も肥料として施す必要がある。
人類が紀元前3000年の頃から始めた農業の歴史上、不足し続けているのがリン酸である。その原料のリン鉱石の枯渇がいま心配されている。リン鉱石の80%が肥料用に使用されており、英国硫黄誌 (British Sulphur Publishing) によると、最悪のシナリオとして過去の消費から年3%の伸びを見込むと消費量は2060年代には現在の約5倍になり、経済的に採掘可能なリン鉱石は枯渇してしまうことになる、という。現実的なシナリオでは2060年代に残存鉱量は50%になるとされている。国際肥料工業会 (International Fertilizer Industry Association) によると、リン酸肥料が使用される主な作物とその割合は、小麦が18%、野菜・果物が16%、米、トウモロコシがそれぞれ13%、大豆が8%、サトウキビが3%、綿花4%となっている[1]。肥料の3大要素といえばリン、窒素、カリウムであり、この3つがなければ日本の農業は成立しない。にもかかわらず、日本はリン鉱石の全量を輸入に頼っており、その多くを中国に依存している。
多少の異説はあるが、植物は一般的に次の元素を必要とするとされる。
以上の元素は必須元素と呼ばれる。これら17の元素はそのうち一つでも欠けると植物体の生長が完結しない。
なお、植物体に与えると、その生長を助ける元素としてナトリウム (Na)、ケイ素 (Si)、セレン (Se)、コバルト (Co)、アルミニウム (Al) があり、これらは有用元素と呼ばれる。
また、上記の元素の全てについて肥料として与える必要があるわけではない。鉄、亜鉛、銅などは植物の成長には微量で良く、通常の土壌ではあまり不足しない。しかしながら、アルカリ性が強い貝化石土壌等では、これらの金属イオンが水に溶けにくく植物が利用しにくいため、生育阻害を受けていることがある。この場合、肥料として与えることで、作物の生育を改善できる。また、水を構成する水素や酸素、空気中の二酸化炭素に含まれる炭素は、通常、環境中に存在する。養液栽培など、土壌からの供給が全く期待できない場合は、全て与えてやる必要がある。施設園芸などでは、二酸化炭素飢餓が発生することがあり、炭素さえも施用する事がある。ただし、上記のうち塩素については、塩害を生じることがあるため、日本ではわざわざ肥料として施すことはない。
窒素、リン酸、カリウムを、肥料の三要素と言う。特に植物が多量に必要とし、肥料として与えるべきものである。
肥料の三要素にカルシウム(石灰)とマグネシウムを加えて肥料の五要素と言う。
前記の石灰、苦土に加え硫黄を足したものは中量要素と呼ばれている。硫黄が五要素に含まれていないのは通常土壌に含まれている量で十分であり、あえて肥料として施用する必要が少ないからである。
さらに他の鉄、マンガン、ホウ素、モリブデン、亜鉛、銅、塩素は微量要素と呼ばれている。これらは必要な元素であるが必要な量は微量であり、大抵土壌や肥料に含まれている量で十分な場合が多く過剰障害も生じやすいことから、微量要素肥料の施用には十分な配慮が必要である。葉面散布等で施用すると効果的な場合がある。
肥料は多くの種類があり、分類の方法も何通りかある。
大別して有機肥料と無機肥料に分類できる。両者を混合したもの(配合肥料)も存在する。両者の成分は大きく異なるが、植物に無機化合物として吸収される点は共通する。
有機物(有機資材)を原料とした肥料。有機質肥料ともいう。有機肥料を施用する事と、有機物を施用することも混同されがちであるので、注意が必要である。有機物により土壌内の微生物に栄養分が与えられるため、無機肥料よりも土壌に良いと考える人もいる。ただし農業は肥料だけでおこなうものでないため、一概に有機肥料が無機肥料より優れているとはいえない。例えば、完熟していない有機肥料では悪臭、ガス発生、害虫発生等の問題が発生することがある。肥料を発酵させることによって、養分が分解され利用しやすくなり、有害菌が増殖して病害が起こることを防ぐことができる。
有機物は時間をかけて分解され、その後植物に吸収されるため即効性は低いが、そのかわり土壌に長期間蓄積される。従来、植物は基本的に無機物を吸収し栄養としていると考えられてきた。ほとんどの栄養分は無機物として吸収されるが、一部の有機物はエンドサイトーシスにより、養分として取り込まれることもある。タンパク質の場合、細胞内にタンパク質を取り込んでからタンパク質分解酵素で消化して利用する。アミノ酸では直接利用されるものがある。このため、有機物の肥料としての有効性も研究されてきた。2002年には、独立行政法人の農業環境技術研究所が植物が根から無機質ではない有機質のタンパク質様窒素を吸収することを証明している[2]。
ボカシ肥とは、有機肥料を発酵させて肥効をボカシた(穏やかにした)ものをいう。原料となる有機肥料は、油カス、米糠、鶏糞、魚カス、骨粉など多様である。無機肥料を加えることもある。ボカシ、ボカシ肥料ともいう。
ボカシ肥には大別して、土を混ぜるもの、混ぜないものの2種類ある。
前者は、有機肥料に土(粘土質なものがよい)を混ぜ、50 - 55℃以上に温度が上がらないようにして発酵させる。(通常、堆肥などを発酵させる場合は、もっと高温で70℃以上になることがある。)
一方、後者は、有機肥料に水を加えて発酵させたもので市販のボカシ肥はこちらである。
無機物を主成分とした肥料で、工場で化学的に生産されたものが中心であるが、天然の鉱物もある。また、炭素をその組成に含まないものと理解する場合もあり、その場合、尿素は有機肥料とする。多くのものは、水にとけやすく即効性があるが、同時に流れやすくもあるため、定期的に肥料を追加する必要がある。また有機物の量が少ないため、長期間使用すると土壌障害の原因となる。
悪臭、ガス発生、害虫発生などの問題は発生しない。
無機肥料の、持続性が無いという欠点を克服するものとして、遅効性肥料がある。これは肥料を樹脂、硫黄でコーティングしたものであり、コーティングの厚さにより有効日数(1か月 - 1年程度まで各種)が調節されている。また、窒素に限れば、硝化抑制剤などを尿素と混合し遅効性としたものもある。追肥するのが困難な道路斜面、治山、砂防の現場の緑化資材として開発されたが、その手軽さから園芸資材としても広く普及している。
化学的に合成された無機肥料を化学肥料という。
化学肥料で肥料の3要素の1つしか含まないものを単肥という。(但し、有機、無機に関係なく、1種類の肥料という意味で単肥ということもある。)
単肥を混合して、肥料の3要素のうち2種類以上を含むようにしたものを複合肥料という。
複数の単肥に化学的操作を加え、肥料の3要素のうち2種類以上を含むようにしたものを化成肥料という。化成肥料で肥料の3要素の合計が30%以上のものを高度化成といい、それ以外を低度化成という。
化成肥料の成分は「窒素-リン酸-カリ」という表記で表される。例えば、「8-8-8」という表記であれば窒素、リン酸、カリが各8%の低度化成とわかる。
肥料(主として化学肥料)を酸性肥料、中性肥料、アルカリ性肥料とペーハーにより分類することがある。このような分類を行う場合は、後述するが「化学的」なものと「生理的」なものの2通りの見方がある。
「化学的」と「生理的」な分類は一致する場合もあるが、一致しない場合がある。
例えば、
肥料取締法によると、肥料は特殊肥料と普通肥料に分類される。
人糞・動物(家畜)の糞尿など自給できる肥料に対し、金を出して(金銭を払って)購入する肥料を金肥(かねごえ・きんぴ)と称される。
活力剤、活力液などと呼ばれている物は肥料とは異なり、さらに、異なる2種類の物がある。
法律上、肥料ではなく、肥料としての効果も認められないが、一般に肥料と誤解されているものとして以下のようなものがある。
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