出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/10/08 19:48:00」(JST)
精子(せいし)とは、雄性の生殖細胞の一つ。動物、藻類やコケ植物、シダ植物、一部の裸子植物(イチョウなど)にみられる。
動物の精子は卵子に比べて小さく、運動能力を有した雄性生殖細胞である。精子の構造は、遺伝情報である核DNA を含有する頭部、ミトコンドリアの集合した中片部、さらに中心小体から伸びた軸糸からなる尾部から構成されている。精子の頭部には、先体アクロソームと呼ばれる部位が存在し、様々なタンパク質分解酵素(アクロシン、ヒアルロニダーゼ)が含有されている。受精において、先体の形態的変化先体反応が、卵子の細胞質を覆っている糖タンパク質である透明帯の通過に関与すると考えられている。一方、中片部および尾部は、鞭毛構造をとっており、それを振動させることにより運動している。精子には、卵子の位置を把握するために、卵子や卵丘細胞から分泌される誘因物質を感知する機能が備わっていると考えられている。
受精のメカニズムは未だ不明な部分が多く、精子が能力を得るために必要な受精能獲得や運動パターンの変化である超活性化などについて現在でも多くの研究が行われている。卵子細胞膜との融合のために精子側で必要な分子として、日本人の研究者らによりIzumo (タンパク質)の存在が2005年に報告された。
精子は精原細胞から分化して作られる。生殖細胞は生殖巣とは異なる場所に生じるが、発生の過程で移動し、精巣原基に取り込まれ精巣を形成する。精原細胞は細胞分裂により数を増やし、このなかから一次精母細胞が生じ、続いて減数分裂によって2個の二次精母細胞、最終的には4個の精細胞が作られる。精細胞は精子完成を経て精子となる。
精子完成の際、ゴルジ体が先体に、中心体が鞭毛となる。ミトコンドリアは鞭毛の根本の周辺に凝縮し、鞭毛の動作に必要なエネルギーを供給するようになる。後に精細胞の細胞質基質の一部は消失し核も凝縮されて精子の形となる。
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1日に精巣で作られる精子の数は5000万 - 1億程である。大きさは60マイクロメートルほど(ヒトの卵細胞の大きさは直径100 -150マイクロメートル)。精巣で作られた精子は精巣上体(副睾丸)に運び出され成熟して射精を待つ。精巣上体では、最大10億程の精子が貯蔵できると考えられている。射精1回あたりの精液が含む精子数は個人差や体調面でのぶれも大きいが、通常1億 - 4億程である。ヒトの場合は精原細胞から70日間をかけ分化し、精子となる[1]。精子の寿命は通常空間ではほとんどの場合、数時間程度で死滅するが、頸管内や子宮内、卵管内などでは精子に蓄えられているエネルギーにより、数日程度の生存が可能である。
精子の保存は、凍結保護剤としてグリセロール、ジメチルスルフォオキサイド、糖類を用いることで、液体窒素中に凍結保存することができる。精子の凍結保存法は、動物種により異なるため、種に応じて最適な凍結保存法を用いる必要がある。 近年、マウスにおいて精子を冷蔵保存する技術が開発されている。冷蔵保存された精子は、数日間に渡って高い受精能を維持することができる。
シダ植物、コケ植物では、配偶体の上の造精器で体細胞分裂によって精子が造られ、雨水などがある条件で泳ぎ出す。精子は細長く、先端に数本の鞭毛を持つ。
種子植物では、イチョウとソテツだけが独立した精子を形成する。精子は胚珠先端部で発芽した花粉管の中に形成され、胚珠の先端にある、卵細胞が顔を出す部分に泳ぎ出す。精子は球形に近く、前方に多数の鞭毛を持っている。
ジャゴケなどのコケ植物の一部では、空気中に精子が放出されるものも知られている。
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