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租税(そぜい)・税(ぜい)とは、法令の定めに基づいて、商売、所得、商品、取引等の行為や財産に対して、国や地方公共団体(政府等)が国民や住民から徴収する金銭である。現代社会においては、ほとんどの国が物納や労働ではなく「お金(その国で使用されている通貨)」による納税方法を採用し、税金(ぜいきん)と呼ばれる。税金を賦課することを課税(かぜい)、徴収することを徴税(ちょうぜい)、課税された税を納めることを納税(のうぜい)、それらについての事務を税務(ぜいむ)という。
税制(ぜいせい)とは「租税制度」を指す用語であり、国家の運営や歳入歳出に係る根幹、また政治経済(経世済民)そのものである。政府の歳入歳出や財政状況において租税徴収額を減額することを減税(げんぜい)、逆に増額することを増税(ぞうぜい)という。
租税には次の4つの機能・効果があるとされている。
政府が「お金」の価値を保証することと租税の制度を存続させることとは表裏一体で、日本においては、明治時代の紙幣・債権経済への移行期に地租改正を行い通貨による納税制度を取り入れている。政府が「お金」の価値を保証することは、近世社会以降において治安と並んで国家的機能の重要な働きの1つで、国内的なあらゆる取引における一定の価値および安全性を保証するものである。この国家の基盤的機能を維持するための税(通貨使用税[私法上の使用料]または取引保証税または経済流通促進税[経済政策の基礎])は、例えば、金融取引(証券、預金等)では、残高が一定額(段階制)を超える度に、無記名的に税額が自動引落しによって徴収される。その政策的派生効果は、通貨の一極集中における停滞抑止および分散によって新たな経済関係の形成が促進されることにあり、また、副次的効果は、少額な残高からは低く、高額な残高からは多く徴収されることで、社会保障的機能を間接的に担うとされている。
アダム・スミスの4原則 |
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ワグナーの4大原則・9原則 |
財政政策上の原則 |
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国民経済上の原則 |
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公正の原則 |
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租税行政上の原則 |
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マスグレイブの7条件 |
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税制調査会『わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-』2000年(1-2- 2. 税制の基本原則)より引用。 |
租税制度に関する一般的な基本原則として、アダム・スミスの4原則やワグナーの4大原則・9原則、マスグレイブの7条件などの租税原則が知られており、それらの理念は「公平・中立・簡素」の3点に集約できる[3]。それらはトレードオフの関係に立つ場合もあり同時に満たされるものではなく、公正で偏りのない税体系を実現することは必ずしも容易ではない。種々の税目を適切に組み合わせて制度設計を行う必要がある[4]。
租税法律主義とは、租税は、民間の富を強制的に国家へ移転させるものなので、租税の賦課・徴収を行うには必ず法律の根拠を要する、とする原則。この原則が初めて出現したのは、13世紀イギリスのマグナ・カルタである。
近代以前は、君主や支配者が恣意的な租税運用を行うことが多かったが、近代に入ると市民階級が成長し、課税するには課税される側の同意が必要だという思想が一般的となり始めていた。あわせて、公権力の行使は法律の根拠に基づくべしとする法治主義も広がっていた。そこで、課税に関することは、国民=課税される側の代表からなる議会が制定した法律の根拠に基づくべしとする基本原則、すなわち租税法律主義が生まれた。現代では、ほとんどの民主国家で租税法律主義が憲法原理とされている。
租税が課される根拠として、大きくは次の2つの考え方がある。
租税制度は仕組みの異なるさまざまな税目から成り立っている[4]。それぞれの税目には長所と短所があり、観点の違いによって様々な分類方法がある[4]。
税負担の尺度となる課税ベースに着目した分類として、所得課税・消費課税・資産課税等がある[4]。2010年の統計によると、OECD 諸国における各国平均の課税割合は、所得課税が44.3%(日本51.3%・OECD諸国中9位 / 利子・配当・キャピタルゲイン課税を含む)、消費課税が46.2%(日本31.7%・同30位)、資産課税が9.4%(日本17.0%・同4位)である[5]。
近年では就労の促進や所得再分配機能の強化等を目的として、所得課税などに対する給付付き税額控除の導入も進んでいる[9]。給付付き税額控除は制度の複雑化や過誤支給、不正受給などの課題を伴う反面、課税最低限以下の層を含む低所得世帯への所得移転を税制の枠内で実現でき、労働供給を阻害しにくい制度設計も可能であることから[10]、格差是正や消費税などの逆進性対策に適するとされる[11][12]。勤労所得や就労時間の条件を加味して就労促進策の役割を担う勤労税額控除は、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、スウェーデン、カナダ、ニュージーランド、韓国など10か国以上が導入している[13]。子育て支援を目的とする児童税額控除はアメリカ、イギリスなどが採用しているほか、ドイツやカナダなども同趣旨の給付制度を設けている[14][15]。消費税の逆進性緩和を目的とする消費税逆進性対策税額控除はカナダやシンガポールなどが導入している[16]。
租税は課税権者に応じて国税と地方税に区分できる[4]。子ども手当のような生存保障の支出は、国が全額財源を負担するのが論理的には一貫するが、対人社会サービスなど現物給付については、地方自治体が供給主体となる[17]。国税では富裕層への課税や矯正的正義(応能原則)が重視されるが、所得の多寡を問わないユニバーサリズムの視点からすれば、地方税に関してはむしろすべての参加者が負担する配分的正義(応益原則、水平的公平性)が基準となる[18]。
国税の課税権者は国、地方税の課税権者は各地方自治体となるが、地方税に関する税率などの決定は必ずしも各自治体の自由裁量ではなく、税率の上下限など、国によって様々な形での制約が設けられている[19]。チェコ、デンマー ク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ポルトガル、スペインといった国々では地方税の税目に対して上限と下限両方の制限が存在し、オーストラリア、ベルギー、フランス、ハンガリー、オランダ、ポーランド、スイス、イギリス、アメリカなどは上限のみが存在する[19]。イタリアの州生産活動税のように、国が定めた標準税率を基準に税率の上下限幅が決められているケースもある[19]。日本では法人課税を中心に税率の上限(制限税率)が設けられているが、直接的に下限を定めた規制は存在せす、法的拘束力の無い標準税率を地方債の起債許可や政府間財政移転制度(地方交付税交付金)の交付額算定と連動させることで、それを下回る税率の選択を抑制する制度設計となっている[20][21]。上位政府による起債制限と政府間財政移転の双方を背景として地方税率が下方硬直的になっている例は、日本以外の主要国には見当たらず、日本の標準税率制度は国際的にみてもかなりユニークな制度であるといえる[22]。
租税は、特にその使途を特定しないで徴収される普通税と、一定の政策目的を達成するために使途を特定して徴収される目的税とに区分できる[4]。目的税は公的サービスの受益と負担とが密接に対応している場合は合理性を伴った仕組みとなる反面、財政の硬直化を招く傾向があり、継続的に妥当性を吟味していく必要がある[4]。
納税者と納税義務者が一致することを予定した租税を直接税といい、商品やサービスの価格を通じて税が納税義務者から消費者に転嫁されることを予定した租税を間接税という[4]。日本の税目では所得税や法人税などが直接税であり、消費税やたばこ税などが間接税である[23]。
数量あたりで税率を定めた税を従量税、価額単位で課される税を従価税という[4]。
納税者の担税力、すなわち租税の負担能力に応じて賦課する立場の考え方を応能課税、公共サービスの受益に応じて課税すべきとする考え方を応益課税という[3]。租税は公益サービスのための財源であることから、少なからず応益課税の要素が内在するが、個別の受益と負担との関係が必ずしも明確でなく、応益負担だけでは成り立たない[3]。地方税は地域住民による負担分任という性格上、応益課税の要素がより重視される[3]。
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租税の歴史は国家の歴史と密接に関連する。極端な増税は、農民など税の負担者を疲弊させ反乱を招き国家の滅亡につながることもあった。歴史的には、労働、兵役やその地方の特産物等による納税が行われた時代があった。例えば万里の長城など歴史的な建造物の多くは、強制的な労働力の徴発より作られたものと考えられている。
租税制度は主に次のような変遷と遂げた[24]。
原始には、神に奉じた物を再分配する、という形を取っていたとされている。社会的分業によって私的耕作や家内工業の発展とともに集団の中で支配者と被支配者が生じ、支配者は被支配者から財産の一部を得るようになった。これには、被支配者が支配者に差し出す犠牲的貢納と支配者が被支配者から徴収する命令的賦課があった。
古代エジプトのパピルス文書に当時の農民に対する厳しい搾取と免税特権をもつ神官・書記に関する記述がある。
古代インドのマウリヤ朝では、農民に対し収穫高の四分の一程度を賦課し、強制労働も行われていた。
ローマ帝国の税制の基本は簡潔であり、属州民にのみ課される収入の10%に当たる属州税(10分の1税)、ローマ市民と属州民双方に課される商品の売買ごとに掛けられる2%の売上税(50分の1税)、ローマ市民にのみ課される遺産相続税や解放奴隷税などであった。3世紀のアントニヌス勅令以降は国庫収入が減少し、軍団編成費用などを賄うための臨時課税が行われることもあった。マルクス・ユニウス・ブルートゥスは属州の長官に赴任したとき、住民に10年分の税の前払いを要求した。
古代中国の漢の主要財源は、算賦(人頭税及び財産税)、田租、徭役(労働の提供)であった。
唐では当初均田制に基づく租・庸・調の税制を採用したが、農民の逃亡が相次いだため、荘園に課税する両税法が導入された。また、塩の市場価格の10倍もの間接税を課した。
明末の李自成の乱のスローガンには、3年間の免税が謳われていた。
イスラームを国教とするいくつかの王朝では、ズィンミー(キリスト教徒・ユダヤ教徒など)に対してジズヤ(人頭税)の徴収が行われた。
中世ヨーロッパでは封建制が採られ、土地を支配する封建領主は土地を耕作する農民から貢納を得て生活していた。その代り、領主は統治者として領民を外敵から守る役割を果たしていた。領主の主収入は地代であったが、私的収入と公的収入が一色単になっており、しばしば戦費調達のために臨時収入が課された。その後、領主は戦争や武器の改良、傭兵の台頭によって財政難に陥り、相続税・死亡税の新設や地代を上げる。しかし、それでも賄いきれなくなった領主は特権収入に頼るようになる。
ここで言う特権とは、鋳貨・製塩・狩猟・探鉱(後に郵便・売店)を指し、領主はこの特権を売渡すことで収入を得た。特権収入の発生は実物経済から貨幣経済への移行の一つの表れとみられている。
貨幣経済が発達すると新しい階級として商人階級が生まれる。土地は売買の対象となり、領主と農民の関係は主従関係から貨幣関係へと変質した。貴族は土地の所有と地代収入を失ったため、商人たちに市場税・入市税・営業免許税・関税・運送税・鉱山特権税などを課す。これらは租税と手数料、両方の側面を持っていた。
1524年のドイツでは、賦役や貢納の義務の軽減などを求めてドイツ農民戦争が起こった。
16世紀のオランダでは支配者であるスペインのアルバ総督からすべての商品の販売に対し10%の売上税を課された。この売上税は、今日の消費税のように仕入税額控除が認められていないため税が累積することとなり市場取引を麻痺させた。この圧政が1581年のオランダ独立宣言の一因となった。
ロマノフ朝のロシアでは重税に苦しむ農民は逃亡後、コサックという集団を形成し反乱を起こした。
17世紀のイングランドでは王に議会の同意がなければ課税を行わないことを求めたが無視されたため、1642年にピューリタン(清教徒)革命が起こった。
18世紀のイギリスが植民地戦争の戦費調達のため1765年の印紙法により植民地に重税を課したことが1776年のアメリカ独立宣言の一因となった。
封建末期の貴族たちは商人たちから借金を重ねていたため、遂に徴税権を商人たちに売渡す。この商人たちは租税の代徴を行う徴税請負人として人々から税を徴収したが、増益分は自らの懐に入るため、過剰な租税の取り立てが行われた。特に18世紀のフランスのアンシャン・レジームの下では、3つの身分のうち、第一身分(聖職者)・第二身分(貴族)は免税の特権を持っていた。このため人々の租税に対する不満が高まっていく。
1789年のフランス革命とこれに続く市民革命によってヨーロッパの封建制は崩壊し、立憲君主制が始まった。国家の収入は経常収支としての租税が大半を占めるようになる。また、君主の私的収入と国庫収入が切り離され、租税収入が歳入の中心を占める公共財政が確立し、現代まで続いている租税時代が始まる。
立憲制とともに租税法律主義も普及し、イギリスの「権利の請願」「権利の章典」、アメリカの独立などによって確立していく。
1799年、イギリスではナポレオン戦争の戦費を調達するために所得に対して課税が行われた。これ以降、産業革命による資本主義の発達を背景に所得税を中心とした所得課税が世界に普及していく。
20世紀には、社会主義の台頭や社会権の定着によって、所得税・相続税の累進税率が強化された。しかし、1980年代に入ると企業意欲・労働意欲を高めるために税率のフラット化が行われた。
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