出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/11 17:45:35」(JST)
日本の刑事手続 |
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被害者(ひがいしゃ)とは、刑事法学(刑法学、刑事訴訟法学)では、「犯罪により害を被つた者」(刑事訴訟法230条)をいう。
なお、「事件や事故等の人災などの被害にあった者」を被害者と呼ぶが、そちらについては被災者を参照。
告訴権とは、犯罪の被害者が、加害者に対する処罰を求める権利である。
犯罪の中には、裁判を行うにあたって被害者の告訴が必要なものがある(親告罪という)。これらの犯罪は、「事件を公にすることで被害者の不利益につながる恐れがあるもの(例:強姦罪)」、「軽微な被害が想定されているもの(例:器物損壊罪)」などがあり、それらについては被害者が自己の都合で加害者に対する処罰を求めるかどうかを決めて良いことになっている。親告罪では、被害者による告訴権の行使が必要である。
親告罪以外についても、被害者は告訴をすることができる(親告罪以外では、告訴がなくても検察が裁判を起こすことは可能)。この場合、被害者の告訴があれば、裁判とするかどうかの判断や判決の量刑などに影響する場合がある。
被害者には、前述の告訴権(刑事訴訟法230条)に加え、以下の権利がある。
なお、これらに関わる検察官の判断(不起訴の判断を含む)の理由についても、被害者はその通知・告知を受ける権利がある。
なお、刑法上、被害者の承諾があることによって、犯罪とはならなくなるものがある。たとえば、医師による手術行為は外形上傷害罪の構成要件に該当するが、被害者の同意がある場合には、傷害罪となることはない(事例によっては推定的同意が認められるかどうか問題になる)。殺人罪も、被害者の同意があると成立しないが、一方で同意殺人罪が成立する。13歳未満に対する強姦罪や強制わいせつ罪は、被害者の承諾があっても犯罪の成否に影響しない。なお、判例は保険金詐欺や指つめなどの事例について傷害罪の成立が問題となったケースで、法益の侵害について被害者の同意があるにも関わらず、傷害罪の成立を肯定した。刑法学上の議論の詳細は被害者の承諾や社会的相当性の項目を参照。また、被害者の承諾があるのにないと誤信した場合、未遂罪として処罰されることもありうる。(無差別殺人を行ったが、被害者本人が殺されることに同意していた場合等)
民法上の不法行為(709条)の成立要件を満たす場合や、加害者の行為が債務不履行に該当する場合は、それぞれ損害賠償請求権が被害者に成立する。ただ、これらは金銭賠償が原則であり、かつ加害者側の資力に依存するものなので、被害の性質や多寡によっては十分でないことが多い。
犯罪被害者のメンタルケアなどに関しては、十分とはいえないものの、徐々に制度が整えられつつある。
被害者の経済的救済として、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づく、犯罪被害者等給付金が支給される。条件は以下のとおりであるが、ケースバイケースである。現在、遺族給付金で最高1,573万円、障害給付金で最高1,849.2万円が支給される。もっとも、労災などの公的給付や損害賠償を受け取った場合は、受け取った価額の限度で減額される場合があり、実際の支給額はこれより更に下回るのが通常で遺族給付金の平均受給額は約400万円程度である。また、海外で犯罪被害に遭った場合には補償を受け取れないなどの問題もある[1]。
他、被害者等給付金を受け取っていた被害者が、後遺症が残っているとして生活保護を受けているケースで、被害に関する講演の謝礼を収入と見做され、福祉事務所から返還を求められたケースもあり[2]、有識者からは、給付制度の脆弱性を生活保護で補うことの問題点と、持続的な保証制度の創設を求める声がある[3]。
「犯罪被害者の権利確立」「被害回復制度の確立」「被害者の支援」を柱に、2000年1月23日第1回シンポジウム「犯罪被害者は訴える」を通して結成された。 代表幹事は弁護士であり、自らも妻を殺害された岡村勲。
「被害者に対する人権保護」については色々な社会的議論がある。
しばしば問題視されてきたのが「被疑者(加害者を含む)に対する人権保護」とのバランスである。たとえば犯罪加害者・容疑者、特に未成年者に対しては顕名報道が避けられる方向になってきているにもかかわらず(未成年被疑者については原則禁止)、死亡した被害者については実名報道が原則とされてきたことなどである[4]。
近年、死刑判決が増加しているのは法廷で遺族の意見陳述が認められたことにより裁判官も遺族感情を無視できなくなったからだとする指摘がある[5]。
日本弁護士連合会の調査によると少年事件の法廷で被害者・遺族が感情的になり被疑者である少年に暴言を吐いたり暴行を加えたりする事例が報告され、少年の更生への悪影響を懸念する声がある[6]。
人はいつ被害者や加害者や被疑者になるのか分からないため、バランスが取れた人権保護が求められている。
「この手で殺したい」「極刑を望む」といった遺族の声を繰り返しながら肯定的にアナウンスする弊害は大きく、死刑の制度の問題として論じるべきことが感情の領域に持っていかれて「こんなひどいことをした奴は死刑で当然」という声に覆われてしまうとの批判がある[7]。
裁判においては、被害を直接体験した被害者による具体的被害証言なくして有罪に持ち込むことができない件も少なくなく、この場合、被害者は犯罪被害状況をつぶさに思い出しながら、公開法廷にて証言しなければならない(回答を拒否したり、曖昧な証言しかできない場合、信用性が低いと見なされ、真犯人であっても有罪にできないことが起こり得る)。また、罪を免れたいあまり、被害者に責任を被せるような発言をする被告人もいる。こうした捜査・公判における被害者の苦痛は、可能な限りの軽減が求められている。
他方で、被害者の誤った証言によって被害者が冤罪加害者となってしまう例や、被害者への配慮として無罪の証拠となるべき重要な被告人供述を録取しないなどの事態もあり、被害者保護のための手法が冤罪をもたらす方向に流れることを危惧する意見もある。
最近では、警察発表で被害者の氏名が伏せられることも増えてきている。2005年には大規模な鉄道事故のケースで警察側がマスメディアへの発表に同意した被害者の氏名のみを発表したというケースがあり、改めて大きな議論を巻き起こした[8]。このケースでは、マスメディアの側が猛烈に反発し全面公開を要求した(このケースでは最後まで拒否されている)。
こういった混乱を受けて、2005年10月には日本新聞協会が「(氏名を報じるかどうかは報道機関が判断するので)警察は被害者の氏名を報道機関に対しては開示すべきである」との意見書を内閣府に提出した。
しかし、「未成年者犯罪などについて『報道の自由』を掲げて氏名報道を強行する報道機関がある」「大きな事件では被害者や被害者家族・遺族に対する取材競争が加熱することが珍しくない」「被害者をことさらおとしめるような報道がなされる場合がある」といった問題点がこれまでにも指摘されてきた。また、警察官や検察官、取材した記者の実名が報道されることは少なく、報道機関内の不祥事について、報道機関自らが情報を秘匿するといったケースも少なからずあり、個人情報の開示を巡る判断を報道機関に任せることに不安の声もある。こういった理由から、「国民の知る権利を代表するもの」として、あるいは「権力のチェック機関」としての報道機関の信頼性には疑問を提示する声も多く、報道機関による警察に対する氏名開示要求は必ずしも社会的な同意を受けているものとは言えない。
被害者の個人特定が全く不可能になると、警察発表などの内容を報道機関が検証することも不可能になり、それはそれで社会的な不利益につながる公算も高い。今後の社会的合意の形成が注目される。
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