スター・オブ・ライフ : 米国などでは救急医療のシンボルとしてしばしば用いられている。
プレホスピタルケアのためのキットの数々(en:Lincolnshire Integrated Voluntary Emergency Service)リンカンシャーのボランティア組織による救急医療活動のもの
救急医療(きゅうきゅういりょう、Emergency medicine)とは、人間を突然に襲う外傷や感染症などの疾病、すなわち「急性病態」を扱う医療である [1]。
「救急医学」も参照
目次
- 1 概要
- 1.1 急性期、超急性期への対応
- 1.2 プレホスピタルケアの重要性
- 1.3 トリアージ・救命の優先
- 2 各国の制度
- 2.1 アメリカ
- 2.2 イギリス
- 2.3 フランス
- 2.4 日本
- 2.4.1 初期救急医療
- 2.4.2 二次救急医療
- 2.4.3 三次救急医療
- 2.4.4 救急救命士
- 2.4.5 患者のモラルの低下
- 3 脚注
- 4 参考図書
- 5 関連項目
- 6 外部リンク
概要
「救急医療は医の原点」ともいわれるが、救急医療は常に人類とともにあったともいえる。
「迅速な119番通報」「迅速な心肺蘇生法」「迅速な除細動」「迅速な二次救命処置」の4つを「救命の連鎖(Chain of survival)」と呼ぶこともある[1]。
急性期、超急性期への対応
急性病態は時間とともに病態が急速に変化し、その間の適切な処置によって転帰(病気の結果)が変化する余地が大きい。特に、心肺停止状態では救急車到着までの間の蘇生処置が転帰に大きく関わり、来院時心肺停止 (CPAOA) の予後・救命率は非常に悪い。
プレホスピタルケアの重要性
急性病態の場合、救急車到着前・病院到着前の処置(=プレホスピタル・ケア)が非常に重要となってくる。救急救命士制度の創設により、救急車内での処置が拡大されている(メディカル・コントロール)。また、救急救命士のスキル向上のためにACLS(二次救命処置)やJPTEC(病院前外傷処置)を受講する救急救命士も増加している。
一般人でも自動車運転免許取得の際には心肺蘇生法(人工呼吸・心臓マッサージ)の受講が必須項目とされている。さらに防災意識・救急医療への関心が強い人々はAED(自動体外式除細動器)やBLS(一次救命処置、AED操作法含む)の講習、防災士講習を受けている。こうしたプレホスピタルでの処置が救命率に非常に大きく関わっている。
トリアージ・救命の優先
患者が救急医療を利用する場合には、生命の危機が迫っている、耐えがたい苦痛があるなどの緊急性があることを意味するが、通常、自分で病状の軽重を判断することは困難である。このため病状は軽くとも不安が強く救急医療を求める人々も多い。このため、まずこれらの緊急性の判断がなされる。また、複数の傷病者が発生している場合には重症の患者を最優先にする事(トリアージ)も行われ、「救命できる可能性が高く、より重症な患者」の診療が最優先とされる。
日本では診療報酬として、院内トリアージ実施料が設定されている。
各国の制度
アメリカ
ニューヨークの場合、救急救命室が比較的大きな病院に医療センターが設置されており、救急車やタクシー(救急車は有料で600ドルほど掛かるため)で搬入される患者を受け入れている。ただし、2012年現在、アメリカでは国民皆保険制度が完全施行されておらず、救急救命室には医療費支払い能力のない軽症患者も多く訪れるため、トリアージが行われる状況になっている[2]。
イギリス
詳細は「:en:Emergency medical services in the United Kingdom」、および「イギリスの医療#救急搬送」を参照
イギリスの救急医療は国民保健サービス(NHS)によって提供され、救急部門についてはあらゆる万人(観光者、移民を含む)に対して自己負担なしであり[3]、トリアージが常時実施されている[4]。救急搬送については医学的必要性が認められる場合に限るが、自己負担はなし。
フランス
詳細は「フランスの医療#救急医療」を参照
フランスの救急医療は、Service d'Aide Médicale Urgente(SAMU、救急医療支援サービス)が中心となり通報を受け付け、かつ全体の指揮を執る。
日本
日本においては特に戦後、自動車の普及に伴って交通事故が激増し、これに対応する形で各地で救急科や救命救急センターの数が増加し、さらに内科系疾患にも対応する形となって現在に至っている。
現在の日本における救急医療体制は、都道府県が作成する医療計画に基づいており、二次医療圏までで対応させるとしている。また、その「重症度」に応じて以下の3段階で対応することとされている。救急指定病院もこれらの段階のうちどの段階まで対応するか想定した上で患者受け入れ体制をとっている。しかし、こうした重傷度に応じた体制には限界があり、初期(一次)~三次救急と独歩来院を包括して診療する北米型のERシステムを採用する病院も出てきている。
初期救急医療
「入院の必要がなく外来で対処しうる帰宅可能な患者」への対応機関。整備は市町村の責務とされている。主に内科、外科を診療科目とするが、住民の要望の高まりと必要性から小児科を加える自治体もある。
- 在宅当番医制(休日(日曜日・祝日)に診察を行う当番病院・診療所)
- 休日歯科診療所
- 休日夜間急患センター(人口5万人以上の市に1つ)
- 小児初期救急センター
二次救急医療
「入院治療を必要とする患者」に対応する機関。都道府県が定めた医療圏域(二次医療圏)ごとに整備するため、市町村の垣根を越えた整備が必要なことが多い。近年は小児救急医療へ対応するため、通常の二次救急(内科、外科、脳外科等)とは別に小児二次救急医療の体制を独自に組む医療圏もある。肺炎、脳梗塞など。
- 中規模救急病院
- 病院群輪番制(救急指定病院が、救急患者のたらい回しをしないため、当番病院を定めて休日、夜間の救急医療に当たる方式)
- センター方式/共同利用型病院(中核となる救急指定病院に当番で他の病院や開業している医師が集まり、休日や夜間の救急医療に当たる方式)
- 小児救急医療支援事業
- 小児救急医療拠点病院
- 地域周産期母子医療センター
三次救急医療
二次救急医療では対応できない複数診療科にわたる特に高度な処置が必要、または重篤な患者への対応機関。平たく言えば、「ICU(集中治療室)で加療する必要がある患者」への医療を指す。心筋梗塞、脳卒中、多発外傷、重症頭部外傷など。
- 救命救急センター
- 高度救命救急センター
- 新型救命救急センター
- 小児救命救急センター
- 総合周産期母子医療センター
救急救命士
日本ではCPAOA(到着時心肺停止)の社会復帰率の低さから救急医療の強化が求められ、それに応じて救急救命士が法制化された。これは、医師の指示のもとに輸液ルート確保、食道閉鎖式チューブ等による気道確保、電気的除細動が認められる資格である。また2004年7月から、病院にて30症例の気管挿管の実習を修了した救急救命士には気管挿管が認められた(気管挿管認定救急救命士)。さらに2006年4月から講習および実習の後、強心剤(アドレナリン)の薬剤投与を行うことが認められた(薬剤投与認定救急救命士)。
患者のモラルの低下
救急車の出動件数は年々増加の一歩をたどり、これに伴って救急車の到着時間、病院収容までの時間が延びている現状がある。
その背景として 「虫歯が痛い」、「夜間のタクシー代わり」、「どこの病院に行っていいかわからないから」、「救急車を使えば優先的に診てもらえるから」 という悪質な利用もみられ、社会問題化している。呆れたことに、定期通院に救急車を呼ぶ事例まで存在するという。
このため、総務省消防庁では「救急車利用の適正化」を訴えている[5] 。また、上記のような悪質な利用者や、救急車の必要が無い軽症患者に対して、「救急車の有料化」の是非についても議論されているが賛否両論あり、結論は出ていない。
脚注
- ^ a b 救急診療指針 監修 日本救急医学会 へるす出版
- ^ アメリカ合衆国(ニューヨーク)在外公館医務官情報日本国外務省ホームページ2012年6月10日閲覧
- ^ “Am I entitled to NHS treatment when I visit England?”. NHS Choices. 2015年2月1日閲覧。
- ^ “Urgent and emergency care services in England”. 国民保健サービス. 2015年12月1日閲覧。
- ^ 救急車の適正な利用について - 総務省消防庁
参考図書
- いのちを救う先端技術 久保田博南 PHP新書 ISBN 4569701159
関連項目
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ウィキメディア・コモンズには、救急医療に関連するメディアがあります。 |
- 救急医学 / 応急手当
- 救急救命士 / 赤十字救急法救急員 / バイスタンダー
- 救急指定病院 / 高度救命救急センター / 救急救命室 / 救急隊
- メディックファーストエイド
- トリアージ
- ドクタートレイン / ヘリコプター救急
- バイタルサイン
- コンビニ受診
- 72時間の壁
- 精神科救急
外部リンク
- 日本救急医学会
- 救急医療ジャーナル(救急医療専門誌)
救急医学(救急医療) |
病院前救護
(JPTEC) |
バイスタンダー |
善きサマリア人の法 - 応急手当普及員 - 救命講習 - 患者等搬送乗務員基礎講習 - 応急手当指導員 - 赤十字救急法救急員 - 緊急即時通報現場派遣員基礎講習 - ライフセービング - メディックファーストエイド - 野外救急法
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救急隊 |
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医療機関 |
ドクターカー - ドクターヘリ(航空救急)
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一次救命処置 |
国際ガイドライン - 心肺蘇生法 - 応急処置 - 救急処置 - 自動体外式除細動器 - RICEの法則 - 止血
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カーラーの救命曲線 - 救命の鎖
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初期診療
(JATEC) |
医療機関 |
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外傷 |
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病態・症候 |
外傷死の3徴 - 低体温症 - 熱中症 - 挫滅症候群 - 全身性炎症反応症候群 - ショック - 多臓器不全
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二次救命処置 |
二次心肺蘇生法 - ABCDEアプローチ
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災害医療 |
災害拠点病院(東京都災害拠点病院) - DMAT - 東京DMAT - 大阪DMAT - 埼玉SMART - JMAT - DPAT - トリアージ - CBRNE - 72時間の壁
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軍事医療 |
衛生兵 - 軍医 - 従軍看護婦 - 衛生科 (陸上自衛隊) - 機上救護員 - 降下救助員 - 救難員 - 医官 - 歯科医官 - 防衛医科大学校 - メディック
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被服・資器材 |
感染防止衣 - 術衣
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関連項目 |
日本の救助隊 - 赤十字社 - 国境なき医師団 - 世界の医療団 - 救世軍 - スター・オブ・ライフ
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日本の救助隊 |
消防 |
特別救助隊(レスキュー隊) | 山岳救助隊 | 水難救助隊 | 緊急消防援助隊 | 化学機動中隊(東京) | 国際消防救助隊(IRT) | 特別機動援助隊(埼玉SMART)(埼玉)
特別高度救助隊 |
消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー) (東京) | 特別高度救助部隊(スーパーレンジャー SR)(横浜) | 特別消防隊(ハイパーレスキューNAGOYA)(名古屋)
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消防防災航空隊 |
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警察 |
広域緊急援助隊 | 水難救助隊 | 山岳警備隊 | 警察災害派遣隊 | 機動救助隊(レスキュー110) (東京・千葉) | 特殊救助隊(SRT) (東京) | NBCテロ対応専門部隊
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防衛省・自衛隊 |
陸上自衛隊 |
(災害派遣)
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海上自衛隊 |
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航空救難団 | 救難隊 | 救難員(メディック)
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医療機関 |
災害派遣医療チーム(DMAT) | 東京DMAT(東京) | 大阪DMAT(大阪) | 特別機動援助隊(埼玉SMART)(埼玉)
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その他 |
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関連項目 |
捜索救難 | 山岳救助 | 水難救助 | 海難救助 | 救助工作車 | 救助資機材 | 災害医療 | 72時間の壁
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日本のドクターヘリ(航空救急) |
運航に関係する医療機関
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防災ヘリの
ドクターヘリ的運航 |
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導入予定 |
国立病院機構仙台医療センター(2016年度内) - 長岡赤十字病院(2016年度内) - 鳥取大学医学部附属病院(2017年以降) - 県立大島病院(2016年度内)
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ドクターヘリに関連する項目
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運航受託航空会社 |
朝日航洋 - 中日本航空 - 本田航空 - セントラルヘリコプターサービス - ヒラタ学園 - 西日本空輸 - 四国航空 - 鹿児島国際航空 - ジャネット
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使用機材 |
MD902、EC135、BK117、ベル429
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その他 |
厚生労働省、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法、医療計画
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その他航空機で患者搬送を行っている組織
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消防防災ヘリコプター |
(総務省消防庁)
消防組織法、消防・防災ヘリのドクターヘリ的運航、大規模災害時
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都道府県警察航空隊 |
(警察庁)
警察法、大規模災害時
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海上保安庁 |
日本水難救済会による洋上救急制度
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航空自衛隊 |
(防衛省)自衛隊法、災害派遣
航空救難団・救難隊、航空機動衛生隊
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海上自衛隊 |
(防衛省)自衛隊法、災害派遣
航空分遣隊、第31航空群第71航空隊(US-1A・US-2)
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陸上自衛隊 |
(防衛省)自衛隊法、災害派遣
第15ヘリコプター隊(沖縄県)
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その他
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大規模災害 |
阪神淡路大震災、新潟県中越沖地震、岩手・宮城内陸地震、東日本大震災など
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災害拠点病院 |
北海道、青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島
茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、長野
新潟、富山、石川、福井、岐阜、静岡、愛知、三重
滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山
鳥取、島根、岡山、広島、山口
徳島、香川、愛媛、高知
福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄
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関連項目 |
救急車(日本の救急車)、救急救命士、ドクターカー、ドクタートレイン、災害派遣医療チーム
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