出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/02/13 12:03:14」(JST)
揚げる(あげる en:Deep frying)とは、高温の多量の油の中で食材を加熱調理する調理技法をいう。揚げて調理した料理を揚げ物、フライなどという。
揚げ調理に利用される油の沸点は摂氏100度以上であり、摂氏100度で沸騰する水で煮る調理とは異なり、高温の加熱調理が可能である。
食材を高温の油に投入すると、表面の水分が瞬間的に沸騰し蒸発する(揚げ物をする際に泡が出るのはこのため)と同時に、油に直接接した部分は短時間で蛋白質等が熱変性し硬化する。食材の表面に硬い殻が出来た状態となるので、表面のみがサクッとした食感となり内部は水分が保たれ、軟らかさが残る。
炒め物等の素材をあらかじめ下揚げすることは油通し(あぶらどおし)といい、中華料理の基本的な技法である。野菜は炒めて火を通すと、どうしても焦げ目がついて見た目が悪くまた苦味がつく。素揚げして火を通すことで、炒めより短時間かつ均一に火を通すことができ、食感よく、また鮮やかな色に仕上げることができるのである。
日本では奈良時代にはこの調理法が知られていたが、食用油の商取引が座に仕切られ、関所による通行税の課税により流通コストが高かったこと、また油の原料が胡麻で生産量が少なく高価であったため広く普及することはなかった。戦国時代末期織田信長が推し進めた楽市楽座により流通の障壁が取り除かれ、江戸時代初期に、植物油の主流が高価なごま油から量産の可能な菜種油に変わったことと、調理方法の天ぷらの普及、そして天ぷらに合った調味料の醤油の開発と流通に伴い、広く庶民にも食されるようになった。 西洋においては、「揚げる(deep frying)」という単語は1930年代におけるまで記述が存在しなかった。古くは、古代ローマのレシピ本であるアピシウスの中でPullum Frontonianumという鶏料理の下準備として、揚げる技法が初めて紹介される。
揚げ物に用いられる器具としては鍋・フライヤーがある。
「天ぷら鍋」には銅製、鉄製、アルミ製、ステンレス製などがある。調理した揚げ物をのせて油を切るための半円形の天ぷら網を鍋にかけて用いることも多い。油の温度を計測するための温度計が用いられることもあり、鍋に付属している製品もある。
フライヤーには電気式とガス式がある。このうち電気式の卓上型フライヤー(蓋付きタイプ)は、温度調節が的確、持ち運びが容易、油が周囲に飛び散る心配がないといった利点がある。
揚げ油として使用される油は、料理・地域・嗜好によって異なる。ごま油、米油、サラダ油、綿実油、白絞油、椿油、ショートニングなどの植物性油脂や[1]、ラード、バターなどの動物性油脂など、様々な食用油が利用される。また、業務用として販売されている「天ぷら油」は白絞油が多く使用されるが、こだわる料理店ではごま油や綿実油をベースにブレンドして使用することがある。ドーナツ、フライドポテトなどの、さくっとした食感を重視するものには、ショートニングなど、軟化点の高い油脂が使われる場合がある。
深めの鍋を使い油をたっぷり使うことが上手く揚げるコツである。油の量が少なすぎると温度管理が難しくなる。温度調節機能付きのコンロでは、最低でも200mL以上の油で調理することが推奨されている。
油の温度の見分け方には色々あるが、少量の衣を油に落とした様子で見る方法が有名。
温度 | ころもの様子 | 料理 |
---|---|---|
150℃~160℃ | 鍋の底に沈んでゆっくり浮き上がる | 青じそ、三つ葉 |
170℃~180℃ | 一旦沈んですぐ浮き上がる | 野菜、から揚げ、魚介類 |
180℃~190℃ | 油の表面で散る | 天ぷら、とんかつ、フライ |
190℃~ | コロッケ |
温度計付きの揚げ物用鍋も市販されているほか、揚げ物に適した温度調節機能付きのフライヤーも販売されている。また、一度に食材を入れすぎると急激に温度が下がるため、油表面の1/3程度の面積に留めておくことが大切である。
揚げ油は加熱したままだと300℃ほどで大量の白煙が発生し、さらに加熱を続けると370℃で自然発火する。揚げ物の料理中は鍋に火をかけたまま放置せず、常にそばに付いていることが安全のために重要である。総務省消防庁の統計では07年に発生した火災の着火原因では紙類に次いで天ぷら油が多く、全体の13.4%を占めている。[2]
より、ぱりっと揚げるためには、二度揚げにし、一度目は低い温度でじっくりと水分を減らし、二度目は高温、短時間で仕上げるようにする。
使い終わった油は油こしで天かすや細かいかすをこして、油自体の酸化が進まないように冷暗所で保管すれば2~3回は繰り返して使用可能である。熱いままの天かすをゴミ袋等に集積すると、天かす自体の持つ熱が逃げず、油の酸化反応が次第に加速し発火するため、火災発生の原因となる。従って、確実に室温まで冷えた状態になるまでは廃棄してはならない。天かすは多孔質であり、空気に触れる面積が大きいため、天かすの油の酸化反応は急激に進行する。例えば、500グラム程度の天かすでも、熱を持った状態で集積すればほぼ確実に発火する程度である。
揚げ物の廃油をそのまま捨てると排水管の内側にこびりついて詰まりの原因となる上、生活排水として水系を汚染する。家庭における少量の油は、なるべく炒め物などで使い切る。捨てる場合は、冷めてから新聞紙やキッチンペーパーに染みこませて牛乳パックなどに詰めて捨てる。市販の廃油凝固剤(油固剤ともいい、投入することで廃油を固めて捨てやすくする薬剤で、ヒマシ油誘導体などが成分)や吸収剤が利用されることもある。また、界面活性剤で乳化して廃棄させる製品や、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム(液状)を主成分とし、石けんとして利用できるようにする製品もある。大量の廃油を出す飲食店や事業所などでは廃油が下水に流れないよう、グリストラップ(廃油槽)を設置し、定期的に専門の産廃業者に油を回収させることが昭和51年の建設省告示で義務化されている。
自治体や地域コミュニティーによっては、廃油の回収を呼びかけ、工業用脂肪酸、塗料樹脂の原料、ゴム添加剤、石けん原料などにリサイクルをしている例もある。大規模な例としては、東京国際空港(羽田空港)では2008年より施設内の食堂街から出た廃油を処理し、貨物運搬車の燃料として用いている。[3]
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リンク元 | 「fry」「幼魚」「稚魚」「フライ」 |
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