出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/09/24 09:52:05」(JST)
天然ガス(てんねんガス、英: natural gas)は、一般に天然に産する化石燃料である炭化水素ガスのことを指す。
広義には、地下に存在するガス、または地下から地表に噴出するガス一般のことであり、この中には化石燃料ガス(可燃性ガス)だけでなく、窒素や酸素、炭酸ガス、水蒸気、硫化水素ガス、亜硫酸ガス、硫黄酸化物ガスなどの不燃性ガスも含まれる。これら不燃性ガスの多くは火山性ガスである。
目次
|
地下から産出する状態の「天然ガス」について以下に述べる。液化したものは後半部の「液化天然ガス」を参照のこと。
天然ガスにはメタン・エタン・プロパン・ブタン・ペンタン以上の炭素化合物や窒素が含まれ、産出する場所によってその割合は少しずつ異なる。
産地 | メタン | エタン | プロパン | ブタン | ペンタン | 窒素 |
---|---|---|---|---|---|---|
ケナイ(アラスカ) | 99.81 | 0.07 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.12 |
ルムート(ブルネイ) | 89.83 | 5.89 | 2.92 | 1.30 | 0.04 | 0.02 |
ダス(アブダビ) | 82.07 | 15.86 | 1.86 | 0.13 | 0.00 | 0.05 |
これらの他に不純物として、水・炭酸ガス・硫黄酸化物・硫化水素などを含む[1]。例外的に北アメリカ産・アルジェリア産の天然ガスには 1~7 mol/100mol ものヘリウムが含まれており、世界の数少ないヘリウムの供給源となっている[2]。
揮発性が高く常温では急速に蒸発し、空気よりも軽いため大気中に拡散する。この点では、常温で空気より重く低い場所に滞留しやすいプロパンやブタンガスに比べれば安全性が高いといえる。
以下に天然ガスに含まれる主なガスの物性を示す[1]。
名称 | メタン | エタン | プロパン | ブタン (ノルマル/イソ) |
---|---|---|---|---|
分子式 | CH4 | C2H6 | C3H8 | C4H10 |
分子量 | 16.04 | 30.07 | 44.09 | 58.12 |
沸点(℃) | −161.5 | −88.7 | −42.2 | −0.5/−11.7 |
臨界温度(℃) | −82.6 | 32.2 | 96.7 | 152/135 |
臨界圧力 | 45.4 | 48.8 | 42 | 37.5/36 |
比重 液体(沸点、1気圧) | 0.425 | 0.546 | 0.580 | 0.605/0.590 |
比重 気体(0℃、1気圧) | 0.554 | 1.047 | 1.522 | 2.006 |
燃焼範囲 上限 (空気中容積%) |
15.0 | 12.5 | 9.5 | 8.4 |
燃焼範囲 下限 (空気中容積%) |
5.5 | 3.0 | 2.2 | 1.8 |
気体/液体容積比 (0℃、1気圧) |
595 | 432 | 292 | 277/231 |
毒性 | なし | なし | なし | なし |
腐蝕性 | なし | なし | なし | なし |
メタンの沸点は-161.5℃であり、LNGの沸点は-160℃程度になる。このため1気圧の環境下で液化するには極低温が必要になり、臨界温度が-82.6℃ということはいくら加圧してもこれ以上の温度では液化はしない。
メタンの液体での比重は0.43でありLNGになると他の成分の割合に応じて0.43~0.48になる。 原油の比重約0.85と比べても液体メタンはかなり軽いため、運搬時には重量に比べて大きな体積を必要とする。
気体のメタンは空気と比べて約55%の比重でありかなり軽いが、気体でも低温の状態では-113℃で空気と同じ重さとなり、それ以下の温度では空気より重くなる。
事故などで極低温状態のメタンが漏れて-161.5℃以上で気体になると空気の1.4倍程度の重さとなりまず地上に漂うことになる。このガスと周囲の空気との境界で空中の水分を凍らせ白い雲を作る。これが蒸気雲(ベイパークラウド)と呼ばれ、透明なガスが間接的に人の目に触れることになる。 この状態では爆発的な燃焼や凍傷、窒息の危険がある。しばらくは地上に留まった低温メタンガスも、温度が-131℃を超えると空気よりも軽くなり空中へと上昇・拡散していく。
5%-15%の燃焼範囲は他の可燃性ガスと比べれば比較的狭い。気体のメタンが液体になると体積は約1/600になるため、運搬には適している。
燃焼による発熱量は13,300kcal/kgで炭化水素中では最大である。これは5,000-7,000の石炭や9,250の石油よりも大きい。メタンもLNGも共に人体への毒性はない[1]。
産出場所での分類では油田地帯で出るものは油田ガス、石油系天然ガスと呼ばれ、炭田地帯では炭田ガス、炭層ガスと呼ばれ、遊離型ガス鉱床では水溶性ガスと呼ばれる。
ガス田からのガス田ガスは「乾性ガス」とも呼ばれ、メタンが85%-95%と主体を占めその他のエタン、プロパン、ブタンなどは比較的少ない。ガス田ガスは液化されてガス田由来のLNGとなる。このような天然ガス鉱床は遊離性ガス鉱床と呼ばれる[3]。
油田地帯から出る油田ガスは、10-15m³のガスから1リットル程度のガソリンが採取できるため「湿性ガス」とも呼ばれ、幅広い組成を持つこのガスは中東などでは従来はすぐにガスフレアによって廃棄されていたものだが、現在はこれも液化によって回収されている。この湿性ガスはメタン成分が多ければ液化されて油田由来のLNGとなり、少ない時はLPGの原料となる石油ガスであり液化されてLPGとなる。このような天然ガス鉱床は油溶解性ガス鉱床と呼ばれる[3]。 また、原油の精製プラントから生まれるガスは「精製ガス」と呼ばれ、液化されてLPGとなる[1]。
燃焼したときの二酸化炭素排出量はカロリー当りで、石油より少ない。ただし、主成分であるメタンの地球温暖化係数は、「21」と大きいため、大気への放出は避ける必要がある。
天然ガスを採掘するガス用の井戸を「採ガス井」と呼び、液体の原油を生産する「油井」「油生産井」「採油井」と区別される。採ガス井は一般に原油用の井戸に比べてクリスマスツリーなど、使用される機器類の耐圧が高く設計されているために、大きくなる傾向がある。これは、天然ガスの存在する地層が油田に比べて深く、また、液体と気体では地下の高圧力環境から地上にまで持ち上げられた時の圧力が大きく異なるためでもある[3]。
2007年12月の世界の液化天然ガスの生産設備は15ヶ国に79トレインが稼動していて、総生産設備能力は年間18,930万トンであった。2006年に世界一のLNG輸出国となったカタールでは1トレインで年間780万トンという巨大液化プラントを複数建設中である。
2006年の世界の天然ガス生産量は28,700億m³であった。
2006年の世界の天然ガス貿易量は7,480億m³であった。
天然ガスは原油と異なり、地上で大量に貯蔵するには極低温状態のLNGとする他にはあまり良い方法が無く、LNGでは施設や冷却の維持などにコストがかかる。このため、多くの国では一度地上に取り出した天然ガスを別の地下ガス層へと再び圧入する事で地下に貯蔵する方法を採用している。欧米では600ヶ所以上存在し、日本でも数ヶ所が稼動している。地下貯蔵に使用されるガス層にはその上部がキャップロックと呼ばれる浸透性の無い緻密な地層で覆われていなければならない。冬季の需要期に備えて、夏季に貯蔵しておいたり、パイプラインの事故に備えるなどがその目的である[3]。
2006年末の世界の天然ガスの確認可採埋蔵量は約181.46兆立方メートルといわれており、国別には旧ソ連が一番多く、イラン、カタールなどがそれに続く。 今後採鉱が盛んになることで、確認可採埋蔵量の増加が期待されている。BP統計2005年版では確認可採埋蔵量は約180兆立方メートルという報告がなされた(可採年数は66.7年)。
日本では関東地方だけでも埋蔵量は4千億立方メートル以上あると推定され、埼玉・東京・神奈川・茨城・千葉の一都四県にまたがる地域で南関東ガス田を形成している。しかし、東京の直下にあるため多くの地域で採掘は厳しく規制されており、房総半島でわずかに採掘されているのみである。東京都や千葉県では南関東ガス田から自然放出される天然ガスによって事故がたびたび起きている。
日本の東部南海トラフにはメタンハイドレートが約40兆立方フィートあると推定されている[3]。深海底に存在するメタンハイドレートは、採掘技術が確立されていないため2008年現時点では未利用資源に留まる。
天然ガスをめぐる紛争がある。
液化天然ガス(えきかてんねんガス、LNG[6])は、気体である天然ガスを-162℃以下に冷却して液体にしたもの。体積は気体の約1/600しかない。輸送・貯蔵を目的として液化される[1]。
天然ガスは主成分であるメタンの他にもエタン、プロパン、ブタンなどのガスが含まれているが、LNGへの液化の過程でこれらのガスも同時に液化されるために、LNGも元となる天然ガスの産地によってこれら炭化水素の構成比に違いがある。LNGの液化の初期段階過程では、水和物を作ってパイプを閉塞させる炭酸ガスや、プラントを腐蝕する硫黄酸化物などの不純物が除去されるため、LNGは人体にとって無害となる[1]。
液化には「C3-MCR」「TEALARC」「PRICO」「CASCADE」の4つの方式が存在する。CASCADE では冷媒にメタン、エチレン、プロパンの純成分を個別に3段階で使用しており、他の3方式は窒素、メタン、エタン、プロパンを混合して使用している。液化プラントで使用されているのは C3-MCR 方式が多い[7]。
輸送方法には大別して2つある。1つがパイプラインによる気体での輸送で、1930年代頃からアメリカで行われており、現在ではロシアから東欧へ、北アフリカから南欧への天然ガス輸送に使用されている。そしてもう一つがLNGタンカーによる液化天然ガスの輸送で中東や東南アジアから日本への輸送に多用されている。
LNG船の海難事故は極めて少なく、大規模なガス爆発やガス漏洩を含む環境破壊事故は一度も発生していない。
また、メタンハイドレートにして輸送する方法が開発中である。LNGに比べ温度が高くても体積を減らすことができ、輸送効率の向上が見込める。
また、原産地でGTL法によってメタノール等の液体に変換して輸送する方法も実用化段階にある。
LNGを利用するためには、ガス井、パイプライン、液化プラント、LNGタンカー、受け入れ設備、気化設備など「LNGチェーン」と呼ばれる一連の設備が必要である。
LNG受入れ基地の近辺には気体に戻す際の気化熱を冷熱源とする施設を設置し、エネルギーの利用効率を高めている。阪神港泉北コンビナートでは、キンレイ(かつては大阪ガス傘下)の冷凍うどん製造工場や業務用冷凍庫などの他に大阪府立臨海スポーツセンターのスケートリンクなどが存在する。
日本国内では都市ガス用と火力発電用の比率は約35:65である。
以降、発電用燃料として多く使用されるようになり、特に東京電力は近年韓国ガス公社(KOGAS)に抜かれるまで世界最大のLNG輸入者であった。
万一、大量のLNGが漏洩する事故が起きれば液化の為の-162℃以下の超低温状態から-113℃以上に暖められるまでは空気よりも重く、極低温のガスが地上に滞留する。LNGタンクが作られた初期の1944年10月20日、アメリカ合衆国のオハイオ州クリーブランドで起きたLNG漏洩事故では防液堤を備えなかったために大量のLNGが市中に広がり、下水溝内で爆発・燃焼するなど死者128人を出した[8]。この大事故を教訓に、現在はLNGタンクの周りは防液堤で囲われており、万一漏洩事故が発生しても周辺被害はそれほど拡大しないと期待されている[1]。
日本国内の基地について記載する。
詳細は「日本のLNG基地一覧」を参照
圧縮天然ガス(あっしゅくてんねんガス、CNG[9])は、高い圧力で圧縮された天然ガスのこと。環境に優しい自動車の燃料として注目を浴びるようになった。天然ガスに仮にオクタン価を付ければ135になる[10]。
詳細は「天然ガス自動車」を参照
ウィキメディア・コモンズには、天然ガスに関連するメディアおよびカテゴリがあります。 |
|
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
リンク元 | 「natural gas」 |
関連記事 | 「天然」 |
.