出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/02/15 16:12:10」(JST)
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酸と塩基 |
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表・話・編・歴
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酸と塩基(さんとえんき)は、最も基本的な物質の分類の1つ。酸と塩基の定義は時代と共に拡張されており、現代では3つの定義が一般的に用いられている。
酸と塩基を混合すると酸塩基反応が進行する。最も基本的な酸塩基反応は中和反応で、双方の性質を打ち消しあうとともに水と「塩」(えん)が生成する。酸塩基反応の際に授受できる水素イオンの数をその酸・塩基の価数と呼ぶ。
酸・塩基の強さを測る指標としては、規定度・水素イオン指数(pH) ・酸解離定数 (pKa) ・酸度関数 (H0) などが使用される。ただし、酸・塩基の強度は物質と状態(濃度や温度、溶媒など)によって変化し、また酸塩基反応においては反応に関わる物質の相対的な強度によってその物質が酸・塩基のどちらの役割を果たすかは異なる。例えば、水は場合によって酸としても塩基としても働く。
また、酸と塩基には、「硬い」「軟らかい」という表現をされる定性的な性質がある。詳しくはHSAB則を参照。
目次
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歴史的には酸の水溶液が示す物性を酸性、灰汁などの水溶液が示す物性をアルカリ性と呼んだ(「アルカリ」は灰を意味するアラビア語に由来する)。
酸性物質とアルカリ性物質とを混合すると、双方の性質を打ち消しあうことが知られており、中和反応と呼ばれる。
塩(えん)が中和反応の生成物であることが判明してくると、「酸と中和反応をして塩を生成する物質群」という物質グループの概念が生まれ、それに対して塩基という呼称が与えられた。これに関連して、塩を形成せず、イオン化していない状態の酸を強調する目的で遊離酸と呼ぶことがある。
酸と塩基の間の反応を、酸塩基反応と呼ぶ。無論、中和反応も酸塩基反応に内包され、マクロなレベルで酸成分と塩基成分を混合する操作に対して使用される場合が多い。
したがって、酸性ないしアルカリ性は水溶液の物性の呼称として用いるのが原義である。塩基性といった場合は、狭義には「酸との相互作用」といった意味であるが、日常ではアルカリ性と塩基性とは混用される場面が多い。
1884年にアレニウスが提唱した定義では、水 H2O に溶けると、プロトン H+(実は、水と結合したヒドロニウムイオン(水素イオン)であることが今日知られているが、一般に水溶液中の水素イオンをプロトンと呼び、 H+ と書くのは許されている。このページではプロトンと呼称することにする)濃度を高める物質を酸、水酸化物イオン OH− 濃度を高める物質を塩基という。すなわち、酸は水溶液中でプロトンを、塩基は水酸化物イオンを 生じる ということである。この定義における酸に当てはまる物質をアレニウス酸、塩基に当てはまる物質をアレニウス塩基と呼ぶ。プロトンとか水酸化物イオンとかを生じる物質には2種類あり、電離に依るものと依らないものである。
電離に依るアレニウス酸、塩基について説明する。アレニウス酸を HA、アレニウス塩基を ROH とする。HA とはプロトンH+ と任意の物質 A− との、ROH とは水酸化物イオン OH− と任意の物質 R+ との化合物である(下図参照)。水に溶けるとアレニウス酸は H+ と A− とに、アレニウス塩基は R+ と OH− とに分解する。つまり、電離によって、H+ あるいは OH− を生じる。
具体例として、塩化水素 HCl は H2O に溶解すると、H+ に電離するのでアレニウス酸である。
水酸化ナトリウム NaOH は H2O に溶解すると、OH− に電離するのでアレニウス塩基である。
電離に依らないアレニウス酸、塩基について説明する。これらは、H+ あるいは OH− の直接の源ではないが、結果的に水溶液中におけるプロトンあるいは水酸化物イオンの濃度を上げる。これは、水をイオンの源とするためである。
例えば、アンモニアは水酸化物イオンに電離しないが、下のように水 H2O からプロトンを奪うことで、OH− を発生させている。
いままで、プロトン(水素イオン)を H+ と表記してきたが、これが実際の反応の中で活躍しているわけではない。なぜなら、どんな溶液中でも、一瞬たりとも裸のプロトンは存在しないからだ。存在しているプロトンはいつでも水分子と結合している。したがって、上の反応式は次のように表すのが正確である。
ただし、便宜上、水和されたプロトンをH+と書くことは一般に認められている。水和されたプロトンはH9O4+でありH3O+ではないという説がある[1]。
塩(えん)の意味はこのページの最初で説明したとおりであり、アレニウス酸塩基の混合によって水とともに生成されるが、狭義にはアレニウス酸とアレニウス塩基の当量混合物を指す。アレニウス酸・塩基の強度はリトマス紙に代表されるさまざまな指示薬やpHメーターなどによって決定することができる。
1923年にブレンステッドとローリーが提出した定義では、酸は H+ を与える物質であり、塩基は H+ を受け取る物質である。この定義にあてはまる酸をブレンステッド酸、塩基をブレンステッド塩基と呼ぶ。すなわち、ブレンステッド酸とはプロトン供与体、ブレンステッド塩基とはプロトン受容体である。水素を持つあらゆる物質に適用可能な定義である。
一般に、酸を HA、塩基を B とすると、次の化学反応式で表される。
ここで、A− は酸 HA の共役塩基 (conjugate base)、HB+ は塩基 B の共役酸 (conjugate acid)と呼ばれる。逆反応が起きればそれぞれ塩基・酸として働くからである。
具体例を挙げると、塩化水素 HCl が水 H2O に溶解すると、HCl は酸としてはたらいて H2O に H+ を与え、H2O は塩基として働いて H+ を受け取る。その結果、塩化水素の共役塩基として塩化物イオン Cl−、水の共役酸としてオキソニウムイオン H3O+ が生じる。
ブレンステッド・ローリーにおける酸塩基はアレニウスの定義と異なり、相手物質にもよる相対的なものである。例えば、水は、アンモニアに対しては、プロトンを与えるブレンステッド酸として作用するが、塩化水素に対しては、プロトンを受け取るブレンステッド塩基として振る舞う。
1923年にルイスが提出した定義では、酸は電子対を受け取るあらゆる物質であり、塩基は電子対を供与するあらゆる物質である。この定義にあてはまる酸をルイス酸、塩基をルイス塩基と呼ぶ。すなわち、ルイス酸とは電子対受容体、ルイス塩基とは電子対供与体である。最も一般的であり、水素を持たない物質についても適用可能な定義である。
なお、水素イオン(H+)は、全く電子を持たないため、いかなる相手に対しても電子対供与体(=塩基)とはなり得ず、電子対受容体(=酸)としてのみ作用する。ルイスによる定義でも、水素イオンは最強の酸といえる。 水素イオンが、水中で直ちに水分子と反応し、オキソニウムイオン(H3O+)に変化するのはそのためである(実際は溶液中において水素イオンは遊離状態では存在しないものと思われる)。
また金属イオンなどに対する錯体の生成反応も金属イオンがルイス酸、電子対供与体である配位子がルイス塩基となる。
1939年にソビエト連邦のウサノビッチ (M. YCAHOBИЧ)が提出した定義では、酸は水素イオンおよびその他の陽イオンを放出するもの、あるいは陰イオンおよび電子と結合する能力のあるものはすべて含まれる[2]。
この定義では陰イオンおよび電子(および電子を放出するもの)まで塩基となり、電子の授受といった酸化還元反応までを酸塩基反応と解釈し、究極にはすべての化学反応を包括することになり拡張解釈が過ぎるため、今日ではこの定義が用いられることはほとんどない。
ある物質から水素イオンがひとつ脱離した化学種を、その物質の共役塩基と呼ぶ。反対に、ある物質に水素イオンがひとつ付加した化学種を、その物質の共役酸という。例えば、水 (H2O) の共役塩基は水酸化物イオン (OH−) 、共役酸はオキソニウムイオン(H3O+) である。
物質によっては、純物質であっても自発的に共役酸と共役塩基に解離するものがある。この現象を自己解離と呼ぶ。例えば、水は通常の状態でわずかにオキソニウムイオンと水酸化物イオンに自己解離していることが知られている。
ある溶液の酸性(塩基性)の強弱は、それに溶けている酸(塩基)固有の「強度」と、溶液中のその物質の「濃度」に依存する。例えば、硫酸は物質としては強い酸であるが、もし濃度が低ければ、溶液全体の酸性は弱い。
それぞれの物質固有の(濃度に依存しない)強度の指標としては、酸解離定数 (pKa) がある。また、濃度を加味した溶液としての性質の指標として水素イオン指数(pH) 、酸度関数 (H0) および規定度がある。これらは場合によって使い分けがされる。酸性度をあらわすために希薄水溶液中では pH を用いるのが一般的であるが、濃厚溶液および非水溶媒中においては酸度関数を用いる。 また有機溶媒中での反応を議論することの多い有機化学では、反応物の水素イオンの解離の程度を pKa によって議論することが多い。
水中で電離する化合物の酸性(塩基性)の強弱は、その物質の電離度によっておおまかに分類される。電離度は電解質が溶液中で解離(電離)しているモル比をあらわす値で、電離度がほぼ 1 である酸(塩基)を強酸(強塩基)、電離度が小さいものを弱酸(弱塩基)と呼ぶ。また、純硫酸よりも強い酸性媒体を超酸ということがある。
より定量的に酸(塩基)の強さを示す場合は、解離平衡を考え、その平衡定数 Ka の対数に負号をつけた酸解離定数 pKa で表すことが多い。塩基に対しては、共役酸の pKa か、特に水中の場合では塩基解離定数 pKb = 14 − pKa が用いられる。
例えば、酢酸の pKa は 4.76 、ギ酸の pKa は 3.77 である[3]。pKa は定義から数値が小さいほど水素イオンを解離しやすい、すなわち強い酸であることを示す。したがって、同じ弱酸でもギ酸のほうが酢酸より 10 倍強いことが分かる。
また、この表記法を用いると、有機物など通常電離するとは考えない化合物に対しても酸・塩基の強度すなわちプロトン解離の指標として用いることができる。例えば、水中でのメタンの pKa は 48、ベンゼンは 43 であり、ベンゼンの水素の方がはるかに酸性が強い(すなわち、プロトンとして引き抜かれやすい)ことが分かる。[4]
塩基の強さは共役酸の pKa から判断することができる。例えば、プロトン化されたアンモニア(アンモニウム)のpKa は 9.2、トリエチルアミンは 10.75 である。すなわち、トリエチルアミンに配位したプロトンはアンモニアの場合に比べて 1 桁ほど解離しにくい。このことは、トリエチルアミンがアンモニアに比べて 10 倍強い塩基であることを示している。
酸解離定数を指標として用いることで、クライゼン縮合など、水素引き抜きが関与する反応に必要な塩基を推量することができる。
ある物質の溶液の酸・塩基を議論する際には、その物質の濃度も重要な要素となる。濃度を含めた酸・塩基の指標としては、規定度や水素イオン濃度がある。
規定度は酸・塩基の価数とモル濃度の積で表される値で、単位 N で示される。ただし、IUPAC [5]ならびに日本の計量法[6]等では使用が推奨されていない。
水素イオン濃度は、通常は水溶液中において、水素イオンの濃度を対数で示したものである。水素イオン濃度は現実的な酸・塩基の強度にあった指標であるが、単純に酸・塩基の濃度に比例するものではないため、値を知りたい場合には酸塩基指示薬などによって調べる必要がある。また、水溶液以外に適用する場合には、自己解離や水平化効果を考える必要がある。
酸と塩基を混合すると、酸塩基反応と呼ばれる化学反応が進行する。アレニウス定義による酸・塩基を混合した場合は中和反応が進行し水と塩が生じる。一方、ブレンステッドまたはルイスの定義による酸・塩基を混合した場合は、中和反応がおこらず、電子対の授受によって配位結合が形成され錯体が形成されるだけのこともある。
酸・塩基は反応のしやすさによって、定性的に「硬い」ものと「軟らかい」ものに分類されている。硬い酸は硬い塩基と、軟らかい酸は軟らかい塩基とそれぞれ反応しやすく、安定な塩を形成する。詳しくはHSAB則を参照。
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