出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/28 15:59:33」(JST)
この項目では、衝突地形について説明しています。その他の用法については「クレーター (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
クレーター (crater) とは、天体衝突などによって作られる地形である。典型的には、円形の盆地とそれを取り囲む円環状の山脈であるリムからなるが、実際にはさまざまな形態がある。主に隕石・彗星・小惑星・微惑星などの衝突でできるが、核爆発や大量の火薬などの爆発でも同様の地形ができる。
ギリシャ語で「ボウル」「皿」を意味する語が語源で、本来は成因を問わず円形の窪地を意味し、火山の噴火口や、沈降による穴も含む。英語文献では、そのような意味での使用も少なくない。なお、コップ座の学名はCrater(クラテル)で、同じ語源である。
狭義には、天体衝突で形成された地形のことである。1609年にガリレオ・ガリレイが、月面を天体望遠鏡で観察し、多数の円形の凹地を確認し、クレーターと命名したのが始まりである。成因を明確に示したいときは衝突クレーター、インパクトクレーター (impact crater) と呼ぶ。またこの意味で使う場合は、「円形の窪地」という本来の意味ではクレーターと呼べないような形状の地形(たとえば地中構造、リムの一部のみ、など)も含めることが多い。窪地が明瞭なものは隕石孔(いんせきこう)と呼ぶこともある。
クレーターにはさまざまな形があり、主に以下の要素により決定される。
クレーターの形や大きさは衝突エネルギー(と衝突される天体の性質)だけで決まり、大きさなど天体自体の性質はほとんど関係しない。エネルギーさえ同じであれば、重い天体がゆっくり衝突しても軽い天体が高速で衝突しても、組成が岩石でも氷でも、あるいは衝突でなく核爆発でも、ほぼ同じクレーターができる。入射角も影響せず、非常に浅い場合を除き常に円形のクレーターができる。クレーター研究の初期にはこのことが十分に理解されておらず、月のクレーターが全て円形であることが、それらの原因が天体衝突でないと主張する根拠にもなった。
クレーターはその直径によって異なった形態を示す[1]。
最も小型のクレーターは、断面が単純なお碗形をしており、単純クレーターと呼ばれる。単純クレーターの直径と深さには比例関係があり、岩石天体の場合は直径のおよそ0.2倍、氷天体の場合は0.1倍の深さになる。
衝突の規模が大きくなるとクレーターの形態は複雑クレーターという埋め立てられた平らな底部を持つクレーターに変化する。このサイズのクレーターは中心に中央丘を持つことが多く、中央丘クレーターとも呼ばれる。クレーターの規模が大きくなると共に中央丘はより顕著になり、次第にリング状の構造を示しはじめる。このようなクレーターは中央リングクレーターと呼ばれる。さらに、最大規模の衝突では同心円状の複数のリング構造を持った多重リングクレーターが形成される。
クレーターの形態はある一定の直径を境に単純クレーターから複雑クレーターに変化するが、その値は月の場合は15 - 20km、水星では10km、火星では5km程度である。重力が強い天体は一般的に複雑クレーターが形成されやすくなる。また、地表を構成する物質の性質によってもこの値は変化し、氷天体では同程度の重力を持つ岩石天体と比較して複雑クレーターが形成されやすい。
なお、隕石が非常に浅い角度で衝突すると、涙滴状のクレーターが形成される。地球ではアルゼンチン・コルドバ州のリオクアルトクレーター(Rio Cuarto craters)が知られており、他にも火星でも同様に形成されたと思われるクレーターOrcus Pateraが発見されている。
クレーターの成因については、様々な説が唱えられた。1787年にウィリアム・ハーシェルはクレーターは火山の火口であるという論文を発表した。それに対し、1829年にフランツ・フォン・パウラ・グルイテュイゼン(Franz von Paula Gruithisen)は、クレーターは天体の衝突によって生じたという説を発表した。
当初は火山説の方が有利であった。これは、
などが理由としてあげられる。
1960年頃から、地球のクレーターで隕石の衝突を裏付ける高圧で変成された岩石が発見されたり、アポロ計画での月面で採取された試料の分析が行われたり、より正確な衝突条件を反映した高速衝突実験が行われて、衝突説を支持する結果が多く得られた。現在では月のクレーターの大部分は衝突によって生じたものと考えられている。
上記の火山説を支持する証拠に対しては
と反論できる。
衝突説を支持する証拠としては以下のようなものがある。
月のクレーターの大部分は38億年前よりも以前に作られたものである。その頃にはまだ太陽系内に多数の微惑星が残っていたために大きな衝突が何度も繰り返された。地球の表面では大気や水によって侵食やプレートテクトニクスによる海洋底の更新があるためその痕跡が残っていないが、月では大気や水が存在しないためクレーターがそのまま保存されている。
しかし、昼と夜の大きな温度差による熱膨張・収縮の繰り返しや太陽風の衝突によってわずかずつではあるが風化は進行する。また、宇宙空間からチリが降下し少しずつ降り積もっている。そのため、新しいクレーターでは縁がはっきりしており光条が延びているが、古いクレーターでは縁がはっきりしなくなり光条が失われている。
月面には月形成直後からの多くの衝突クレーターが姿を残しており、表側だけでも直径1km以上のクレーターは30万個以上と見積もられている[2]。大きなものではヘルツシュプルングクレーターの直径536kmから、小さなものではアポロ計画で持ち帰られた月の石に残されていた顕微鏡サイズのクレーターまでと様々である。国際天文学連合(IAU)で登録している直径60メートル以上の名前が付けられているクレーターは1559個あり、直径10km以上のものでも1395個、100km以上のものでも199個ある[3]。また盆地(ベースン)や海と名付けられた部分は天体衝突によって形成されたと考えられており、月の裏側の南極エイトケン盆地は直径2500kmに及ぶ。
月のクレーターの研究から41億年前から38億年前にかけて多くの天体衝突が起きたと想定され、同様に地球でも天体衝突が多く起きているものとみなされ、地球誕生後の数億年(冥王代に相当)の地球の状態が推察されるようになった。
地球と比べて直径が27%で表面積が7%と小さい月に多くの隕石衝突クレーターが形を残していることから、地球にも月と同様の率で隕石衝突があったものと思われるが、現在確認・公認されている衝突クレーターは直径10メートルから160キロメートルのもので182個である[4]。 その内120個は露出しており、59個は埋もれている。残り3個に関しては露出状況不明と記されている。 露出していない62個の内53個はボーリング調査が実施された。
地球に落ちる隕石の大きさがそれほど大きくなくても巨大なクレーターができる。クレーター径は隕石の直径の約20倍と見積もられており、周囲5km、深さ170mの大きさのクレーターはクレーターとしてはかなりの大きさだが、それを作った隕石の大きさは直径約250mでしかない。地球上のクレーターは100個以上確認されているが、大部分は侵食で痕跡すら消えてしまっている。
地球上で見られるクレーターの中には、ニッケル、金などを多く含んだものがあり、世界最大の鉱山を形成している場合もある。この為、有望な鉱脈を発見する手がかりともなっている。
地球のクレーターの一覧(英語版)
水星は、月と同様に全表面がクレーターで覆われている。この水星の姿は1975年にアメリカの水星探査機マリナー10号によってはじめて明らかにされた。水星の英名Mercuryは、ローマ神話の芸術の神の名であるため、水星のクレーターには文学者や芸術家の名前が命名されている。特に、1350Kmもあるカロリス盆地は水星最大のクレーターである。
金星は、厚い雲に常に覆われているため、地表の可視光による観察は不可能である。しかし1990年にアメリカの金星探査機マゼランによりレーダーによる地形の観測が行われ、いくつかのクレーターが発見されている。
金星のクレーターの特徴として、直径30km以下のクレーターが少ないことが挙げられる。これは、その程度のクレーターを形成させるような小さな天体は、金星の厚い大気のために衝突前に粉砕されてしまうためと考えられている[1]。また、金星には形成年代の古いクレーターが存在せず、これは5億年前後前に金星の地表全体を塗り替えるような大規模な変動が起きたこという説の論拠となっている[5]。
火星のクレーターは、高地の多い南半球に多く低地の多い北半球には少ない。衛星のフォボス、ダイモスにもクレーターが発見されている。ダイモスのクレーターはレゴリスに埋まりかけたものが多く、比較的滑らかな表面をしている。
地上からの観測および小惑星探査機の観測によりいくつかの小惑星の鮮明な映像が撮影されており、クレーターが多数認められている。特に、(4)ベスタは直径460kmのクレーターを持つ。
また、NEAR探査機によって観測された小惑星マティルドには、天体の平均直径の半分を超えるクレーターが複数発見されている。通常ならばこのような大規模な衝突で天体は粉砕されるはずだが、平均密度の観測からマティルドの内部には多くの隙間が存在することが示唆されており、この隙間が衝突の衝撃波を緩和する役割を果たしたという説がある[6]。
氷衛星の表面にもクレーターが見られる。
ガニメデには13個のクレーターがチェーン状に繋がったクレーターがあり、シューメーカー・レヴィ第9彗星同様に木星の重力により分解した彗星が衝突したためだと考えられている。カリストには多重リング構造のヴァルハラ盆地がある。ミマス、テティスは直径の3分の1にも及ぶ大クレーターを持つ。タイタンは厚い大気と雲に覆われているため地表の可視光による観察は不可能だが、カッシーニによるレーダー観測によりいくつかクレーターが発見されている。
木星・土星・天王星・海王星は、固体表面がないため、クレーターはない。
イオは、火山活動が非常に活発で表面地形の寿命が非常に短く、クレーターはない。クレーターはあるものの非常に少ない天体として、地球、エウロパ、トリトン、タイタンがある。いずれも、イオほどではないがクレーターの寿命がかなり短い。
地球以外のクレーターの名前は、他の地名同様、国際天文学連合 (IAU) が決定する。最終決定権はIAUが持つが、提案は自由であり、発見した研究者チーム(現在はほとんどが惑星探査機で発見される)による提案が行われることが多い。惑星系命名タスクグループが外部からの提案や独自の案を選定し、惑星系命名作業部会 (WGPSN) が承認する。通常はこの段階で「命名」などと報道されるが、正式決定は3年に1度のIAU総会で、次回は2009年である。
地球以外のクレーターの正式名称には「クレーター」は付かない。たとえば、「コペルニクス」が正しく、「コペルニクスクレーター」ではない。逆に、「山脈」「平原」などの一般名詞が付かない地名は、原則としてクレーターである。
月の表の主要なクレーターの名称は、イタリアのジョヴァンニ・バッティスタ・リッチョーリとフランチェスコ・マリア・グリマルディによる。なお、それ以前に命名された数少ないクレーターとして、ミヒャエル・ラングレンが自分の名前をつけたラングレンがある。
リッチョーリらは1651年、自分達が作成した月面図でクレーターに名前をつけた。そのため、月の表にはそれより新しい人物やヨーロッパ以外の人物の名前はほとんどない(存命中の人物も使われたので同時代人は多い)。彼らが選んだ人名は、月の観測に貢献があった人物で、必然的に天文学者が多くなった。月の北部のクレーターに古い時代の人物の名を、南部のクレーターに(当時から見て)新しい時代の人物の名を命名した。
1935年から、月のクレーターの名前はIAUが決定するようになった。ただし、表の主要なクレーターはすでに名づけられており、IAUによる命名はほとんどない。なお、現行のルールでは、「国際的に著名であること、没後3年以上、政治・宗教・軍事関係者は禁止」といった条件がある。月の裏のクレーターは、1959年のルナ3号の観測に始まり、リッチョーリらより新しい時代の人物の名前を中心に命名された。
現在は月のクレーターの命名はほとんど行われない。近年IAUが名づけたクレーターには、チャレンジャー事故、コロンビア事故など宇宙開発の犠牲者の名前が付いている。
月では非常に小さいクレーターまで発見されているが、それらにまで名前が付けられることはない。名前の付いているクレーターは約1500である。約7000の小さなクレーターには、近くの大きなクレーターの名前にアルファベットをつけて識別する「サテライトフィーチャー」という命名法がとられている。
例外的に人名でないクレーターとして、アポロ計画を記念して名づけられた、月で2番目に大きいアポロがある。数キロ以下の小さなクレーターには、ファーストネーム(特定の人物を表すものではない)が付けられている。
地球のクレーターには、公式な命名制度はない。湖や盆地としてすでに名前が付いていることも多い。名前がないときは、発見者や、近くの集落の名前などが付けられる。
地球以外のクレーターの名前には、天体ごとに共通のテーマがある。ただし、最大級のクレーターは、通常のクレーターとは別のルールで盆地や海として命名されているものもある。
クレーターは隕石の衝突以外にも、隕石に匹敵するほどのエネルギーが瞬時に一箇所で発散される現象(つまり爆発)によっても生み出される。
冷戦時代は核爆発によりネバダ核実験場などに多数の核爆発によるクレーターが出来たが、そのほとんどはその後風雨により自然消滅したか、人為的に埋められた。 しかし強力な爆発が起こったものや、雨のなかなか降らない地域で行われた実験場では、いまだに何十年も前の核爆発クレーターが痕跡として残っているところもある。
右画像のクレーターは1962年7月6日、ネバダ核実験場で行われたセダン核実験によるクレーターで、その際に放出されたエネルギーは435テラジュール(TNT換算で104キロトン)。直径約390m、深さ約97.5mのクレーターが出来た。
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リンク元 | 「噴火口」 |
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