出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/08/18 10:41:16」(JST)
オシロスコープ (Oscilloscope) は、1つ、又はそれ以上の電位差を2次元のグラフとして画面上に表示するオシログラフである。 通常、画面表示の水平軸は時間を表し、周期的な信号の表示に適するようになっている。垂直軸は、電圧を表すのが普通である。
最も古くからあるタイプのオシロスコープで、ブラウン管(陰極線管)ブラウン管オシログラフ(陰極線管オシログラフ)とも呼ぶ。この機体は、ブラウン管、垂直増幅器、時間軸発生器、水平増幅器、電源から構成される。画面表示は、スクリーンを左から右に周期的に掃引(そういん)される輝点によってなされる。 このタイプは、現在ではデジタルタイプと区別する意味でアナログオシロスコープと呼ばれる。
ブラウン管オシロスコープが現在の形となる前、ブラウン管はすでに測定器として使われていた。ブラウン管は白黒テレビ受像機のものと同じように真空のガラス容器で作られ、平らな面には蛍光物質が塗られている。近くで見る測定器なので、スクリーンは直径20cm程度と、テレビ受像機よりかなり小さい。
ブラウン管の首の部分は電子銃になっていて、加熱した金属板の前に網(格子)がある構造になっている。加熱した板(陰極)にマイナス、格子(または陽極)にプラスの電荷が掛かるよう、数百ボルトの電圧が掛けられる。電界が陰極から電子を流れ出させ、弾丸のように加速して陽極を通過し、スクリーンに向かう。蛍光体は電子ビームが当たると発光し、スクリーン上に輝点を生成する。電源投入直後のブラウン管は、スクリーン中央に1つ輝点があるのみだが、この輝点は静電的に、または磁気的に動かすことができる。オシロスコープのブラウン管では静電偏向を使っている。
電子銃とスクリーンの間には、偏向板と呼ばれる相対する2組の金属板がある。垂直増幅器は電極の1組に電位差を発生させ、電子ビームが通過する位置に垂直の電界を与える。電界が0であれば、ビームは影響を受けない。電界が正であればビームは上向きに偏向され、負であれば下向きに偏向される。水平増幅器はもう一方の組の偏向板に同様の働きをし、ビームを左や右に動かす。
この偏向方式は、静電偏向とよばれ、テレビのブラウン管に使われる電磁偏向とは異なっている。静電偏向は安価で軽いが、小さな管にしか向いていない。なお学校用のオシロスコープとして、白黒テレビ用ブラウン管を流用した電磁偏向タイプのものがあった。画面は大きいが、電磁偏向は高い周波数では利用できないため、性能は非常に低い。
ブラウン管のトレードオフとして、以下のような問題がある。高い周波数の信号を観察するには、高速で輝点を掃引する必要がある。しかし高速で掃引された輝点は暗くなるため、明るく表示するに高電圧で電子を加速する必要がある(加速電圧と呼ばれ、性能指標の1つである)。これによって偏向がかかりにくくなるため、ブラウン管を長くして見かけの変位を大きくする必要がある。このため、テレビと比較すると、オシロスコープのブラウン管は径に対して長さがとても長い。机の上には置くスペースがないため、床に縦置きすることも多い(電源コードの巻き取りを兼ねた脚がそなえられている)。
時間軸発生器は鋸歯状波を生成する電子回路である。これは、ひとつからもうひとつの値に繰り返し変化する電圧で、時間に対してリニアである。2つ目の値になったら、素早く最初の値に戻り、再び2つ目の値に近づいてゆく。時間軸の電圧は水平増幅器を駆動する。この働きで、電子ビームを一定の速度で左から右にスクリーン状を掃引し、それから次の掃引の始まりに間に合うようにビームを左に素早く戻す。時間軸発生器は、信号の期間に合わせて掃引時間を調節できるようになっている。
一方、垂直増幅器は、測定対象から取られた外部電圧(垂直入力)によって駆動される。この増幅器は、MΩまたはGΩ台のとても高い入力インピーダンスで、信号源からはごくわずかな電流しか取り出さない。この増幅器は、垂直入力に比例する電圧で、垂直偏向板を駆動する。
垂直増幅器の利得は入力電圧の振幅に合わせて調整できる。正の入力電圧は電子ビームを上向きに曲げ、負の電圧は下向きに曲げ、その結果輝点の垂直偏向は入力値を表すようになる。このシステムの応答は、イナーシャによって指針の反応を悪くしているマルチメータのような機械的な測定器よりずっと速い。
これらのすべての構成要素が働くことによって、電圧対時間のグラフを表すような光の軌跡をスクリーンに描く。電圧は垂直軸で、時間は水平軸である。
マルチチャネルのオシロスコープは、複数の電子銃を備えているわけではない。一時にただ1つの輝点しか表示できないので、掃引毎に1つのチャネルからもう1つのチャネルに切り替えたり(ALTモード)、1回の掃引の間に何度も繰り返し切り替えたり(CHOPモード)している。
垂直増幅器と時間軸制御は、与えられた電位差がスクリーン状の垂直距離に相当するように、また与えられた時間間隔が水平距離に相当するように校正される。
オシロスコープの電源は重要な構成要素である。ブラウン管の陰極ヒーターの電源として、また垂直および水平増幅器の電源として、低い電圧出力を備える。静電偏向板を駆動するのに高い電圧が必要とされる。これらの電圧は、非常に安定していることが求められる。変動があると、軌跡の位置や明るさに誤差を生じる原因になる。
新しいアナログオシロスコープは、標準設計にデジタル処理が加わってきている。ブラウン管や、垂直・水平増幅器の基本的な構成に変化はないが、電子ビームはデジタル回路で制御され、アナログ波形に画像や文字を加えることができるようになった。このシステムは、次のような拡張機能を含んでいる:
アナログオシロスコープには、「ストレージ(蓄積)」と呼ばれる拡張機能を備えているものがあった。蓄積管と呼ばれるCRTを用いて、通常のオシロスコープでは1秒以内に減衰するトレースパターンを、数分以上スクリーンに残すことができる。一般的なオシロスコープの動作と蓄積動作を切り替えることができる(蓄積されたトレースの消去も当然可能)。
アナログストレージオシロスコープとは異なるが、画面にフードを取り付け、シャッターを開放した銀塩カメラを使うことで波形を写真に撮ることができる。1回だけの波形であってもフィルムに焼き付けて記録することができる。このために、オシロスコープには暗闇でも画面の目盛りが見えるよう、照明機能が用意されている。また、ソニーのデジタルマビカにはオシロスコープを撮影するためのオプションパーツが存在した。
アナログ・オシロスコープに代わって、デジタル・オシロスコープが現在ではオシロスコープの主流になっている。 古くはアナログ・オシロスコープにアナログ-デジタル変換回路(ADC)でデジタル化したデータをメモリに蓄積し、それを表示する機能を装備したものをこう呼んだが、現在では入力信号をデジタル変換して処理し、表示するものがほとんどである。表示部に関しても、LCDが主流になっている。 この種のデジタル・オシロスコープは蓄積機能を持つことが標準化しているので、一般的には「デジタル・ストレージ・オシロスコープ」(DSO)とも呼ばれる。波形を拡大するだけでなく、周波数の分布を表示するFFTモード等を備える物が多い。
アナログ・ストレージ・オシロスコープで使われていた信頼性の低いストレージ手段をデジタルメモリで置き換え、データをメモリの許す限り好きなだけ保持できるようになった。高速なADCやDSPの登場によって、アナログ・オシロスコープよりも低価格で遥かに広帯域な信号測定や複雑な信号処理も行えるようになった。
アナログ方式では不可能であった、単発現象にトリガをかけ波形を止めたり、トリガ条件の前におこった現象を確認するといったこともできる。初期のDSOにはブラウン管が用いられたが、現在ではLCDのフラットパネルが好まれ、カラーLCD表示のものも普通になっている。データ列は、処理や保管のためにLANやWANで転送することもできる製品がある。
DSOに内蔵された信号解析ソフトは、たくさんの有用な時間軸関係の機能、例えば立ち上がり時間・パルス幅・振幅や、周波数スペクトル、ヒストグラムや統計、残像図、などを持ち、多くのパラメータを、電気通信やディスクドライブ解析、パワーエレクトロニクスといった特定分野の技術者に対しわかりやすく表示する。
ブラウン管は外部の磁気の影響を受けるため、高圧電線の近くなどでは画面に誤差が出てしまう[1]が、LCD表示のものではこの問題は発生しない。バッテリー駆動が可能なものは、LCDタイプが多い。
デジタル方式のオシロスコープにも弱点はあり、エイリアシングやデッドタイムはアナログ方式には存在しないデジタル方式特有の問題である。エイリアシングはサンプリング周波数の低下に伴う誤表示で、測定対象信号に対しデータポイントが荒すぎる場合に起きる。デッドタイムは、波形をデータ化し取り込んだ後、次の波形を取り込むことができるようになるまでの時間のことで、この間、デジタル・オシロスコープはたとえトリガ条件に合う信号が入力されても見逃してしまう[2][3]。また同様の理由によって、ビデオ信号の表示などに代表される美しい濃淡表現はアナログ方式には遠く及ばない。デジタル方式では搭載する高速メモリの容量に限界があるために、時間軸設定を変えると多くの場合、サンプル・レートも変更されてしまう[4][出典 1]。
上記デジタル・オシロスコープから、データ取り込み(サンプリング)・アナログ-デジタル変換・蓄積を行う部分のみを残した構成となっており、表示部を持たない。USBなどでPCに接続し、表示・波形解析などはPC上で動作するソフトウェアに任せる。 画面を持たないコンパクトな形状なので、ノートパソコンとともに使うことで携帯性に優れた計測システムとなる。測定データはパソコン内に保存されるので、データ解析などの作業にそのまま使える利点があるが、電源を入れてすぐ使えるような直感的操作性は劣る。
オシロスコープは、電気信号のかたち(波形)を表示するための計測器である。縦軸が電圧、横軸が時間で、高速な電気信号の時間的変化をグラフとして表示する。
もっとも古典的な用途は、電気機器の故障解析である。ラジオを例に取ると、回路図を見ながら、混合器、発振器、増幅器といった回路間の接続を見ていく。
続いて、オシロスコープのグラウンド(接地端子)を回路のグラウンドにつなぎ、プローブを構成回路の列の中の2つの回路間につなぐ。もし予期された信号が現れなければ、前段に故障があるとわかる。ほとんどの故障は一つの部分によって起こるので、それぞれの測定で機器を構成する複数の部分の片側は動作していて、おそらく故障の原因でないことが確認できる。
不良箇所が見つかったら、欠陥箇所をさらに探ることで、熟練した技術者は大抵どの部品が壊れているかがわかる。技術者が部品を交換すれば、修理は完了するか 少なくともその次の不具合と分離することができる。
別の使用法は、新しい回路のチェックである。新しく設計された回路は、不適切な電圧レベルや、ノイズ、設計ミスなどによって、しばしば誤動作する。デジタル回路は通常クロックによって動作するので、デジタル回路のチェックには二現象オシロスコープが必要である。ストレージスコープは、欠陥のある操作によって起こる、希な電気的現象を捕らえるのに有効である。
もう一つの使用法は、電子機器をプログラムするソフトウェア技術者のためのものである。オシロスコープは、ソフトウェアがきちんと動作しているかを確認する唯一の手段である場合が多い。
これ以外には磁性媒体を使用する装置の磁気ヘッドの位置決め、信号レベルの均一化調整、ノイズの検出、構内ネットワークにおける外部ノイズの検出など、波形を観測することにより多くの事象をリアルタイムで観察できるため、応用範囲は工場のみならず、非常に広範囲に渡る。
一般的なオシロスコープは小さな画面を持つ四角い箱形で、フロントパネルには多くの入力端子やつまみ、ボタンがある。画面の格子目盛りのそれぞれの正方形はdivision(区分)と呼ばれる。測定する信号はBNCやN型コネクタのような同軸コネクタにより、入力端子の1つに供給される。もし信号源が同軸コネクタを持っていれば、単純に同軸ケーブルで接続できる。そうでなければ、オシロスコープに付属するプローブと呼ばれる専用のケーブルを使用する。
最も単純なモードでは、オシロスコープはトレース(軌跡)と呼ばれる水平線を画面の左から右に繰り返し引く。設定項目時間軸調整 (timebase control) は、線を引く時間を設定する。この設定では、divisionあたりの秒数が校正されている。もし、入力電圧が0から離れていたら、トレースはそれによって上側または下側に外れる。別の設定項目垂直軸調整 (vertical control) が、垂直方向の変位量を設定する。この設定では、divisionあたりの電圧が校正されている。この結果、時間軸に対する電圧のグラフが得られる。
もし信号が周期的であれば、時間軸を入力信号の周波数に合わせて設定すればほぼ固定したトレースが得られる。たとえば、入力が50Hzの正弦波の場合、周期は20msであり、水平スイープ間の時間が20msになるように時間軸が調整されていなければならない。このモードは連続スイープと呼ばれる。不幸にもオシロスコープの時間軸が完全に正確ではなく、入力信号の周波数が完全に固定でなければ、トレースは浮動し、測定することが困難になる。
より固定したトレースが得られるように、オシロスコープにはトリガと呼ばれる機能がある。この機能では、画面の右端に行った後、左端に戻って特定のイベントが発生するまで待機し、次のトレースを描画する。この効果で、入力信号に合わせて時間軸の同期を取り直し、トレースの水平位置変動を防止する。トリガ回路は、正弦波や矩形波のような周期波形だけでなく、単発パルスのような非周期信号にも対応する。この機能を有している物はシンクロスコープとも呼ばれる。
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