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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2020/02/25 08:31:06」(JST)
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大風子油(だいふうしゆ)(英語:Chaulmoogra oil、Hydnocarpus oil)。アカリア科(旧イイギリ科)のガマハダダイフウシ(英語:Chaulmoogra, 学名: Hydnocarpus wightianus)の種子から作った油脂。古くからハンセン病の治療に使われたが、グルコスルホンナトリウムなどスルフォン剤系のハンセン病に対する有効性が発見されてから、使われなくなった。
歴史、成分と有効性
大風子油(だいふうしゆ)は、イイギリ科Hydnocarpus属(APG植物分類体系ではアカリア科に移動)に属する何種類かの植物の種子である大風子 (Hydnocarpus anthelminticus ダイフウシ(ノキ)) の種皮を除いてから圧搾して得た脂肪油である。これは,常温では半固体状( semi-solid )で強い匂はない。ガスクロマトグラフィーを行うと次の物質を示す。不飽和環状脂肪酸,すなわちヒドノカルピン酸 (英語:hydnocarpic acid)、チャウルムーグリン酸(英語:chaulmoogric acid)、ゴーリック酸(英語:gorlic acid)と、少量のパルミチン酸などの混合物のグリセリンエステルである。
搾油直後には白色の軟膏様の性状を示し無味無臭であるが、次第に黄色に変化して特有のにおいと焼きつくような味を生じる。もともとは古代より東南アジアやインドの民間療法として行われていた治療法であった。中国には明の時代に伝わり1578年、本草綱目にハンセン病の治療薬として漢方の処方が記載されている。日本でも江戸時代頃から用いられた。19世紀末にはヨーロッパでも使用されるようになった。1920年代にオーストラリアの植物学者ヨゼフ・F・ロックにより再発見され、全世界で一般的に使用されるようになった。
1917年にはイギリスの医師・ロジャース卿によって大風子油からジノカルピン (Gynocarpin) 脂肪酸を製剤化し、内服薬・注射薬が作られた。その後、1920年にヒドロカルプス酸ナトリウム製剤(内服薬・注射薬)が作られた。これらは、「アレポール」(英語:alepol)と呼ばれイギリスの植民地であるインド・ビルマを中心に使われた。その後、種々の改良が行われた。アメリカ薬局方には、内服療法では消化器障害の副作用を生じるため注射薬として、収載された。
大風子油の注射の欠点は注射部位にしばしば化膿や結節や瘢痕を残すことがあった。効果が乏しく無効という意見も多かったが大風子油で治療をしない時に比べれば有効であるとした報告があることと、他に有効な薬剤が存在しなかったため、大風子油による治療は多くの国で行われた。その後、1943年のグルコスルホンナトリウムが有効であるという報告以降は、大風子油による治療は急速に行われなくなった。
日本における研究
日本においては江戸時代以降本草綱目などに書かれていたので、使用されていた。エルヴィン・フォン・ベルツ、土肥慶蔵、遠山郁三、中條資俊などはある程度の効果を認めていた。1912年、光田健輔は結節らいを放置すれば75パーセントは増悪するが、大風子油100cc以上注射すれば88パーセントは結節を生じないと文献に書いた。[1]また1932年に彼はストラスブールでの第3回国際らい学会で再発率が高いことを発表している。[2]上川豊は「大風子油の癩に対する治療的有効作用に就て」にて1930年京都大学で学位を与えられた[3]。彼は大風子油注射は網状織内被細胞系あるいはリンパ系統を刺激して局所的ないし全身的抗体産生機能を旺盛ならしめるとしている。結論としてらいの初期は臨床的治療状態を軽減するも、末期重症例では快癒状態に導くのは不可能とある。[4]堺の岡村平兵衛は家が油製造業者であったが、1892年以来、良質の大風子油を製造し、日本国内では、岡村の大風子油として有名であった。[5]東京にある、国立ハンセン病資料館には、以前使用されていた、大風子油を熱で融解する巨大な釜が展示されている。
文献
- 谷村忠保・櫻根太郎 『日本皮膚科全書 癩 臨床方面 癩の治療学 大風子療法』 1954年 金原出版株式会社
- 光田健輔ら 癩病に対する大風子油の価値 皮膚科泌尿器科雑誌 1912年 12巻 12号
- 犀川一夫 『ハンセン病政策の変遷』1999年 沖縄県ハンセン病予防協会
- 『仁術を全うせし人 上川豊博士小伝』(1970年、東北新生園)
- 佐久間温巳 『治らい剤「大風子油」と十九世瑞碩岡村平兵衛』 1986年 日本医事新報 3239号
脚注
- ^ 光田[1912:皮膚科泌尿器科雑誌12,12]
- ^ 犀川[1999:64]
- ^ 博士論文書誌データベース
- ^ 上川[第13回日本らい学会特別講演 於仙台市]
- ^ 治らい剤「大風子油」と十九世瑞碩岡村平兵衛(1986) 佐久間温巳、日本医事新報 3239号
UpToDate Contents
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Japanese Journal
- 検証・ハンセン病隔離の歴史 第2部(第14回)化学療法以前の治療に貢献した堺・岡村平兵衛の大風子油
- らい患者に見られた皮膚ないしは皮下の石灰沈着について:第1報 その臨床的所見
- 前田 光美,成田 稔
- 日本らい学会雑誌 62(3), 89-98, 1993
- A roentgenographic examination was made for the limbs of leprosy patients with calcinosis in whom atrophic cutaneous sclerosis and subcutaneous induration or infiltration were observed. The observatio …
- NAID 130003920776
- 二十日鼠の静脈内と皮下に入れられた大風子油乳剤粒子が腺組細胞連合と網内系の細胞内に蓄積されることの観察〔独文〕
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- ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 - 大風子油の用語解説 - ダイフウシの種子を圧搾してとるバター状油。黄色ないし黄褐色の特異臭をもち,融点 22~39 。古来ハンセン病の特効薬として用いられてきたが,プロミンによって取って代られた。
- 大風子油(だいふうしゆ)とは。意味や解説、類語。ダイフウシの種子から得る油。黄色または黄褐色で、特異なにおいを放つ。かつてはハンセン病の治療に用いられた。 - goo国語辞書は30万語以上を収録。政治・経済・医学・ITなど、最新用語の追加も定期的に行っています。
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