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この項目では、感染症について説明しています。病原体については「狂犬病ウイルス」をご覧ください。 |
狂犬病(きょうけんびょう、英語: rabies)は、ラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルス (Rabies virus) を病原体とするウイルス性の人獣共通感染症である。
毎年世界中で約5万人の死者を出している[1][2]。水などを恐れるようになる特徴的な症状があるため、恐水病または恐水症 (hydrophobia) と呼ばれることもある(実際は水だけに限らず、音や風も水と同様に感覚器に刺激を与えて痙攣等を起こす)。
日本では、感染症法に基づく四類感染症に指定されており(感染症法6条5項5号参照)、イヌなどの狂犬病については狂犬病予防法の適用を受け(狂犬病予防法2条参照)、また、ウシやウマなどの狂犬病については家畜伝染病として家畜伝染病予防法の適用を受ける(家畜伝染病予防法2条及び家畜伝染病予防法施行令1条参照)。
日本では咬傷事故を起こした動物は狂犬病感染の有無を確認するため、捕獲後2週間の係留観察が義務付けられている。係留観察中の動物が発症した場合は直ちに殺処分し、感染動物の脳組織から蛍光抗体法でウイルス抗原の検出を行う[3]。
リッサウイルスは、遺伝子解析、血清型の分析から、下記の7つの遺伝子型 (Genotype) に分類される[4][5]。
Genotype 1(遺伝子型1型)が従来知られていた狂犬病ウイルスで、Genotype 2(遺伝子型2型)のラゴスコウモリウイルス以外のリッサウイルスは、ヒトに狂犬病様の脳炎を起こすことが知られている。
一般には感染した動物の咬み傷などから唾液と共にウイルスが伝染する場合が多く、傷口や目・唇など粘膜部を舐められた場合も危険性が高い。狂犬病ウイルスはヒトを含む全ての哺乳類に感染し、人への感染源のほとんどがイヌであるが、イヌ以外の野生動物も感染源となっている。
通常、ヒトからヒトへ感染することはないが、角膜移植や臓器移植によるレシピエント(移植患者)への感染例がある[6]。
潜伏期間は咬傷の部位によって大きく異なる。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは神経系を介して脳神経組織に到達し発病するがその感染の速さは日に数ミリから数十ミリと言われている。したがって顔を噛まれるよりも足先を噛まれる方が咬傷後の処置の日数を稼ぐことが可能となる。脳組織に近い傷ほど潜伏期間は短く、2週間程度。遠位部では数か月以上、2年という記録もある[7]。
前駆期には風邪に似た症状のほか、咬傷部位にかゆみ(掻痒感)、熱感などがみられる。急性期には不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、恐風症(風の動きに過敏に反応し避けるような仕草を示す症状)、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れる。また、腱反射、瞳孔反射の亢進(日光に過敏に反応するため、これを避けるようになる)もみられる。その2日から7日後には脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡する。
なお、典型的な恐水症状や脳炎症状がなく、最初から麻痺状態に移行する場合もある。その場合、ウイルス性脳炎やギラン・バレー症候群などの神経疾患との鑑別に苦慮するなど診断が困難を極める[8]。
恐水症状は、喉が渇いていても水に恐怖を感じてしまう為、苦しむ動物や人間は多い。
診断法は「蛍光抗体 (FA) 法」によるウイルス抗原の検出、「RT‐PCR法」によるウイルス遺伝子の検出、ウイルス分離、血清反応、ELISA による抗体価の測定などにより行われるが、感染初期の生前診断は困難。
試験的な治療法の成功症例を除くと、ワクチン接種を受けずに発症した場合はほとんど確実に死に至り[9]、確立した治療法はない。2004年10月以前までで記録に残っている生存者はわずか5人のみで、いずれも発症する前にワクチン接種を受けていた。2004年10月、アメリカ合衆国ウィスコンシン州において15歳の少女が狂犬病の発症後に回復した症例がある[10]。これは発症後に回復した6番目の症例であり、ワクチン接種無しで回復した最初の生存例でもある[11]。この際に行われた治療はミルウォーキー・プロトコル (Milwaukee protocol) と呼ばれ、実際に数人が生存しており、治療法として期待されているが、回復に至らず死亡した事例も多く(これを用いても生存率は1割程である)、また生存したとしても麻痺などの後遺症が残るのが現状であり、研究途上である。近年ではこの治療法により10歳のアメリカ人少女、また2008年10月、ブラジル・ペルナンブーコ州の16歳の少年が歩行困難と発語困難により依然として治療を続けているものの回復に至った事例がある。
「最も致死率が高い病気」として後天性免疫不全症候群(エイズ)と共に、ギネス・ワールド・レコーズに記録されている[要出典]。
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上述の通り、発症後の有効な治療法は存在しない。ただし、感染前(曝露前)であれば、ワクチン接種によって予防が可能である。これはヒト以外の哺乳類でも同様であり、そのため日本では狂犬病予防法によって、飼い犬の市町村への登録及び毎年1回の狂犬病ワクチンの予防接種が義務付けられている。
発生国への渡航前のワクチン接種、及び発病前(海外で感染の疑いがある動物に咬まれて帰国した際など)の治療としておよび抗ウイルス抗体(抗狂犬病免疫グロブリン製剤)の投与により発症阻止が図られる。ただし、日本では現在、抗狂犬病免疫グロブリン製剤が承認されていないので、入手はほとんど不可能である。アメリカ疾病予防管理センターでは狂犬病が発生している地域へ渡航する人のうち、獣医師、野生動物保護の従事者、獣医学科の学生、適切な医療をすぐに受けることが難しい地域を訪れる者については狂犬病ワクチンの暴露前(事前)接種を勧めているが、その他の旅行者、長期滞在者については狂犬病ワクチンの接種を勧めていない。最良の予防法は海外旅行へ行った際には日本と同じ感覚で現地の動物に手を出さないようにすることである。
研究目的における病原体の取り扱いは、バイオセーフティーレベル2あるいは3レベルの実験室が要求され、万一に備えて研究者はワクチンを接種する配慮が必要である。
発症すればほぼ確実に死亡するので感染の可能性がある場合には必ず次のような対処が必要である。
咬傷を受けたらまず傷口を石鹸水でよく洗い、消毒液やエタノールで消毒すること。狂犬病ウイルスは弱いウイルスなのでこれで大半は死滅する。そしてすぐにワクチン接種を開始する(曝露後接種 Post-exposure immunization)。
曝露後ワクチン接種での治療日程は、曝露前ワクチン接種(過去の旅行前などの狂犬病予防注射)を行っていない場合と、行っている場合とに分けられる。
行っていない場合、欧米製のワクチンでは5回接種(当日及び3、7、14、28日後)を行うが、日本製のワクチンでは6回接種(当日及び3、7、14、30、90日後)を行う。
事前にワクチン接種を行っている場合、米国では曝露前ワクチン接種の時期と関係なく、曝露後ワクチン接種は2回(当日、3日後)。日本では、曝露前ワクチン接種が1年以内であれば2回(当日、3日後)、1 - 5年前であれば3回(当日、3、7日後)、5年以上前であれば曝露前ワクチン接種を行わなかったときと同様に6回(欧米製のワクチンの場合は5回)とされている。
また、WHOでは初回接種時に狂犬病免疫グロブリンを併用することを推奨しているが、日本国内では未認可のため入手不可能で外国でも一部地域を除き入手困難な場合が多い。いずれにしても大事なことは、噛まれたらまず直ちに洗浄し消毒液で消毒し、速やかに医療機関に相談することである。
狂犬病にかかった可能性のある場合、医療もしくは獣医療の専門機関に「いつ、どこで、どの個体に咬まれたか」を伝える。ウイルスは唾液腺や神経で増殖するが、唾液へのウイルス排出は潜伏期を経て、発病する3 - 5日前とされている(過去に一例だけ13日前から唾液にウイルス排出した記録もある)。
一見狂犬病でないような動物に咬まれても狂犬病にかかるリスクは存在するため、咬まれた地域(旅行した国、場所)と咬まれてからどれほど日数がたっているのか、また咬んだ個体を繋留して一週間経過観察し狂犬病を発症するか否かを確かめる必要性がある。
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1885年、ルイ・パスツールによって弱毒狂犬病ワクチンが開発された[12]。これは狂犬病を発病したウサギの脊髄を摘出し石炭酸に浸してウイルスを不活化するというものであった。パスツールは狂犬病の予防ワクチンだけでなく、すでに感染した患者にワクチンを投与することで早期なら発病の防止が可能であることも発見している。
現在、狂犬病のワクチンとしては動物の脳を用いて狂犬病ウイルスを培養して作成した動物脳由来ワクチンと培養組織を用いて狂犬病ウイルスを培養して作成した組織培養ワクチン (PCECV) とがある。いずれのワクチンも狂犬病ウイルスを不活化して作製した不活化ワクチンである。
動物脳由来ワクチンとしてはヤギ脳由来のセンプル型のワクチンと乳のみマウス脳由来のフェンザリダ型のワクチンがある。一方、組織培養ワクチンはドイツと日本で製造されているニワトリ胚細胞のワクチン (PCEC: purified chick embryo cell vaccine) のほかに、フランスのヒト二倍体細胞ワクチン、VERO細胞ワクチン (PVRV: purified Vero cell rabies vaccine) がある。
流行地への立ち入りを予定する者は基礎免疫をつけておくのが望ましいが、任意接種であり自己負担となる。狂犬病ワクチンはLEP-Flury株をさらに弱毒化したHEP-Flury株が用いられる。曝露前接種は初回接種を0日とすると0-28-180の3回接種となる。抗体陽転は2回接種後の2週後であるため初回接種から6週目となる。しかし、一部の報告によると3ヶ月を経過してから抗体価の減弱化がはじまるともある。3回接種完了で2年間有効とされているWHOの推奨方法とは異なる、日本独自の接種間隔である。
欧米の狂犬病ワクチンは前記のように多種多様であるが、組織培養ワクチンが一般的に使用される。曝露前接種は、初回接種を0日とすると、0-7-28の3回接種となる。緊急接種の場合、28日目の代わりに21日目となる。抗体陽転はいずれの場合も初回接種から4週目となる。また、乳幼児では初回接種後2週間後に抗体陽転したと製造メーカーは発表している。いずれにせよ、緊急接種を行うと、21日目に完了するため、渡航前には有用と思われる。2年間有効である。曝露後接種も国産は5回目あたりで抗体陽転が認められたところ、海外の組織培養ワクチンはおよそ14日目に抗体価がWHOの安全基準である0.5 IU/mlを上回っている。
なお、WHOの推奨する曝露前接種方法はこの0、7、28、(21) である。日本製品でこの方法を適用することは未承認ワクチンを使用するのと同等である。欧米の狂犬病ワクチンは日本未承認であるため、個人輸入を取り扱っている医療機関にて申し込むことにより接種可能である。
感染の機会があった場合、その発症を予防するためにもワクチンが使用される。
WHOでは0日、3日、7日、14日、28日(必要に応じて90日)の5回(6回)、各1ml筋肉注射を推奨している。その他、0日に2ml(1ml、両側)、7日に1ml、14日に1mlの筋肉注射で接種する方法(エッセン法または変則的なザグレブ法、2-1-1法)がある。また、0.1mlという少量を4回、皮内に接種する方式(タイ赤十字方式、2-2-2-0-2法)もある。
欧米の狂犬病ワクチンは海外でも非常に高価であるため、WHOのスタンダード方式は受け入れられていない。そのためザグレブ法やタイ赤十字方式も推奨されている。
南極を除く全ての大陸で感染が確認されている。流行地域はアジア、南米、アフリカで、全世界では毎年50,000人以上が死亡している。
日本の厚生労働大臣が指定する狂犬病清浄地域は、日本、英国(グレート・ブリテン島及び北アイルランドに限る)・アイルランド・アイスランド・ノルウェー・スウェーデン・ハワイ・グァム・フィジー・オーストラリア・ニュージーランドと非常に少ない[13]。なお、フィジーについては、2011年現在、狂犬病は発生していないものの、輸入検疫制度が十分でないとの懸念がある[要出典]。
アメリカ疾病予防管理センターにより土着の例が報告されなかった国や地域は、 カーボベルデ、リビア、モーリシャス、レユニオン、サントメ・プリンシペ、セイシェル、バミューダ、サンピエール・ミクロン島、アンティグア・バーブーダ、アルバ、バハマ、バルバドス、ケイマン諸島、ドミニカ、グアドループ、ジャマイカ、マルティニーク、モントセラト、オランダ領アンティル、セントクリストファー(セントクリストファー)・ネーヴィス、セントルシア、セント・マーチン、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、タークス・カイコス諸島、バージン諸島、香港、日本、クウェート、レバノン、マレーシア(サバ)、カタール、シンガポール、アラブ首長国連邦、オーストリア、ベルギー、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、ジブラルタル、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、マン島、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン(セウタとメリリャを除く)、スウェーデン、スイス、イギリス、オーストラリア、クック諸島、フィジー、仏領ポリネシア、グアム、ハワイ、キリバス、ミクロネシア、ニューカレドニア、ニュージーランド、北マリアナ諸島、パラオ、パプアニューギニア、サモア、バヌアツ、となっている[14]。
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インドは約30,000人[15]と世界で最も狂犬病による死者が多く、ワクチンによる治療を受ける人も年間で100万人に上る。インド国内での動物咬傷事故の90%以上はイヌ(その大部分は野犬)によるもので、主なウイルス保有宿主もイヌだが、サル、ウシ、ウマ、ネコ、ヤギ、ネズミ、ウサギなどからもウイルスが分離されている。
2013年、台湾中部の野生のシナイタチアナグマが狂犬病に感染していたことを確認した[16][17]。
中国では、ペット、食用犬などで1億5千万頭の犬が飼われているがその殆どが未登録犬で[18]、さらにその数倍の野犬が生息している。近年の経済発展に伴いペットを飼う人が増えて飼犬も増加したが、狂犬病予防接種の実施率は0.5%と防疫効果がまったく期待できない低水準であり、また室内犬を除いては放し飼いが一般的である。それに伴って毎年約3000名(中国衛生部によると2006年は3207名)が狂犬病により死亡するなど、特に都市部での狂犬病被害が激増しており、2005年には国内伝染病による死者数の20%を占めた[19]。
中国政府は2008年の北京オリンピックに向けて撲滅に躍起になっていた経緯があり、2006年7月、雲南省牟定県では蔓延する狂犬病の対策として予防接種済み犬を含む全ての愛玩・食用・野生犬、約50,000頭を殺処分をする政策を取った(軍用犬・警察犬を除く)[20]。処分の補償金はわずか5元で、処分の方法も殆どが撲殺であり、飼い主の目の前で処分したり飼い主自ら処分したりするよう命令し、従わない場合は処罰するなど強権的な措置に全世界から非難が殺到した。
中国衛生部の統計によれば、2006年9月の1か月間で、中国では319名が狂犬病を発病して死亡した。同年1月から9月にかけての死者も2200名を超え、5月から9月にかけては中国における感染症死亡者数の第1位となって大流行した。2007年上半期(1 - 6月)の統計でも発症者が1395名、死者が1136名と状況は変わっていない。
また、2008年の四川大地震によって多くの飼犬が野犬化しており、噛傷被害を受けた被災者も増加しているが、ワクチンが無く、傷を洗って消毒するだけで帰している状況のために今後狂犬病の被害が拡大する可能性があるとの見方もあり[21]、青川県では地震によって野犬化した犬の殺処分を行うことが決定された[22]。
2008年1月、すべての犬に狂犬病予防接種を義務づけた。2008年の狂犬病による死者は2478名[23]。
人への感染は年間数名だが、スカンク、コウモリ、アライグマ、キツネなどの野生動物で毎年6,000 - 8,000件、ネコで200 - 300件、イヌで20 - 30件の狂犬病報告がある。ニューヨーク市内では毎年数十匹の感染動物が確認されており[24]、2006年8月には人を噛んだネコから狂犬病ウイルスが検出されたとしてニューヨーク市保健精神衛生局が注意喚起情報[25]を発した。
狂犬病で亡くなった著名人に、アメリカ合衆国の女優だったエイダ・クレア(1874年、39歳で逝去)がいる。
伝播動物としてはイヌやコウモリが多い。チスイコウモリからウシやウマなど家畜への感染が多く、その経済的損失が問題となっている。
人の死亡例は年間数十名。経口ワクチン入りの餌で野生のアカギツネからの伝播は減少したが、その他の野生動物の感染は増えている。
イヌ科やマングース科の構成種からの感染例が報告されている。
記録が残る最初の流行は、江戸時代の1732年(享保17年)に長崎で発生した狂犬病が九州、山陽道、東海道、本州東部、東北と日本全国に伝播していったことによる。東北最北端の下北半島まで狂犬病が到着したのが1761年(宝暦11年)のことである[26]。
国内で感染する可能性がなくなったわけではない。接種しなかった場合は狂犬病予防法により罰金刑などが科される可能性がある(後述)。
現在の日本においては狂犬病予防法により、予防、感染発生時の対処、蔓延防止の手段などが定められている。
狂犬病予防法はイヌに適用されるほか(狂犬病予防法2条1項1号)、狂犬病を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定める動物にも適用される(狂犬病予防法2条1項2号)。政令ではネコ、アライグマ、キツネ、スカンクにも狂犬病予防法を適用することとしている(狂犬病予防法施行令1条)。
発病後の治療法が存在しない以上、狂犬病は感染の予防そのものが最も重要な病気である。そのため、日本国内でイヌ等への感染が獣医師によって確認された場合には狂犬病予防法第8条、9条により、患畜の速やかな届出と隔離が義務づけられている。
隔離されたイヌ等は狂犬病予防法第11条により狂犬病予防員(首長が任命した獣医師)の許可を受けなければ殺してはならないが、狂暴化するなど人命への危険や隔離が困難であるなど緊急やむを得ないときは殺すことを妨げないとされている。また、まん延を防止するため予防員による発生区域での一斉検診および予防接種(同13条)が行われたり、イヌ等について移動制限がかけられたりする場合もある(同15条)。これら狂犬病の撲滅およびまん延の防止にかかわる条項違反については罰則が定められている。
一方、ウシなど法律・政令で定められた特定の動物の狂犬病については家畜伝染病として家畜伝染病予防法の適用を受ける。家畜伝染病予防法では、ウシ、ウマ、ヒツジ(綿羊)、ヤギ、ブタが指定されており(家畜伝染病予防法2条)、家畜伝染病予防法施行令で、水牛、シカ、イノシシが追加されている(家畜伝染病予防法施行令1条)。
これらの動物が狂犬病に感染した場合には、患畜として家畜伝染病予防法第17条に基づき殺処分命令が出されることとなる。命令が発せられた場合には当該患畜の所有者・管理者はこれを受け入れ、速やかに処分を実施しなければならない。この家畜伝染病予防法に基づく殺処分命令の権限は都道府県知事が持つ。
なお、狂犬病は人獣共通感染症であることから、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)で四類感染症に指定されている(感染症法6条5項5号)。
国内での感染が確認されなくなって以降、日本で狂犬病が発症した事例は3件でともに日本国外での感染である。一つは1970年にネパールを旅行中の日本人旅行者が現地で犬に咬まれ、帰国後に発病・死亡した事例。残り2例はいずれも2006年に京都府在住および神奈川県(2年前からフィリピン滞在)の60代の男性2人がフィリピン滞在中に犬に噛まれたことが原因で狂犬病を発症し、2人とも死亡した事例である。
犬に限らず狂犬病に感染している動物がペットとして海外から日本へ持ち込まれる可能性は常にある。また、狂犬病以外の人獣共通感染症に感染した動物がペットとして日本に輸入される可能性もあり、近年の愛玩動物の輸入増加とともに問題視されている。
海外の事例として、2003年にボリビアにおいて狂犬病に感染した状態でペルーから輸入されたハムスターが人を噛む事故が発生している[32]。2003年に日本に輸入されたハムスターだけでも約50万匹に上っている[33]。
厚労省は輸入動物を原因とする人畜共通感染症の発生を防ぐため、2005年9月1日から「動物の輸入届出制度[34]」を導入した。
狂犬病流行地ロシアとの貿易が多い北海道では、ロシア船からの不法上陸した犬の存在が確認されており危険視されている[35]。
一方、狂犬病行政の問題としては日本では犬以外のペット(特に狂犬病ワクチンの適用対象となっている猫)に対する狂犬病などの予防注射が法で義務化されていない事が挙げられる。
さらには平時の野犬や野生動物の狂犬病ウイルス(または抗体)保有状況調査に至ってはほぼ皆無と言えるほど貧弱なことなども再侵入監視上の問題として指摘されている[要出典]が、農水省、環境省、厚労省の3省連携が障壁となっており改善されていないと述べる識者もいる[誰?]。
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