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ポリ塩化ビニル(ポリえんかビニル、polyvinyl chloride、PVC)または塩化ビニル樹脂とは一般的な合成樹脂(プラスチック)の1つで、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合したものである。俗に塩化ビニール、塩ビ、ビニールなどと呼ばれる。軟質ポリ塩化ビニルは、ソフトビニール(Soft Vinyl)、ソフビとも呼ばれている。しかし、ポリマーを意味する「ポリ」または「樹脂」を略した呼称は、その原料である単量体の塩化ビニルとの混同を生じるおそれがあるため、単量体の塩化ビニルを特に塩化ビニルモノマーと呼ぶことがある。
ポリ塩化ビニルは塩化ビニルモノマー(CH2=CHCl)を付加重合させて合成される。塩化ビニルモノマーの製法はクロロエチレンを参照のこと。
塩化ビニルモノマーを重合させただけの樹脂は硬くて脆く、結晶質であり、紫外線があたると分子を構成する塩素原子がはずれて劣化黄変しやすい。利用のためには柔らかくする成分(可塑剤)と劣化を防ぐ安定剤を加える。熱を加えると軟化するため、熱可塑性樹脂の一つに分類される。
添加する可塑剤の量によって硬質にも軟質にもなり、優れた耐水性・耐酸性・耐アルカリ性・耐溶剤性を持つ。また難燃性であり、電気絶縁性である。このような優れた物性を持ちながら、(ソーダ工業に於いて食塩水電気分解でガラスの原料の苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を作る際に副産する低価格の塩素ガスが重量の半分以上を占める主原料のため)非常に値段が安い[1]ことから用途は多岐にわたり、衣類、壁紙、バッグ、インテリア(クッション材、断熱材、防音材、保護材として)、縄跳び用などのロープ、電線被覆(絶縁材)、防虫網(網戸など)、包装材料、水道パイプ、建築材料、農業用資材(農ビ)、レコード盤、消しゴムなど多数あり、かつては玩具にもよく用いられた。最近では軽量化を図る目的で一部の自動車用のアンダーコート材としても用いられている[2]
日本では、1941年に工業化された(なお、塩化ビニルモノマーについてはエアロゾルの噴霧助剤として使われていたが、1974年に塩化ビニルモノマーへの曝露と肝血管肉腫との関連が指摘され使用禁止となった)。現在、年間約200万トン製造されている。
1990年代には、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンをはじめとする塩素系プラスチックがダイオキシン類の主要発生源と考えられ社会問題として浮上し、不買運動にもつながった。現在ダイオキシンは塩素系プラスチックのみならず、塩素と芳香族化合物が含まれる廃棄物を焼却処分する際に不完全燃焼になると発生すると考えられている。対処法として焼却炉の性能向上による不完全燃焼率の軽減、分別収集により塩素を含むごみを焼却しない、リサイクル制度の拡充、塩素系プラスチックの使用量削減などが提案されている。また、業界団体からは焼却炉からのダイオキシンの主要発生源はポリ塩化ビニルではなく食塩によるものとする研究[3]も出されている。これに関連して、文部省(現・文部科学省)は学校の焼却炉を廃止するように通達を出した。
20世紀末ごろ、いわゆる環境ホルモンへの関心が高まる中で、ポリ塩化ビニル中に含まれる可塑剤が食品中などに溶け出すことで人体に与える影響も取り沙汰されるようになった。これまで可塑剤として多く用いられていたフタル酸エステルは油脂を含んだ食品中へ溶け出す可能性があり、食品が直接触れる容器や包装への使用が制限されるようになった。また、玩具のうちソフトビニール人形などの「乳幼児が口に接触することをその本質とするおもちや」に対してもフタル酸エステルを含むポリ塩化ビニルの使用が制限され[4]、代替材料として熱可塑性エラストマーが用いられるようになった。
また、弁当などの食品製造時に用いられている手袋も同様の理由から問題とされた。2000年6月、厚生省(現・厚生労働省)は食品製造時のポリ塩化ビニル製手袋の使用をとりやめるように通達を出した。なお、こののち2003年の環境省検討会において、フタル酸エステルには環境ホルモン様作用が確認されなかったことが報告された。
また、重量比にして塩素が約半分を占めており、石油消費量などが小さいため現在では他の石油系プラスチックに比べてポリ塩化ビニルは二酸化炭素排出量が小さく、環境への影響が小さいプラスチックであるという見方もなされるようになってきた[5]。樹脂化学業界団体は、「塩化ビニルは製造プロセスにおけるエネルギー投入量が他の炭化水素系樹脂と比較して少なくて済む」「石油消費量が他の炭化水素系樹脂と比較して少なくて済む」「高断熱性で省エネに貢献する」などと主張している[6]。
その一方で、他の一般的な炭化水素系樹脂と比較して化学的性質がかなり異なるため、樹脂を再生利用する際にポリ塩化ビニルが混在していると障害の原因になりやすい[7]。リサイクル施設ではポリ塩化ビニルと他の樹脂とはX線の透過特性が異なる事を利用して分別している事例もある。
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