出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/10/05 10:42:19」(JST)
モジホコリ | |||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Physarum polycephalum Schwein, 1822 |
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和名 | |||||||||||||||||||||||||||
モジホコリ | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Many-Headed Slime Grape-Cluster Slime |
モジホコリ(Physarum polycephalum)はアメーボゾアに含まれる変形菌の一種である。林床の落ち葉や朽ち木の表面など、日陰の冷涼で湿潤な環境を好む。巨大な多核体の単細胞生物で、モデル生物の一つとして様々な研究に利用されている。
モジホコリは原生生物でありながら、肉眼で観察することができる。典型的には黄色であり、菌類の胞子や細菌、その他の微生物などを捕食する。モジホコリは最も培養が容易な真核生物の一つであり、アメーバ運動や原形質流動といった細胞運動の研究においてモデル生物として利用されている。培養された細胞の面積は時に5m2以上にも達する[1]。
モジホコリの栄養相は、原形質流動を行う活動的な変形体である。変形体は流動する原形質のネットワークと、その中に散在する多数の細胞核より成る。進行方向に対して前部ではシート状、後部では網目状の管構造が形成される。モジホコリが餌を探すのはこの状態である。餌を見つけると原形質で取り囲み、消化酵素を分泌してこれを消化・吸収する。
食事や移動の最中に環境の変化によって変形体が乾燥すると、モジホコリは皮体(sclerotium)と呼ばれる体制に変化する。皮体は休眠態として振舞う多核の構造で、長期間にわたって環境の変化に耐えることができる。再び好ましい環境になると、皮体は変形体となって餌を探す。
餌が尽きると変形体は摂食を止め、生殖のための相である子実体へ移行する。変形体から胞子嚢と柄が生じ、胞子嚢の中で減数分裂が起こって単相の胞子が形成される。モジホコリの胞子嚢は胞子が飛散しやすい構造になっており、胞子は風に乗って運ばれる。胞子には耐久性があり、そのままで何年も生存できる。環境が好転すると、胞子は発芽して鞭毛虫型もしくはアメーバ型の遊走子を生じる。これらの遊走子は互いに融合し、新たな変形体を形成する。
遊走子の融合は、性(接合型、交配型)が異なる細胞間で起こる。モジホコリでは接合型が複数あり、15の複対立遺伝子を持つ matA 遺伝子に支配されていることが知られている。また多くの生物においてミトコンドリアDNAは母性遺伝であるが、モジホコリにおけるミトコンドリアの遺伝の優先順位も matA の制御下にあり、これにより伝達の優先順位が決定されている[2]。
モジホコリの変形体の運動は変形体や小変形体(microplasmodium、変形体の一部が分離したもの)の形状により様々である。変形体はゲル状・皮質で流動性の低いの外層(ectoplasm)と、流動性に富むゾル状の内層(endoplasm)より成る。アメーバ状の変形体は、外層を構成するアクチン繊維の収縮と弛緩によって運動する。この運動が変形体の各部に圧力勾配を生じ、内層のゾルを流動させる力となる。内層のゾルは "shuttle streaming" と呼ばれる運動をしている。これは前進と後退とを周期的に繰り返す往復原形質流動であり、約2分周期で逆転する。このような原形質の運動に伴い、細胞内の ATP やプロトン濃度も周期的に変動しており、変形体全体として様々な要素の振動が相互に影響し合う複雑系を構築している[3]。
モジホコリの培養には湿らせた紙や寒天培地を用いる。餌はオートミールが適している。培地の湿度や餌を適度に保つことで長期間の保持が可能である。光が当たるなどすると子実体への移行が起こるので、変形体を維持する場合には適温の暗所で保管する[4]。
モジホコリは単細胞生物ながら、状況により様々な「知性」を示す。
中垣らの研究グループは、モジホコリが迷路実験において餌までの最短経路を発見する能力を備えている事を見出し、ネイチャー誌に報告した[5]。これはモジホコリを 30cm 四方の迷路に餌を用いて誘い込み、ゴールの餌を目指して迷路を解決させるものである。中垣らはこの論文において、モジホコリがある種の原始的な知能を備えていると結論している。
通常、モジホコリの変形体は管状の仮足を広げてネットワークを作り、到達可能な平面を充たす。しかし迷路内の離れた2点に餌を置くと、変形体はその2点間を結ぶ経路に原形質を集約する。これは少ない原形質で効率良く餌を得るための戦略であると考えられている。このような挙動が2点間の最短経路を選択させ、効率的に迷路を解くことになる。
中垣らはまたモジホコリの周囲の環境を変化させて変形体の挙動を観察した。寒天培地上を動く変形体に対し、毎時最初の10分間だけ低温や乾燥によりストレスを与えた。ストレスを与えている間、変形体は動作が鈍る。このようなストレス付与を3回行った後でこれを止め、変形体がパターンを学習したかどうかを観察した。すると、多くの細胞は再び来るであろうストレスを予測し、60分毎に運動を減縮した。しばらく安定な環境に変形体を置くと、細胞は動作の減縮をしないようになったが、再びストレスを与えると60分ごとの挙動の変化が再度見られるようになった。動作間隔は60分に限らず、30分から90分の間で任意に学習させることができるという[6]。
ブリストルにあるウエスト・オブ・イングランド大学(University of the West of England)の Adamatzky は、光と餌を使ってモジホコリの挙動を正確に制御できるとの考えを示した。モジホコリの変形体は同じ刺激に対しては同じように振舞うことから、生体コンピュータの材料として理想的な生物であると述べている(→粘菌コンピュータ)[7][8]。
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