出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/04/10 22:37:29」(JST)
シートベルトとは、乗員の身体を座席に拘束することで、座席外へ投げ出され負傷することを防ぐためのベルト状の安全装置。自動車のほか、飛行機、ロケット、ローラーコースターなどの乗物にも付けられている。
ここでは主に自動車用シートベルトについて記述する。
自動車が衝突する時、また、衝突を回避しようとブレーキを掛けたりハンドルを切ったりする時、体には急激な減速・加速による、大きな慣性力が加わる。その際、体を座席に固定していないと、体が自動車の内部(ハンドルやフロントガラスなど)に衝突してしまう。また、体が車外に放出してしまう場合もある。シートベルトが普及する前の交通事故においては、フロントガラスやハンドルに顔面を強打した被害者の縫合手術が頻繁に行われているなど、軽度の衝突でも被害が大きかった[1]。それを防ぐために、シートベルトで体やチャイルドシートを座席に固定する。
現在の自動車の主流である3点式シートベルトでは、ゆっくりと引けばベルトを引き出せるが、一定以上の勢いで引っ張るとロックして引き出せない(ELR : Emergency Locking Retractor、非常時固定及び巻き取り式)。 車両が事故を起こしたとき、乗員は慣性の法則で進行方向へ飛ばされそうになるが、それをロックした状態のベルトが支えてくれるわけである。
また、近年は、車両に一定以上の衝撃が加わった場合に事故と判断し、火薬などにより瞬時にベルトを引き上げることで、さらに上半身をシートに強く拘束し鎖骨を骨折させることで衝撃を吸収し、鎖骨以外の部位のケガを最低限に押さえ込むようになっているものもある。これをプリテンショナー機能といい、多くの場合、ロードリミッター機能(拘束による乗員への負担が一定以上加わらないように調節を行うもの)と組み合わされる。
なお、シートベルトは、腰ベルトは骨盤に、3点式の肩ベルトは鎖骨に掛けるようにする[2]。
シートベルトの機能は、これら骨盤や鎖骨を支点としてベルトの張力の範囲で衝撃の大部分を吸収するのであり、人体と接するベルトの面での衝撃の分散吸収は、あくまで補助的なもの[要出典]である。たとえば腹部にベルトを掛けていると、シートベルト外傷を引き起こす可能性があり、内臓などは比較的簡単に破裂してしまう[3]。
自動車についているほかの安全装置にはエアバッグがある。しかしエアバッグはSRS(Supplemental Restraint System、補助拘束装置)エアバッグという名称の示すとおり、あくまでも『シートベルトを補助する装置』であり、シートベルトと併用することで効果を示す設計となっている。
事故に遭わなくても、自動車に乗車しているときには乗員にいろいろな衝撃が加わることがある。例えば、カーブを曲がる時、ブレーキをかけたとき、加速をしたときなどに、慣性や遠心力で身体が前後左右に揺れることがある。その時に体が固定されていないと、必要以上に揺さぶられてしまい乗り物酔いを引き起こしやすくなる。また運転手の場合はなおのことで、身体が動いてしまえばその分身体と各種インターフェース(ハンドルや各ペダル、シフトレバーなど)との位置関係が変わってしまう為安定・確実な操作ができず安全運転に支障をきたす。それを防ぐ意味でも、シートベルトで体を座席に固定する必要がある。
1899年イギリスのロンドンで、ダイムラーの自動車による事故で乗員2人が放り出され死亡したことがきっかけとなり、シートベルトが開発されたといわれている[要出典]。それを端とした開発は1903年、フランスの技術者であるギュスターヴ・ルボー(Gustave Désiré Lebeau)により、シートベルトの原型である、高い背もたれと交差式ベルトからなる「自動車等の防御用ベルト」というものの開発へと至った[要出典]という。
シートベルトが初めて自動車に搭載されたのは1922年[要出典]である。当初は競技用自動車に任意で取り付けられていた[要出典]。一般の乗用車への採用は1946年のタッカー・トーピードであった。
シートベルト普及の契機はアメリカで1966年7月1日に成立した連邦交通車両安全法 (National Traffic and Motor Vehicle Safety Act) であり[要出典]、同法に基づいた連邦自動車安全基準 (FMVSS) により1967年3月1日から義務付けている。
シートベルトの形態としては、2点式シートベルトが一般的であったが、1959年ボルボが3点式シートベルトを発明し特許を取得した。しかし、安全に必要な技術ということで無償で全メーカーに公開した。このおかげで、3点式シートベルトは全世界の自動車に付いている装置となった。代表的な3点式の他にも、2点式、4点式、5点式、6点式がある。一部の高性能スポーツカーには4点式の採用例が見られ、現在のレーシングカーには6点式シートベルトが使われる。2点式は自動車の後部座席や飛行機の座席に用いられているが、事故の際に腰の部分への負担が大きく、上半身の保護能力も期待できないため、最近では自動車の後部座席については3点式が主流である(義務化している国も多い)。
F1などのフォーミュラカー(葉巻型ボディから4つの車輪が飛び出した一人乗りレーシングカー)では、1960年代末までシートベルトが義務化されていなかった(乗用車改造マシンのレースではすでに義務化されていた)。フォーミュラカーは運転席が狭く、事故で火災が発生すると脱出が困難になりやすいとされ、「焼け死ぬよりは車外に投げ出された方が安全」と考えられていたからである[要出典]。しかしフォーミュラカーにおいてもシートベルトを装着する方が安全と認識され、1970年代以降シートベルトは絶対的な義務となっている。
シートベルトが窮屈だという理由で装着しない人がいる。そのため窮屈にならないように、ベルトを装着したときにだけ巻き取りバネの力を弱めて、窮屈感を和らげるシートベルトが開発された。このタイプのシートベルトは「テンションレリーファー(レデューサー)付きシートベルト」と呼ばれ、一部の高級車に装備されている。衝突時に帯がゆるんでいる場合には、乗員を拘束する性能が低下するため、衝突の際にたるんだ帯が締まるような仕組み(火薬を使う)を持つシートベルトが開発された。このタイプのシートベルトのことを「プリテンショナー付きシートベルト」と呼ぶ。さらには衝突後、帯に入る荷重が設定荷重になると帯が伸び出し、エネルギーを逃がすタイプのシートベルトも開発されている。このタイプのシートベルトを「ロードリミッター付きシートベルト」と呼ぶ。プリテンショナーとロードリミッター付きシートベルトの開発により、衝突時の乗員に対する安全性は飛躍的に改善された。
自動車では、チャイルドシート固定機能付シートベルト(一杯に引っ張り出してから収納すると、完全に収納するまでは収納のみ可能となり、ベルトが一定の位置で固定される)も開発され、後部座席に取り付けられている車種が多い。
ストラップ、固定用バックル、リトラクター(ベルト巻取り装置)、アンカレッジ(車体から)の取り付け具)の一切の装置。 いわゆる「シートベルト」全体を指す。
いわゆるシートベルトのベルト部分。
着用者をベルトにより固定、解放することができる装置。 バックルは、鉄板やウェビングなどを使ったベルトの先端部に組み込まれ、主にラップ/ショルダーベルトのタングと結合する装置。
ストラップ(ウェビング)の一部又は全体を収納することができる装置。
主に、引張り強さに優れたポリエステル繊維を編んで帯(ウェビング)を作り、金属製タングに通す。このタングを座席または床に取り付けられた受け側金具(バックル)へ挿入して固定させる。帯の単純引っ張り強度は30kN程度あり、普通乗用車一台を吊り上げるのに十分な強度がある。但しこの頑丈さが、事故の際の脱出や救出に障害となる場合もある(切断にはナイフが必要。鋏では歯が立たない)。
そのため、近年ではシートベルトを切断するための専用ナイフ(シートベルトカッター)と、窓(強化ガラスのため素手では割れず、同じく救出や脱出の妨げとなる)を割るためのハンマーがセットになっている非常用の脱出工具が市販されており、自動車のピラーや床などに取り付けることができるようになっている(ただし、取り付ける方法によっては裏側に隠れた配線などを傷つけてしまう可能性があるため、自動車販売店に相談をした上で取り付けることが好ましい)。
尚、シートベルトを切る時には握りの下についた刃を使い、窓を割る時には反対側にあるハンマー(通常のハンマーと異なり打撃面が鋭利な円錐形になっており、サイドウィンドウなら一撃で破壊できる)を使うようになっている物が多い。
シートベルトを着用する際の安全性と快適性の向上のために、さまざまな機構が開発されている。
運転者席や助手席のシートベルト装着を喚起するための装置。
助手席用のものは、助手席が無人の時には作動する必要はないため、普通はシートの下に重量センサーが取り付けられており、人が座った重みでセンサーが作動して着席している事を感知するようになっている。そのため、助手席にスーツケースやスーパーの買い物袋など、ある程度の重量のあるものを置くと、座っているのが人でなくともその重みで作動して、警報を鳴らしてしまうこともある。
日本では、道路運送車両の保安基準第22条の三第4項により、乗車定員10人未満の普通自動車・小型自動車・軽自動車に装備が義務付けられている。
シートベルトの着用を容易にするための装置。安全性の向上にも利用される。
日本においては、車両へのシートベルト設置について道路運送車両法に基づく「道路運送車両の保安基準」(昭和26年日運輸省令第67号)で定められている。
2点式が第1種座席ベルト、3点式が第2種座席ベルトとして規定されている。
従来、シートベルトは高級車におけるオプション装備という位置づけだったが、欧米でのシートベルト設置義務化の動きを受けて道路運送車両の保安基準を改正、1969年(昭和44年)4月1日以降に国内で生産された普通乗用車(定員10人以下、軽自動車を除く)は、運転席にシートベルトの設置を義務付けられた(軽自動車については同年10月1日生産車から)。
このシートベルトの設置義務は運転席についてのみであったが、シートベルトの設置用金具については全席に義務付けられており、1973年(昭和48年)12月1日以降の生産車には助手席、1975年(昭和50年)4月1日以降の生産車には後部座席にも設置が義務付けられた。
当初は腰部で身体を固定する、いわゆる2点式シートベルトが一般的であったが、後に胸部も固定する3点式シートベルトが普及した。
1975年(昭和50年)4月1日以降の生産車の運転席・助手席には基本的に3点式シートベルトの設置をすることとされている。ピラーの無いオープンカーなど一部の車については、例外として2点式シートベルトが認められていたが、1987年(昭和62年)3月1日以降はその例外もなくなっている。
1994年(平成6年)4月1日以降は後部座席の側面席、2012年(平成24年)7月1日以降は全ての座席を3点式シートベルトにすることと定められた。
なお、定員11人以上の普通乗合車(バス)については1987年(昭和62年)9月1日以降の生産車に運転席にのみ3点式シートベルトの設置、2006年(平成18年)10月1日以降の生産車に助手席の3点式シートベルトの設置、2012年(平成24年)7月1日以降の生産車に後部座席(補助席を除く)の3点式シートベルトの設置、同時に着用が義務付けられている。
なお、日本の法規制上は、シートベルトは平常時には乗員の各種動作を阻害しないように、ベルトが自由に伸縮する機構が必要である。そのため、装着時に完全に体が固定されてしまう、主に4点式以上のアフターマーケットパーツのシートベルトに関しては、保安基準に適合せず車検にも通らない。純正のシートベルトを残していれば車検は通るが、公道では純正シートベルトの方を着装しなければならない。
日本において、乗員のシートベルト着用については道路交通法により定められている。反則金の付加が当初検討されたが、法律の自己決定権への侵害への配慮と、他法(自殺、自傷行為について不可罰)との整合性から国会で討議された結果、見送られた。
1971年(昭和46年)6月2日施行の改定道路交通法より、運転席・助手席でのシートベルト着用について努力義務を課していたが、着用義務の法制化について国会に多数の陳情が寄せられるようになったことから、1985年(昭和60年)9月1日施行の改定道路交通法により自動車高速道・自動車専用道において前席(運転席・助手席)でのシートベルト着用が、罰則付きで義務付けられた(一般自動車道については1992年(平成4年)11月1日から)。
なお、着用義務については傷病、あるいは業務上の特段の理由がある場合は適用が除外されている[4]。
2007年に道路交通法が改正され、2008年6月1日から一部の特殊な例外を除いては、従来「努めなければならない」とされていた後部座席のシートベルト着用が、運転席・助手席と同様に義務化された。
これは、非着用者の致死率は着用者の約4倍、非着用の場合、後部座席同乗者が前席乗員に衝突することにより、前席乗員が頭部等に重傷を負う確率が着用の場合の約51倍も増大する、といった調査結果に対し、後部シートベルトの着用率の低さが問題となったことが理由である(高速道路におけるシートベルト着用率は、運転席98.2%・助手席93.0%に対して後部座席12.7%)。諸外国の場合、多くは、すでに後部座席同乗者にシートベルト着用が義務化されており、日本でも義務化に踏みきることとなった。これに違反した場合運転者に対して違反点数(1点)の加点処分が科せられる。なお、警察庁の方針として義務化以後も当面は注意程度に留めるとしていたが、その後に実施した調査の結果、着用率が大幅に上昇したことを理由に、2008年10月以降は加点を伴う取り締まりがされるようになった。
バスの乗客の非着用についても、高速道路及び自動車専用道路では運転手に加点対象となるため、各バス会社は座席にシートベルトの設置及び乗客へのシートベルト着用の呼びかけを行なっている。高速道路及び自動車専用道路以外では反則点の対象になっておらず、また、高速道路等(自動車の最高速度が時速60kmを超える道路)を走行しないバスには、「道路運送車両の保安基準」により運転席及びそれと並列の座席以外への装備が義務づけられていないため、除外される。なお、高速道路等を走行しないバスと同等の構造でありながら、やむをえない理由によって高速道路等を走行する路線バスにおいては、車体後部への保安基準の緩和標章の掲示と、最高時速を60キロ程度に制限する事によって必要最小限の経路の通行が認められている。
事故を起こした自動車から車外へ脱出する際に、体を固定しているシートベルトを切断するための道具として、シートベルトカッターがある。
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