出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/12/02 06:30:11」(JST)
この記事には複数の問題があります。改善やノートページでの議論にご協力ください。
|
サリン[1] | |
---|---|
IUPAC名
2-(Fluoro-methylphosphoryl)oxypropane |
|
別称
O-isopropyl methylphosphonofluoridate, Isopropyl, GB methylphosphonofluoridate
GB[2] |
|
識別情報 | |
CAS登録番号 | 107-44-8 |
PubChem | 7871 |
SMILES
|
|
InChI
|
|
特性 | |
化学式 | C4H10FO2P |
モル質量 | 140.09 g/mol |
外観 | 無色無臭の液体 |
密度 | 1.0887 g/cm³ at 25 °C 1.102 g/cm³ at 20 °C |
融点 |
-56 °C, 217 K, -69 °F |
沸点 |
158 °C, 431 K, 316 °F |
水への溶解度 | 混和性 |
危険性 | |
EU分類 | 特に毒性が高い (T+), 腐食性 (C), 火傷 |
NFPA 704 |
0
4
2
|
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
サリン(ドイツ語: sarin)は、有機リン化合物で神経ガスの一種。正式名称はイソプロピルメタンフルオロホスホネート。
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証し出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2015年11月) |
1902年にドイツ帝国でサリンは合成された。但し、その毒性に最初に着目したのはナチス・ドイツであり、第二次世界大戦中に量産を計画し、敗戦までに7000トン以上の「サリン」を貯蔵していたにもかかわらず、終戦まで一度も使うことはなかった。なお、「サリン」の名称は、ナチスでサリン開発に携わったシュラーダー (Gerhard Schrader)、アンブローズ(Otto Ambros)、リッター (Gerhard Ritter)、フォン・デア・リンデ (Hans-Jürgen von der Linde) の名前から取られた[3]。
アドルフ・ヒトラーの側近だったヨーゼフ・ゲッベルスは「サリン」投入を主張した。 しかし、第一次世界大戦で毒ガスによって視神経や脳神経に一過性の障害を負い喉や眼を負傷した経験を持つヒトラーは彼らの進言を全く聞き入れず、「サリン」を戦争やユダヤ人の殺害に使用することはなかった。また、同じ枢軸国陣営であった、日本軍にも「サリン」の技術は提供されなかった。[独自研究?]
サリンは神経伝達物質のアセチルコリンと似た構造を持つ。サリンはアセチルコリンを加水分解するアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の活性部位に不可逆的に結合することで、AChEを失活させる。それによりアセチルコリンの分解を阻害し、神経伝達を麻痺させる作用が働く[5]。
サリンに曝露すると1分と経たずに以下のような症状が出る。曝露量が多い場合には軽症、中等症を飛ばしていきなり重症になり死亡する場合もある。
殺傷能力が非常に強く、吸収した量によっては数分で症状が現れる[6]。また、呼吸器系からだけでなく皮膚からも吸収されるため、ガスマスクだけではなく対応する防護服を着用しなければ防護できない[7] [8]。
経皮毒性の一例を示すと、経皮投与におけるヒトの半数致死量は28 mg/kgである[7]。これは、体重60 kgのヒトが1680 mg(約1.5 mL)のサリンを経皮吸収すると、その半数が死亡するということである。また、皮膚に一滴垂らすだけで確実に死に至るとの記述も存在する[5]。
「気体比重は4.86と空気より重く、その場にとどまりやすい」とも言われるが、ありえる濃度は0.3% (3000ppm) 以下であり、そのときの気体比重は1.01でしかなく、ほとんど関係がない。また、化学的に不安定な物質で、熱分解や加水分解されやすい[7]。
この節は更新が必要とされています。 この節の情報は長らく更新されておらず、古い情報が掲載されています。編集の際に新しい情報を記事に反映させてください。反映後、このタグは除去してください。(2013年4月) |
サリンの被害者にどのような後遺症が残るのか、これについて、医学的見地からの専門的な研究が実施されたのは世界中で唯一、日本における事例だけである。
これは松本サリン事件と地下鉄サリン事件の二回にわたる惨事が引き起こされ、両事件で多数の患者が発生しているためで、多数の患者を医学的に追跡調査出来た事例という点で世界的にも他に類を見ないことによる。ただし、両事件では100以上の論文が発表されているものの、新たな知見は見出されなかった。これはすでに神経剤の臨床試験データが数百人分存在するからである。
後遺症には、主に心的外傷後ストレス障害などの心的な物と、目がかすむ、身体がだるい、熱が出るなど軽微な物から、完全に身体を動かせないほどの重度な物までがある。身体的な後遺症の原因は中枢神経系や副交感神経の回復不能な損傷だと言われている。10年以上が経過しても回復が見られない事例が多く、一生涯にわたる障害になると思われる。なお、地下鉄サリン事件で使用されたサリンは不純物が多く含まれているものであり、サリン以外の毒性も影響している可能性がある。
これはサリン以外の神経ガスでも同様の後遺症が残る可能性が高いと言われており、神経ガスの被害者は助かったとしても一生涯にわたる重い障害を背負う可能性が高いことを示している。
有機リン系農薬に見られる遅発神経障害(1~3週間以降)は起こらないとされる。これはサリンの急性毒性が高いためにごく少量で中毒し、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用が高い反面、神経毒エステラーゼ阻害作用はそれほど高くない事による。
サリンの合成は、有機リン化合物合成における手法を通じて行われる。
具体的には、三塩化リンなどのリン塩化物から亜リン酸トリメチルを合成し、さらにメチルホスホン酸ジメチル・メチルホスホン酸ジクロライドを経てメチルホスホン酸ジフルオリドを得る。これがサリンの最終前駆体となる。
メチルホスホン酸ジフルオリドにイソプロピルアルコールや金属イソプロピル化物を反応させるとサリンが生成する。ただし、サリンそのものは反応性が高い上に漏洩した場合に非常に危険であることから、一般的な化学兵器砲弾や爆弾においてはメチルホスホン酸ジフルオリドとイソプロピル化合物を分離状態で同梱しておき、兵器として使用する時に混合する方法が用いられた(バイナリー方式)。イラン・イラク戦争でイラク軍が使用したのもこの方式である。オウム真理教の場合、松本サリン事件では貨物自動車を改造して設置した反応装置を用いて散布され、地下鉄サリン事件ではサリンを有機溶剤に溶解させたものを袋に密閉し、穴をあけて染み出させることによる散布が行われたとされる。[要出典]
しかし、サリンは合成過程における中間生成物の段階で既に極めて毒性が高く、廃棄物もまた高い毒性を持つ。そのため高度に専門的な知識と技術と設備を持たない者が合成を試みたところで、その合成過程で負傷・死亡する危険性が高い。宗教団体オウム真理教が建造したサリン製造プラントについても、これを見た専門家は「このような溶媒が漏れる雑な装置で合成するのは無謀」と断じている。実際、事件で使用されたサリンも純度の低い比較的毒性の弱いものであった。しかし、オウム真理教に対する査察においてオウム真理教の施設からは三塩化リン・フッ化ナトリウム(メチルホスホン酸ジメチル・メチルホスホン酸ジクロライドからメチルホスホン酸ジフルオリドを合成する段階で使用)などが発見され、それまではあくまで疑惑であったオウム真理教のサリン製造を裏付ける強力な物証となった。
日本では、かつて長野県警察が市販の農薬からサリンの合成が可能であると言っていたが、これは完全に誤りである。これは松本サリン事件の際に「毒ガスの専門家」という触れ込みで度々登場した科学史研究者常石敬一の「有機リン系の農薬を原因とする神経ガスが発生した」「サリンは知識さえ持っていれば簡単に製造できる」などといった、誤った発言等のマスコミ報道によって作り出された誤解である。
確かにイソプロピルアルコールは工業原料・有機溶剤などとして一般に広く市販されており、前駆体であるリン塩化物についても法規制が敷かれているものの、化学工業や化学実験などで汎用される物質であることから入手が比較的容易なのは事実である。しかし、サリンは熱や水で容易に分解する上、合成段階では極めて不安定になる性質を持つため、サリンに至る製造工程では様々な化学用機材や高度な脱水技術のほか多段階の反応制御・精製技術・温度管理が必要であり、また多くの危険を伴う作業となる。上述した通り、オウム真理教もサリン製造にあたっては、それを目的とした研究室や大掛かりなプラントを建造し、化学方面の高度な専門的知識に知悉した信者が携わっている。
尚、日本ではオウム真理教以外では唯一、陸上自衛隊化学学校(さいたま市北区日進町、陸自大宮駐屯地所在)がサリンの製造・保管を行っている事が、日本共産党の塩川鉄也衆院議員の聞き取りやしんぶん赤旗の取材で明らかになっている。
自然環境中には存在しない。加水分解によってフッ素が水分子の水素原子と結びつき、それが同じ水分子の水酸基と入れ替わることにより、サリンはフッ化水素とメチルホスホン酸イソプロピルに変化し、さらに後者はメチルホスホン酸とイソプロピルアルコールに分解する。したがって水源地や浄水場にサリンを投げ込んだところで直ちに加水分解されるほか、活性炭処理やオゾンによる高度浄水処理の工程を通ればほぼ完全に無毒化される。また、塩基性条件下で加水分解が加速されることを利用して、サリンの除染には塩基性水溶液が用いられる[6]。
日本ではオウム真理教による松本サリン事件(1994年)と地下鉄サリン事件(1995年)を受けて、サリン等による人身被害の防止に関する法律(平成7年4月21日法律第78号)が施行しており、現在では所持や生産などが禁止されている。
自衛隊や警察、海上保安庁の対テロ訓練では、国際テロリストがサリンを散布して多数の死傷者が発生するといった状況が想定されていることが多い。
北朝鮮も製造・所持をしている疑いがある[9][10]。なお、北朝鮮は日本列島を攻撃可能とされるノドンミサイルを保有しており、弾頭に化学兵器類を搭載して発射できるとされる。ただし、熱に弱い性質のサリンを大気圏再突入時の高熱から防ぐ技術を、2009年現在の北朝鮮は持っていないと言われている[11]。
|
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
国試過去問 | 「109I018」「076A080」 |
リンク元 | 「有機リン中毒」「イソプロピルメチルホスホノフルオリデート」「ソマン」「タブン」 |
関連記事 | 「リン」 |
C
※国試ナビ4※ [109I017]←[国試_109]→[109I019]
[中枢神経症状]意識混濁、昏睡 [ニコチン受容体を介した作用]全身痙攣、呼吸筋麻痺
症状 | 血中ChE (正常比) |
治療 | |
無症状 | なし | ≧50% | 6hr経過観察 |
軽度 | (歩行可能) 全身倦怠感、頭痛、眩暈、四肢痺れ、悪心、嘔吐、発汗、唾液分泌亢進、wheezing、腹痛、下痢 |
20-50% | アトロピン 1mg IV PAM 1g IV |
中等度 | (歩行不能) 軽度の症状に加え、 全身筋力低下、構語障害、筋攣縮、縮瞳 |
10-20% | アトロピン 1-2mg IV, 15-30分ごと。atropinazationまで PAM 1g IV |
重症 | 意識障害、四肢麻痺、筋攣縮、針先瞳孔、呼吸促迫、チアノーゼ | ≦10% | アトロピン 5mg IV, 15-30分ごと。atropinazationまで PAM 1-2g IV。奏効しない場合 0.5g/hr 点滴静注 |
近位尿細管 | 70% |
遠位尿細管 | 20% |
.