出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/08/22 12:26:36」(JST)
心理療法(しんりりょうほう、英: psychotherapy)とは、物理的・化学的手段に拠らず、教示・対話・訓練を通して認知・情緒・行動などに変容をもたらすことで、精神疾患や心身症の治療、精神心理的問題・不適応行動などの解決に寄与し、人々の精神的健康の回復・保持・増進を図ろうとする理論と技法の体系のことである。精神療法、心理セラピー、サイコセラピーなどとも呼ばれる[1]。
心理療法を行う者を心理療法士、心理療法家、精神療法家、心理セラピスト、サイコセラピスト(psychotherapist)などと呼び、当該専門家が立脚する学派により精神分析家や行動療法家などと呼び分けることもある。また、心理療法を受ける者をクライエント(client)、来談者、患者などと呼ぶ[1]。
心理療法は、主に「対話」を用い、精神疾患や心身症に罹患している人、精神心理的問題や不適応に陥っている人、病気やけがを始めとした種々の困難を抱えている人などの認知・情緒・行動などに働きかけ、そこに適応的な変容を図ることを目的とする[1]。特に、人間関係に起因するストレスなどの影響が認められる心因性の精神疾患の治療においては、心理療法はストレスそのものの分析・考察を行うため、表面的な症状を抑える薬物療法などの対症療法とは区別される[1]。
すなわち、「心」「心理」「精神」を扱い、対象者の生命・身体・人生・生活の根幹に関わる専門業務であるため、臨床現場において心理療法を担当する精神科医などの医師や臨床心理士には、専門家として相応の精神医学/臨床心理学的専門知識・能力が求められるだけでなく、社会的責任を担う高度専門職業人として「人間的資質」や「倫理観」が大きく問われる[2]。
メンタルケア先進国である欧米諸国に比べ日本においては、制度面の遅れがあり、それゆえこれまでは心理カウンセリングや心理療法が日常的なものとして位置づけられてきづらかった[3]。国民皆保険制度の下で、薬や注射などの現物には公定の報酬が支払われたもののこのような「目に見えない技術」に対しては非常に低い報酬しか設定されなかった。このことが日本における精神医療の質の低下を招いた[4]。しかし、1998年から年間30,000人を超え続けている自殺者[5]、昭和期や20世紀に比しての、精神疾患受療率増加[6]、不登校児童生徒数増加[7]、対教職員・生徒間などの暴力行為発生件数増加[8]、そして2008年の労働契約法施行による労働者の心身両面への安全配慮義務の明文化と経営者に対する義務づけ[9]などの様々な社会情勢から、精神科医などの医師や臨床心理士との心理カウンセリング・心理療法のため、専門家相談機関を訪れる人は増加傾向にある[6]。また、教育機関においては、文部科学省によりスクールカウンセラー事業が制度化され定着するなど、今日では心理カウンセリングや心理療法が我々の日常的なものとして認知されてきている[10]。
なお、臨床心理学においては「心理療法」、精神医学においては「精神療法」の呼称が通常用いられるが、両者の指すものは事実上同じものである。このような呼称の相違は、明治期以降に西洋学問を輸入した際、「psyche」という外国語に「心理」と「精神」という2通りの訳語が当てられ、それが心理学界と医学界に別々に定着したことに由来する。
心理療法が、相談援助を通じ、クライエントが抱える種々の精神疾患や心身症、精神心理的問題・不適応行動などに適応的な変容を図ることを目的とする理論と技法の体系であるのに対し、心理カウンセリングは精神心理的な相談援助そのものである。したがって心理カウンセリングは、心理療法を包含する幅広い概念という位置づけにある[11]。
詳細は「カウンセリング」を参照
また、心理療法を行う際は、治療目標や各種心理療法の構造、および心理職-クライエント間の信頼関係に基づく治療同盟などの検討・合意を、心理カウンセリングに比しても特に細やかに扱う。したがって、教育機関内や企業内の相談室などにおいて、心理療法のみに限らず幅広く相談業務全般を担当する心理職は、「心理セラピスト(療法士)」よりも「心理カウンセラー」と呼ばれることが多い。一方、医療機関、大学附属心理相談機関、私設開業心理相談室などの専門家相談機関において、心理療法を中心に担当する心理職は、担当業務により「心理セラピスト(療法士)」とも「心理カウンセラー」とも呼ばれる。
関連情報は「スクールカウンセラー」、「企業内カウンセラー」を参照
心理療法が立脚する学派は、深層心理学系、行動理論系、人間性心理学系が現代心理学における三大潮流とされているが、それぞれ手段は違えど、認知・情緒・行動などに適応的な変容を図る目的は共有している。また、性格傾向・病理水準・発達水準などにより向き不向きがあるため、主訴や各水準の臨床心理査定と照らし合わせ、クライエントとの共通理解のもとで、当該事例に適した心理療法が選択・折衷され用いられる[12][13]。
詳細は「心理療法の一覧」および「臨床心理学」を参照
重症のうつ病の場合、心理療法単独では十分でない。高齢者のうつ病の場合、再発防止のため薬物療法の併用が有効である。[14]
詳細は「認知行動療法#効果に関する議論」を参照
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