出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/03/03 22:19:38」(JST)
数学において、単射あるいは単写(たんしゃ、injective function, injection)とは、写像であって、その値域に属する元はいずれもその定義域のただ一つの元の像として表されるようなもののことをいう。一対一(いったいいち、one-to-one, 1-1)の写像ともいう。似ているが一対一対応は全単射の意味で使われるので注意が必要である。
集合 A 上で定義され、集合 B を終域とする写像 f: A → B が次の条件
を満たすとき、 f を単射 (injection) とよぶ。あるいは f は(写像として)単射である (injective) という。対偶をとれば、f が単射である条件は
とも述べられる。
正の実数 x に対して、その自乗 x2 を対応させる写像 f: R+ → R は単射である。ただし、正の実数全体のなす集合を R+ と表した。実際、x, y > 0 で x2 = y2 ならば、x = y となる。
ところがひとたびこれの定義域を実数の全体 R に拡張すると、これは単射でなくなる。実際、x, y ∈ R で x2 = y2 ならば、y = ±x となるから、像 x2 はちょうど二つの元 ±x の像となっている(ただし 0 は 0 だけの像である)。
集合 A とその部分集合 B が与えられるとき、B の元 b (これはもちろん A の元でもあるので)を A の元としての b 自身に対応させることで、B を A に包含させる写像、包含写像(ほうがんしゃぞう、inclusion)
が定まる。これは単射を与え、標準単射あるいは自然な単射 (canonical injection) とも呼ばれる。
代数系つまり代数的構造をもつ二つの集合 A, B の間の準同型 f の像 f(A) は B の部分系となる。もし、f: A → B が単射ならば、終域の制限によって得られる写像 f: A → f(A) は全単射となるから、その逆写像が定まる。これがやはり準同型であるなら、これは A が B の部分系と同型となることを意味する。この同型を同一視することによって A がもともと B の部分系であるかのように扱うとき、埋め込み (embedding) と呼ぶ。群・環などの準同型は全単射ならば同型であるから、単射準同型を与えることと埋め込みを考えることとは等価である。もっと一般の数学的構造とそれらの間の準同型・射を考えるときには逆写像の準同型性を気にする必要がある。
A から B への埋め込みは一般には一つに定まるとは限らない。例えば、A がはじめから B の部分系であるとき、包含写像はひとつの埋め込みを与えるが、それ以外の写像によって A が B に埋め込まれることもある。
写像 f が単射であることは次の普遍性
によって特徴付けられる。圏論においてはこの普遍性によって単射 (monomorphism) を定義する。
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