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この項目では、薬物に対する依存症について記述しています。ギャンブル依存症などほかの依存症については「依存症」をご覧ください。 |
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物質依存 | |
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分類及び外部参照情報 | |
依存症専門の精神科医による、乱用薬物の有害性についての投票[1]
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ICD-10 | F10..2-F19..2 |
ICD-9 | 303-304 |
MeSH | D019966 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
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薬物依存症(やくぶついそんしょう、やくぶついぞんしょう、Substance Dependence)とは、同量の薬物を摂取した場合の薬物の効果が薄れる薬物耐性が形成され、薬物に対する渇望が存在し、薬物の摂取量が減った離脱時に離脱症状を呈するといったいくつかの診断基準を満たした精神疾患である。以上のような身体症状を示す身体的依存を含まない場合は、単に薬物乱用の状態である。しかしながら、ともに生活の支障や身体への害を認識しているにもかかわらず、薬物使用の抑制が困難になっている病態である。
薬物依存症を表すために、以前は薬物中毒(略称:薬中)の語も使われたが、差別用語にあたることから現在ではほとんど使われていない。薬物依存症は重篤な病気であり、また中毒の語は急性毒で危険な状態も表すことからも紛らわしい。
1度の使用で依存が形成されることはなく、依存は継続的に使用された場合に形成される[2]。依存症者は、意思が弱い、ろくでなしといったということではなく、治療が必要な病人である[3]。道徳教育や[4]、刑罰[5]が有効であることは示されていない。ヤキを入れるといった行為も、すでに依存状態に陥り自信を失っている依存症者自身のさらなる失望につながり、自傷行為的な自暴自棄な薬物使用を誘う[6]。周囲に必要とされるのは、一貫して、敬意を保ち、裁かない態度である[7]。
依存の対象となる薬物は、精神に活性を及ぼす向精神薬が多い。1961年の麻薬に関する単一条約からはじまる国際条約において、医療用途がないスケジュールIと、医療用途があり乱用の危険度によりスケジュールII以下で分類される物質が乱用の危険性がある物質であり、規制の対象となる。その中に身体的依存を示す物質と示さない物質とが含まれる。各国は国際条約に批准しているため、アメリカでは規制物質法、イギリスでは1971年薬物乱用法、日本では麻薬及び向精神薬取締法をはじめとした薬物四法で規制されている。そのほかに例外化されているタバコとアルコールは、最も公衆衛生上の被害をもたらしている薬物依存症の原因となる物質である。
薬物依存症の症状としては、渇望のような精神的依存と、離脱症状を伴う身体的依存がある。薬物からの離脱において、アルコールや睡眠薬からの離脱のように離脱症状が致命的となる可能性があるため、場合により医学的監視が必要な薬物と、タバコの禁煙のように比較的安全なため医学的監視が必要でないものとがある[8]。科学的根拠に基づけば、依存性薬物からの解毒(離脱)には急速な断薬は推奨されず、離脱を制御しやすいほかの交叉耐性を持つ同種の薬物に置き換えた後に、徐々に漸減することが多い[8]。
特に薬物依存症者の死亡率は、アルコールでも6倍、20倍とこのグループの自殺率を大幅に上げているのは、鎮静催眠薬である[9]。
1980年代にはLSDのような、身体的依存や渇望を起こさず、単に意識を変容させるための好奇心から乱用される薬物についての議論が持ち上がり、嗜癖(Addiction)という言葉で区別されたが、依存と嗜癖の用語は一般的には混同される[10]。#依存性節で示されるが、一般的に幻覚剤には強い依存性はない。さらに幻覚剤は他の薬物の依存症の治療に良好な結果が見られるものもある。
薬物依存症は、意志や人格に問題があるというより、依存に陥りやすい脳内麻薬分泌を正常に制御できない状況が引き起こした「病気」である。「まだ大丈夫」と問題性を否認しているうちに、肉体・精神・実生活を徐々に破壊していく。家族などの周囲をも巻きこみながら進行し、社会生活や生命の破滅にいたることも稀でない。
また、精神疾患の強迫性障害に伴う気分変調を紛らわすという目的で薬物に依存し、アルコール依存症などに陥る場合もある。
それだけでなく、ニコチンに対する依存症である喫煙のように、依存者自身やその周囲にいる他者へ受動喫煙として悪影響を与えることで、生活習慣病や重大な死因、気管支の疾患や胎児へ影響し、健康に対する影響が社会的に甚大である薬物もある。アルコールへの依存も、未成年者の脳の発育や胎児、生活習慣病や肝臓の疾患に影響する。これらを日本での社会的な費用に換算すると、喫煙は社会全体で約4兆円の損失、アルコールは社会全体で医療費や収入減などを含め約6兆6千億円になるとされる[11]。
アメリカ精神医学会(APA)による診断基準では、物質依存症は以下のように定義される。
物質依存症の診断基準
物質の使用における不適応な様式が、臨床的に重篤な障害や苦悩をもたらしており、以下のうち3つ(あるいはそれ以上)が、同じ12か月の間に起きている。
- (1) 耐性、以下のいずれかに定義される。
- (a) 陶酔あるいは期待する効果を得るための、物質の量の著しい増加を必要とする
- (b) その物質の同量の消費の継続により著しく効果が減少した
- (2) 離脱、以下のいずれかに定義される。
- (a) その物質に特有の離脱症状(特定の物質からの離脱のために設けられた基準の、診断基準AおよびBを参照)
- (b) 離脱症状を軽減するか避けるために、同じ(あるいは近縁関係の)物質が摂取されている
- (3) その物質が、頻繁に大量に、あるいは目的とするよりも長期間にわたり摂取される
- (4) 渇望が持続しており、減量あるいは物質使用の抑制の試みが失敗している
- (5) かなりの時間がその物質を入手するために必要な活動(例. 複数の医者を訪れる、あるいは長距離を運転する)、物質の使用のため(例. チェーン・スモーキング)、あるいはその影響から回復するのに費やされている
- (6) 物質使用のために、重要な社会的、職業上の、あるいは娯楽的な活動を、断念あるいは減少させている
- (7) その物質が原因になっていたり悪化させている可能性が高い身体的、あるいは心理的な問題が維持されたり、反復しているという認識にもかかわらず、その物質の使用が継続されている(例. コカイン誘発性うつ病の認識に反しての反復的なコカインの使用、あるいは、アルコールの消費により潰瘍が悪化したという認識に反して飲酒を継続する)
— アメリカ精神医学会『精神障害の診断と統計の手引きIV-TR』2000年[12]
世界保健機関によれば、SSRI抗うつ薬の離脱症状を表現するのに、中断症候群(discontinuation syndrome)という言葉を用い、依存症との関連付けを避けているが、この薬剤に対する依存症が報告されている[13]。
依存症を引き起こすことが知られている薬物は違法薬物、処方せん医薬品、市販薬などに区別される。 アメリカ依存医学会(American Society of Addiction Medicine)によると、以下のように分類される。
薬物依存症の可能性は、個々の物質ごとにそれぞれ異なる。摂取量、摂取頻度、物質、投与経路、薬物動態などが、薬物依存形成の要素である。
医学雑誌『ランセット』に示された、20の薬物についての身体的依存、精神的依存、多幸感の平均尺度が0~3の範囲で示された。カフェインは研究に含まれていない。[1]
薬物 | 平均 | 多幸感 | 精神的依存 | 身体的依存 |
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ヘロイン | 3.00 | 3.0 | 3.0 | 2.9 |
コカイン | 2.37 | 3.0 | 2.8 | 1.3 |
アルコール | 1.93 | 2.3 | 1.9 | 1.6 |
たばこ | 2.23 | 2.3 | 2.6 | 3.0 |
バルビツール酸 | 2.01 | 2.0 | 2.2 | 1.8 |
ベンゾジアゼピン | 1.83 | 1.7 | 2.1 | 1.8 |
アンフェタミン | 1.67 | 2.0 | 1.9 | 1.1 |
大麻 | 1.47 | 1.9 | 1.7 | 0.8 |
LSD | 1.23 | 2.2 | 1.1 | 0.3 |
エクスタシー | 1.13 | 1.5 | 1.2 | 0.7 |
離脱症状(りだつしょうじょう)とは、摂取した薬物が身体から分解や排出され体内から減ってきた際に起こるイライラをはじめとした不快な症状である。このような離脱症状を回避するために、繰り返し薬物を摂取することは、依存症の診断基準を満たす。またアルコールのように、震戦(手の震え)などの身体に禁断症状が生じる場合もある。
離脱症状と依存症には因果関係はないというのは、離脱症状が軽度であれば離脱は困難ではなく、断薬できるということは依存症の定義を満たさないためである[14]。
耐性とは、連用することによってその薬物の効果が弱くなることである。これを薬物に対する耐性の形成と呼ぶ。耐性が存在しない薬物もある。薬物が効きにくくなるたびに使用量が増えていくことが多く、最初は少量であったものが最後には致死量に近い量を摂取するようになることすらある。耐性が形成されやすい薬物として、アンフェタミン類、モルヒネ類(オピオイド類)、アルコールなどが挙げられる。
ヘロインや、モルヒネのようなオピオイド系麻酔薬が呼吸中枢を抑制する危険性が最も高い。アルコールはそれらに匹敵するほど高く、バルビツール酸系睡眠薬や、ベゲタミン(商標名)や、ペントバルビタール(商標名ラボナ)も作用量と致死量が近い。
薬の種類としては、バルピツール酸系に代わり、ベンゾジアゼピン類が用いられることも多いが、フルニトラゼパム(商標名ロヒプノール、サイレース)のような強力なベンゾジアゼピン類も致死性が近いことには変わりがない。
カフェインのような薬物では、作用量と致死量との差が100倍あるが、こうした薬物の場合オーバードーズによる死は起こりがたい。
作用量と致死量が近い薬物を日常的に利用している場合、薬物に耐性がついて以前と同じ量では効かなくなるが、しばらく利用をやめ耐性が回復したにも関わらず、以前と同じ感覚で利用した場合に、致死量を摂取してしまう場合がある。これには、特にヘロイン、コカイン、アンフェタミン、アルコール、バルビツール酸系医薬品や、これらの同時に摂取が当てはまる。
依存性薬物の作用機序は様々であるが、その多くに直接的にせよ間接的にせよ共通しているのが、脳内で本来働いている物質と同様に働き、脳がその違いを区別できないアゴニストとしての作用によるものである。典型的な例としてはオピオイド(例: ヘロイン、モルヒネ、アヘン等)が挙げられる。特定の受容体に対して本来正常に機能している内因性の脳内物質(この場合はβ-エンドルフィンなどいくつかあるオピオイド受容体のアゴニストまたはアンタゴニストといった内因性リガンド)に代わり、通常(内因性のアゴニスト)ではありえないほど強力かつ長時間アゴニストとして作用することによって作用する。また、それらに対して拮抗的に作用するのがナルトレキソンやナロキソンなどのアンタゴニストである。
身体的依存性のある薬物の血中濃度が低下してくると、生理的、心理的に不快な離脱症状として多彩な症状が生じる。オピオイドの場合は、どれほど耐えがたい離脱症状であっても通常致命的ではない。この離脱症状の辛さは、再び薬物を摂取したいという欲求の強力な誘因の一つとなる。
離脱症状はアゴニストとして働いていた物質が単に身体にとって不十分になれば程度の差はあれ生じる。しかし、個々の薬物の摂取後の血中濃度や薬物動態と症状の発現や程度は必ずしも相関しないことも多い。そうして断薬を継続すれば、慢性的な薬物摂取のため低下していた内因性アゴニストの分泌や受容体の数、感受性等が徐々に回復して正常化していき、そうすることで離脱症状も徐々に薄れていく。最終的に、離脱症状と身体的依存の状態から完全に回復する。しかし一般的に行われている治療では、それでもまた薬物中毒者に戻ってしまう人々の割合、すなわち再発率は高いことが多くの研究によって明らかになっている。
各薬物ごとに、さまざまな離脱の計画のための証拠がある。また、薬物依存を専門に扱う病院や施設が存在する。しかしながら、治療が科学的根拠に基づいていないことが多いと指摘されている[16]。
アルコールからの離脱は、致命的な振戦せん妄(DT)の可能性がある。離脱から48時間までに発作や幻覚を含む重篤な症状が出現し、4日までにDTが発現する可能性があり、全体で7~10日要し、医学的管理が伴えばDTや急性アルコール誘発性発作を軽減できる。ベンゾジアゼピン系薬が離脱症状の緩和のために用いられるが、アルコールとの併用は致命的なため、注意を要する。[8]
ベンゾジアゼピン系のような抑制剤からの離脱は、一部では致命的である。アルコールの離脱に類似した発作やせん妄が生じる可能性がある。離脱症状は2週間まで続き、一部の症状は4~6か月持続する(長期離脱症候群) 。ゆえに、血中半減期の長い長時間作用型のほかの医薬品に置換し、数週間から数カ月にわたり漸減することが推奨される。[8]
オピオイドからの急激な離脱は推奨されない。離脱による禁断症状は、7日から数週間続き、漸減するか置換により離脱症状を緩和する。メサドンは、依存症の危険性はあるがオピオイドより危険性が少ないと考えられ、またオピオイドやアルコールのような激しい離脱症状を呈さないため置換の手段の1つである。[8]
ニコチン、大麻、コカインからの離脱には入院は要さない[17]。
タバコからの離脱は、危険ではなく医療的監視を要さない。離脱症状は数時間ではじまり、数日で頂点に達し、多くは数週間で治まり、一部では数カ月続く。離脱症状を軽減するために、パッチやガムによるニコチン置換療法(NRT)が広く用いられる。[8]
覚醒剤からの離脱に関する証拠はあまり存在しない。離脱症状の緩和に有効性が示された医薬品はない。[8]
大麻の離脱症状はまれで、幻覚剤には離脱症状はない[18]。
動機づけ面接(MI)、動機強化療法(MET)、認知行動療法(CBT)といった心理療法の有効性が示されている。MIとMETは、一年後の禁欲が65.5%に対して、この心理療法を受けていない場合37%である。12週間では、標準的な個別カウンセリングよりも、アルコールや他の薬物の使用を減少させている。[19]
ロシアの薬物乱用の専門治療を行う精神科医のエフゲニー・クルピツキーは20年間にわたり、麻酔薬のケタミンを幻覚剤として利用するアルコール依存症の治療を行ってきたが、111人の被験者のうち66%が少なくとも1年間禁酒を継続し、対象群では24%であった[20]などのいくつかの報告[21][22]がある。また、ケタミンはヘロインの依存症患者に対しても薬物の利用を中断する効果が見られた[23][24]。アヘンの禁断症状を減衰させるという報告もある[25]。幻覚剤のアヤワスカがアルコールや麻薬の常習を減らしたという報告もある[26]。
アルコール依存症や他の薬物において、回復を目的として、同じような境遇の人々が集まりお互いに影響を与える自助グループがある。
薬物乱用を早期発見し、早期治療に結びつけるため、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)は次の社会体制整備を必須としている。
刑罰が再犯率、つまり、薬物依存症の再発率を低下させないことから、刑罰ではなく治療をという声がある。
依存性のある治療薬の濫用が問題として取り上げられることもある。例えば、覚醒作用のある薬物で、眠気を発作的に引き起こすナルコレプシーや、アメリカで注意欠陥・多動性障害(ADHD)に処方されるメチルフェニデート(商品名はリタリン®)やアンフェタミンである[27][28]。(アンフェタミンは、日本では覚せい剤取締法で覚醒剤に指定され規制されている。)
日本では、2007年(平成19年)ごろ「リタリン依存」が社会問題化し、厳しく管理されるようになった[29]。
松本俊彦 『薬物依存とアディクション精神医学』 金剛出版、2012年2月。ISBN 978-4772412391。
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