出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/04/19 11:21:03」(JST)
骨髄バンク(こつずいバンク、Marrow Donor Program)とは、白血病などの血液疾患の治療として造血幹細胞移植(特に「骨髄移植」)が必要な患者のために、血縁関係のない健康な人(非血縁者)から提供される「骨髄液」や末梢血幹細胞を患者に斡旋する仕組みおよびその業務を担う公的機関のこと。
日本においては公益財団法人日本骨髄バンクが主体となり、日本赤十字社(骨髄データセンター)および各都道府県等(保健所)の協力を得て、1991年12月より日本骨髄バンク(JMDP、Japan Marrow Donor Program)の運営を行っている。 1992年にドナーおよび患者の登録を開始した日本骨髄バンクは1993年1月に初の骨髄移植を行い。2008年12月3日には骨髄移植1万例に到達した。[1] 本稿においては断らない限り、主にこの日本骨髄バンクについて取り上げる。
骨髄バンクは世界各地に設置されており、特にアメリカ、ドイツ、イギリスなどにおいて活動が活発であると言われている。また、各バンクに登録されているHLA型のデータを集約している「世界骨髄バンクドナー集計システム(BMDW、英語: Bone Marrow Donors Worldwide)」には世界42か国で57バンクが参加し、各バンクに登録されたHLAデータ(さい帯血バンクのものも含む)の合計は2005年11月16日に1,000万件を突破した(BMDWに参加していない骨髄バンクも4バンク存在する)。日本骨髄バンクはアメリカ・台湾・韓国の骨髄バンクと提携していて、日本人の骨髄液が提携各国に提供されたり、提携国から日本人へ骨髄液が提供された事例もある。日本から韓国へ、あるいはアメリカから日本への提供件数は100件を超えている。数は少ないものの提携していない国に提供されることもある。2007年日本骨髄バンクは中国骨髄バンクとも提携を開始した。
骨髄液を提供するためにはあらかじめ骨髄バンクに登録することが必要であり、骨髄提供希望者のことを「ドナー」と呼ぶが、このドナー登録は以下のような手順で行われる。
なお、登録については骨髄バンクのサイト[2]において詳しく解説されている。
登録の際の採血では「HLA型(ヒト白血球抗原型)」を検査するのが主目的である。HLA型とは白血球のいわば血液型に当たるもので、その適合確率は兄弟姉妹間で4分の1、親子間ではまれ(数パーセント以下)であり、非血縁者間だと数百人 - 数万人に1人しか適合しないと言われている。そのため骨髄移植推進財団では、適合者が見つかりやすくなる水準として30万人のドナー登録者獲得を目指している(2006年6月末現在の登録者数は約25万人)[3]。
登録後、移植希望患者とHLA型が適合すると、ドナー候補者として選ばれたことを知らせる書類が骨髄移植推進財団(日本骨髄バンク)から郵送される。登録者自身の提供意思および家族の意向・健康状態や骨髄提供へ向けた日程などについてのアンケートを返送後、意志・意向と提供条件が整っていれば、病院でコーディネーターや医師と面談があり、詳しい説明と問診・採血を行う。検査結果に問題がない複数候補の中でもっとも提供者として適していると患者側の主治医が判断したドナー候補が最終的なドナー候補として選ばれる。
最終的なドナー候補者に選ばれると、ドナー候補者本人とその家族および弁護士が出席した上で最終同意の確認が行われる。この段階まではいつでも提供を取り消すことができるが、最終同意書に同意した後は取り消すことができなくなる。 最終同意書が締結されると、病んだ骨髄細胞をドナーの骨髄細胞に置き換えるためにレシピエント(骨髄を受け取る側の移植受容患者)の骨髄細胞は放射線や薬品で全て破壊されるので、最終同意後にドナーが移植を拒否すると、移植を予定していた患者は生命を保てないためである。
ドナーは移植の提供が2回まで可能である。
骨髄は、大量の骨髄があり採取しやすい腸骨(骨盤の一番大きな平たい左右一対の骨である)から採取する。腸骨の背中側のウエストより少し下の部分に、ボールペンの芯の太さ程度の採取針を穿刺して骨髄液を吸引し、全身麻酔下で行われる。採取する骨髄液の量は、レシピエントの体重キログラムあたり15ミリリットルが目標となる。一方でドナーから採取できる上限はドナーの体重およびヘモグロビン量などによって決定され、この上限を超えない範囲で出来るだけレシピエントの希望量に近くなるようにする。ヘモグロビンが十分ある場合、ドナーの体重1kgあたり20ml程度が上限となる。このためドナーの体重は、ある程度レシピエントより少くてもよいが、少なすぎる場合はレシピエントにとって骨髄液の量が不十分となる。ドナー候補が複数いたとして採取量を取るか適合性を取るかといったことはレシピエント側の判断であるが、いずれにせよ骨髄バンクを介した移植ではドナーの安全が最優先されるので上記の採取量上限を超えることはない。
骨髄採取によりドナーが貧血に陥らないために、ドナー自身の血液を事前に採取保存しておき、採取当日返血する。 提供のための手術は1~3時間かかり、4~7日程度の入院が必要になる(まれではあるが入院期間は手術の予後が不良である場合などには1週間以上に長引く場合もある)。
手術後には気管チューブを抜いた後ののどの痛みや、尿道カテーテルを入れたことによる尿道の痛みが生じることがあるほか、骨髄液採取および麻酔の影響による頭痛、吐き気、37~38度程度の発熱、血圧低下、不整脈などが報告されているが、いずれも数時間から1日程度で回復する一過性のものである。穿刺による傷からの出血は通常1~2日でおさまるが、筋肉や骨の回復には個人差がある。一般に、あまり厳しく安静を保つよりも、散歩などにより適度な負荷を与えるほうが回復は早いとされる。提供者の報告では、大きな痛みがなくなるまで1~7日間、激しい運動ができるようになるまで2~3週間という例が多い。
後遺障害の発生は確率的には低いもののゼロではない。骨髄提供後に血腫ができたり、知覚障害や痺れ・痛みが残存するなど手術後ドナーに後遺症が残るケースが報告されている。また、過去に海外で3件(血縁者間2例、非血縁者間1例)、日本で1件(血縁者間)のドナーの死亡事例が報告されている。ただし日本の1件は骨髄バンクを介さない血縁者間で行われたものであり、日本骨髄バンクが関与した13505件の移植の中に死亡事例は無い(2011年10月末現在)。移植医療全てにいえることであるが、ドナーの協力や家族などの理解が無ければ成り立たない医療であるのでドナーの安全は最優先に考慮されるが、医療行為である以上リスクがないとは言いきれない。
ドナーにはレシピエントの保険料負担により加入する骨髄バンク団体障害保険[4]があり、適用されれば300万円 - 1億円の補償金あるいは入通院給付金が支払われる。 日本骨髄バンクが関与した約1万2000件の移植の中で、骨髄バンク団体障害保険の適用事例(C型肝炎、神経障害、骨膜損傷、ヘルニア、咽頭肉芽腫、腎炎、骨膜障害等々)は109件(2010年3月末現在)あるが、時間の経過とともにほとんどの事例が回復している。
手術から入退院までの費用もドナーには一切かからず、入院中の雑費として一律5000円が支給されるが、提供によって休業しても休業補償はなく、またドナーが入院することによって発生する可能性のある、家族の介護、子どもの保育、家族の交通・食事等のドナー本人以外への費用・労力発生には補助は無い。
登録後、住所を変更した際には変更の連絡をする必要がある(転居先不明などで連絡が取れないと判断された時は登録を取り消される事がある)。
骨髄バンクの認識は各種の啓発によって広まっているが、未だに多くの誤解が存在する。ドナーが骨髄を提供する事に対して多く見られる誤解について記述する。
現状ではHLA型が適合したドナーが最終同意前に提供を断るケースが少なくない。原因として、以下のことが挙げられる。
ドナーは手術のみならず、周囲の説得や時間の調整などの負担を強いられる。確認検査や健康診断、最終同意面談は財団指定のコーディネート病院での実施で、最終同意後は別の採取指定病院に数回通院する事になる。主に平日のみの対応となる。骨髄バンクはドナーや勤務先などに対し協力を求める姿勢をとっているが、ドナーの負担を軽くするような検討は今のところなされていない。
原則的に、ドナーとレシピエントはそれぞれ異なる医療施設を利用する。ドナー側の事前の各種検査および手術は、ドナーの居住地に近い医療施設にて行われる。採取された骨髄液は速やかにレシピエントのもとへと輸送されるが、事故により到着しない恐れもある。2002年には骨髄バックの破損により、提供された骨髄液を流出させる事故が起こった。
骨髄バンクのドナー登録は、中央骨髄データセンターに対して行うものであり、骨髄バンクが管理しているわけではない。したがって、ドナー登録を取り消しした場合でも、骨髄バンクが所持している個人情報は削除されない。また、取り消し後も提供したドナーに対して、ドナーリンパ球輸注療法(DLI)の協力依頼や患者からの手紙が届く可能性がある。提供後に住所が変わってしまったために、旧住所に郵便物が届けられ、個人情報漏洩となったケースも存在する。
一部の心ないコーディネーターにより、ドナーやその家族とトラブルになるケースが発生している。家族は、ドナーが骨髄を提供することについて快く感じないことが多く、それらの気持ちに配慮出来ないコーディネーター側の対応が、結果として家族の顰蹙を買い、コーディネート終了となる場合もある。また、提供後の健康診断を受診するようにと、ドナーに対して頻繁に電話で催促したり、場合よっては「昼休みを使って病院まで来てほしい」、「有給やフレックスを使って時間を作れないか」などの対応がなされる場合もある。ドナーは、仕事の都合などでなかなか時間を作れない事が多く、最終的に術後検診を受診出来ないまま、コーディネートが打ち切られてしまうケースも多々見受けられる。
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