出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/08/13 19:33:28」(JST)
輸液(ゆえき)とは、水分や電解質などを点滴静注により投与する治療法である。血液成分の投与については輸血を参照のこと。
輸液製剤はNa濃度によって何号液という呼び方をする。これは0.9%生理食塩水1に対していくつの5%ブドウ糖液を混ぜたかによって分類される。便宜上、生理食塩水を0号液と呼べば、すっきりと整理できる。低張複合電解質液には、1〜4号液が該当する。なお、こういった輸液製剤は日本医学独自のものである。
輸液のタイプ | 製剤名 | Na(mEq/l) | K(mEq/l) | ブドウ糖 |
---|---|---|---|---|
開始液 | ST1 | 90 | 0 | 2.6% |
開始液 | KN1A | 77 | 0 | 2.5% |
細胞外液補充液 | ラクテック | 130 | 4 | 0 |
細胞外液補充液 | ヴィーンD | 130 | 4 | 5% |
維持液 | ST3 | 35 | 20 | 4.3% |
維持液 | KN3B | 50 | 20 | 2.7% |
輸液量のオーダーの決め方は以下のプロセスで行うことが一般的である。
輸液とは身体が一番必要とする水と電解質を補うことである。細胞外液量を増やすには水分だけでなく電解質も一緒に考えなければならない。これは浸透圧 などの影響を考えないといけないからである。体内に、水分を蓄えるためにはナトリウムの全体量の方が重要であって輸液量、即ち水の量というのは、もう一つ遅れてついてくる。こういったことは正論だがNaの必要量というのも食生活によってNa排出量などが異なることから、経験的に無難な量を選び調節していくしかない。日本人に限っていえば、その経験則はかなり広く知られている。
輸液量の目安としては正常の腎機能ならば尿濃縮力、尿希釈力の限界を考えればわかりやすい。結果を述べると1日当たり最低700ml、最大10000ml尿として排出することができるのでこの範囲ならば特に合併症がなければ問題は起こりにくいといわれている。
様々な輸液理論を参照するために、まずは単位について纏めておく。
単位換算から心不全では生理食塩水を用いるのが好ましくない理由がわかる。生理食塩水とは0.9%の食塩水である。154mEq/Lの電解質を含む。 一方、心不全の患者は基本的に塩分制限3gである。体内への水分貯留をさけるために水ではなく塩を制限している。もし生食で輸液をすると1本(500ml)で4.5gと超えてしまう。
日本人の経口塩化ナトリウム摂取量は12g/dayであるといわれている。よって正常で12g/dayであり、軽度制限で6g/day、中等度制限3g/dayで重度制限0g/dayであるとされている。それを参考に無難な量として4.5g前後で考える。等量として75mEqである。この論理に数理モデルなどはなく経験則である。
維持輸液で必要なのは一日換算にして水分量は2000ml、NaはNaClとして4~6g(68~102mEq)、Kは20~40mEq、である。ST3はちょうどこの組成に一致するようにできている。体格などで、個々人適切な量は異なるが標準的な日本人ならばST3を2000ml点滴をすれば維持輸液は成り立つようになっている。もし自分で作成するのなら、生理食塩水500ml、5%ブドウ糖液1500mlに10%KClシリンジ1A(KCl一日量40mEq、2lにすれば20mEq/lである)を混注して作成すればよい。
多くの患者に対応するため、水・電解質代謝異常を伴うような内科疾患(主に内分泌疾患)がないこと、呼吸不全、循環不全、腎不全といった病態が存在しないことを前提に記述する。このような疾患がある身体のホメオスタシスが狂い、独自の調節法が必要になるからである。
外科に関して言えば、維持輸液、喪失輸液、欠乏輸液の3つの要素に分けて考える。
外科領域では
を用いることができる。しかし、輸液の処方の組み方は医師によってかなりのバリエーションがあり、どれが望ましいとはなかなか言えない。自分が管理しやすい処方を心がけるべきである。治すのは検査数値ではなくあくまでも患者である。
手術中の輸液に関しては様々な理論が存在する。末梢静脈は輸液以外にも薬剤の投与などに必要不可欠であるため輸液の都合だけで投与量を決定できないことも多々あるが目安として以下の経験則が使える。なお、ここでは輸液製剤は細胞外液補充液である。
開腹術 | 5~15ml/kg/hour |
開胸術 | 3~8ml/kg/hour |
脳外科手術 | 2~5ml/kg/hour |
小手術 | 0~2ml/kg |
これらの経験則と言えば経験則だがある程度の理論は存在する。以下の内容を踏まえ微調整していくことが大切である。
体重10kgまで | 4ml/kg/hour |
体重10~20kg | 2ml/kg/hour |
体重20kg以上 | 1ml/kg/hour |
さらに以下のものも考慮する。
手術中は出血量が測れるため問題はないが、出血した場合は血液生化学の所見から輸液量を調整することがある。なお、一般的にショックがおこった場合は0号液即ち生理食塩水を用いる。また、手術中電解質を大量に投与し、術後電解質の投与量を少なくしたいときのために4号液というものが存在する。4号液はこのような用途のため、術後回復液といわれることもある。
小児科においては成人と異なる輸液管理を行う。
小児の脱水は緊急事態であるので輸液治療を行う。高度の脱水は生命を脅かすこともある。1号液を用いるのが一般的である。体重別に目安があり、
参考体重(Kg) | 輸液速度(ml/hr) |
---|---|
10以下 | 100 |
10~20 | 200 |
20~30 | 300 |
30~40 | 400 |
排尿が認められるまでこの速度で輸液を行う。3時間経過しても利尿が得られない場合は小児科専門医の下で入院が必要となる場合が多い。予め採血をしておくと3時間の経過で検査結果がわかり診断にいたる事もある。軽度脱水の場合は初期輸液のみで帰宅させることもある。
年齢別の維持輸液量の目安を示す。腎機能、心機能、内分泌異常、体液喪失が存在する場合はこのかぎりではないので注意が必要である。一般にナトリウムは65mEq/m2/day、カリウムは100mEq/m2/day必要と考えられるため、3号液を用いると以下の量が目安となる。
参考体重(Kg) | 輸液量(ml/Kg/day) | 目安輸液量(ml/day) | |
---|---|---|---|
新生児 | 3 | 65 | 200 |
乳児(1歳以下) | 9 | 100 | 900 |
幼児 | 12 | 70~80 | 900 |
園児 | 15 | 70~80 | 1200 |
学童 | 30 | 50~60 | 1800 |
成人 | 50 | 40~50 | 2000 |
学童、乳児には相当な体重幅があるため、計算式によって導くのが一般的である。図で示すとわかりやすいが、幼小のころは体重あたりに多くの水分が必要とされることがわかる。
熱傷受傷後24時間で投与する総輸液量はバクスターの公式を用いて計算する[1][2]。
バクスターの公式は、
Baxter法=乳酸加リンゲル4ml×熱傷面積(%)×体重(kg)で求められる[1][2]。
平成17年3月25日の厚生労働省の告示により、輸液ラインの規格はISOに統一される。
輸液セットの種類 | |
---|---|
これまで | 15滴/ml、19滴/ml、20滴/ml、60滴/ml |
統一後は | 20滴/ml、60滴/ml・・・のみ |
2のべき乗の法則という法則がひろく知られている。(表:20滴/mlの輸液ラインを用いた場合)
名称 | 輸液速度 | ml/min | 滴数/min | ml/h | 適用 |
---|---|---|---|---|---|
第0度 | very slow | 1 | 20 | 60 | 小児、高張液など |
第1度 | slow | 2 | 40 | 120 | 維持輸液 |
第2度 | moderate | 4 | 80 | 250 | 維持輸液と補充輸液 |
第3度 | rapid | 8 | 160 | 500 | 補充 |
第4度 | very rapid | 16 | 320 | 1000 | 緊急輸液 |
第5度 | extremely rapid | 32 | 640 | 2000 | 緊急輸液 |
維持が目的ならば1時間で100mlが通常であるので、500mlパックならば5時間で行う。上図では1時間120mlとなり500mlパックを4時間位でやるべきとなるが、臨床経過上そこまで大きな差を感じることは少ない。特に重篤な疾患がない場合はある程度あっていれば大きな影響はないとされている。
脱水の評価には様々な指標があるが、絶対的なものではなくそれらを組み合わせて評価するべきである。嘔吐、下痢があり食事や水の摂取が十分でなければ脱水があると考えてよい。腎機能や心機能に問題がなければ細胞外液500mlを2時間程度で輸液すると自覚症状(だるさなど)が改善する。その他の所見としては、口腔粘膜の乾燥、ツルゴールの低下、仰臥位での外頚静脈の不可視などがあげられる。血液学的な所見では血清アルブミンの相対的高値やBUN/Cr>20,などが脱水を示唆する所見である。尿所見では尿浸透圧>500mOsm/Lや尿比重>1.020,部分排泄率としてはFENa<1,FEUN<35などが有名である。但し、部分排泄率は乏尿を伴っていない場合は指標とならないことに注意が必要である。
輸液を用いて電解質の補正を行うことはよくある。リンクを参照すること。
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