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蛆(うじ)、あるいは蛆虫(うじむし)というのは、ハエの幼虫である。一般には、腐肉や汚物などに発生するものを対象としてそう呼んでいる。
ウジと呼ばれるのは、ハエ目短角亜目・環縫短角群に属する昆虫の幼虫である。足は全くなく、頭も見かけ上は存在しない。細長い体には付属物がほとんどなく、頭部の方がとがっているものが多い。後方に気門が開き、そこを水面に出せば呼吸ができる。これは水生昆虫に見られる適応であるが、どろどろにとろけた腐敗物も液状であるから有効な適応である。この仲間の幼虫は全体としては森林土壌や水中、陸上などのさまざまな環境に生息するものがあり、必ずしも不潔なものではない。しかし腐肉や糞などに発生するものがもっとも身近で、しかも印象が強いため、ウジと言えばこのようなものに発生するもののことを指すのが普通である。くわしい構造はハエ#幼虫を参照のこと。
普通、このようなものに発生するハエはイエバエ、ニクバエ、キンバエなどである。これらのウジの体は色白で、偏平でなく頭の方へ細まっている。脚に当たるものはなく、全身を波打たせるようにして進む。人家周辺で見かけるもう一つのウジはコウカアブ類のもので、体の表面はやや硬く、偏平で灰褐色をしており、動きがにぶい。下水周辺などに出没する。本項では前者を中心に記述する。
動物の死体や汚物には即座と言ってよいほど素早く出現する。親バエが直接に幼虫を産むものがあるため、卵が孵化するまでの時間すらかからない。液体化した腐敗物の表面に気門を出し、多数が動くと汚物の表面全体がざわついて見える。便所が水洗化されていない所では、便器の穴や便槽のふたを開けて中をのぞき込めばこの様子が観察できる。
戦争時や、傷の手当や治療が不十分で不潔な包帯を放置された場合など、傷口にウジがわく場合がある。 けが人にとってその感触は極めて不快であるとのことだが、ウジが膿や腐敗した部分を食べることで傷口が清潔になり、むしろ傷の状態がよくなったり、患部を含めた周辺部位まで至る切断や切除を免れる場合がある。第一次世界大戦中、既に傷口にウジが発生した兵士の生存率が突出して高い事には注目が集まっていたと言う。
ウジは、正常な組織や生きている組織を食べることはない上に、殺菌効果のある分泌液を出しながら腐敗した細胞や壊死細胞のみを食べるので、感染症の予防効果がある。また、分泌液は肉芽細胞や毛細血管の再生を促進させる働きもある。
そのため、このことを潰瘍や末期の糖尿病における四肢の壊疽などの治療に積極的に利用する治療法(マゴットセラピー)がある。ただし、もちろんこれは専門医の指導のもと医療用に繁殖させた無菌ウジを使った場合に限る。言うまでもなく、外科治療に関する医学的な知識がないものがウジを用いた治療を試みるべきではない。
日本ではウジが発生することをウジがわくと表現する。これはウジが自然発生するとの印象を与える表現である。恐らく、実際にウジは自然発生的に生じるとの判断が過去にあったものと思われる。先に述べたように、ウジの発生は非常に素早く行われるため、なおさらにその感が強い。
ヨーロッパでもかつて自然発生説はごく普通に信じられていた。これを打破したのがフランチェスコ・レディによる、ウジの自然発生を否定する実験であった。彼は腐肉の入ったビンに布で蓋をすればハエが卵を産めず、そのためウジが発生することはないことを示したのである。
死体や糞便に大量に発生するため、大多数の人間は蛆に対して強い嫌悪感を覚える。蛆のお陰で糞便や死体が処理されることは理解出来たとしても、容認し難い不気味さを覚える人間は少なくない。そのような汚物や不潔にしているものが発生源とされるため、成虫のハエもろとも衛生害虫として認知されている。
蛆、あるいは蛆虫という言葉は不潔で価値の低いもの、汚れたものという意味でも使われ、「男やもめに蛆がわく」という言葉もある。 他人に対して使われた場合には強い侮蔑感を与える。まれに、どこからともなく湧いてくるものの意味として使われることもある。 英語においては、スラング、特に軍隊用語として「蛆虫野郎(Maggots)」と言う表現で罵りに使われる事がある。
このような蛆であるが、釣り用の餌として使われることもあり、養殖も行われている。大抵はニクバエ類の幼虫が養殖されており、その場合には衛生管理下で飼育され、着色されてサシまたはサバムシと呼ばれる。イタリアのサルデーニャ地方には発酵して蛆をわかせたカース・マルツゥと呼ばれるチーズが実在し、珍味とされている。蛆の外見ははちのこに似るが、はちのこ程の美味ではなく、ごく普通の(昆虫の)味であった、との報告がある[1]。
釣り餌としてハナアブ類の幼虫 (Rat-tailed maggot) も使われる。
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