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クロロフィル (Chlorophyll) は、光合成の明反応で光エネルギーを吸収する役割をもつ化学物質。葉緑素(ようりょくそ)ともいう。
4つのピロールが環を巻いた構造であるテトラピロールに、フィトール (phytol) と呼ばれる長鎖アルコールがエステル結合した基本構造をもつ。環構造や置換基が異なる数種類が知られ、ひとつの生物が複数種類をもつことも珍しくない。植物では葉緑体のチラコイドに多く存在する。
天然に存在するものは一般にマグネシウムがテトラピロール環中心に配位した構造をもつ。マグネシウム以外では、亜鉛が配位した例が紅色光合成細菌 Acidiphilium rubrum において報告されている[1][2]。金属がはずれ、2つの水素で置換された物質はフェオフィチンと呼ばれる。抽出されたクロロフィルでは、化学反応によって中心元素を人工的に置換することができる。特に銅が配位したものはマグネシウムのものよりも光や酸に対して安定であり、化粧品や食品への添加物として利用される[3]。
2010年にクロロフィルfの発見が報告された。NMR、質量分析法等のデータから構造式はC55H70O6N4Mgだと考えられている。[4]
クロロフィルのうち、酸素発生型の光合成をおこなう植物およびシアノバクテリアが持つものはクロロフィル、酸素非発生型の光合成を行う光合成細菌が持つものはバクテリオクロロフィルと呼ばれる。
クロロフィル類の構造に含まれるテトラピロール環には、B環およびD環と呼ばれるピロール環の不飽和状態が異なるポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリンの3種類が存在する。どのピロール環も飽和していないものをポルフィリン、D環の C17-C18 結合のみ飽和したものをクロリン、D環の C17-C18 結合およびB環の C7-C8 結合の両方が飽和したものをバクテリオクロリンと呼ぶ。
クロロフィル類の名称は、テトラピロール環の種類および結合している置換基によって区別され、発見された順にアルファベットが付与されている。クロロフィルとバクテリオクロロフィルのアルファベットの順番は一致していない。
位置番号 | C17-C18 結合(環の種類) | C2位 | C3位 | C7位 | C8位 | C17位 | 分子式 | 主な分布 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
クロロフィルa | 単結合 (クロリン) |
-CH3 | -CH=CH2 | -CH3 | -CH2CH3 | -CH2CH2COO-Phytyl | C55H72O5N4Mg | 一般 | |
クロロフィルb | 単結合 (クロリン) |
-CH3 | -CH=CH2 | -CHO | -CH2CH3 | -CH2CH2COO-Phytyl | C55H70O6N4Mg | 植物 | |
クロロフィルc1 | 二重結合 (ポルフィリン) |
-CH3 | -CH=CH2 | -CH3 | -CH2CH3 | -CH=CHCOOH | C35H30O5N4Mg | 藻類 | |
クロロフィルc2 | 二重結合 (ポルフィリン) |
-CH3 | -CH=CH2 | -CH3 | -CH=CH2 | -CH=CHCOOH | C35H28O5N4Mg | 藻類 | |
クロロフィルd | 単結合 (クロリン) |
-CH3 | -CHO | -CH3 | -CH2CH3 | -CH2CH2COO-Phytyl | C54H70O6N4Mg | 藍藻 | |
クロロフィルf | 単結合 (クロリン) |
-CHO | -CH=CH2 | -CH3 | -CH2CH3 | -CH2CH2COO-Phytyl | C55H70O6N4Mg | 藍藻 |
クロロフィルa
クロロフィルb
クロロフィルc1
クロロフィルc2
クロロフィルd
クロロフィルf
クロロフィルのテトラピロール環部分はヒドロキシル基あるいはカルボキシル基などの置換基をもつものが多く、比較的親水性が高い。一方、長鎖アルコール部分は疎水性である。
生体から抽出する場合は、メタノールやエタノールを溶媒とする。乾固されたものは粉末状で、メタノールやエタノールの他、アセトンやジエチルエーテルにも溶解する。文献などに記載されている吸収波長はジエチルエーテル、アセトン、メタノールなどに溶解されたものであることが多い。
植物などから抽出したクロロフィル類は、クロマトグラフィーによって容易に分離することができる。この現象は1906年にミハイル・ツヴェットによって発見され、その鮮やかな色(希: chrōma)から「クロマトグラフィー」の語源ともなった。
クロロフィルは、構造中のテトラピロール環に由来する強い色を持ち、多くはその名の通り緑色に見える。テトラピロールは 450 nm 付近と700 nm付近 に特徴的な鋭い吸収帯を持ち、それぞれ B帯(またはソーレー帯)、Q帯と呼ばれる。吸収波長域はテトラピロール環の種類によって大まかに決定されるが、置換基や結合タンパク質、溶媒の種類など、環境によってシフトする。
酸素発生型光合成系において反応中心色素として用いられるクロロフィルaは、NADPH合成に関与する光化学系I複合体では 700 nm の波長の光を吸光し、水の光分解に関与する光化学系II複合体では 680 nm の波長の光を吸光する。シアノバクテリアを除く光合成バクテリアでは反応中心色素としてバクテリオクロロフィルa もしくはバクテリオクロロフィルb が用いられているが、光化学複合体としての吸収は種によって異なり 750-850 nm である。
光合成において、クロロフィルは光エネルギーを効率よく吸収して化学エネルギーへと変換する、光アンテナとしての役割をもつ。植物の光合成でクロロフィルが光を吸収する過程は2段階あり、それぞれ PSI (光化学系Ⅰ) および PSII(光化学系Ⅱ)と呼ばれる。効率よく光を利用するため、PSI と PSII では利用する光の波長が異なる。
PSII において、クロロフィルa は光を吸収して励起され、励起電子を放出する。クロロフィルa から失われた分の電子は水を酸素に酸化することで補充する。
PSII で発生した励起電子は電子伝達系に受け渡され、プロトンポンプを作動させてプロトン勾配を形成した後、 PSI へと移動する。
PSIのクロロフィルa は光を吸収して励起電子を放出し、この電子はNADPHの生成に利用される。放出した電子は PSII から移動してきた電子によって補充される。
これら光化学系の内外には、集光色素としてのクロロフィル分子が多数存在する。緑色植物では、クロロフィルa とクロロフィルb が主で、ケイ藻や褐藻などの二次共生藻では、クロロフィルc を含んでいる。
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