出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/10/13 12:14:59」(JST)
色収差(いろしゅうさ、英: chromatic aberration )とは、レンズ類で像をつくるときに、レンズ材料の分散が原因で発生する収差で、像の色ズレとしてあらわれる。
光線を透過し屈折させる物質(ここではレンズの光学ガラス)において、一般にその屈折率は一定ではなく、光線の波長(周波数)によって異なる。これを光学で分散と言う。たとえば一般的な光学ガラスであるBK7において、656nm(赤)と486nm(水色)の光では、屈折率はそれぞれ1.5143と1.5224のように分散により異なる。分散が原因で色ズレとして発生する収差を色収差と言う。周辺で発生する倍率色収差と、光軸上でも発生する軸上色収差に分類される。
軸上色収差は絞り込む(F値を大きくする)ことで、収差の原因となっているレンズ周辺部を通る光線をカットし、被写界・焦点深度を深くして抑えることができる。一方、倍率色収差はレンズの中央部を通る主光線でも発生しているため、絞りでは抑えられない。
また、赤外線撮影ではピントがずれるのも、色収差が原因である。特に、後述の手法で補正を行っても、波長の大きく離れた赤外線では残存収差が大きい。
屈折率と分散が異なる硝材のレンズの組を使って色収差の影響を少なくできる。色消しと言う。基本的な手法として、クラウン系ガラスによる凸レンズに、分散が大きいフリント系ガラスによる凹レンズを組み合わせて色ズレをキャンセルする(正確には、定性的には通常は分散が大きいガラスは屈折率も大きく、この理論において定量的に重要なのはアッベ数である)。いわゆる「単玉」と呼ばれる写真レンズがこの2枚を貼合せたものであることが多いが、必ずしも貼合せなくともよい。原理的に、この凸凹1枚ずつの組合せでは、白色光に含まれる光のうち2ヶ所の波長で結像位置を一致させることができる。そのように2ヶ所で色収差が補正されたレンズを「アクロマート」と言う。
エルンスト・アッベは、アクロマートをさらに進歩させ、3つの波長で色収差が補正され、2つの波長で球面収差・コマ収差が補正されている等の条件を満たすものを「アポクロマート」と命名した[1]。現在では、アクロマートの2つの波長に対して、単に3つの波長で色収差が補正されていることを指してアポクロマートと言う[2]ことが多い。
分散の小さい素材を使うだけでは実用的なレンズはできない。たとえば蛍石レンズは分散が小さいが、それでもそれだけの単レンズでは写真レンズで許容できる色収差より1桁大きい[3]。
また前述のようにアクロマートは比較的単純に可能だが、アポクロマートを実現するためにはより面倒な手法が必要になる。ここで「部分分散比」という考え方を導入する。部分分散比とは、2つの異なる波長範囲における光学材料の屈折率差の比である。部分分散比とアッベ数を縦軸と横軸にとり、チャートにプロットすると、通常の光学ガラスはほぼ1本の直線上に乗る。すなわち、ほぼ比例の関係にある[4]。それに対し、蛍石レンズや異常分散レンズといった異常部分分散性の低分散の材料は、分散が小さいだけではなく、この直線から外れている、という性質がある(分散 (光学)#光学ガラスも参照)。
薄レンズ近似のもとで3つの波長で色収差を補正する手法として、分散が異なるが部分分散比が等しい2つの素材を組み合わせるという手法がある[1]。しかし通常の光学ガラスでは前述のようにほぼ直線関係があるため、この手法を実現するためには異常部分分散性の材料が必要になる。
鏡のみで構成した反射光学系には原理的に色収差がない。屈折光学系では色収差から逃れられないと考えたアイザック・ニュートンは反射望遠鏡の研究に進みニュートン式望遠鏡を発明した。
実際天体望遠鏡では反射光学系を採用する例が多く、特に超特大の口径の天体望遠鏡はほぼ反射望遠鏡、もしくは反射望遠鏡に色収差が問題にならない程度に薄い収差補正板を加えた反射屈折望遠鏡である。
レンズと鏡を組み合わせた光学系では若干の色収差が発生するものの、レンズのみで構成した光学系よりその程度を抑えることが可能である。
色収差以外にも、光路が折返されるので望遠レンズの全長を短縮でき軽量になる、安価に製造できる等の利点がある。しかし中央に副鏡を置くためにボケ像がリング状になる、原理上絞りを置くことができず明るさが固定となる、従来のフィルム一眼レフカメラのオートフォーカス方式と相性が悪い[注釈 1]、といった写真機レンズには不向きな点も多い。
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