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自殺 | |
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Le Suicidé(エドゥアール・マネ、1877–1881年)
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分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 |
精神医学 |
ICD-10 | X60–X84 |
ICD-9-CM | E950 |
DiseasesDB | 12641 |
MedlinePlus | 001554 |
eMedicine | article/288598 |
自殺(じさつ)とは、自分で自分を殺すこと[2]。自害、自死、自決、自尽、自裁などとも言い、状況や方法で表現を使い分ける場合がある。疾病や人間関係など解決困難な問題から逃れるために自殺したい状態を自殺願望、具体的な理由はないが漠然と死にたいと思う状態を希死念慮(英語版)と使い分けることがある[3]。
WHOは、世界では毎年約80万人が自殺しており[4][5]、世界の自殺の75%は低中所得国で起こり[5]、自殺は各国において死因の10位以内に入り、特に15〜29歳の年代では2位になっている(2012年)と報告している[4][5]。
自殺は様々な事情が複雑に絡み合って生じる場合が多い[6]。高所得国における主な理由は精神疾患(特にうつ病とアルコール乱用)であり、ほか金銭的問題、人間関係の破綻、慢性痛や病気などがある[5]。WHOは「自殺は、そのほとんどが防ぐことのできる社会的な問題。適切な防止策を打てば自殺が防止できる[7]」としている[6][4]。そのうえでWHOは、一人一人のこの上なく尊い生命を守るため、本格的な予防戦略である世界自殺予防戦略(SUPRE)を実施している。このようなWHOに準ずる形で、各国で行政・公的機関・NPO・有志の方々による多種多様な自殺予防活動が行われている。日本では『支援情報検索サイト[8]』『いきる・ささえる相談窓口[9]』などが設けられていて『もしあなたが悩みを抱えていたら、ぜひ相談してください[10]』と呼びかけている。
疾患 | DALY (100万) |
割合 (%) |
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1 | 下気道感染症 | 94.5 | 6.2% |
2 | 下痢性疾患 | 72.8 | 4.8% |
3 | 大うつ病 | 65.5 | 4.3% |
4 | 虚血性心疾患 | 62.6 | 4.1% |
5 | HIV / AIDS | 58.5 | 3.8% |
6 | 脳血管疾患 | 46.6 | 3.1% |
7 | 未熟児、低出生体重 | 44.3 | 2.9% |
8 | 出生時仮死出生外傷 | 41.7 | 2.7% |
9 | 交通事故 | 41.2 | 2.7% |
10 | 新生児の感染症など | 40.4 | 2.7% |
11 | 結核 | 34.2 | 2.2% |
12 | マラリア | 34.0 | 2.2% |
13 | COPD | 30.2 | 2.0% |
14 | 屈折異常 | 27.7 | 1.8% |
15 | 成人発症性の難聴 | 27.4 | 1.8% |
16 | 先天異常 | 25.3 | 1.7% |
17 | アルコール使用障害 | 23.7 | 1.6% |
18 | 他傷による怪我 | 21.7 | 1.4% |
19 | 糖尿病 | 19.7 | 1.3% |
20 | 自傷行為怪我 | 19.6 | 1.3% |
自殺をどのような概念としてとらえるか、またその法律上の扱われ方は、時代・地域・宗教・生活習慣などによって異なっている[12]。欧米などキリスト教圏では伝統的に自殺は罪と見なされ、忌避されてきた。→#宗教と自殺[注 1]。
自殺が、家族とその他自殺者に以前かかわったことのある人々や、偶然もしくは業務上自殺後の対応にかかわった人、さらに社会に対して及ぼす心理的影響・社会的影響は計り知れないものがある[6]。自殺が1件生じると、少なくとも平均6人の人が深刻な影響を受ける[6]。学校や職場で自殺が起きる場合は少なくとも数百人の人々に影響を及ぼす[6]。
たとえば、高橋祥友によれば「うつ病、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの深刻な危険を生じかねない」「さまざまな深刻な心理的苦痛に圧倒される」「遺された人自身が自殺の危険を伴う事態に追い込まれることすらある」としている[13]。また、河西千秋(2009)によれば、「自殺の事実を知った人の多くは、まず衝撃で頭の中が真っ白になり、すべての感覚がマヒ状態に陥ってしまう」「多大な罪責感にさいなまれ、抑鬱状態になる」「長期にわたり影響が残り続け、心的外傷後ストレス障害などの精神障害を発症する」としている。[14]
自殺を意味する英語でのスーサイド(suicide)という言葉自体の歴史は比較的浅く、『オックスフォード英語辞典』によると1651年、ウォーター・チャールトンの「自殺によって逃れることのできない災難から自己を救うことは罪ではない」という文が初出とされる。この用語の語源は現代(近代)ラテン語の「suicida」であり、「sui(自分自身を)」+、「caedere(殺す)」という表現である[15]。 他にも1662年、1635年という説もあり、いずれにしても17世紀からの使用が定説とされる。それ以前には自己を殺す、死を手にする、自分自身を自由にする、などの表現があったが、一言でまとまってはいない。米国自殺学会のエドウィン・S・シュナイドマン(en:Edwin Shneidman)は「魂と来世という思想を捨て去ることができたとき、その時初めて、人間にとって"自殺"が可能になった」と述べて、観念の変化が反映していると指摘した[16]。来世や魂の不死といったことを信じたとき、死は単なる終わりではなく別の形で「生き続ける」という存在の形態を移したものに過ぎなくなるからである。この概念の登場したのには死生観の変化がある。
このように自殺の問題は「死」をどう捉えるかということと不可分の関係にあり、文化や時代によってさまざまな様相を呈する。
仏教では自殺を「じせつ」と読む。死は永遠ではなく輪廻・転生により生とは隔てがたいと、死生観を説いた。殺生は十悪の一つに数え、波羅夷罪(はらいざい)を犯すものであるとして、五戒の1つであるため、自殺もそれに抵触するとして禁じられているが、真言宗豊山派の寺院石手寺は「自殺者が成仏しないという考えは仏教にはない」という見解を示している[17]。病気などで死期が近い人が、病に苦しみ自らの存在が僧団の他の比丘(僧侶)に大きな迷惑をかけると自覚して、その結果、自発的に断食などにより死へ向う行為は自殺ではないとされる[18]。また仏や菩薩などが他者のために自らの身体を捨てる行為は捨身(しゃしん)といい、これは最高の布施であった。また、焼身往生や補陀落渡海、密教系仏教の入定(即身仏)や行人塚のように人々の幸福のために自ら命を絶った例があった。
その他、複数人の自殺が、近接した時間・場所において実行される群発自殺があり、これはメディア報道がきっかけとなって起こることが多い。群発自殺には、複数の自殺志願者が、お互いに合意の上で同時に自殺する集団自殺がある。インターネット上の自殺サイトを媒介として実行されたことがあった。戦争での集団自決とは異なる。
有名人の自殺の後追い自殺などを連鎖自殺、模倣自殺ともいい、その他一般人の凄惨な自殺を報じるニュースが、模倣者を発生させる現象のことも含めてウェルテル効果ともいう。オーストリアなどでは報道の仕方を変えることで群発自殺を減らせることが実証されている。
その他の類型として、利他的あるいは偽利他的な動機から相手の同意なく他人を自殺行為に巻き込む拡大自殺(Extended Suicide)、自身で直接自殺するのではなく、犯罪を犯して死刑になることで司法の手を借りて自殺しようとする間接自殺などがある。警官を挑発して事件現場で殺害されようと企てる(俗にいう"suicide by cop")場合もある。
自殺は社会的な制度として行われることもある。宗教的な理由から生け贄として自害するなどである。また一部のカルト宗教において、ある種の死によって魂が救われる、と教祖的立場の人間が説く場合に発生することがある(カルトの集団自殺)。自爆テロなどの事例があり、こうした死が殉教と見なされる場合もある[19]。
自殺に関連、また類似したものとして以下のものがある。
末期のがんや病気などで多大な苦痛を伴い死が目前と差し迫っている患者は、アメリカ、オランダ、スイスなどの国々では薬物投与などにより苦痛を伴わずに死を選択することができる安楽死が法律で認められている。
尊厳死は無用な延命治療を拒み、患者の尊厳が損なわれるのを避けるという理念であり、1994年に日本学術会議は、尊厳死容認のために、
以上の3つを条件として挙げている。
なお、米国では病院内での重大な医療事故の最多のものは自殺であるという[20]。日本での日本医療機能評価機構による調査では、調査の3年間に29%の一般病院(精神科病床なし)で自殺が起こっている。その自殺者の入院理由となる疾患は、35%が悪性腫瘍(ガン)である。
自傷段階の場合、現世への希望をまだ諦めきっていないため、なんらか事態の改善につながる助けを求めている傾向があるとされるが、自殺ではコミュニケーションを求める行為はほとんどみられず、またそのような心の余裕もないことが多い[21]。
以下、Walsh(2005)による自傷行為と自殺未遂の判定表を挙げる。ただし、双方は死への意図のあるなしではなく強弱の同一線上にある例も多いため、一種の指標として柔軟に用いるのが望ましい。
番号 | 項目 | 自傷行為 | 自殺企図 |
---|---|---|---|
1 | 行為そのもので期待されるもの | どうにもならない感情の救済(緊張、怒り、空虚感、生気のなさ)。 | 痛みから逃れること。意識を永久に終わらせること。 |
2 | 身体的ダメージレベル、および潜在的に行為が死に至る確率 | 身体的にはあまり強くないことが多い。致死率はあまり高くない方法を好む。 | 深刻な身体ダメージを及ぼすことが多い。致死率が非常に高い方法を好む。 |
3 | 慢性的、反復的であるかどうか | 非常に反復的である。 | 反復的なことは少ない。 |
4 | 今までにどの程度の種類の行為を行ってきたか | 2つ以上の種類の方法を繰り返し行う。 | 主に1つの方法を選ぶことが多い。 |
5 | 心理的な痛みの種類 | 不快感、居心地の悪さが間欠的に襲ってくる。 | 耐えられない感情が永続的に続く。 |
6 | 決意の強さ | もともと自殺するつもりは強くないのでそれほど強くはない。他の選択肢を考えることもできる。一時的な解決を図ろうとして行ってしまうことが多い。 | 決意が並外れて強い。自殺することが唯一の救いとしか思えない。視野が狭い。 |
7 | 絶望、無力な感じがどの程度あるか | 前向きに考えられる瞬間と、自分をコントロールする感覚を少しは保っている。 | 絶望、無力感が中心で、一瞬であってもその感情を外すことができない。 |
8 | 実行することで不快な感情は減少したか | 短期的には回復する。間違った考え方も感情も行為そのものによっておさまる。「意識の変化」を起こす。 | まったく回復しない。むしろ自殺がうまくいかなかったことによってさらに救いがもてなくなる。即時の治療介入が必要。 |
9 | 中心となる問題は何であるか | 疎外感。特に社会の中での自らのボディ・イメージ(アイデンティティにもつながる)が築けていないこと。 | うつ。逃れられない、耐えられない痛みに対する激しい怒り。 |
いずれの場合でも状況を一見しただけで安易に自殺であると断定するのは拙速であることがあり、特に有名人の自殺に関しては多くこの問題が取り上げられる。
警察の捜査で自殺と断定された事件が事故または殺人事件ではないかと疑われる例は以前から存在している。反対に、自殺であるにもかかわらず、遺族が故人の自殺を恥じるなどの理由によって事故とされている場合も存在するのではないか、ともいわれている。
日本では、徳島自衛官変死事件のように遺族とのトラブルや訴訟となった例もある。また、日本で起きた生坂ダム殺人事件は、警察により自殺として処理されたが、発生から20年後に犯人が名乗り出たため、殺人事件であることが判明している。
なお、警察庁統計では、解剖による鑑定において自殺と断定された案件においても遺書が残されている件は半数以下である。また、遺書の真贋を本人に質問できないので偽造や執筆強要だとしても認定が難しい[22]。
死亡しなかった場合は「自殺未遂」(じさつみすい)という。
世界銀行による 地域区分 |
世界 人口比 |
自殺者数 (2012年) |
全世界自殺者 に占める比率 |
人口10万あたり自殺率 (年齢標準化,2012年) |
自殺者の 年齢標準化男女比 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
男女 | 男 | 女 | |||||
全世界 | 100.0% | 804 千人 | 100.0% | 11.4 | 8 | 15 | 1.9 |
高所得国 | 18.3% | 197千人 | 24.5% | 12.7 | 5.7 | 19.9 | 3.5 |
上位中所得国 | 34.3% | 192千人 | 23.8% | 7.5 | 6.5 | 8.7 | 1.3 |
下位中所得国 | 35.4% | 333千人 | 41.4% | 14.1 | 10.4 | 18 | 1.7 |
低所得国 | 12.0% | 82千人 | 10.2% | 13.4 | 10 | 17 | 1.7 |
世界保健機関(WHO)によると、世界では40秒に1回程度の自殺が起こっており、世界の死因の1.4%を占め第15位である(2012年)[24]。これは高所得国では1.7%、低中所得国では1.4%となる[24]。
自殺の統計は、疾病及び関連保健問題の国際統計分類[注 2]に基づいているので国際比較が可能である。疾病及び関連保健問題の国際統計分類における自殺のコードはX60-X84[25][26]である。また、アフリカや東南アジアは、多くの国で統計が入手できていない[27]。
WHOの『暴力と健康に関する世界報告』では、2000年における世界全体の暴力死が、自殺が815,000、他殺が520,000、戦争関連死が310,000と見積もられ[28]、「これら160万の暴力関連死の1/2近くが自殺、ほぼ1/3が他殺で約1/5が戦争関連である」と述べられている[注 3][29]。この結果を、世界全体の暴力死では戦争によるものよりも自殺によるものが多い、と述べた資料もある[注 4]。
ただし、アフリカや東南アジアについては、多くの国で自殺についてまとめた統計が存在しない。このため、自殺に関する国際的なデータでは、アフリカや東南アジアの国々については省かれていることが多い[30]、
WHOによると、世界の15-29歳成人の死因において、自殺は8.5%を占め第2位である(1位は交通事故)[24]。30-49歳成人では4.1%であり第5位であった[24]。とりわけ低中所得国と東南アジアにおいては、自殺は15-19歳成人の死因の16.6〜17.6%と高く、男女ともに第1位であった[24]。
世界的には、男性は女性の3倍の自殺しているとWHOは報告している[31]。日本でも自殺者の70%以上が男性であり、人口10万あたりの年齢調整自殺率は男性26.9、女性10.1、男女では18.5となり(2012年) [32]、日本における自殺の男女比は平均的なものである[24]。
カトリーヌ・ヴィダルらは、失業時や離婚時に男性の方に負荷が集中しやすいことを指摘、失業や離婚をした場合、女性であれば家族や社会の状況に組み込まれて保護されるのに対し、男性は社会的に孤立を余儀なくされることを挙げている[33]。
過去の自殺試行は最大のリスクファクターである[34]。また自傷行為は自殺リスクと関連性があり、自傷行為を行う人は12か月後の自殺死亡リスクが50-100倍であると英国国立医療技術評価機構(NICE)は報告している[35]。
気分障害 | 35.8% |
薬物乱用 | 22.4% |
統合失調症 | 10.6% |
パーソナリティ障害 | 11.6% |
器質性精神障害 | 1.0% |
その他の精神疾患 | 0.3% |
不安障害 | 6.1% |
適応障害 | 3.6% |
その他のDSM分類Iの疾患 | 5.1% |
診断なし | 3.2% |
WHOの自殺予防マニュアルによれば、自殺既遂者の90%が精神疾患を持ち、また60%がその際に抑うつ状態であったと推定している[37][注 5]。該当しなかったのは、診断なし2.0%と適応障害2.3%に過ぎないとしている。物質関連障害(アルコール依存症や麻薬)の比率については日本の状況と大きくことなるものの[注 6]。
WHOの2008年の発表では、毎年100万人近くの自殺者のうち、うつ病患者が半数を占めると推定している[38]。WHO は自殺と密接に関連しているうつ病など、3種の精神障害を早期に治療に結びつけることによって、自殺予防の余地は十分に残されていると強調している。
物質乱用は、大うつ病や双極性障害に起因する自殺で、2番目に一般的なリスクファクターである[39]。慢性的な物質乱用は、薬物中毒と同程度の関連性が認められている[40][41]。個人的な悲しみ[41]、メンタルヘルス問題[40]は物質乱用リスクを増加させる。
自殺を試みる多くの人々は、催眠鎮静剤(アルコールやベンゾジアゼピンなど)の影響を受けており、[42]、アルコール依存症は15-61%のケースで確認されている[40]。アルコール消費量やバーの分布が高い国々では、自殺率も高い[43]。アルコール依存治療を受けた人々は、その2.2〜3.4%が自殺で人生を終える[43]。アルコール依存症による自殺は、男性、老人、過去に自殺を試行した人々らで一般的である[40]。ヘロイン利用者の3-35%は自殺し、これはそうでない人の14倍高い[44]。青年期のアルコール乱用、神経精神的不全は自殺リスクを増大させるといわれている[45]。
コカインやメタンフェタミン乱用は、自殺と高い関連性がある[40][46]。コカイン利用者は、その離脱時が自殺リスクが最大となる[47]。習慣的乱用者は、そのおよそ20%がいつかは自殺を試行し、65%は以上は自殺を考えている[40]。喫煙は自殺リスクと関連性があり[48]、エビデンスは小さいが関連性が指摘されている[48]。大麻はリスクを増加させるとは確認されていない[40]。
ギャンブル依存症は、一般人口と比較して自殺念慮と実行リスクを増加させるとされている[49]。病的ギャンブラーの12-24%が自殺を試みており[50]、その配偶者では自殺率が一般人口の3倍となっている[50]。また病的ギャンブラーは、精神疾患、アルコール乱用、薬物乱用リスクも増加する[51]。
日本の自殺者305名の遺族を対象にした調査を元にした危険複合度の分析によれば、主な根本要因として「事業不振」、「職場環境の変化」、「過労」があり、それが「身体疾患」、「職場の人間関係」、「失業」、「負債」といった問題を引き起こし、そこから「家族の不和」、「生活苦」、「うつ病」を引き起こして自殺に至る[52]。つまり統計的に見ると、自殺の根本要因には社会的な要因があることが多い[注 7]。しかし、失業率が高い国は世界には多くあるが、例えばスペインの失業率は20%を超えているが自殺が社会問題とはなっていない[53]。各国ごとのジニ係数と自殺率には相関がみられず[54]、これは所得格差が自殺率と相関が少ないことを意味する。ただし、ジニ係数は自殺未遂率とは有意な相関がある[54]。
WHO自殺報道ガイドライン[55]
すべきではないこと
センセーショナルな自殺報道がなされた場合に、他者の自殺に影響されて複数の自殺を誘発すること(群発自殺(clustered suicide、Copycat suicide))が統計的に知られており、この事実を実証した社会学者のDavid P. Phillips[56]によりウェルテル効果と名づけられている[57]。
自殺報道にはこうした負の影響があるため、世界保健機関は2000年「自殺を予防する自殺事例報道のあり方」において「写真や遺書を公表しないこと」「自殺の詳しい内容や方法を報道しないこと」「自殺に代わる手段(alternative)を強調すること」「ヘルプラインや各地域の支援機関を紹介すること」などを勧告した[55]。2011年、内閣府参与の清水康之は、日本における「自殺報道ガイドライン」の策定を提案した[58]。
報道方法を変えることにより、自殺数を減らすことに成功した例として、1984年から1987年にかけてオーストリアのウィーンでジャーナリストが報道方法を変えたことで、地下鉄での自殺や類似の自殺が80%以上減少し、自殺率を減らす効果があったといわれる[59][57]。
フィンランドでは、自殺の報道方法変更を含む諸対策により、自殺率の減少を達成している[60][37]。
世界保健機関(WHO)の自殺予防に関する特別専門家会議によると、自殺の原因は個人や社会に内在する多くの複雑な原因によって引き起こされるものの、自殺は予防できることを知ることが大切で、自殺手段の入手が自殺の最大の危険因子で自殺を決定づける、とした。毎年9月10日は「世界自殺予防デー」として、世界保健機関と国際自殺防止協会( IASP=The International Association for Suicide prevention)、その他の非政府組織によって、世界保健機関加盟各国で自殺防止への呼びかけやシンポジウムが行われている。日本でも16日までの1週間を自殺予防週間と定めており、地方自治体や関係機関が9月に各種啓蒙運動を行っている。
日本における自殺対策としては相談室の設置、カウンセラーの増強などの対策が取られている地域がある(各都道府県・都市の相談窓口一覧[3])。2006年10月28日には自殺対策基本法が施行され、毎年自殺対策白書が発表されている。ほか、ボランティアらによって営まれているいのちの電話(日本いのちの電話連盟)が、相談のための電話を24時間受け付けている[4] [61]。
新たに、治療抵抗性うつ病を6時間以内に緩和するケタミンが、同時に自殺念慮を顕著な減少させる作用が注目されており、ケタミンを抗自殺薬と分類するには時期尚早であるが、重篤なうつ病患者の自殺の危険性を考慮すると有望であると、アメリカ国立精神衛生研究所(英語版)の所長は述べている[62]。
アメリカの成人の全国調査では、19万人から生涯におけるシロシビンとLSDの使用が、心理的苦痛や自殺思考、また自殺計画や自殺企図の減少と関連していることがわかった[63]。研究者は統計という研究性質から、幻覚剤がこうした効果を起こしたという結論はできないとしている[63]。
NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンクが運営する「生きる支援の総合検索サイト」である『いのちと暮らしの相談ナビ[64]』では、多様な悩みに応じた相談窓口を検索できる。また、『いきる・ささえる相談窓口(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)[65]』でも、日本全国の各地域ごとのさまざまな相談窓口が紹介されており、「悩みを抱えて孤立した人が一人でも多く支援につながること、そのことが自殺を防ぐ[66]」という理念から相談窓口への相談を訴えている。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国では自殺は2010年の死因トップ10に入り、年間38,364人、一日平均で105人が自殺しており、その医療・労働損失コストは346億米ドルになると推定されている[68]。米国の18歳以上の成人について、2008-2009年の間、830万人(人口の3.7%)が自殺を考え、220万人(人口の1.0%)が自殺計画を立て、100万人(人口の0.5%)が自殺を試みている[68]。自殺念慮者の25人のうち1人は自殺を完遂する[68]。
全国暴力死亡報告システムによれば、2009年では33.3%のケースでアルコール、23%のケースで抗うつ薬、20.8%でオピオイドが検出されている[68]。10代では、小火器(拳銃など)による自殺が全体の49%を占めている[69]。銃による自殺が多い理由にはその致死率の高さと手軽さが挙げられる。詳しくは#銃による自殺を参照。
アメリカでは、一部の州で、自殺幇助が合法化されている。このため、終末期ではない病人や、精神障害者が自殺を望む場合、医師は治療する方向ではなく致死薬を処方する場合があるとされる。抗がん剤治療の公的保険給付は認められないが、自殺幇助なら給付を認める事例もあるとされる[70]。
アメリカでは、退役した軍人が毎日18人前後、自殺している。特に、イラクやアフガニスタンなど戦地に赴いた経験のある元兵士の自殺率は高く[要出典]、男性の元兵士の自殺率は、アメリカ成人男性の率の2倍、女性の場合は平均の3倍となっている。平均のアメリカには、伝統的に軍での厳しい訓練が自殺を抑制するとの考えがある。しかし、退役軍人省の研究によれば「軍事訓練にはもはや十分な自殺防止効果がないのかもしれない。ただしそれを裏付けるデータはない」としている[71]。アメリカ軍では、2005年以来、自殺率が増加している。戦闘経験や戦場への派兵が原因ともされているが、2001年から08年の間に自殺した83人の質問票データを分析した結果では、自殺リスクの増加と、戦闘経験や戦場への派兵回数・累積日数には関連性は無いとされる[72]。
アメリカ軍人の自殺にマラリア予防薬メフロキンの関与が示唆され、2008年以降に段階的な使用量の削減が図られ、2013年に禁止された。その後、自殺率は減少していない。
2016年4月22日に発表された疾病予防管理センターの調査では、1999年から2014年まで、米国の自殺率が24%増加している。このうち、特に10〜14歳の少女について上昇が顕著で、3倍に増えている。児童精神医学の専門家は、ネットいじめの影響の可能性を指摘している[73]。
17-18世紀のイギリスは自殺大国として知られ、自殺はイギリス病とも呼ばれた[74]。イギリスではかつて自殺は犯罪とされ、自殺未遂者は処罰され投獄されていたが、1961年の自殺法(英語版)の成立によって自殺は犯罪ではなくなった[75]。
ニキビ治療薬のイソトレチノインを使用中に自殺が多発したことで問題となった[76]。主に10〜20代がニキビ治療薬を使用すると考えられ、自殺者の殆どが若者であったとみられる。
他のニキビ治療薬を使用中の自殺は目立っていないことから[76]、原因不明の自殺として知られている。現在も原因解明に向けての活動がある[77]。
カナダは、国家規模での自殺防止政策が存在しない数少ない国の一つである。特に先住民のイヌイットなどの自殺率は非常に高い。イヌイットの自殺率は、2001年の保健省調査によると、10万人あたり135人で、カナダ全体の10万人あたり12人の11倍を超えた。また、イヌイットの自殺で目立つのは若者の自殺であり、自殺者の83%は30歳未満である[78]。
2016年4月9日には、1日だけで11人の先住民が自殺を図るという事件が起こった[79]。
中華人民共和国(人口13億人)における自殺者数は、2003年は年間約25万人強[80]、2005年は約29万人(うち女性は約15万人)となっている[81]。特に、15 - 34歳の若年層を中心とした年代では、自殺は死因のトップとなっている[82]。都市と比べ貧しい農村部では自殺率が3倍ほど高くなる、男女別では、女性の方が若干多く(国の自殺率順リストを参照)、日本を含む他のほとんどの国では男性の自殺者の方が多いのと対照的である。自殺の要因については、ドメスティックバイオレンス(女性)[81]、夫の不倫(女性)[82]、「生活や就職」[82]などが挙げられる。
また、チベット問題に揺れるチベット自治区では、漢族によるチベット人への弾圧や虐殺に抗議するため、焼身自殺を行うチベット人が後を絶たない[83]。
また、中国広東省広州市は、2008年6月に多発する自殺ショーと呼ばれるパフォーマンスの取り締まり強化を行った。自殺ショーとは、自殺すると見せかけ高層ビルの屋上などで「自殺する」と騒ぎ立て、未払い賃金支払いなどを訴え、見返りとして未払い金の支払いを要求をするというもの。自殺ショーが行われるたびに、警察車両や救急車両が出動し、交通渋滞などの原因にもなっていた。そこで広東省広東市は自殺ショーを迷惑行為と位置づけ、ショーを数回にわたり実施した者に対する罰則を規定した[84]。
韓国でも他のほとんどの国と同様、男性のほうが女性よりも2.5倍程度自殺しやすいものの、男女比は日本よりも若干低く[24]、20代では男性より女性の方が自殺者数が多いとの報告がある[85]。日本と同様に近年自殺者数が急増しており、ここ数年は日本よりもはるかに高率となっている。なお、2009年以降はOECD諸国最高値となっている[86]。韓国の場合、高齢者に自殺が偏っており、60歳以上の自殺率は、2009年は10万人あたり68.25人、2010年は69.27人と極めて高く、その背景には高齢者の生活不安が解消されていないことにあると考えられている[87]。
東亜日報が、韓国の小学校4、5、6年生に調査したところ、2割が「自殺したいと思ったことがある」と回答するなど、韓国人は幼少時から激しい不安感を感じているとされる[88]。
スイスは自殺が多い国として知られていたが、近年は減少傾向にあり、1991年から2011年までの間に、スイスの自殺率は10万人に20.7人から11.2人まで減少している。かつてはタブー視されていた精神病の存在が徐々に認められ、患者が助けを求めやすくなったことが背景にあるという。スイスでは、人生のある時点で自殺を企てる人は10人に1人。また、5割の人が死ぬことを考えたことがあるとされる。また、スイスでは、自殺幇助が認められており、幇助者に直接の利益がない場合は自殺幇助は犯罪とされない。スイスの自殺の5件に1件は、幇助者の協力によるものとされる[89]。
自殺幇助が合法となっているため、例えば末期患者が自殺を望めば、病院の医師は自殺のために協力する。このため、スイスを訪れる末期患者の外国人が年々増加しており、社会問題となっている。自殺幇助はスイスで圧倒的な支持を得ており、国民投票でその是非が問われた時でも、自殺幇助禁止には85%、自殺旅行禁止には78%が反対票を投じ、いずれも否決された[90]。スイスには、自殺幇助を専門に扱う非営利の団体が存在している。外国人も積極的に受け入れるディグニタスや、スイス永住者に限定するエグジットなどが存在する。近年[いつ?]、彼らを利用する顧客は増加傾向にある[91]。
スイスは銃社会であり、自殺にも銃を用いる傾向にある。その割合はヨーロッパ最高であり、自殺者の24%から28%が銃で自殺している。また、特に男性が銃による自殺を選択する傾向があり、銃による自殺者の95%は男性となっている。スイスでは、国による自殺を予防するプログラムは存在しないが、州による自殺予防プログラムがある[92]。
現在[いつ?]と事情は異なるが、エミール・デュルケームによる1897年の著作「自殺論」では、スイスの州別自殺率について触れられており、カトリック系ドイツ人の州の自殺率は87/100万、カトリック系フランス人の州の自殺率は83/100万、プロテスタント系ドイツ人の州の自殺率は293/100万、プロテスタント系フランス人の州の自殺率は456/100万と、地域別に見て大きな開きがあった[93]。
フランスはヨーロッパで最も自殺率の高い国の一つであり、G8中でも、ロシアや日本に次いで自殺率が高い国である[94]。自殺の方法として最も多いのは首吊りであり、猟銃での自殺や、飛び降り自殺、列車に飛び込むといった手法も使われる。2009年以降、経済悪化を背景に、フランスの自殺者は増加傾向にある[95]。
仕事のストレスによる自殺もある。フランスでは2000年から一週間に35時間以上の労働を基本的に禁じる週35時間労働制が施行されている。そのため、一般の労働者に過労死などは基本的に起こりえないとされる。しかし、こうして減らされた労働時間を取り戻すために、企業は労働者に更なる結果を求める傾向にあるため、労働者にはストレスが掛かり、多くの暴力事件や自殺者を生み出しているとの指摘がある[94]。フランステレコム(現:Orange)では、2008年2月から2009年9月の約1年半の間に、23人もの自殺が発生し、社会問題となった。職場で自殺をしたり、仕事が原因で自殺するとの遺書を遺したケースもある[96]。この一連の自殺では、1週間の間に5人が立て続けに自殺したこともある[95]。
ベルギーは、フランスなどと同様に、ヨーロッパで最も自殺率の高い国の1つであり[95]、特にオランダ語圏のフランドル地方はヨーロッパで最も自殺が多く、10人に1人が自殺しようと思ったことがあるという調査もある。自殺の理由は、親とのコミュニケーション、学校の成績、いじめ、恋愛、喧嘩などである[97]。
ドイツにおける自殺者の推移は右のグラフのとおり。
フィンランドは自殺大国として有名であり、1990年には国民10万人のうち30人が自殺しており、1991年には10代の自殺率が世界1位を記録している。その後、自殺率は大幅に減少して、2007年には10万人のうち18人となっている。自殺が減少した要因として、うつ病治療の改善などに取り組んだ結果とも言われるが、フィンランド国立公衆衛生研究所でも、詳しい理由は不明としている。また、若い男性の自殺率は依然として高く、20歳から34歳の男性における死亡原因は自殺がトップとなっている[98]。フィンランドの自殺率の急激な減少は、高い自殺率に悩む日本でも注目されており、内閣府などもフィンランドの取り組みを研究している[99]。
ロシアは、世界で最も自殺率の高い国である。1990年には、10万人あたり26.5人だった自殺者は、1995年には41.5人に急増している。ロシアの自殺者の増大は、男性の平均寿命を押し下げている要因の一つとなっている。本来であれば、医療技術の進歩や栄養・公衆衛生の改善によって上昇していくはずの平均寿命だが、ロシアでは経済が発展しているにもかかわらず、1965 - 1966年平均の69.5歳をピークに寿命の低下が進行しており、1990年に69.2歳、2000年に65.36歳、そして2002年には64.8歳となった。この平均寿命の低下と、少子高齢化の進行により、ロシアは急激に人口が減少している[100]。ただ、近年は自殺率が低下傾向にあり、2012年の統計では、人口10万人あたり、自殺者は20人ほどとなっている[101]。
ニュージーランドでは、保健省の発表によれば、1983年 - 2003年の間に自殺者数が減少する一方で、自殺未遂者が増加しているという(自殺では男性の割合が多いのに対して、自殺未遂での入院では女性の割合が多い)[102]。1980年代から自殺者が増加しだしており、2003年では10万人あたり11.5人となっている。特徴的な点として、若者の自殺が多く、年代別では25歳 - 44歳の自殺死亡率が最も多くなっている[103]。ニュージーランドの若者の自殺は、経済協力開発機構の中でも高い部類になる。また、民族別では先住民のマオリの自殺率が、ヨーロッパ系やアジア系に比べても最も多い。マオリもまた、若者の自殺が多い傾向にある[104]。
本来のイスラム教では、自殺も殺人も禁じられている。かつ、統計学的にみてもイスラム諸国における自殺率は国際的にみて著しく低い傾向がみられる。現代のイスラム世界においても、自殺を行って死んだ者は地獄に落ちると強く信じられる傾向があり、かつ自殺者に対する社会的な偏見も強いということが原因として考えられる。しかし一方で、聖戦(ジハード)の犠牲者は天国へ行くという概念があり、自殺を伴う攻撃が正当化されることがある。そのためなんらかの事情で困窮した若者が、過激派の自爆テロ要員としてスカウトされやすいとされる。ただし、穏健派は民間人を巻き込むようなテロはジハードに当たらないと一般的に考えている。
2014年現在、日本における自殺者数は世界各国と比べて大きい値であり、10万人あたりの自殺率はOECD平均の12.4人と比べ、日本は20.9人であった[105]。OECDは、「日本の精神医療制度はOECD諸国の中で、精神病床の多さと自殺率の高さなど悪い意味で突出している」[105]、また日本はうつ病関連自殺により25.4億ドルの経済的損失をまねいていると報告している[106]。
1978-1997年での年間自殺者はおおよそ2万5千人台であったが[107]、1998年には3万2千人にまで上昇し [107]、この時期はすべての年齢層で上昇していたが、とりわけ中高年男性が高いとWHOは報告した[107]。そのため、2006年には自殺対策基本法が制定、2007年には自殺総合対策大綱が制定された[107]。
その後自殺率は2009年からは徐々に減少し[107]、2010年には30千人以下[107]、2012年の総自殺者数は27858人に減少した[108]。中年および老年の自殺率は減少しているが、一方で若年者の自殺率については上昇を続けているため[108][107]、WHOは新たにターゲットを設定しなおした介入政策が必要だとしている[107]。そのため2012年には、自殺総合対策大綱について、若年層と過去に自殺試行した者についての支援を強化する方向に改定された[107]。
2014年の自殺者は2万5374人であり、2013年より7%減り、2009年より5年連続で減少している[109]。
都道府県別で見ると、2014年において最も自殺率が低いのは大阪府であり、10万人当たりの自殺者は15.7人である[110]。一方、2014年において最も自殺率が高いのは岩手県であり、10万人当たりの自殺者は26.6人である[111]。
2016年の自殺数は2万1764人で、22年ぶりに2万2000人を下回った。また、女性の自殺数は6747人で、統計を取り始めた1978年以降で、最も少なくなった[112][113]。
日本における自殺の動機の3人に2人は心身の健康問題で、借金などの生活苦と家庭問題はそれぞれ5人に1人であることが2016年中の厚生労働省と警察庁の分析により判明した。具体的にはうつ病など健康問題が11,014人(67.6%)、生活苦、借金などの7経済・生活問題が3,522人(21.6%)、家族内の不和など家庭問題が3,337人(20.5%)であった。2015年度もほぼ同様の傾向であった[114]。
自殺の歴史は古く、紀元前の壁画などにもその絵や記述が残されている。古代ギリシャの詩人サッポーは入水して死亡したという説がある。
重大な犯罪を起こして死刑を免れない状況に陥った貴人が、公衆の前で処刑されるという屈辱を免じてその名誉を重んじさせる意味で、自殺を強要されることがあった。律令制国家における皇族や高位者が死刑判決を受けた場合に、自宅での自殺をもって代替にするのを許したことや、戦国時代から江戸時代初期にかけての日本における武士階級に対する切腹処分などがこれにあたる。賜死の形態を取ることも多く、洋の東西を問わずみられる現象であり、ルキウス・アンナエウス・セネカなどが知られる。諸説あるが、荀彧も主君曹操に死を強要されたとの説がある。
キリスト教においては基本的に、自殺は重大な罪だとされるが、キリスト教で自殺に対する否定的道徳評価が始まったのは、4世紀の聖アウグスティヌスの時代とされる。当時は殉教者が多数にのぼり、信者の死を止めるために何らかの手を打たねばならなくなっていた。また10人に1人死ぬ者を定めるという「デシメーション」と呼ばれる習慣のあったことをアウグスティヌスは問題にした。アウグスティヌスは『神の国』第1巻第16-28章において、自殺を肯定しない見解、自殺を罪と見なす見解を示した。神に身を捧げた女性が捕虜となって囚われの間に恥辱を被ったとしても、この恥辱を理由に自殺してはいけない、とした。またキリスト教徒には自殺の権利は認められていない、と述べた。「自らの命を奪う自殺者というのは、一人の人間を殺したことになる」とし、また旧約聖書のモーゼの十戒に「汝、殺すなかれ」と書かれている、と指摘し[115]、自殺という行為は結局、神に背く罪だ、とした。アウグスティヌスは「真に気高い心はあらゆる苦しみに耐えるものである。苦しみからの逃避は弱さを認めること」「自殺者は極悪人として死ぬ。なぜなら自殺者は、誘惑の恐怖ばかりか、罪の赦しの可能性からも逃げてしまうからだ」と理由を述べた。
693年には第十六回トレド会議(英語版)において自殺者を破門するという宣言がなされ、のちに聖トマス・アクィナスが自殺を生と死を司る神の権限を侵す罪であると述べるに至って、すでに広まっていた罪の観念はほぼ動かしがたいものになり[116]、自殺者の遺族が処罰されていた時代[117][118]や、自殺者は教会の墓地に埋葬することも許されなかった時代もある。
ダンテの叙事詩『神曲』においては、自殺は「自己に対する暴力」とされており、地獄篇の第13歌には醜悪な樹木と化した自殺者が怪鳥ハルピュイアに葉を啄ばまれ苦しむという記述がある。
ドイツの哲学者ショーペンハウエルは『自殺について』のなかで、キリスト教の聖書の中に自殺を禁止している文言はなく、原理主義的にいえば、自殺を禁じているわけではないため、「不当に貶められた自殺者の名誉を回復するべきだ」とした。
日本で最も古い自殺に関する伝承は、『古事記』のヤマトタケルの妃弟橘比売命(オトタチバナヒメノミコト)の伝承である。
中世には、弘安7年(1284年)あるいは延慶2年(1309年)、文保元年(1317年)が没年とされる足利尊氏の祖父足利家時が八幡大菩薩に三代後の子孫に天下を取らせよと祈願した置文を残して自害したという伝説が残るが(『難太平記』)、自害した事実を含め定かではない。戦国期には天文22年(1553年)に織田信長の傳役平手政秀が死をもって信長の行動をいさめたとされる事例などもある。
足利義輝など最後は戦闘の末、敵兵に討ち取られた人物が、義輝と付き合いのあった山科言継の日記「言継卿記」には、その最後が自殺となっているなど、改変されて記録されている者もいる。これも雑兵に討ち取られるよりは、自害の方が名誉ある死と考えられていたためである。これらは現在でも国語の教科書に掲載され、日本の武家文化の一つとして継承されている。
カトリック洗礼を受けていた細川ガラシャは、武士の妻としては自害すべきだったが、キリスト教徒としては自殺できず、家臣に胸を槍で突かせた。なお日本におけるキリシタンに対する迫害が強まった時代において、キリシタンに対して棄教するよう強烈な圧力がかけられていた際に、クリストファン・フェレイラのように幕府による拷問に耐えかねて棄教した者もいれば、最後の最後までキリスト教に対する信仰を放棄しないで殉教したキリシタンもいる。日本におけるカトリック教会は、ペトロ岐部など殉教したキリシタン187名を祝福し、2008年には長崎県営野球場において列福式が実施された。
鎌倉以来武士は江戸時代初期までは主君に死罪を自ら行う切腹を命じられても、従容として死につくのではなく、ある程度の抵抗を示した後に主君側に討ち取られる以外に選択肢がなくなってから自害することが「武士の意気地」とされた。ところが、江戸時代中期になると、従容として腹を切ることが「潔い」とされるようになる。これは家門の存続が個人の武名以上に重要な価値をもつようになったなってきたことが大きな要因となっているが、徳川の文治政治の進展とともに連座が緩和されたため、制裁が決まる前に単独で一命をもって責任を取れば、多くの場合において家門もしくは家族の存続は許されたからでもある。なお、女性の場合は切腹ではなく喉を短刀で突くのが武家における自害の作法とされた。
また、江戸時代には大坂や江戸を中心に心中が庶民の間に流行した。これは近松門左衛門の『曾根崎心中』を代表とする「心中もの」の芝居や浄瑠璃が評判を呼んだことによる影響と考えられている。この世を憂き世として忌避し、あの世で結ばれるとして男女が自殺に及んだ。これに対し、幕府は心中禁止令を出すとともに、心中死体や心中未遂者を3日間さらし者にした上で、未遂者は被差別階級に落とすという厳罰を実施している[119]。
近代においては明治天皇崩御のおりに殉死した乃木希典・静子夫妻が世論の称賛を浴びた。明治以降は日本の自殺率は1936年まで20人前後と緩やかな上昇傾向にあったが、戦争の影響で減少し戦前戦後を通じ最低レベルとなった。国家総動員法(1938年制定)下の時代情勢によるとされ、また詳細な統計を取っていられる状況ではなかったと考えられる。
その後、戦後の価値観の大きな転換や社会保障が整備されていなかったこともあり、高度成長が本格化するまでのあいだ(1950年代)日本の自殺率は1958年には10万人あたり25.7人と世界一となり、2008年現在に至るまで過去最高の数値を記録している。高度経済成長の時期は減少に転じた。1973年のオイルショックのころから再び増加したが、1980年代後半からのバブル経済期には減少した。バブル崩壊後の1990年代後半にスウェーデン、ドイツより低かった自殺率は急激に上昇し[67]、OECDはその原因についてアジア通貨危機を挙げている[67]。
中国では、紀元前1100年ごろ殷王朝最後の帝である帝辛(紂王)が周の武王に敗れ、焼身自殺したと伝えられている。古代中国の軍人においては「自刎(ミズカラクビハネル)」と称される、剣をもって頸動脈を切断する自殺手法があり、伍子胥、項羽、白起など名だたる軍人が用いており、現在[いつ?]でも中国人の自殺にもちいられることがある[120]。
エジプトプトレマイオス朝最後の女王であるクレオパトラ7世はアクティウムの海戦に敗北した際に、オクタウィアヌスに屈することを拒み、コブラに自分の体を咬(か)ませて自殺したと伝えられている。
インドネシアではププタンとよばれる集団自決の風習があり、19世紀にオランダがバリ島に侵攻した際に、いくつかの王国で実施された。
平安、鎌倉、戦国時代に至るまで、日本の武士には敵に討ち取られるよりは自害することをよしとする風潮があった。『平家物語』の登場人物には自殺で終わる者が多い。これらには、自らが討ち取られその武名が誰かによって落とされること、ことに格下の兵に功名の手柄とされることを恥としたからである。江戸時代中期の武士道の著書『葉隠』では「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という一文がある。
第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて軍国化した日本では、「生きて虜囚の辱めを受けず」の一文で有名な戦陣訓に象徴される、軍人は捕虜になることより潔い自決を名誉と考えられた。そのため、太平洋戦争では、前線の指揮官が無断撤退の責任を取るために自決を強いられることもあった。自決であれば、軍人軍属の場合は戦死扱いになり、不名誉でないとされた。名誉の自決をした軍人は新聞報道やラジオ放送、ニュース映画や大本営発表を通し市民の目や耳に入り、立派な最期を遂げた尊敬すべき偉人とされ賞賛された。また、陸海軍を問わず日本軍の航空部隊は、操縦者や機体が被弾し、帰還が不可能となった場合は「敵機・敵施設・敵地上軍・敵艦に突入し自爆」「背面宙返りで地上や海上に自爆」が常態であった[注 8]。日本の戦線が後退する1943年以降は、撤退できないで孤立した部隊が自らの戦いを終わらせるため、しばしば「バンザイ突撃」と米兵が名付けたような決死的な肉弾攻撃を実行した。神風特別攻撃隊や対戦車肉弾攻撃のように作戦そのものが未帰還や自爆を前提としていたものもあり、これらを米軍は「自殺攻撃(Suicide Attack)」と名付けた。また、激戦地となった沖縄県や、満洲などの外地では、軍人のみならず多くの市民が集団自決に追い込まれた。
敗戦時や大戦最末期には、軍の上層部の人間から、この責任を取るため自決を選んだ人間が多く出た。「一死以テ大罪ヲ謝シ奉ル」との遺書を残し介錯なしで割腹自決した陸軍大臣阿南惟幾陸軍大将や、「沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」と打電し拳銃自決した大田実海軍中将らが後世に名を残す一方、本来なら責任(自決)を取るべきところ、自決せずに自分だけ生きながらえた花谷正や牟田口廉也、福留繁などが部下や世間からの批判にさらされた。東條英機は自決に失敗し、また安達二十三陸軍中将や今村均陸軍大将は戦後戦犯収容所服役中に自決、自決未遂した。開戦時の海軍大臣だった嶋田繁太郎は「ポツダム宣言を忠実に履行せよとの聖旨に沿う為」という理由で自決を見合わせた。
フランスのモーリス・パンゲは、日本の武士道などにみられる自死を名誉とする考えについて『自死の日本史』(筑摩書房)において論じた。評論家西部邁はこのパンゲの本について、「生きることには、何かしら裏切り、堕落、汚辱とかそういう本来拒否すべきものが濃厚に伴う。それが限界までくると、神にも仏にも頼らずに、自分の命を抹殺してしまうことで、汚いと自分の思っていることをしないですむ」「形而上学、この場合は宗教に頼らずに自分の生に伴う虚無感、価値あるものは何もありはしないという虚無感を吹き払うために、死んでみせることを選び、選んだことを一つの文化に仕立てたのは、世界広しといえども、世界史長しといえども、日本人だけである。そういう日本礼賛なのである」と説明した[121]。
アメリカでは、第二次世界大戦で、重巡洋艦インディアナポリスの艦長チャールズ・B・マクベイ3世が、日本の伊58潜水艦にインディアナポリスを撃沈された責任を追及され、自殺に追い込まれている。
また、第47代海軍長官ジェームズ・フォレスタルは、第二次世界大戦の後に設立されたアメリカ空軍と、空母の運用をめぐって激化した対立により、神経が衰弱して辞職に追い込まれ、最終的に自殺している。
アフガニスタン紛争やイラク戦争を始め、海外の戦争に派兵されたアメリカ軍兵士の中には、自殺する者が出ている。アフガニスタンとイラクからの帰還兵だけでも自殺者は数千人にも上り、その数は戦闘中の死者数を上回るとの見方がある[122]。
アドルフ・ヒトラー暗殺の一つ、7月20日事件では、失敗したクーデター側は、ヘニング・フォン・トレスコウ少将やギュンター・フォン・クルーゲ元帥、ルートヴィヒ・ベック上級大将など、クーデターに加担した多くの者が自殺を遂げている。また、実際に関与したかは未だに不明だが、エルヴィン・ロンメル元帥は、関与が疑われた結果、「反逆罪で裁判を受けるか名誉を守って自殺するか」の選択を迫られ、自殺を選んでいる。
第二次世界大戦におけるドイツの降伏は、アドルフ・ヒトラーの自殺がきっかけとなっている。同時期に、ヴィルヘルム・ブルクドルフ、ハンス・クレープス、ヨーゼフ・ゲッベルスなどが自殺している。
ヴァルター・モーデルは連合軍に包囲された時、「ドイツの元帥は降伏しないものだ」と降伏を潔しとせず、自殺している。
ユダヤ教、キリスト教、イスラームなどのアブラハムの宗教は、自殺は宗教的に禁止されている。欧米やイスラーム諸国では自殺は犯罪と考えられ、自殺者には葬式が行われないなどの社会的な制約が課せられていた。
バリ島ではププタンという集団自決の風習があり、オランダの侵攻に抗議して実施された。マヤ文明では、一般に死をつかさどる神「ア・プチ」のほかに絞首台の女神「イシュタム」がいて、自殺者の魂を死後の楽園へ導くとされた。
自殺は、文学における重要なテーマの一つであり、主人公の自殺に至る心理など、物語の終焉や筋の展開のなかで描かれることが少なくない。
ドイツの作家ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』が、自殺を主題とした作品として特に有名である。恋人との失恋に絶望し自殺した主人公を描き、その影響で模倣自殺する人が相次いだため、発禁処分に処するところも出た事例がある。このような模倣自殺の現象をウェルテル効果という。
日本文学では、夏目漱石の『こゝろ』、井上靖『しろばんば』、渡辺淳一『失楽園』などで自殺が描かれた。
また、動機はさまざまであるが、多くの著名な作家や文学者が自殺を決行している。海外で有名なのはフセーヴォロド・ガルシン、ジャック・ロンドン、ヴァージニア・ウルフ、シュテファン・ツヴァイク、アーネスト・ヘミングウェイ、リチャード・ブローティガン、老舎など。
日本では北村透谷、川上眉山、有島武郎、芥川龍之介、金子みすゞ、牧野信一、太宰治、田中英光、木村荘太、原民喜、久坂葉子、火野葦平、三島由紀夫、川端康成、田宮虎彦、佐藤泰志、江藤淳、鷺沢萠、野沢尚、片山飛佑馬、見沢知廉などがいる。
自殺に関する文献は古くから数多く伝存しているが、19世紀中葉より西欧で当時増大をみせていた自殺に対して統計学的手法が適用された。
1879年にイタリアのモルセッリ著『自殺』では
といった人種的類型が設定され、性別や年齢、職業、信仰、居住特性、経済状況などの要因が自殺に影響していることが認められている。とはいえ、自殺を身体的、精神的病理の現れとする見方が支配的であった。
これに対してエミール・デュルケームは、1897年の『自殺論』において、モルセッリやワーグナーの研究成果を参照しながらも、精神病理や人種・遺伝、気候、模倣によっては自殺の現象が完全には説明できないことを統計的に明らかにし、「それぞれの社会は、ある一定数の自殺をひきおこす傾向をそなえている」として、社会ないし集団の条件と結びついて生じる自殺傾向を社会学の研究対象として位置づけた。つまり、一定範囲内の自殺の発生は「正常な」社会現象だというのである。デュルケームは、近代社会における(社会的紐帯の弱化による)「自己本位的自殺」、(欲望の際限なき拡大がもたらす苦痛による)「アノミー的自殺」の2タイプを定式化するとともに、伝統的社会における「集団本位的自殺」、極限状況における「宿命的自殺」を析出し、計4類型を設定した。
フロイトは長らく人間の心理の底にある生命衝動としては「生の欲動(リビドーまたはエロス)」によって快を受け苦痛を避ける快感原則で説明しようとしたが、晩年近くになりPTSDで苦痛なはずの体験を反復強迫している症例などから、それでは説明できない破壊衝動を見出し、後にそれを「死の欲動(デストルドーまたはタナトス)」と名付け、生を「生の欲動」と「死の欲動」との闘争、さらには愛憎混じった感情の転移であるなどの思索をした。これらの考えに批判も多いが、自殺者の心理剖検に対し一定の貢献があったと臨床の現場では受け止められることもある[123]。
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WHOは、世界の自殺のおおよそ30%は服毒であり、特に地方農村部や、低中所得国に多いとしている[5]。他に多い方法としては、首吊りや焼死を挙げている[5]。
日本において自殺する手法として、男女を問わずもっとも多いのが、首をロープなど紐状のものによって吊り、縊死することによる自殺である[124]。
死後、括約筋の弛緩により吊り下げられた体内から重力により地面に向け鉛直方向に体液(糞尿、唾液、涙など)が流出する。死亡直後に発見された死体は、時により眼球が飛び出し、唾液や糞尿が垂れ流れ、男性は陰茎が勃起した状態で発見されることもありうる。
未遂の場合、脳が酸欠を起こした時点で脳細胞の破壊が始まっているために、植物状態や認知症、体の麻痺などといった重い後遺症を残してしまう可能性が高い[125]。また、首を吊る際の衝撃で頸椎骨折や延髄損傷などで即死(または即失神)する場合がある。自殺ではないが、日本などで行われる絞首刑「落床式首吊り死刑台」に多くみられ、救出後仮に命をとりとめても、重大な障害が残る。また軽度であっても、脊髄液の漏出から激しい頭痛などの後遺症に長く苦しむ。
ガスの有毒成分による中毒死と、無酸素または低酸素のガスを吸入することで酸欠による意識不明、そのまま吸入し続けることで心肺停止で死亡する窒息死の2種に大別できる。有毒ガスの場合、屋内の部屋で行うと発見者や救助者、同居人、さらに集合住宅の場合は配管のためのパイプスペースなどから、重いガスは階下の人を、軽いガスは階上の人を、さらに爆発性のものならば近隣の者さえ巻き添えにする極めて危険な方法であり、自分だけでなく無関係の者への殺人の危険性すらある方法である。
家庭用ガスで自殺を図り引火、爆発事故を起こし、ガス漏出等罪で有罪判決を受けた例もある[126]。その他のガス自殺についてはシンナーなど揮発性の高い薬品を容器に入れ、容器と一緒に布団をかぶり窒息死した例(完全自殺マニュアル)、ヘリウムガスを使用した安楽死(Final Exit)、塩素系の洗剤など家庭用品を混ぜた際に発生する塩素ガスや硫化水素など[127]の有毒ガスを吸って中毒死する方法などがある。なお、有毒ガスによる自殺は周辺住民や救助者にも被害を及ぼす可能性がある。
これらの自殺方法は、首吊りと同じく、長時間の酸欠によって脳細胞が破壊されるために、未遂時、有毒ガスの場合は呼吸器、皮膚なども含め、植物状態や認知症、体の麻痺や感覚異常などの重篤な後遺症を残す可能性が高い[128](「一酸化炭素#一酸化炭素中毒」も参照)。
精神疾患などの治療を受けている人が、処方された薬を大量服薬して自殺を図ることがある[129]。家族や友人が薬を服用しており(特に三環系抗うつ薬などの賦活症候群)、かつ自殺願望やうつ症状を持っていたり、リストカットなどの自傷行為を頻繁に行ったりするような状況の場合、注意が必要である[130]。精神疾患患者に対する精神安定剤や睡眠薬などの多剤大量処方も問題となっている[129]。
大量服薬をした場合、服用後の経過時間が比較的短い場合は、胃洗浄を行うのが一般的であるが、服薬量や経過時間、意識状態などによっては胃洗浄を行わないこともある。発見・処置が早ければ後遺症が残らないことも多いが、気道閉塞を伴っていた場合などは死に至ることもある。その他、誤嚥性肺炎、低体温症、肝障害、腎障害、長時間筋を圧迫することによる挫滅症候群などの合併症が生じることもある。
毒物を飲むことで自殺を試みる場合もある。毒物の種類はさまざまである。近衛文麿、ハインリヒ・ヒムラーなどが用いた青酸カリが名高いが、古くはソクラテス、クレオパトラ(服毒ではないが)が用いた動植物性の神経毒、賈南風、御船千鶴子が用いた金属毒などさまざまであり、対処法、後遺症も違う。一般に吐かせることが有効だといわれるが、飲んだものが石油系製品や強酸・強アルカリ性の物質の場合、吐かせるのは禁忌である。強酸・強アルカリ性の物質を飲んだ場合は、飲んだ時点で食道や胃の細胞が破壊されていることが多く、消化器官に後遺症が残る場合がある。
ビルや崖、滝などの上から飛び降りることにより、自由落下によって重力で自らの体を加速させ、地面などに激突する衝撃で肉体を破壊し、死亡を試みる方法。投身自殺ともいわれる。
入水は海や川などに身を投げ、窒息死を試みる自殺方法。水中で水が気管に入ると咳きこみ、それがさらに大量の水を肺の中にいれ、肺によるガス交換を妨げ、血液中の酸素を低下させることで脳への酸素を断つことにより死亡に至る。したがって肺の中を水で満たされると水死する。古くからある方法の1つである。息を止めるようなことはせず、冷たい水の中に入ることで体温を奪われることにより自殺することもあるが、それは「低温」の項で後述する。未遂に終わった場合、心停止15分以内に処置ができなければ、他の酸欠による自殺と同様に生き残ってもアダムス・ストークス症候群により脳や神経に重い障害が残る可能性が高い。冬の川や湖など水温の極端に低いところで入水した場合、低体温症により死亡するまでの時間が延びて、他の人に救助される可能性も高くなる。条件がよければ、数時間の仮死状態ののち、ほとんど脳にダメージを受けることなく蘇生することもある。ただ、このような場合は寒さにより入水した直後ショック死をすることもあり、一概にはいえない。また、滝の上のような高い場所から飛び降り、入水することで自殺しようとする場合もあり、栃木県日光市の華厳滝で藤村操が滝つぼへ飛び込み自殺した事件は有名である。作家太宰治は愛人と玉川上水に入水自殺を遂げた。
艦船が沈没する際に艦長船長が船と運命をともにするということがある(船員法の「船長の最後退船の義務」が拡大解釈されたもの)。氷山と衝突したタイタニック号や、イギリス海軍やその伝統を受け継いだ日本海軍でも広く行われた[131]。
鶴見済の著書『完全自殺マニュアル』によれば、車や鉄道などへの飛び込みによって自殺を行う飛び込み自殺は、死体の肉片や血液が周囲に飛び散るために周囲へ与える影響や印象も大きく、自殺後の死体は悲惨なものとなる。高速で走行する新幹線の場合はさらに凄惨で、瞬時に跡形もなく粉砕され、臓器や肉片が衝突場所から2 - 5 kmにわたって散乱する[132]。未遂に終わった場合でも、四肢が切断されるなどの大怪我を負い、残りの人生を寝たきりの状態や車椅子などに頼って生きなければならないことが多い。通勤・通学途中や帰宅途中の駅で飛び込み自殺に及ぶケースが多く、割合が高いのは、男性のサラリーマン[132]である。
2013年(平成25年)9月、京都大学の研究グループは、直前数日間の日照時間の少なさが鉄道自殺に関係すると明らかにした[133][134]。
ただし、鉄道への飛込み者は、必ずしも、自殺志願者でないことも多く、「盲目の人物による転落」、「保護者の不注意による転落」、「他者による突き落としによる転落」による飛び込みもあるので、注意されたい。
鉄道事業者では、自殺でない場合も考慮し、発生直後は「人身事故」と呼ぶ。鉄道への飛び込みは列車の遅延・運休が生じ多くの利用客に影響を与えるので社会問題化している。
また、偶然飛び込み自殺の現場付近に居合わせた乗務員や旅客が傷害を負う事故も多数発生している[135]。
事故後に鉄道会社が請求する損害賠償額は原則として非公表だが[136]、例えば京浜急行電鉄の場合、被害額が200万程度であっても、実際の請求額は高くても100万円に満たないという。(京浜急行電鉄、広報宣伝担当)[136]。なお、自殺を図った者が死亡した場合、自殺者の遺族が相続放棄を行って賠償を免れるケースもある。洋光台駅での事例では、PTSDを発症した30代の女性が自殺した男性の遺族に慰謝料を請求したものの却下。女性は「鉄道会社に責任がある」としてJR東日本を提訴した[137]。
自殺・転落防止のためにホームドアを設置している路線もあるが、建設費が高額、車両の種類によって扉の位置が合わない、混雑が激しい区間などの理由により、普及は遅れている[138]。
JR東日本は企業の社会的責任の一環として、いのちの電話の活動を財政的に支援しているほか、ホームと向かい合う壁に鏡の設置、発車ベルを発車メロディに変える、青色照明を設置する、緊急停止ボタンを設置するなどの試みもなされている。
刃物による失血死を試みるケースも少なくない。静脈を切断した場合は、切ってから死に至るまでの時間が長いので、セネカのように意図して緩慢な自殺を選んだ場合を除けば、誰かに見つかって未遂に終わることが多い。また、自殺する際の苦痛も大きい。ただし、心臓や動脈を切った場合は、出血性ショックにより死亡する可能性がある。なお、後述するが、死ぬのが目的ではなく自傷行為そのものが目的であったとしても、出血がひどくて失血死をしてしまう場合もある。切ったのが静脈の場合、発見・対処が早ければ後遺症が残ることはまれである。切ったのが動脈の場合は、一刻も早く止血する必要がある。健康な成人の場合、体内から半分の血液が失われると死亡するといわれている[139]。ただし、失った血液量にかかわらず、傷口が深い場合は神経が破損している場合や、そうでなくても切った傷跡が何年も残る。解剖学に通じてない者の場合、頚動脈を切ろうとして頚静脈を切ってしまう例がある[140]。
発見した場合は、腕を切っているのならば、脇をベルトやネクタイなどで止血する。腹などの場合は圧迫して止血し、止血した時間を救急に知らせる。なお、自殺かどうかにかかわらず、事故・事件の場合も含め、頭部や腹部に刃物などが刺さっている場合に無理に抜くと、かえって傷口を広げる場合も多く、刃物が傷口の「栓」の役割も兼ねている場合は抜くことで失血死する可能性が高まるため、抜かないでそのままにしておく。発見した場合は一刻も早く救急に連絡し、体温低下によって体力が消耗するのを防ぐために毛布などをかけて体温を保つ。無理に揺り動かすのは傷口が広がる可能性があるために良くない。針と糸で動脈などの傷口を縫合できれば生存率は上がる。
特徴的な自刃自殺として武士がその名誉を守るために行っていた切腹があげられる。腹部を損傷することにより、内臓出血による緩慢なショック死をもたらす。ただし、江戸時代以降は苦痛が長引くことを嫌って、切腹を行った直後に傍にいる刑手が斬首して即死させる「介錯」と呼ばれる行為がなされた。
自らの体にガソリンや灯油などの燃料をかけ、それに火をつけて行う自殺である。かつては油のしみこんだ蓑に火をつけて殺すなど、拷問的な火刑の一つに採用された方法である。燃えるのは主に気化した燃料である。燃料は体温で気化し、引火後は燃焼で気化し燃焼を続け体を焼く。液体の燃料を体にかけると、厳冬期でも体の体温で気化し引火性のガスが被服の間に充満し、わずかな火気や静電気に対しても非常に危険な状態になる。灯油などの着火点の高い(40℃程度)燃料も、体温による気化ガスが発生するので、床に流れた灯油とは比較にならない引火性をもつ。ここで点火もしくは引火し着火すれば、一瞬で全身が火だるまになる。燃料がごく少量でも、化繊の被覆ならば溶けて燃え、燃料とともに体を損傷する。肌を濡らすほどの燃料に引火すると、仮に消火に成功しても大きな障害が残る。燃焼中も自らの皮膚が白く変色して硬化し、激痛を感じる。広範囲な熱傷、気道熱傷を伴い死に至ることも多いが、即死する場合は少なく、死に至るまでの期間も比較的長いことが多く、呼吸不全、全身のやけどによる激痛により苦痛は長く激しい。また、救命される例も多いが、急性期には集中治療を要し、その後も何度にもわたる激痛を伴う植皮手術を行う必要があり、その治療には長期を要する。回復後も四肢機能の低下や美容的問題などの後遺症を残すことが多い。
抗議手段の1つとして焼身自殺が選ばれることも多い。ベトナム戦争当時の南ベトナム政権による仏教徒弾圧に対する抗議のためにビデオカメラの前で焼身自殺したティック・クアン・ドック(釋廣德)師[141]、彼を範にしてベトナム戦争抗議の焼身自殺を遂げた由比忠之進、アリス・ハーズなどが知られている。
自分の身体を感電させることによって自殺する方法。完全自殺マニュアルによれば1995年の日本の統計では感電自殺者の95%が男性という極端に性差の激しい手段として紹介されている。手段としては湯船に水を入れ、自身も入った後に感電物を入れる、電源コードの銅線をむき出しにして体に貼り付けて電源を入れるなどがある。いずれの場合も発見者、救助者の感電の危険性がある。
日本では銃は銃刀法によって厳しく取り締まりが行われているため、銃による自殺は極めて少なく、拳銃自殺にいたってはほとんどが警察官や自衛官、暴力団である。それに対して、銃の所持に寛容な国では銃による自殺が多い[142]。中でもアメリカは自殺手段の半分以上を銃が占める[143]。銃自体も100ドル程度から手に入り、弾丸も1発20セントから買える。また、自衛の意識が強く、狩りが盛んであるため、多くの家庭に銃があり、州によってはスーパーなどで手軽に弾薬も購入できる。アメリカ以外では、カナダ[144]、オーストラリア[145]などの国々も、銃による自殺が多い。
銃で頭を撃ち抜いても、脳幹の機能を破壊できないと死亡に至らない。映画などでよく描写される拳銃自殺に、こめかみに銃口を当てて引き金を引くという方法があるが、発射の反動や引き金の固さ(大型リボルバーなどは撃鉄をあげても引き金はかたく、射撃も両手で行う)によって銃口が動き、弾道がそれて生存する場合がある[146]。
より確実な方法として、脳幹を狙える口に銃口をくわえて発射する方法を取る場合が古くからある。1978年に自殺した田宮二郎や、1987年会見中に自殺したR・バド・ドワイヤー、1993年に、クリントンアメリカ大統領次席法律顧問のヴィンセント・フォスターや、1945年8月15日古賀秀正近衛第一師団参謀が割腹した時、とどめに口中を撃っている。2007年6月に島根県出雲市の出雲署内で、25歳の女性巡査長が拳銃で口から頭を撃つなど、多数例がある。
オランダにおいては、2000年に安楽死が合法化された。ただし、死期が近く、耐えがたい肉体的苦痛があり、治療の方法がないなどの厳格な要件が付与されている。
日本でも他人を自殺させること、自殺を助けることは自殺関与罪(刑法第202条)とされ、法律で禁止されている。また、もともと自殺する意思がない人に自殺を決意させて自殺させることは自殺幇助罪として、法律で禁止されている。また、一人で自殺しようとしそれが未遂で終わった場合、その行為自体では処罰の対象とはならない。だが自殺を複数人数で行おうとし未遂に終わった場合は、互いに対する犯罪として処罰される(自殺関与・同意殺人罪)。また、現在の[いつ?]日本の刑法では、自殺しようとした行為で同時で他者に危険を及ぼした場合(ガス自殺を図った場合のガス漏出罪・失火罪など)は、具体的な被害がなくても処罰される可能性がある。また、第三者に被害が発生した場合(たとえば飛び降り自殺、飛び込み自殺など)には、刑事手続上は重過失致死罪などの罪により自殺した者は、被疑者死亡で送検される可能性があり、民事上は被害者から、自殺した者の遺族に対して損害賠償責任が発生する可能性がある(厳密には、「自殺した本人に賠償請求をして、それを遺族が相続する」という形となる。ここでいう「遺族」とは、相続権を保持する人のことである。自殺者が残した遺産の総額と損害賠償額を比較して、損になるような場合には相続放棄をすればよい)。
その他、日本での自殺に関する法律として、2006年(平成18年)の自殺対策基本法や、銃砲刀剣類所持等取締法第5条での「自殺をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者については銃砲刀剣類の所持を許可してはならない」といったものがある。
また保険法(第51条第1号)には「保険者は、被保険者が自殺をしたときには、保険給付を行う責任を負わない」とある。貸金業法12条の7でも「保険契約において、自殺による死亡を保険事故としてはならない」とある。ただし、精神障害によって自殺行為の結果に対する認識能力のない精神疾患者による未遂の場合は、例外的に保険給付される[147]。
確実に失敗・自滅すると判っている方法をあえて採用することを「自殺行為」と言うことがある。
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