神経根 | 椎体 (赤は椎間板 ヘルニア リスク部位) |
椎間板ヘルニアと 障害される神経根 |
T12 | ||
T12椎 | ||
T12 | L1 | |
L1椎 | ||
L1 | L2 | |
L2椎 | ||
L2 | L3 | |
L3椎 | ||
L3 | L3/4 | L4 |
L4椎 | ||
L4 | L4/5 | L5 |
L5椎 | ||
L5 | L5/S1 | S1 |
S1椎 | ||
S1 |
http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0017/0017_ContentsTop.html
出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/10/08 02:03:30」(JST)
椎間板ヘルニア(ついかんばんヘルニア、herniated disc)は、ヘルニアの一種であり、椎間板の一部が正常の椎間腔を超えて突出した状態である。
椎体と椎体の間には人体最大の無血管領域と呼ばれる椎間板が存在している。椎間板は中央にゼラチン状の髄核、周囲にはコラーゲンを豊富に含む線維輪から成る。この髄核や線維輪の一部などが突出した状態が椎間板ヘルニアである。Macnabによる分類が有名である。
多くの動物は脊椎を重力に垂直にして生活しているのに対し、人間は二足歩行であるために脊椎は重力と平行方向となる。このため、立位では椎間板には多くの負荷がかかる。
椎間板ヘルニアは、下位腰椎 (L4/5, L5/S1) が最多で、次に下位頸椎に多く、胸椎には少ない。胸椎に少ないのは、胸郭により、椎体間の可動性が頚椎や腰椎に比べ少ないことによる。また、神経根走行の関係から、下位腰椎では、上位腰椎に比べ、神経根症状を起こしやすく、発見されやすい面もあるかもしれない。高齢になると、下位頚椎での可動性が減少し、ヘルニアが起こりにくくなり、比較的上位の頚椎病変を来しやすくなる。すなわち、椎間板ヘルニアは、よく動く脊椎の部分で起こりやすいのである。
最新の研究では、腰椎椎間板ヘルニアの発症原因の一つとして遺伝的要素が係わっていることを理化学研究所らの研究グループが突き止めた。[1]
腰椎椎間板ヘルニアの場合、症状は、片側の下肢痛が多いが、巨大又は中程度であっても真後へ突出したヘルニアの場合、両側で症状が出現する。下肢痛は、当該椎間板ヘルニアによる神経根圧迫により生じる。教科書的には、L4/5では、L5症状が出る。腰痛の他、下肢の疼痛、しびれ、場合によっては大きな浮腫みまで見られ、足が上げられない位に重くなるなどの自覚症状に加え、障害された神経の支配領域に感覚障害を呈したり、運動神経の麻痺による筋力低下を来たすことがある。さらに、腓返りなどの痙攣も誘発しやすくなる。稀に、排尿障害を呈する(S2-5症状)。
神経根 | 放散痛 | 感覚障害 | 脱力 | 筋萎縮 | 反射 | 誘発試験 |
---|---|---|---|---|---|---|
L1 | 鼡径部、大腿内側 | 鼡径部、大腿内側 | なし | |||
L2 | 腰背部、側腹部、大腿前内側部 | 大腿前内側部 | 膝伸展の筋力低下 | 大腿四頭筋 | 膝蓋腱反射低下 | FNST |
L3 | 腰背部、股関節部、大腿前外側部 | 大腿前外側部 | 膝伸展の筋力低下 | 大腿四頭筋 | 膝蓋腱反射低下 | FNST |
L4 | 殿部、大腿後外側部、下腿前面、足背内側 | 下腿内側、足趾内縁 | 足内反位、背屈筋力低下 | 大腿四頭筋、前脛骨筋 | 膝蓋腱反射低下 | FNST |
L5 | 仙腸関節の上から股、下肢外側、足背まで | 下腿下部外側、1~2趾間足背 | 足、母趾の背屈低下、踵立ち困難 | 中殿筋、膝屈筋、長母趾伸筋、長、短趾伸筋 | 後脛骨筋腱反射 | SLR |
S1 | 仙腸関節の上から股、下肢後面、足外縁まで | 腓腹部背側、足趾外縁 | 足、母趾の底屈低下、つま先立ち困難 | 大殿筋、長、短腓骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋 | アキレス腱反射低下 | SLR |
巨大ヘルニアの場合、馬尾症状が出現することがあり、脊柱管狭窄症の馬尾神経型と類似した症状を呈する。有名な症状は、間欠性跛行(はこう)であり、神経根周囲の血流障害により生じることが知られている。
上位腰椎椎間板ヘルニアの場合、腰痛(いわゆるL2障害)や股関節痛(L3障害など)を訴えることもある。それ以外の場合、腰痛は訴えないのが典型的である。
若年性椎間板ヘルニアは、椎間板内圧が高く、高齢者に比べ、強い症状を呈しやすい。また、下肢挙上時の Huftlendenstrecksteife に代表されるように、反応が強く出やすい。
無症状の椎間板ヘルニアが知られているように、椎間板ヘルニアは、その症状によって治療法が決まるのであり、存在していることが治療の対象にはならない。椎間板ヘルニアの治療は、原則的には保存療法である。これには、鎮痛剤、運動療法や牽引、温熱療法などのリハビリテーションが含まれる。さらに、神経ブロック療法(神経根ブロック、硬膜外ブロック等)が適応となることがある。リハビリテーションで行う運動療法にはマッケンジー法と呼ばれる腰を反らす腰痛体操や股関節周りの筋肉(ハムストリングスや腸腰筋)のストレッチを行う。[2]
保存療法で奏効しない場合、手術が考慮される。手術適応は、学会内においても確立されていないが、一般に、排尿障害が絶対手術適応とされている。さらに、筋力低下、激しい痛みを伴う場合などに手術が考慮される。また、強い症状がなくとも、3ヶ月以上症状が持続する場合は適応とされることが多い。手術法はいくつかあるが、古典的かつ現在も主流なのはLove法である。さらに内視鏡や顕微鏡を用いた方法もあるが、基本は椎間板ヘルニアを摘出する方法である。
加えて、レーザー治療や経皮的椎間板ヘルニア摘出法があるが、有効率が低く適応が限られるばかりか、社会保険適用除外で高額な医療費を自己負担せざるを得ず、さらに手術の効能、また局所麻酔につき痛覚などの個人差も極めて大きく、手術中にほとんど痛みを感じない上で手術直後に症状が改善される患者もいれば、手術中に苦痛を覚えながらも術後半年以上経過してようやく症状が改善される患者もいる。
手術例の5%から10%の割合で再発するとされている。再発例の改善率は、一般に初回例より劣る。治療は、日本では整形外科医を中心とした脊椎外科医によって行われているが、脳神経外科でも行っている施設もある。関連した学会で、脊椎脊髄学会があり、近年、脊椎外科指導医の認定を行っており、ウェブサイト上で公表されているが、自己申告による認定制度であるので、その辺りを加味しておく必要がある。
近年、出沢明(帝京大学教授)が日本に紹介した「経皮的内視鏡腰椎椎間板ヘルニア摘出術(PED=ペッド)」と呼ばれる手術法は、患部切開を最低限に抑えるとともに、短期間の休養(加療・静養)で社会復帰ができること、ヘルニアの再発防止にもつながるとして学術的にも注目を集めている。[3]
鍼灸ではL4/L5間の治療には大腸兪穴(だいちょうゆけつ)、腰眼穴を用いて痛みの緩和をする。
2014年1月30日、腰椎椎間板ヘルニア治療薬として初となる薬SI-6603(一般名:コンドリアーゼ)が厚生労働省に製造販売承認申請された。[4]この新薬は椎間板を分解する酵素を椎間板内に注射することで、突出した椎間板を分解、縮小させる効果がある為、今後の薬物による椎間板ヘルニア治療が期待されるが、2015年1月時点では承認審査中である[5]。
犬においては軟骨異栄養性犬種に発生が多いが、全ての犬種で発生しうる。椎間板変性様式によりHansenI型およびHansenII型に分類される。
椎間板ヘルニアは遺伝的な影響が大きいといわれており、CILPと呼ばれる蛋白質が変異し、軟骨の成長を妨げることが発症要因のひとつとされる。
椎間板ヘルニアとほぼ同様の症状を示す他の病気として「脊髄腫瘍」がある。症例は少なくMRIやCTによる診察以外では、ほぼ発見できないものであるが、患者の訴える症状の重篤さのわりにレントゲン画像が正常である場合、考慮する必要がある。
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