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脳梗塞 | |
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CTスキャンの脳断面図。右半球が虚血による脳梗塞を起こしている(画像の左側、濃い黒色の部分)。 | |
分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 | 神経学 |
ICD-10 | I61-I64 |
ICD-9-CM | 434.91 |
OMIM | 601367 |
DiseasesDB | 2247 |
MedlinePlus | 000726 |
eMedicine | neuro/9 emerg/558 emerg/557 pmr/187 |
MeSH | D020521 |
脳梗塞(のうこうそく、英: cerebral infarction/stroke)、または脳軟化症(のうなんかしょう)[注 1]とは、脳を栄養する動脈の閉塞、または狭窄のため、脳虚血を来たし、脳組織が酸素、または栄養の不足のため壊死、または壊死に近い状態になることをいう。また、それによる諸症状も脳梗塞と呼ばれることがある。なかでも、症状が激烈で(片麻痺、意識障害、失語など)突然に発症したものは、他の原因によるものも含め、一般に脳卒中と呼ばれる。それに対して、ゆっくりと進行して認知症(脳血管性認知症)などの形をとるものもある。
日本における患者数は約150万人で、毎年約50万人が発症するとされ、日本人の死亡原因の中で高い順位にある高頻度な疾患である。また、後遺症を残して介護が必要となることが多く、寝たきりの原因の約3割、患者の治療費は日本の年間医療費の1割を占めており、福祉の面でも大きな課題を伴う疾患である。
脳梗塞は、血管が閉塞する機序によって血栓性・塞栓性・血行力学性の3種類に分類される。臨床病型としては1990年のNIND-III(NINDS: National Institute of Neurological Disorders and Stroke米国国立神経疾患・脳卒中研究所による分類)がよく知られている。
NIND-IIIの分類では局所性脳機能障害をTIAと脳卒中に分類する。脳卒中は脳出血、くも膜下出血、脳動静脈奇形に伴う頭蓋内出血、脳梗塞に分類し、脳梗塞はアテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓・ラクナ梗塞・その他の脳梗塞の4種類に分類される。分類によって急性期治療および再発予防が異なる、NINDS-IIIでは臨床病型の特徴は記載されているが診断基準は示されていない。治験などではTOAST分類やオックスフォードの分類が用いられることもある。
TOAST分類では大血管アテローム硬化(=アテローム血栓性脳梗塞)、小血管閉塞(=ラクナ梗塞)、心塞栓症(=心原性脳塞栓症)、その他の原因によるもの、原因不明の5つの病型に分類される。診断基準があるため確実な診断が可能であるが、アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症のリスクが両方ある場合など複数の原因が考えられる場合に診断ができなくなるため、臨床現場では使いづらい。オックスフォードの分類は症状と画像所見から分類するものである。
動脈硬化によって動脈壁に沈着したアテローム(粥腫)のため動脈内腔が狭小化し、十分な脳血流を保てなくなったもの。また、アテロームが動脈壁からはがれ落ちて末梢に詰まったものもアテローム血栓性に分類される。アテロームは徐々に成長して血流障害を起こしていくことから、その経過の中で側副血行路が成長するなどある程度代償が可能で、壊死範囲はそれほど大きくならない傾向がある。また、脳梗塞発症以前から壊死に至らない程度の脳虚血症状(一過性脳虚血発作、TIA)を起こすことが多く、このTIAに対する対処が脳梗塞の予防において重要である[1]。TOAST分類では病巣近位の責任血管に50%以上の狭窄があること、梗塞巣が1.5cm以上であることが診断基準に含まれる。
原疾患として高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など。予防は、抗血小板薬(アスピリン・チクロピジン(英: Ticlopidine)・クロピドグレル(英: Clopidogrel)・シロスタゾール・ジピリダモール(英: Dipyridamole)など)によってアテロームの成長を抑制すること、原疾患に対する加療・コントロールを行うこと、また飲水を心がけて血流を良好に保つことである。
一般的に血栓症は動脈硬化による閉塞である。心筋梗塞の場合はプラークの破綻によって急激に冠動脈が閉塞する場合がほとんどだが脳梗塞の場合はいくつかの機序が知られている。まずは心筋梗塞と同様にプラークが破綻する場合がある。粥腫に富み、線維性皮膜が薄い場合は不安定プラークといい、こういったプラークは容易に破綻し、血栓による動脈閉塞をおこす。血管が閉塞、狭窄するとその灌流域が血液途絶を起こし皮質枝梗塞を起こす。狭窄部が急激な血管閉塞を起こすと心原性脳塞栓と類似した脳梗塞が発生する。こういったことは頭蓋外の内頸動脈や頭蓋内の脳主幹動脈に多い(血行力学性によるもの参照)。
また、血管の閉塞や高度の狭窄によって血液供給の境界領域(watershed、分水嶺の意味)が乏血状態となり、さらに血圧低下などの血行動態的要因が加わり梗塞が生じる。こういったことは中大脳動脈や内頚動脈に多い。内頚動脈に高度狭窄があり、支配領域の脳血流量低下を伴っている場合には、表層前方では前大脳動脈・中大脳動脈皮質枝の境界、後方では中大脳動脈・後大脳動脈皮質枝の境界領域が最も乏血状態に陥りやすいので梗塞をきたしやすい。深部では中大脳動脈皮質枝と穿通枝の境界領域に起こりやすい。この機序によっておこる場合は発症後段階的階段状の進行、悪化が見られる(progressive stroke)。発症時間は夜に多く、起床時に気がつくことも多い。もともと極めて慢性に進行してきたと考えられ、こういった梗塞をおこす患者は側副血行路が豊富にある場合が多く、代償が可能な間は臨床症状が乏しいこともある。
血行力学性(hemodynamic)によるものとは 一時的に血圧が下がったために、脳の一部が十分な血流を得ることができなくなって壊死に陥ったものである。血栓性や塞栓性では壊死しにくい分水嶺領域に発症することが特徴的である。分水嶺領域(Watershed Area)とは、どの動脈に栄養されているかで脳を区分した時に、その境目に当たる区域のことである。この部分は、一方の動脈が閉塞してももう一方から血流が得られるため動脈の閉塞に強い。しかし、動脈本幹から遠いため血圧低下時には虚血に陥りやすいのである。この場合は診断名はアテローム血栓性脳梗塞である。
他には動脈硬化が原因の脳梗塞としてartery to artery embolism(A to A)というものがある。内頚動脈や椎骨動脈のアテローム硬化巣から血栓が遊離して末梢の血管を閉塞する。皮質枝にも穿通枝にも塞栓を起こしえる。心原性脳塞栓と同様活動時突発性発症が見られやすい。
画像上は典型的には皮質枝、すなわち大脳皮質にMRI拡散強調画像 (DWI) で高信号域を認め、散在性小梗塞巣といった形を取りやすい。もちろん小型というのは他のアテローム血栓性脳梗塞よりはということでラクナ梗塞よりは大型の病変となる。アテローム硬化には好発部位がある。基本的には日本人には中大脳動脈に多い。しかし近年は欧米と同様、頸部内頸動脈の起始部に最も多くなっている。他の好発部位としては内頚動脈サイフォン部、椎骨動脈起始部、頭蓋内椎骨動脈、脳底動脈である。
アテローム血栓性脳梗塞はラクナ梗塞などより一過性脳虚血発作が先行しやすいと言われている。閉塞動脈の支配領域の症状を繰り返しやすいという特徴がある。内頸動脈病変では一過性黒内障が有名である。これは眼動脈、網膜中心動脈領域の虚血が起こり、患側の視力が一過性に消失する。典型的にはカーテンが目の前に降りて行くように暗くなると患者は訴える。椎骨動脈では回転性めまいや嘔吐、構音障害が起こりやすい。発作の頻度が重要であり、短時間に頻回起こっている場合はcrescendo TIAと呼ばれ、主幹動脈の高度狭窄の存在が示唆される、持続時間の延長は脳梗塞の危険が切迫していると考えられる。
初回TIAが起こってから1か月以内が最も脳梗塞が起こりやすいといわれており、特に近年の研究ではTIA発症後48時間以内に脳梗塞を発症する例が多い(90日以内発症例のうちの約半数)[2][3]いるため、入院精査と治療が必要と言われている[1]。アテローム血栓性のTIAならば抗血小板薬を、心原性やcrescendo TIAでは抗凝固療法を行うことが推奨されている。
内頸動脈系 | 椎骨動脈系 | |
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運動障害 | 症状は片側性 | 多彩、交代性片麻痺、drop attack、対麻痺 |
感覚障害 | 通常は片側性 | 多彩 |
視力障害 | 一過性黒内障 | 両側性視力障害 |
視野障害 | 同名半盲 | 中心回避型視野欠損、片側、両側の同名半盲 |
小脳症状 | ない | 運動失調、動揺歩行 |
脳神経症状 | 稀 | 構音、嚥下障害、複視 |
回転性めまい | ない | ある |
失語 | ある | ない |
発作回数 | 少なく、発作ごとに症状は同じ | 多い、発作ごとに症候は変動する |
脳梗塞への移行 | 移行しやすい | 移行しにくい |
脳神経系の障害は上位ニューロン障害を起こすと内頸動脈系でも起こりうる。中心前回などが中大脳動脈に還流されるからである。
ラクナ梗塞( 英: lacunar infarction )は本来、直径1.5cm以下の小さな梗塞を意味する。古典的には下記に示した5つの病型に含まれ、穿通枝領域に病変があり、皮質は病変に含まれない。書物によっては無症候性ラクナ梗塞という疾患も定義されるが無症候性ラクナ梗塞と慢性虚血性変化の区別が難しく古典的には無症候性ラクナ梗塞はラクナ梗塞に含まれない。ラクナ梗塞は上記の2種類とは違った機序が関わっているとみられていることからそれ自体がひとつの分類となっている。主に中大脳動脈や後大脳動脈の穿通枝が硝子変性を起こして閉塞するという機序による。ただし中大脳動脈穿通枝のうち、レンズ核線状体動脈の閉塞では、線状体内包梗塞と呼ばれる径20mm以上の梗塞となることがあり、片麻痺や感覚麻痺・同名半盲などの症状が現れることもある。後大脳動脈穿通枝の梗塞では、ウェーバー症候群やベネディクト症候群(赤核症候群)を起こすことがある。リスクファクターは高血圧。症状は片麻痺や構音障害などであるが、軽度または限定されたものであることが多く、まったく無症状であることも多い。意識障害を認めることはほとんどなく、失語症、半側空間無視、病態失認といった神経心理学的な症候(皮質症候)も通常は見られない。多発性脳梗塞とよばれるもののほとんどはこのラクナ梗塞の多発であり、多発することで認知症・パーキンソニズム(脳血管性パーキンソン症候群)の原因となることがある。ラクナ梗塞であるのかアテローム血栓性脳梗塞であるのかは、ラクナ梗塞のタイプを知っていると分かりやすい。症状が軽い、梗塞巣が小さいだけでは鑑別が難しくなることもあるからである。特徴としては感覚障害と麻痺が同時に存在しないタイプがラクナ梗塞ではありえるということである。TOAST分類では臨床症状でラクナ症候群を示し穿通枝領域の1.5cm以内の小梗塞であり、病巣近位の責任血管の50%以上の狭窄は認めないものとされている。
ラクナ症候群 | 症候 | 責任病巣 |
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Pure motor hemiparesis | 片麻痺、感覚障害なし | 対側の放線冠、内包後脚、橋底部 |
Pure sensory stroke | 半側の異常感覚や感覚障害 | 対側の視床(後腹側核) |
Ataxic hemiparesis | 一側下肢に強い不全片麻痺と小脳失調 | 対側の橋底部、内包後脚、放線冠 |
Dysarthria-clumsy hand syndrome | 構音障害と一側の巧緻運動障害 | 対側の橋底部、内包後脚、放線冠 |
Sensory-motor stroke | 半側の感覚障害と同側の片麻痺 | 視床から内包後脚 |
視床梗塞では手掌・口症候群というものが知られている。視床外側に病変があることが多く、一側の手掌と口角周囲に限局したしびれ感、異常感覚をきたすものである。視床の核内で手掌と口角の近くを支配する部位が隣接するため生じると考えられている。ラクナ梗塞以外では視床症候群が起きることが多い。これも病変の大きさの問題と考えられている。
脳血管の病変ではなく、より上流から流れてきた血栓(栓子)が詰まることで起こる脳虚血。それまで健常だった血流が突然閉塞するため、壊死範囲はより大きく、症状はより激烈になる傾向がある。また塞栓は複数生じることがあるので、病巣が多発することもよくある。原因として最も多いのは心臓で生成する血栓であり、左心房細動に起因する心原性脳塞栓が多い。非弁膜症性心房細動が全体の約半数を示し、その他に急性心筋梗塞、心室瘤、リウマチ性心疾患、人工弁、心筋症、洞不全症候群、感染性心内膜炎、非細菌性血栓性心内膜炎、心臓腫瘍などが含まれる。このほか、ちぎれた腫瘍が流れてきて詰まる腫瘍塞栓や脂肪塞栓・空気塞栓などもこれに含まれるが、稀な原因である。シャント性心疾患(卵円孔開存)なども原因となりこれらは奇異性脳塞栓症といわれ後述する。
脳塞栓症では高率に(30%以上)出血性梗塞を起こしやすい。これは閉塞後の血管の再開通によって、梗塞部に大量の血液が流れ込み、血管が破綻することによりおきる。心原性塞栓症の際に抗血小板療法や抗トロンビン療法が禁忌である理由はこれを起こさないためである。
心房細動は無症状のことも多く心機能もそれほど低下しないため、特に無症状の場合は合併する脳塞栓の予防が最も重要になる。心房が有効に収縮しないため内部でよどんだ血液が凝固して血栓となるが、すぐには分解されないほどの大きな血栓が流出した場合に脳塞栓の原因となる。特に流出しやすいのが心房細動の停止した(正常に戻った)直後であるため、心房細動を不用意に治療するのは禁忌となる(ただし、心房細動開始後48時間以内なら大きな血栓は形成されておらず安全とされる)。
予防には抗凝固薬を用いる。抗血小板薬と併用することで予防効果が高まるという明確な根拠はなく、現在は抗凝固療法単独の治療が行われている。TOAST分類では1.5cm以上の梗塞巣があり、高度・中等度リスクの塞栓源の心疾患が認められることまたは複数の血管領域に多発する急性期梗塞を確認することが診断基準に含まれる。TOAST分類では高リスク塞栓源と中等度リスク塞栓源が定義されている。
発症後数日後のMRAで血管の再開通現象をしばしば認める。また発症24時間以内のBNP、Dダイマーの軽度上昇がある。BNP>76pg/ml Dダイマー>0.96ng/mlともに満たせば感度87%、特異度85%で心原性脳塞栓症という報告もある[4]。
心原性脳梗塞 | アテローム血栓性脳梗塞 | ラクナ梗塞 | |
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割合 | 30 - 40% | 30 - 40% | 30 - 40% |
発症形式 | 突発完成、重症 | 段階進行 | 比較的緩徐、軽症 |
既往歴、危険因子 | 心房細動や弁膜症 | 高血圧、糖尿病、高脂血症 | 高血圧、糖尿病 |
合併症 | 心不全 | 虚血性心疾患、下肢動脈閉塞症 | 特になし |
内科的治療 | 抗凝固薬 | 抗血小板薬 | 慢性期に降圧薬など |
外科的治療 | なし | ステント、内膜剥離術 | なし |
上図のような説明がしばしばなされる。
その他の脳梗塞にはBAD(branch atheromatous disease)、Trousseau症候群(悪性腫瘍の遠隔効果)、血液凝固異常、動脈解離、静脈梗塞、血管炎、抗リン脂質抗体症候群が含まれる。
ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の中間となる病態にBADと呼ばれるものがある。1989年にCaplanによって提唱された。BADとは穿通枝が主幹動脈からの近傍で閉塞することによって生じる穿通枝領域の梗塞である。穿通枝の病変であるが高血圧性の血管壊死を起こさず、アテローム硬化が原因であり長径15mm以上の梗塞を起こす。ラクナ梗塞の診断のもと抗血小板療法を行うが徐々に症状が悪化する例が報告されていたが、これがBADという概念にまとめられた。レンズ核線条体動脈(特に外側線条体動脈)、視床膝状体動脈、前脈絡叢動脈、Heubner反回動脈、視床穿通動脈、傍正中橋動脈領域でBADは起る。特に外側線条体動脈、傍正中橋動脈は好発部位である。よって外側線条体動脈の支配領域である大脳基底核や傍正中橋動脈の支配領域である橋腹側でラクナ梗塞を疑う症状、病変をみたらBADの可能性を考える。頭部MRIによる画像では血管走行に一致し、外側線条体動脈領域では上下に傍正中橋動脈では前後に長い(脳表に病変がありそれが深部、橋被蓋方向に扇形になる)。外側線条体動脈領域では母動脈である中大脳動脈の血管内皮障害が少なく、穿通枝近位部のプラークが傍正中橋動脈では脳底動脈壁のプラークが主体をなしていると考えられている。アテローム血栓性脳梗塞に基づいて抗凝固療法を行うべきと考えられているが治療法は確立していない。アルガトロバン、シロスタゾール、エダラボン併用療法など様々なカクテル療法も試みられている。
動脈内膜の損傷により、内膜と中膜の間に解離腔が形成される。外傷でも起こるが自然にも生じる。解離のために動脈内腔が狭窄したり閉塞したり外膜に動脈瘤様の拡張をきたしたりする。近年は椎骨動脈系で多い。大したリスクのない若い人が突然の後頸部痛に伴って発症することが多い。ワレンベルグ症候群を呈することもよくある。脳動脈解離は画像診断の進歩によって明らかになった概念であり、若年性脳梗塞の最大の原因であり、クモ膜下出血の原因としても重要である。クモ膜下出血を認める椎骨動脈解離は致死的な再出血を予防するために直ちに外科的手術を行う。血管内治療が第一選択となる。解離腔と後下小脳動脈、前脊髄動脈、穿通枝の位置関係、対側椎骨動脈の灌流状況を確認し、血管内治療、開頭手術(バイパス術含め)あるいはこれらを組み合わせて治療を行う。外科的治療が困難な場合は再出血防止のための保存的治療を行う。
クモ膜下出血を伴わない頚部動脈解離では保存的治療が第一選択となる。心筋梗塞と大動脈解離は治療が大きく異なるが、脳動脈解離では治療は脳梗塞に準ずる。解離や出血の誘発を行わない程度に脳梗塞の治療を行う。カタクロットやバイアスピリンといった抗血小板薬は未破裂動脈瘤の出血率を上昇させないというエビデンスがあるため、血圧を正常からやや低めに保ち抗血小板療法を行う。解離の進行が認められたら外科的処置を検討する。近年はステントなど外科的な治療も試みられており、特に慢性閉塞性血管障害ではよい適応となっている。
頭痛や頭部痛などの血管の解離による症状と解離に伴う脳虚血、もしくは出血症状が認められる。initimal flap、double lumenといった直接所見(2つの腔が見える)、pearl and string sign(比較的広い範囲のリボン様の不正狭窄を伴う動脈拡張)、string sign、pearl sign比較的広い範囲のリボン様の不正狭窄)、tapered occlusion(先細り状の閉塞所見)などの間接所見が知られている。慢性期には壁内血腫(intramural hematoma T1WIで三日月状の高信号域)が認められることもある。壁内血栓の出現と消失を確認し動脈解離と診断することもある。頭頚部動脈解離の原因としては外傷性、医原性、特発性に分類される。特発性では基礎疾患として結合組織疾患が存在することがある。代表的なものとしては線維筋形成不全、嚢胞性中膜壊死、マルファン症候群、骨形成不全症、家族性多発嚢胞腎、弾性線維性黄色腫、エラース・ダンロス症候群などがあげられる。出血に対しては最出血予防のため出血部の閉塞の外科的処置を行い、虚血に対しては保存的治療が第一である。解離性動脈瘤を合併している場合は注意が必要である。
延髄には心臓血管中枢、呼吸中枢があるため無呼吸や低換気、不整脈による突然死に注意が必要である。
後天性凝固異常症のひとつとなるが、悪性腫瘍の遠隔効果による血液凝固異常により脳塞栓症をきたすことがあり、胆嚢癌患者に合併する脳梗塞をTrousseau症候群(トルソー症候群)という。Trousseau症候群の原因となる悪性腫瘍として頻度の高いものは固形癌であり、腺癌、特にムチン産出腫瘍が多いとされている。固形癌の中では乳癌や子宮癌など婦人科腫瘍が最も多く、肺癌、消化器癌、腎臓癌、前立腺癌なども多い。悪性腫瘍に伴う血液凝固異常はDダイマー、FDP[要曖昧さ回避]、PICといった二次線溶系マーカーが異常高値を示すことが多い。二次線溶系マーカー異常高値を示すものとしては胸腹部大動脈瘤、重度の深部静脈血栓症などがある。奇異性脳塞栓症や心原性脳塞栓症ではDダイマーは高くとも5.0mg/dl程度でありFDPやPICは正常範囲にとどまることが多い。胆嚢癌患者における脳梗塞の成因の多くはDICに併発した非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)による心原性脳塞栓症であり、ついでTrousseau症候群、細菌性塞栓、腫瘍塞栓、脳静脈、静脈洞血栓症などがあげられる。Trousseau症候群の治療法は低分子ヘパリンが有効であるが、予後を左右するのは原疾患の治療である。
脳静脈・静脈洞洞血栓症(CVT)は脳の静脈あるいは静脈洞が閉塞して静脈還流障害がおこり、頭痛、痙攣、意識障害などの症状が、急性あるいは亜急性に発症する疾患である・全脳卒中の1%未満であるが決して稀な疾患ではない。症状は多彩であるが頭痛(90%)、痙攣(40%)、意識障害(60%)が急性ないし、亜急性に認められた場合はCVTを鑑別する必要がある。
50歳未満の女性や子供に多いとされる。妊娠、産褥、悪性疾患静脈洞に隣接する耳、乳突蜂巣、副鼻腔の感染、細菌性髄膜炎などから波及する場合、凝固亢進状態など多彩な病態を基礎に発症する。Dダイマーが正常値であればCVTの可能性は低い。SWIを含むMRIで血栓化した静脈または静脈洞を確認し、MRVでそれと同じ静脈が描出されないことを証明するのがgold standardである。大規模な臨床研究で有効性を検討したものはないが急性期はヘパリンの持続点滴で治療されることが多い。早期に診断して治療ができれば予後は比較的良好である。原因疾患があればそれの治療、痙攣、脳浮腫に対する治療も併用する。再発予防は3ヶ月〜12ヶ月のワーファリンと原因疾患の治療である。
脳血管にアミロイドが沈着することで血管壁が脆弱化したり、内腔の狭窄、閉塞が生じ、その結果脳出血や脳梗塞が生じる。Boston criteriaで診断される。
若年性脳梗塞の原因のひとつとして欧米では多数報告されているが日本では稀である。
血管の奇形によって動脈硬化が進行する場合がある。
CADASILを疑う場合の臨床的特徴は、40〜50歳と比較的若年発症、脳卒中のリスクファクターを有さない、ラクナ梗塞発作を繰り返し、次第に進行して仮性球麻痺や認知症症状を呈する、家族に類似症状を認める(常染色体優性遺伝形式)ことである。常染色体優性遺伝形式をとる若年性脳梗塞を試た場合、特に小血管病変の場合はCADASILを疑う。CADASILには病気としては3期知られている。第1期は前兆を伴う片頭痛とMRIにて境界鮮明な深部白質病変が認められる。第2期ではTIAや脳梗塞を生じたり、うつなどの精神症状が出現しMRIで深部白質の癒合性病変、ラクナ梗塞巣をみる。第3期では認知症や仮性球麻痺、MRIではびまん性深部白質病変のように進行していく。CADASILの診断基準ではDavousらのものが知られている。病理学的には脳実質小動脈の中膜筋層の変性、消失と外膜の線維性肥厚および血管壁の非アミロイド性の好酸性PAS陽性顆粒沈着で確認される。確定診断では遺伝子解析でNotch3変異(特にhot spot exon3、4)を確認するか皮膚、筋生検でNotch3細胞外ドメインに対する抗体を用いた免疫染色でGOM(granular osminophilic material)を確認することが必要である。重要な類似疾患にCARASILがある。高血圧を伴わず細動脈硬化によって生じる白質脳症であり常染色体劣性遺伝を示す疾患である。白質脳症と30歳代から進行する認知症はCARASILと類似するが、反復性の腰痛や変形性脊椎症、禿頭はCARASILに特徴的な所見である。HTRA1遺伝子の機能喪失から生じるTGFβファミリーシグナル伝達系の抑制不全が細動脈硬化に関与している。病理学的には血管内皮の増殖が著明であり、中膜のTGFβ1の発現の増加とともに内膜では細胞外マトリックスの発現増加がみられる。有効な治療法はみつかっておらず、抗血栓薬が用いられるが有効性は確認されていない。
血管炎としては抗リン脂質抗体症候群、全身性エリテマトーデスによるものが若年性脳梗塞の原因として有名である。
原発性抗リン脂質抗体症候群とSLEなどに合併する続発性抗リン脂質抗体症候群が知られている。全身の血管に血栓が形成されるが動脈にも静脈にも血栓形成が起こりうるのが本疾患の特徴と考えられている。動脈系血栓の約90%が脳血管においておこるとされている。抗リン脂質抗体陽性例のうち、血栓症を合併するものは20〜30%とされており大部分の症例では血栓症は生じない。しかし、一度発症した症例のうち、半数以上で繰り返し血栓症を起こすことが知られている。静脈血栓症にはワーファリンを使用し、動脈血栓症に対しては少量のアスピリン療法などが行われる。一般検査においては、血小板減少(40〜50%)、APTT延長、梅毒血栓反応生物学的偽陽性などの所見、既往に習慣性流産、血栓症の既往があれば、抗リン脂質抗体症候群を疑う。これらの所見がなくとも若年者での脳梗塞やリスクファクターが少ない症例では抗カルジオリピン/β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント、抗プロトロンビン抗体などの検査を行うことがある。
原発性脳血管炎(PACNS)は中枢神経(CNS)に限局した血管炎であり、主に脳や脊髄の軟膜および脳実質内の長径200〜300μmの細動脈から中動脈レベルの血管が障害される。原因ははっきりとはしておらず、マイコプラズマ、水痘帯状疱疹ウイルスなどの感染を契機に血管炎を引き起こす例や血管にアミロイド沈着などが認められ複数の原因の関与が示唆されている。症状の進行は一般的に亜急性の経過を辿ることが多いが、痙攣などで急性に発症する例や頭痛が持続する慢性の経過を辿ることもある。臨床症状としては認知機能低下83%、頭痛56%、痙攣や発熱30%、脳梗塞14%、脳出血12%の順に多く脊髄血管も障害された場合はそれに応じた症状が出現する。40〜60歳発症が多く、男女差はない。診断のゴールドスタンダードはカテーテルによる脳血管造影、脳生検(軟膜や脳皮質の小血管炎)などである。全身性炎症反応は乏しいが髄液検査では何らかの異常が認められる。MRIでは血管炎に船尾なって単発、または多発の白質、灰白質の脳梗塞巣や出血巣が確認され、腫瘍状にみえることもある。また小血管炎の結果、白質病変が認められる。血管造影では小動脈の拡張、狭窄を示しビーズ状と称される。その他周辺の血管やそこからはずれた血管も不揃いで閉塞や途絶が認められる。治療は結節性多発動脈炎の治療に準じて、ステロイドとシクロホスファミドの併用療法などが行われることがある。
高安動脈炎(旧称:大動脈炎症候群)は大動脈およびその基幹動脈、冠動脈、肺動脈に生じる大血管炎である。若年女性の微熱、めまい、炎症反応高値、血管雑音などが特徴とされている。本疾患に特異的な血液、生化学検査はなく、CRPや血沈、白血球数、ガンマグロブリン、貧血の有無から高安動脈炎の活動性の評価を行い、並行して易血栓性の検討の評価を行う。治ちょうはステロイドであり、臓器梗塞予防のために抗血小板薬を用いることもある。
神経ベーチェット病はベーチェット病の約10〜20%に認められる。約2〜5倍男性に多い。20〜40歳が好発である。神経症状は発症後3〜6年後に出現する(ベーチェット病診断後)ことが多いが、神経症状が初発となる場合もある。神経ベーチェット病の分類は実質性病変(脳幹、大脳、脊髄病変)80%と非実質性病変(血管病変、動脈瘤など)20%に分かれ、実質性病変はさらに急性型、慢性型に分かれる。急性型は髄膜炎症状+局所症状を示し、ステロイド反応性良好である。慢性型は急性型の経過の後に神経障害、精神症状が進行する。脳幹、大脳、小脳の委縮を伴い、髄液IL-6>20pg/ml(SLEなどでも上昇する)などが特徴的な検査所見となる。ステロイド抵抗性でありMTX少量パルス療法が(7.5〜15mg/week)が有効とされている。眼ベーチェット病と用いられるシクロスポリンは神経ベーチェット病を増悪、誘発させる。急性型は血管炎と考えられている。
肥厚性硬膜炎は様々な原因で脳や脊髄の硬膜が肥厚し、病変部位に応じて頭痛や脳神経麻痺、痙攣や脊髄圧迫症状など様々な症状きたす症候群である。造影CTや造影MRIにて造影効果を伴う硬膜の肥厚が認められる。原因としては感染症の続発やANCA関連血管炎症候群、IgG4関連多臓器リンパ増殖症候群(IgG4+MOLPS)などの報告がある。治療はステロイドが主体となっている。
疾患分類 | 疾患 |
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感染性疾患 | 結核、細菌、真菌、梅毒、HTLV-1 |
膠原病関連 | 関節リウマチ、多発性筋炎、MCTD、シェーグレン症候群、SLE、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎、MOLPS |
その他 | 特発性、悪性腫瘍、サルコイドーシス、造影剤の髄腔内投与、静脈洞血栓症、透析、外傷、薬剤 |
精査後も明らかな原因を特定できなかった脳梗塞のこと。再発予防はバイアスピリンが慣習上用いられるが、長期経過観察例ではholter ECGにて心房細動などが検出できなかった心原性脳塞栓症が多く含まれている考えられる。
若年者脳梗塞の病型と成因は中高年のそれとは大きく異なる。中高年の場合は動脈硬化に基づく心血管疾患や心房細動の関与が大きいのに対して40歳以下の若年性脳梗塞は動脈硬化や心房細動の影響は少なく特異な原因によるものが多い。抗リン脂質抗体症候群、ウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病)、血管炎や凝固異常、奇異性脳塞栓症(Paradoxical brain embolism)などが原因としてよく知られている。奇異性脳塞栓症とは静脈で生じた血栓が右心系左心短絡路を介して右心系から左心系に流入し脳塞栓症を発症する病態である。シャント性疾患としては卵円孔開存症(PFO)、肺動静脈瘻(PAVF)、心房中隔欠損症(ASD)などが知られている。頻度は脳梗塞連続例を対象とした検討で5%程度である。PFO in Cryptogenic stroke Study(PICSS)では脳梗塞を発症し、PFOがみつかったものの深部静脈血栓症や塞栓源性心疾患を有さない症例ではワルファリンとアスピリンによる治療効果は同等としている。心房中隔瘤(ASA、心房中隔が左房側と右房側に交互に突出する病態)がある場合は再発のリスクが上昇するとされているが、その再発予防に関しては結論がでていない。またシャントのカテーテル的閉鎖術に関しても長期予後や閉鎖後の抗血栓療法の指針などは示されていない。
一部BADと重複する概念である。BADはTOAST分類で原因不明の脳梗塞となる必要があるが線条体内包梗塞では内頸動脈狭窄や心房細動などの例が含まれても構わない。Donnanらの分類では線条体内包梗塞を心原性脳塞栓症、内頚動脈閉塞群、中大脳動脈近位部異常群、成因不明の4郡に分類している。中大脳動脈近位部異常群がBADに該当する。数本の穿通枝領域を含む大きな梗塞を形成し、皮質領域は梗塞が免れるがラクナ梗塞では通常は生じない、失語症、視野欠損、失行、失認などの皮質症状を起こすこともしばしばある。
白質病変を特徴とする脳血管性認知症として知られる。多発ラクナ梗塞性認知症とともに日本の脳血管性認知症の約半数を占める。皮質下血管性認知症に分類され、脳小血管病変を主因とする。
多発性脳梗塞や全身に多発する梗塞を認めた場合際は心原性脳塞栓症を念頭に治療を開始し、それと並行して塞栓源となりうる心疾患などの検索を行う。原因となる疾患としては非弁膜性心房細動が高く、その他としてはリウマチ性心疾患、特に僧帽弁狭窄症、急性心筋梗塞、心室瘤、人工弁、左房粘液腫、奇異性脳塞栓症などがあげられる。非心原性脳塞栓症の原因としては大動脈弓や総頚動脈など頭蓋内外主幹動脈の動脈硬化性病変より遊離した血栓が塞栓源の頻度が高い。アンチトロンビンⅢ欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などの先天性凝固異常症や抗リン脂質抗体症候群、播種性血管内凝固症候群、悪性腫瘍の遠隔効果などの後天性凝固異常症などが原因となる。
救急室での脳梗塞の鑑別では低血糖、痙攣、大動脈解離にともなう脳梗塞などは治療法が異なるため重要な鑑別疾患となる。そのほか、稀であるが重要な疾患を述べる。
一過性全健忘(TGA)とは認識や知能が保たれている状態で突発する著明な近時記憶障害、逆向性健忘で自分のおかれている状況が理解できず、同じ質問を何回も繰り返す特徴がある。発作持続は6〜7時間程度で逆行性健忘の短縮を経て改善する。Caplanの診断基準やHodgeの診断基準が知られている。発作目撃者の情報が得られる。神経症状は前向性あるいは逆行性の健忘、一過性記憶障害のみ、発作は24時間以内に消失する、最近の外傷や2年以内のてんかんがないの4つが重要な特徴である。Hodgeらによると年間発症率は3/10万人、平均年齢は62歳、再発率は13%であり発作持続時間は15分〜12時間である。誘因としては精神的、身体的ストレス(25%)、冷水浴(13%)、情動変化、性交、血管造影、運転、カラオケなどが報告されている。TGAの病態としてはPapesの記憶回路を含む海馬、大脳辺縁系の一過性代謝障害が考えられている。
家族歴を有する若年性糖尿病、難聴などを特徴とするミトコンドリア脳筋症のひとつにMELAS(メラス)がある。MELASは血管壁ミトコンドリアの機能不全による痙攣発作、不全片麻痺や半盲などの脳卒中様発作を繰り返す。脳卒中様発作は後頭葉、頭頂葉でしばしば認められ、病変分布が支配領域に一致しないため脳卒中様発作と言われる。
RPLSは1996年にHencheyらによって提唱された概念であり、後頭葉を中心とした白質脳症を呈し、頭痛や視覚障害、意識障害などの症状を示す。その病変は可逆的なものである。高血圧性脳症、尿毒症、子癇、急性腎炎、膠原病、化学療法、免疫抑制剤投与などが原因となることが知られている。通常は収縮期血圧200〜220mmHg以上、拡張期血圧120mmHg以上を示すことが多い。若年者では収縮期血圧150mmHg程度で発症する場合もある。免疫抑制剤の場合は薬剤の内皮細胞障害などが原因と考えられている。基本的な病態は血圧自動調節能の上限を超える血圧上昇によるBBBが破綻し、血管透過性亢進によって血管性浮腫がおこるとされている(breakthrough説)。急激な降圧は脳虚血を起こしやすいため、容量を調節しやすい静脈薬で開始1時間以内で平均血圧の25%以内、次の2〜6時間で160/100〜110mmHgを目標とする。グリセリン製剤を併用することもある。その他の治療としては痙攣を合併した場合は抗てんかん薬の投与である。
TIAに関しては定義の混乱が認められる。1990年の厚生省の基準では「脳虚血による局所神経症状が出現するが24時間以内に(多くは1時間以内)完全に消失しかつ頭部CTにて責任病巣に一致する器質性病変が認められない」とされていたがその後のMRIの普及によって、上記の定義を満たしていても拡散強調画像で高信号域を認めることが非常に多く、脳梗塞の経過をとるものも認められた。そのため2002年The TIA working groupでは「TIAとは局所脳虚血あるいは網膜虚血が原因による短時間の神経症状による症状であり、通常は1時間以内に症状は消失し急性脳梗塞の所見を伴わないもの」とした。いずれにせよ、緊急MRIが行えるか否かで診断名は変わってしまうということである。ABCDDスコアを用いて脳梗塞の進展の予測が可能である。MRIにおける拡散低下病変やMRAにおける動脈硬化性変化を含めると精度が向上するという報告も存在する。
名称 | 内容 | 点数 |
---|---|---|
A(age) | 60歳以上 | 1点 |
B(blood pressure) | 収縮期血圧≧140mmHgまたは拡張期血圧≧90mmHg | 1点 |
C(clinical features) | 片側脱力 | 2点 |
脱力を伴わない言語障害 | 1点 | |
D(duration of symptoms) | 60分以上 | 2点 |
10分以上60分未満 | 1点 | |
D(diabetes) | 糖尿病あり | 1点 |
TIA発症後2日以内の脳卒中のリスクは3点以下では1.0%、5点以下で4.1%、6点以上で8.1%とされている。糖尿病を除いたABCDスコアでは1週間以内の脳卒中のリスクが評価されており、4点では2〜4%、5点では12〜28%、6点では28〜36%とされている。TIAの概念が浸透するに従って一過性の神経症状全てがTIAと診断されがちになっている。以下にTIAに特徴的でない症状、TIAと考え難い症状をまとめる。NINDS-Ⅲでは局所性脳機能障害=TIA+脳卒中である。局所性脳機能障害とは脳の機能局在で説明できる神経脱落症状である。失神は脳の全般的な一過性虚血であり局所性脳機能障害である脳卒中ではない。脳卒中で意識障害を起こすことはあるだろうが、その場合は広範な脳梗塞になったら起こるものである。一過性の意識障害のみで局在性脳神経障害が伴わなければTIAは疑わない。
症状 | |
---|---|
TIAに特徴的でない症状 | 椎骨脳底動脈系の他の症状を伴わない意識障害 |
強直発作、強直間代発作、間代発作 | |
身体のいくつかの領域にわたって遷延性に進行する症状 | |
閃輝性暗点 | |
TIAとは考え難い症状 | 感覚障害の進行 |
回転性めまいのみ | |
動揺性(浮動性)めまいのみ | |
嚥下障害のみ | |
構音障害のみ | |
複視のみ | |
便あるいは尿失禁 | |
意識レベルの変動に伴う視力障害 | |
片頭痛に伴う局所症状 | |
錯乱のみ | |
健忘のみ | |
drop attackのみ |
しかし、非常に稀だが回転性めまいのみの脳梗塞なども知られており、除外は慎重に行う必要がある。
MRI画像上は拡散低下が認められないのがTIAであるが、画像上拡散低下が認められるものの経過、持続時間がTIAとなるものをTSIと区別することがある。これは虚血性心疾患でいう不安定狭心症に相当すると考えられている。超急性期においてはDWIにて高信号を示すがADC-MAPにて低信号を示さないこともあり、これは多くの場合ペナンブラであると考えられている。この画像所見は脳梗塞のpseudo-normalizationと経過で区別する必要がある。
脳梗塞は、壊死した領域の巣症状(その領域の脳機能が失われたことによる症状)で発症するため症例によって多彩な症状を示す。症状から責任病巣を決定することができる(神経診断学)。AHA(American Heart Assocition;米国心臓協会)のガイドラインでは一般人が脳卒中を疑うきっかけとして次のような症状、症候を述べている。
これらの症状が認められた場合は早期に医療機関の受診が望まれる。そのほか、以下のような症状も代表的である。
上記症状の重症度は日本の医療機関であればNIHSSで、プレホスピタルではKPSS(倉敷プレホスピタル・ストロークスケール)で評価されることが多い。
自分や家族で行えるFAST (ファスト) と呼ばれる確認方法がある[5][6][7]。アメリカ・マサチューセッツ州公衆衛生局による啓蒙キャンペーン (en) ではビデオアニメーションも制作されている [8]。
神経内科または脳神経外科が行うが、発症後3時間以内の超急性期では迅速な対応が必要であり、救急科が行うことも多い。
上記の巣症状のほか、上位中枢の障害を示唆する錐体路徴候(腱反射の亢進、バビンスキー反射の出現)や眼球運動異常などから梗塞部位が推測できる。神経学的所見から脳梗塞(脳卒中)の客観的な重症度を記載する方法として、いくつかのスケールが提唱されている。最も簡便で臨床的に多用されているのはNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)である[9]。これは超急性期の血栓溶解療法を実施する際には必須の項目となっている。
一般的な血液検査上は特徴的な所見はないが、血栓性では血小板機能を調べると亢進していることがある。ただし、血液検査から高脂血症・糖尿病などの基礎疾患を評価する意義は大きい。超急性期の血栓溶解療法を実施する際には高血糖や低血糖などの絶対禁忌項目があるため、血液検査は必須となる。
early CT sign | 所見 | 意義 | 病態 |
---|---|---|---|
レンズ核の不明瞭化 | レンズ核と内包の境界が不明瞭となるが島皮質との境界は明瞭 | 中大脳動脈領域の虚血 | 細胞性浮腫 |
島皮質の消失 | 島皮質と皮質下の境界が不明瞭となる | 中大脳動脈領域の虚血 | 細胞性浮腫 |
皮髄境界の不明瞭化 | 皮質と皮質下の境界が不明瞭となる | 中大脳動脈領域の虚血 | 細胞性浮腫 |
脳溝の消失 | 脳溝が狭小化する | 中大脳動脈領域の虚血 | 血管原性浮腫 |
hyperdense MCA sign | 中大脳動脈M1が高吸収を示す | 中大脳動脈M1の閉塞 | 血管閉塞 |
MCA dot sign | 中大脳動脈M2が高吸収を示す | 中大脳動脈M2の閉塞 | 血管閉塞 |
病期 | 病態 | DWI | ADC-MAP | T2WI | CT |
---|---|---|---|---|---|
発症直後(0 - 1時間) | 閉塞直後の灌流異常 | 所見なし | 所見なし | 所見なし | 所見なし |
超急性期(1 - 24時間) | 細胞性浮腫 | 高信号 | 低信号 | 所見なし | early CT sign |
急性期(1 - 7日) | 細胞性浮腫と血管性浮腫 | 高信号 | 低信号 | 高信号 | 低吸収 |
亜急性期(1 - 3週間) | 細胞壊死による炎症反応から徐々に浮腫軽減 | 高信号から徐々に低信号へ | 低信号から徐々に高信号へ | 高信号 | 低吸収からFEを介して低吸収へ |
慢性期(1か月 - ) | 壊死、吸収、瘢痕化 | 低信号 | 高信号 | 高信号 | 髄液濃度 |
二次性変化 | 所見 |
---|---|
皮質脊髄路のワーラー変性 | 皮質脊髄路に障害があるとその遠隔部で4週後よりT2短縮、10週頃よりT2延長。DWIでは2日から8日程度で信号変化が認められる。 |
視床の変性 | 外側線条体動脈を含め中大脳動脈領域に障害があると皮質視床路を介して同側視床が発症3か月以降にT2延長。背内側核から起ることが多い。 |
中脳黒質の変性 | 線条体の障害で同側中脳黒質に発症10日前後でT2延長が認められ、1か月ほどで消失する。 |
下オリーブ核仮性肥大 | 小脳歯状核病変では対側の下オリーブ核に橋背側中心被蓋路では同側に変性がおこる。数か月でT2延長がおき、その後肥大する。 |
交叉性小脳萎縮 | 橋核が障害されると対側の中小脳脚にワーラー変性が生じる。橋核近傍が障害されると対側に同様の変性が生じるため、両側性となることも多い。 |
プラーク性状 | TOF | T1WI | プロトン密度強調画像 | T2WI |
---|---|---|---|---|
脂質コア(出血なし) | 等信号〜軽度高信号 | 等信号〜軽度高信号 | 等信号〜軽度高信号 | 等信号〜軽度高信号 |
脂質コア(新鮮出血) | 高信号 | 高信号 | 低信号〜等信号 | 低信号〜等信号 |
脂質コア(出血あり) | 高信号 | 高信号 | 高信号 | 高信号 |
線維性被膜 | 低信号 | 等信号〜軽度高信号 | 等信号〜軽度高信号 | 等信号〜軽度高信号 |
石灰化 | 低信号 | 低信号 | 低信号 | 低信号 |
線維組織 | 等〜低信号 | 等信号〜軽度高信号 | 等信号〜軽度高信号 | 等信号〜軽度高信号 |
脳梗塞は8時間以内の超急性期なら、血栓溶解、それが不可能ならば物理的除去による血栓の解消が第一選択となる。この時点ならば、まだ壊死を起こしておらず、ペナンブラ(penumbra)と呼ばれる、虚血症状を起こしているがまだ生きている細胞のみの段階で治癒できる可能性がある。特に血栓溶解療法は制限時間が極めて短いため(rt-PAは4.5時間(4時間30分)以内)、事態は寸秒を争う。超急性期の治療は、20世紀末から相次いで新療法が登場しているが、安全性などの確認が、未だ不十分なところがある。
8〜24時間の急性期には、腫脹とフリーラジカルによって壊死が進行することを阻止するのが第一となる。また、再梗塞も予防する必要がある。そのため、血栓性とみられる場合には抗凝固薬を用いながらグリセリン(グリセオール™)やマンニトール等で血漿浸透圧を高めて脳浮腫の軽減を、発症24時間以内にエダラボン(ラジカット™)でフリーラジカル産生の抑制を図る。また梗塞とペナンブラの境界部位の血流保持も図られる。
薬剤 | 留意点 |
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rt-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子、アルテプラーゼ) | 発症4.5時間以内の全ての病型に適応がある。根拠に基づく医療による区分は推奨グレードA(最優先)である[10]。しかし禁忌や慎重投与といった項目もあり注意が必要である。0.6mg/kg(最大60mg)の10%を急速静脈注射投与し、残りを1時間かけて点滴する。アルテプラーゼ以外のt-PAは日本では未承認であり、推奨グレードC2(科学的根拠がないので、勧められない)となる[10]。 |
ウロキナーゼ(動脈カテーテル) | 発症6時間以内。中大脳動脈塞栓性閉塞に適応がある。推奨グレードB(推奨)。それ以外の病型では、推奨グレードC1(行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない)となる。ウロキナーゼはrt-PAより全身に作用しやすく、副作用が出やすい。そのため、血栓近くまで動脈カテーテルを挿入し、血栓に直接投与する本療法が望ましいことになる。 |
アテローム血栓や塞栓症の場合、発症直後(4.5時間(4時間30分)以内)であり、設備の整った医療機関であれば血管内カテーテルによってrt-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子、アルテプラーゼ)を局所静脈内投与する血栓溶解療法が可能である。これは、血栓の主成分であるフィブリンを溶かすプラスミンを活性化させる作用を持つ。日本脳卒中学会ではrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版 2012年10月(2016年9月一部改訂)を公開している。また、ウロキナーゼの動脈カテーテルは発症6時間以内に適応可能である[11]。しかしウロキナーゼはrt-PAに比べ血栓溶解作用が弱く、失血の副作用は起こりやすいため、双方使える環境ならばrt-PAが第一選択になる。ウロキナーゼの静脈注射は6時間以降も行えるが、効果はさらに劣る。
アルテプラーゼとしてはアクチバシンやグルトパがおもに用いられる。血栓溶解療法が有効な例の目安としては発症から3時間以内に治療開始できることである。またあまりに重篤な症状がある場合は慎重投与となる。NIHSSでは5 - 15点あたりが積極的な適応となる。MCA領域の1/3以上にCTで病変が認められるときは行わない(MRIは施行する必要はない)。また出血のリスクの評価として既往歴、血小板数、PT-INR<1.7あたりを指標とする。高血圧は出血のリスクとなるが、静注時に185/110以下にコントロールできていれば問題はないと考えられている。管理指針ではrt-PA投与中の1時間は15分ごと、その後投与開始から7時間は30分ごと、その後24時間までは1時間ごとにNIHSSといった神経学的評価を行うことになっている。rt-PAの静注を行った場合は24時間以内は抗血栓療法は禁忌となる。従って、rt-PAとウロキナーゼ動脈カテーテルは併用できない。しかし24時間以後は抗血栓療法も用いるのが一般的である。
rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版 2012年10月(2016年9月一部改訂)によると治療適応は確認事項、禁忌事項、慎重投与の三群に分けて評価される。2016年9月の改訂で、一部緩和された。以下に概略をまとめる。
1995年の米国の報告では、ほぼ無症状にまで回復したのは31%で、対照(偽薬)の20%より優れていた。また、死亡率も17%と、対照の21%より優れていた。一方、脳出血の副作用も6.4%と対照の0.6%より大幅に増えていた[15]。2002年 - 2004年にかけ、日本での治験(J-ACT)が行われた。発症後3時間以内の脳梗塞103人が対象で、体重1kg当たり0.6mgと、海外用量の2/3が投与された。3ヶ月後の結果は障害なしまで回復36.9%(38/103例)、死亡9.7%(10/103例)であった。また、36時間以内の脳出血は5.8%(6/103例)あった。この結果から、海外の2/3の用量で同等の効果が得られると報告した[16]。
こうした治験の結果、日本国内の治療でも2005年10月からrt-PAのうちアルテプラーゼ(遺伝子組換え)の静脈内投与による超急性期虚血性脳血管障害の治療について、健康保険適応となった。当初は、発症3時間以内が適応対象となった。
心筋梗塞の治療でrt-PAを使うときも承認前1.76%(7/398例)、市販後14例(14,360回投与中)の脳出血例が報告されている。脳梗塞専門病棟など整った施設において慎重に適応を選び十分な説明と同意の元進められる治療法であろう。また、「4.5時間以内の治療開始」の条件を満たすためには患者自身の状態以外にもrt-PAによる治療が可能な病院がどこにあるかといったことを救急隊、病院、自治体間で共有、連携していなければならない。AHA(アメリカ心臓学会)のガイドラインでも急性期脳卒中が疑われた場合rt-PA治療の可能性を考え、救急車による搬送をすべきであるとされている。2008年の診療報酬改定により厚生労働大臣が定める医療機関に対し、rt-PAを使った治療を行った場合に算定できる「超急性期脳卒中加算」(12,000点)が定められた。今後は行政レベルでの対応も必要になると考えられる。
2012年8月31日、rt-PA適応症を発症3時間以内から4.5時間以内に拡大した[17]。
#血管治療(血管拡張術)も参照
血栓溶解療法に次いで登場したのが、血栓自体をワイヤなどでからめとり、あるいはポンプで吸引して取り出してしまうという治療(血栓回収療法、機械的再開通療法)である。血栓回収療法の適応は発症8時間以内に限られる[18]。発症6時間以内に、本療法をrt-PAと併用する推奨グレードA[19]。rt-PAが無効・非適応だった場合、発症8時間以内の主幹脳動脈閉塞であれば、本療法を考慮してもよい(推奨グレードC1[18])。神経脱落症候を有する中大脳動脈塞栓性閉塞においては、来院時の症候が中等症以下で、CT上梗塞巣を認めないか軽微な梗塞に留まる場合は、本療法ではなく選択的局所血栓溶解療法(ウロキナーゼ動脈カテーテル)が優先される(推奨グレードB)[18]。
当初は、rt-PAでの治療を使えない・効果がなかった時のみの適応とされたが[20]、2015年4月、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会が共同で示した指針では、「発症から6時間以内の主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞」に対し、rt-PAを含む内科治療に本療法を追加することによる効果は、科学的根拠があると結論付けた。一方、後方循環系の主幹動脈閉塞や、発症から6〜12時間、それ以降の症例については、未だ有効性の知見が集積されていないとした[21]。いずれも顕著な副作用は報告されていない。失敗時の病状悪化も指摘されたが、急激に治療法としての地位を確立している。
2015年には、rt-PAを上回る治療成果を挙げたとする報告も出て来た[22]。総合東京病院の渡辺貞義院長は、「Solitaire FR 血栓除去デバイス」による血管再開通率は9割前後まで高まったとしている[23]。また、2015年2月11日、カナダ、カルガリー大学のマヤンク・ゴヤールらの研究グループが"The New England Journal of Medicine"に報告したところによると、300人の脳梗塞患者を対象に、血管内治療と従来の治療効果を比較した。対象となった患者は比較的軽症で、発症12時間以内に治療を開始した。結果として、血管内治療を受けていたグループでは、最初にCTで血管の状態を確認してから、血流が回復するまでの平均時間は84分だった。血管内治療後、自立可能にまで回復した割合は53.0%で、対照の29.3%より高かった。また、死亡率は10.4%で、対照の19.0%よりすぐれていた。一方、症状を伴う脳内出血は3.6%で、対照の2.7%より高かった。ただし、脳内出血の確率は、統計上の有意差ではないとされた[24]。
以下はいずれも商品名による区別で、一般名は中心循環系塞栓除去用カテーテル。商品によって禁忌となる対象は異なるため、治療時は十分注意が必要である。
発症して時間が経って血栓溶解療法適用外となったアテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞であれば、オザグレルナトリウム(抗血小板剤)・アルガトロバン(抗トロンビン薬、スロンノンHIなど)などを発症早期に投与する。ただし心原性塞栓症ではこれらは禁忌でありヘパリンなどが用いられる。2枝病変(前大脳動脈領域と中大脳動脈に及ぶ広範な梗塞など)や感染性心内膜炎が存在する場合は出血のリスクが高く抗血栓療法は控えるのが一般的である。抗血栓薬の併用療法はよくおこなわれ、アスピリンと硫酸クロピドグレルは発症3ヶ月以内の併用が、出血を増加させることなく再発予防に有効であった(推奨グレードB)[29]。アスピリンとワーファリンの併用は出血のリスクが高く一般的ではない。また、1年間以上の抗血小板薬の併用は、再発抑制効果が実証されておらず、出血のリスクは高まるために行わないよう勧められる(推奨グレードD)。
薬剤 | 留意点 |
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エダラボン | 脳保護薬であるエダラボン(Edaravone)(ラジカット(Radicut)など)は発症後24時間以内であれば全ての病型で適応がある。推奨グレードB[30]。腎機能障害が認められるときは禁忌となる。 フリーラジカル消去作用にて細胞性浮腫を減少させる効果があると考えられており、1回30mgを生理食塩水などに溶解し1日2回30分で点滴する。14日間投与可能である。 近年はt-PAと併用することも多い。症状に応じて短期間で終了することも考慮する。 発症後1 - 4日経過した場合の浮腫では血管性浮腫でありエタラボンは効果的ではなくグリセオール(グリセレブ)が用いられることがある。 |
オザグレルナトリウム | トロンボキサンA2合成酵素阻害薬(抗血小板薬)であるオザクレルナトリウム(カタクロット、キサンボン)は心原性脳塞栓症では禁忌となるが、急性期(発症5日以内)アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞では適応がある。適応症例の推奨グレードB[31]。 本剤80mgを維持液200mgに溶解し、1日2回2時間かけて点滴を行う。投与は2週間まで可能である。 特にラクナ梗塞急性期などはオザグレル(Ozagrel)とアスピリンを併用することが多い。 |
アルガトロバン | 選択的トロンビン阻害薬であるアルガトロバン(Argatroban)(スロンノンHIやノバスタンHI)は心原性脳塞栓では禁忌であるがアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞で用いられることが多い。保険診療上はラクナ梗塞には適応はない。 発症48時間以内に投与を開始し、アルガトロバン60mgを維持液500mlで溶解し、24時間で1本2日間投与を行い、その後アルガトロバン10mgを維持液200mlで溶解し1日2回3時間かけて投与する。これを5日間継続する。 適応病型への推奨グレードB[32]。投与直後は出血性合併症に注意し、3日目以降は脳梗塞の悪化が疑われたら、抗血小板薬の追加やヘパリンへの変更を検討する。アテローム血栓性脳塞栓症急性期ではアルガトロバンとアスピリンを併用することも多い。 半減期が15分〜30分であり、持続点滴終了後に効果が低下すると考えられる。 |
ヘパリンナトリウム | 抗凝固薬であるヘパリンの扱い方は病型によって異なる。 心原性脳塞栓症の場合は発症から24時間以内は出血(血腫形成)をきたし、出血性梗塞となる場合がある。 そのため発症から24時間経過した時点で頭部CTを施行し、血腫形成がなければ、急性期の再発予防としてヘパリンを1万〜1万5千単位/dayの低用量持続点滴を行い、ワーファリンによる抗凝固療法に切り替えてゆく。 ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では進行型脳梗塞の場合に1万〜1万5千単位/dayの低用量持続点滴やAPTTを基準値の1.5〜2倍にコントロールする。いずれも推奨グレードC1。 |
ワルファリンカリウム | 抗凝固薬であるワルファリン(ワーファリン)は急性期にヘパリンを用いた場合に引き続き、慢性期管理によく用いられる。 アテローム血栓性脳梗塞では高度狭窄病変が認められる場合はアルガトロバンやヘパリンに引き続き投与を行う。 心原性脳塞栓症ではPT-INRを2.0〜3.0(高齢者や低リスクでは1.6〜2.6)にコントロールする。深部静脈血栓症を伴う奇異性脳塞栓症などでも用いられる。慢性期の心原性脳塞栓症で推奨グレードA[33]。 |
アスピリン | 作用発現の早さから急性期にも好まれる。急性期と慢性期では投与量が異なり、急性期は160〜300mg/dayであり2週間程度で75〜150mgへ減量する。 原因不明の脳梗塞や奇異性脳塞栓でもアスピリンが選択されることが多い。 アスピリン喘息などアスピリン不耐症やアスピリン内服中に発症した場合はその他の抗血小板薬への切り替えや併用を検討する。48時間以内の急性期では全ての病型で推奨グレードA[31]。慢性期では非心原性脳梗塞では推奨グレードA。心原性脳塞栓症ではワルファリンが第一選択となるため、ワルファリンが禁忌の病型に限って推奨グレードBとなる[34][33]。 |
塩酸チクロピジン | 塩酸チクロピジン(Ticlopidine)(パナルジンなど)は急性期には200〜300mg/dayの投与がされることがある。慢性期は200mg/day。慢性期では非心原性脳梗塞への適応で、推奨グレードB[34]。後発薬の硫酸クロピドグレルと薬効は同等だが、副作用が強いため本薬剤の適用は減りつつある。 |
シロスタゾール | シロスタゾール(Cilostazol)(プレタールなど)は急性期に200mg/dayで投与される。うっ血性心不全では禁忌であり、虚血性心疾患でも慎重投与である。慢性期では非心原性脳梗塞への適応で、推奨グレードA[35]。 |
硫酸クロピドグレル | クロピドグレル(Clopidogrel)(プラビックスなど)は急性期に50〜75mg/dayで投与される。慢性期は非心原性脳梗塞で、75mg/day投与が推奨グレードAである[34]。 |
ウロキナーゼ | 血栓溶解薬であるウロキナーゼの静脈注射は原則としては心原性脳塞栓には禁忌である。 しかし脳底動脈閉塞症などの場合はカテーテル下動注を行うことがある。 ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では発症5日以内であれば6万単位/dayの静注や超急性期の動注が行われる。推奨グレードC1。 |
デキストラン | 血漿増量薬。デキストランの最も良い適応は血行力学性機序の関与が疑われるアテローム血栓性脳塞栓である。Ht高値のラクナ梗塞でも用いられることがある。 500ml/5hrで5日間使用する。すべての症例で使用を「考慮してもよい」が、有効性は十分な科学的根拠がなく、推奨グレードC1となる[35]。 |
グリセオール | アテローム血栓性脳梗塞であればグリセオール200mlを1日2回、1回2時間で投与する。心原性脳塞栓や脳出血ならば1日3から4回投与する。脳浮腫が著明な場合は6回ほど用いることもある。適応病型への推奨グレードB[36]。 心不全ではNa負荷となるため慎重投与が必要である。グリセオールより脳圧効果作用が強いマンニトール(マンニゲン、マンニットールなど)の使用はエビデンスによる裏付けに乏しい。推奨グレードC1。 |
脳梗塞の予後は、リハビリテーションをどれだけ積極的に実施できたかによるところが大きい。病床で安静にする期間をできる限り短くし、早期から日常に近い生活を目指すことが重要である。超急性期リハと呼ばれる、発症当日からのリハビリが最も有効であることが示されている。麻痺の回復過程では一部の筋肉を動かそうとすると複数の筋肉が動いてしまうという共同運動という現象がみられることが知られている。
片麻痺の回復過程に関してはいくつかの報告がある。発症時にBrunnstrom stageがIV以上であれば6か月以内にほぼ完全に完全回復に達するとされている。また発症後2週間以内の時点でBrunnstrom stageがIV以上に回復すればほぼ8割でstage VIまで回復するとされている。発症時に軽度の麻痺であるほど、また発症早期に軽度の麻痺まで回復するものほど予後はよいとされている。麻痺の改善は2カ月ほどでプラトー(高原、頭打ち)に達するが、1年程度まではなだらかに回復することもある。麻痺の回復程度は年齢と重症度に依存し、完全麻痺(stage IやII)や高齢ほど回復しにくいとされている。運動能力は6カ月〜1年がプラトーの目処となる。一方、川平和美の開発した促通反復療法(川平法)では、麻痺を回復させたい部位をピンポイントで刺激するなどの療法で、1年以上経過した患者にも効果があるとしている[53][54]。
高次脳機能障害については、"Evidence Based Review of Stroke Rehabilitation"によると、2/3の患者が何らかの障害を発症する。注意障害がもっとも回復しやすく、記憶障害は回復しにくい。また、認知症のリスクが最大で10倍になる。16〜20%の患者は改善する。身体能力に比べ、リハビリテーションの効果はやや劣る(推奨グレードBないしC1[55][56])。大部分の回復は発症後3カ月以内に起こるが、少なくとも1年間は回復が続く可能性がある。記憶障害の有病率は、3カ月後で23〜55%、1年後で11〜31%であった。リハビリは、代償的ストラテジー(手帳、日記、ポケットベル、コンピュータなどによる記憶)が記憶障害に効果がある可能性がある。ジェスチャートレーニングは、失行に対して効果的である。薬はガランタミン、ドナプレジル(未承認)、ニモジピン(未承認)、メタンチン(未承認)などの薬効が報告されている。失語症は十分なリハビリにより回復の見込みがある。回復は発症後1〜3カ月以内が最も大きく、1年間は回復が続く。それ以降は回復はごく穏やかに、あるいはプラトーに達してみられなくなる[57]。
再発予防のための抗凝固・抗血小板薬を使用する上で問題になるのが、出血性梗塞である。これは、壊死した血管に血流が再度流れ込むことで血管壁が破れ、脳出血に至った状態である。これは特に、広範な脳梗塞で問題となる。そのため塞栓性などの広範な症例では梗塞の進行停止を見極めてから慎重に開始し、その後もCTで出血の有無をフォローアップすることが欠かせない。
梗塞原因の特定は、その後の再発予防計画を立てていく上で非常に重要である。まずは既往歴や生活習慣の聴取によってリスクファクターをまとめるほか、心エコーによって心房内血栓の有無、ホルター心電図によって不整脈の有無、頚動脈エコーによるプラークの有無を調べたりなどの評価が必要となる。高血圧や非弁膜症性の心房細動があれば、そのコントロールは特に重要である。
脳梗塞の病理像は虚血性壊死の病巣修復過程に関わる一連の生体反応から成り立っている。病理学的には肉眼的に蒼白にみえる貧血性梗塞と出血を伴う出血性梗塞に分類される。
Microbleeding(MBs)はT2*WIにて基底核領域、脳幹部、大脳皮質下に認められるほぼ円形の均一な低信号域を示す。生理的石灰化や血管内血栓が画像上の鑑別となる。脳内微小出血(CMB)であるがrt-PAの除外項目に含まれておらず、急性期治療では治療方針には関与しない。脳アミロイドアンギオパチーでは多数認められる。CMBが5個以上認められる場合は出血のリスクがあるため慢性期に抗血栓療法を中止すること考慮する。しかし5個未満の場合はCMBがあること自体が脳梗塞リスクとなるため抗血栓薬の中止はしないことが多い。これらは2010年現在十分なエビデンスが集積していない。
脳卒中発症後1〜2週間以内における痙攣発作のことである。脳の代謝の変化によっておこると考えられている。発作型は部分発作あるいは部分発作の全般化による直間代発作が多い。まれに痙攣なく神経脱落症状をしめすinhibitory seizureも認められる。出血性脳卒中に多く、特に皮質を含む病変では起こりやすい。early seizureは慢性期の再発は少なく継続的な抗てんかん薬の処方は必ずしも必要ではない。
高齢者の脳MRIには無症候性脳梗塞、無症候性大脳白質病変、拡大血管周囲腔があり、これらの判定にはかなりの混乱が認められている。日本脳ドックガイドライン2008での鑑別基準をまとめる。
ラクナ梗塞(空洞化なし) | 血管周囲腔 | 大脳白質病変 | |
---|---|---|---|
T1WI | 低信号 | 低信号 | 等 - 灰白質程度 |
T2WI | 明瞭な高信号 | 明瞭な高信号 | 淡い高信号 |
プロトン密度強調画像 | 明瞭な高信号(+中央部が低信号) | 低信号 | 淡い高信号 |
FLAIR画像 | 等 - 高信号(中央部が低信号) | 低信号 | 淡い高信号 |
大きさ | ≧3mm | <3mm(大脳基底核下1/3では1cm超えることも) | さまざま |
形状 | 不整形 | 整形、白質では線状 | さまざま |
好発部位 | 基底核(上2/3)、白質、視床、脳幹 | 白質、海馬、中脳 | 大脳白質、橋底部 |
脳梗塞の画像経過からも示されているように画像のみで区別するのは難しいが、無症候性の場合はT1WIとFLAIRで低信号をしめすとラクナ梗塞や血管周囲腔の拡大とするのが一般的である。血管周囲腔とラクナ梗塞の鑑別は線状の形、位置のほかに、周囲のFLAIRで高信号を伴う場合はラクナ梗塞、伴わない場合は血管周囲腔を疑うのが一般的である。これはラクナ梗塞にて組織欠損、空洞化した後の所見と考えられている。内部信号はCSFと同様となるのが特徴的である。無症候性ラクナ梗塞という概念自体、書物により存在を認めない場合もあるが、画像診断学では存在する立場をとっている。
Fazekas分類 | 脳ドック学会 分類 | ||
---|---|---|---|
PVH | grade 0 | abcence | なし、またはrimのみ |
grade I | cap or pensil-thin lining | capのような限局性病変 | |
grade II | smooth hallo | 脳室周囲全域にやや厚く広がる病変 | |
grade III | irregular PVH extending into the deep wahite matter | 深部白質まで及ぶ不規則な病変 | |
grade IV | 深部 - 皮質下白質にまで及ぶ広範な病変 | ||
DWMH | grade 0 | abcence | なし |
grade 1 | punctate foci | 3mm未満の点状病変、または拡大血管周囲腔 | |
grade 2 | beginning confluence of foci | 3mm以上の斑状で散在性の病変 | |
grade 3 | large confluent area | 境界不明瞭な融合傾向をしめす病変 | |
grade 4 | 癒合して白質の大部分に広く分布する病変 |
病理学的にはPVHもDWMHも髄鞘の淡明化と血管周囲腔の開大とされている。PVHでは細胞外腔の拡大、DWMHでは微小梗塞を伴うことが多い。両者とも細動脈硬化に伴う慢性虚血性変化と考えられている。高度なものは無症候性脳梗塞と同様脳卒中の強力な危険因子であり、認知障害やうつ病の関連も強い。降圧療法の積極的適応が推奨されている。一方軽度の場合は病的な意義はないと考えられている。軽度のDWMHはラクナ梗塞との鑑別が問題となる。
慶応大学医学部のグループはペルオキシレドキシン(peroxiredxin)による症状悪化のメカニズムを発見した[63]。ペルオキシレドキシンは炎症細胞を活性化させ、脳梗塞した部分の拡大、麻痺、しびれなどの神経症状の悪化に関わっていた[64]。
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