- 英
- dementing、dement
- 関
- 痴呆
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きちがい(英語: Mad、Lunatic)とは、本来は発狂した人間、端的に状態が著しく常軌を逸した人間を指す。漢字では気違い、気狂いと表記する。また、気が違う、気が狂う、気がふれる、狂人(きょうじん)、キチガイ、キ印(キじるし)とも表現する。インターネットスラングでは基地外と表記することもあり、これは「基地」が常識の範囲内であることを示し、その範囲「外」であることから「きちがい」になる。動詞にすると、「気違いじみる」(自上一)などと使われる。転じて身体障害者、精神障害者、知的障害者、または理性が欠如した者に対する、蔑称として使われる。
目次
- 1 概説
- 2 医学的根拠
- 3 参考
- 4 表現使用と対応他
- 4.1 放送関連での対応
- 4.2 放送関連以外での対応
- 4.3 その他
- 5 脚注
- 6 関連項目
概説
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江戸時代に精神病の呼称として平安時代からの「物狂い」に加えて「きちがひ(幾知可比)」としてこの言葉が生まれた[1]。当時の公文書、少なくても仕置に関する公文書(たとえば判例集の御仕置裁許帳)では、江戸時代はじめ1670年代から1680年代までは「気違」が使われていたが(のちに「乱気」や「乱心」が使われるようになる)[2]、罵り言葉としてもしばしば使われる一方で、「○○キチガイ」といった表現は「○○愛好家」「○○マニア」といった肯定的な意味で使われている[3][4]。
テレビ等の日本のメディアで使用が忌避される単語だが、特に法律で使用が禁止されているわけではない。特に1970年代頃まではテレビや書籍、漫画などのメディア媒体や一般の会話でも日常的に使われていた。1974年以降一時期、精神障害者の家族らで構成される精神障害者家族会の会の一部から、家族は萎縮し、回復治療期に、テレビ・ラジオでこの語を聞いた精神障害者がショックを受けることにより、治癒を妨げる等の医学的根拠を理由に大阪の各放送局が激しい抗議を受けたことが発端となり、以降使用自粛につながった。テレビ・ラジオを一日中モニターする体制を整え、NHK、民放を問わず、時には団体幹部の独断でも抗議するという激しさであった[5]。このため、現在ではほとんどの放送局で放送禁止用語とされるか、あるいは放送を自粛すべき言葉とされている。これが転化して放送禁止用語=差別用語とみなされるようになった。スタジオには「気違いは禁句」と書いた紙を貼り出して誤って使用したりすることがないように努めている。例えば『新・荒野の素浪人』第22話「くノ一情話」(1974年5月28日放送)でこの語を使用していたため、放送局で最初に抗議を受けた毎日放送では謝罪し、1974年8月からスタジオに「きちがいというコトバは禁句」の掲示板を常設することになった。一般社会においても差別用語とされる。
現在ではテレビはもちろん、書籍や漫画、一般の会話でも使用されることは減っている。昔の名作ドラマや、アニメがソフト化などされる際によくこの言葉が入っているので、以前はカットされる動きがあったがボイス部分に不自然な空白(無音)が生まれるため、最近では「原作を尊重する」意味で手を加えないことも多くなっている(冒頭に「お断り」のテロップが入る)。昔の漫画や書籍が近年になって復刻される際にも、「きちがい」や「気が狂う」という表記は「気が変になる」「気がおかしくなる」など、比較的穏当な表現に差し替えられるか、全く別のセリフに置き換えられることが多い。ただし、一部の復刻本では「当時の表現を尊重」し、断り書きを載せた上であえてそのままにしている場合もある。現代の漫画や書籍においては「きちがい」と堂々と書かれることはほとんどないものの、「き○がい」など一部を伏字にした上で書かれる例もある(英語におけるfuckなどと同様)。
「気」という言葉の意味は日本語的に広い解釈があり(たとえば「病気」「気が弱い」など)、「気」という物の概念の広さから、ほかの人と違う考えを持っている、あるいは若干ずれた考えを持っているという意味も含むという本来の趣旨とかけ離れ、単に世間から見て異常な行動を取る人物、または社会的に容認されない行動、もしくはその人物そのものを指す意味に(悪意的あるいは過剰的に)理解された事情もあり、この言葉を用いることにマスコミ・報道関係が過剰に反応するのはナンセンスであるという意見や、単なる言葉狩りという意見もある。沖縄国際大学の山口真也准教授はJ-CASTニュースの取材に対し、団体が言ってくる言ってこないで対応を変えるのはおかしいとし、差別とは何かをしっかり考えて言葉を使うべきとテレビなどの自主規制の方法に疑問を投げかけている。日本民間放送連盟も同じテーマの取材に答えており、「状況に応じて必要があれば使われてもいいはず」とした一方、「表現で傷つく人もいる以上放送できないのは仕方がない」と回答している[6]。
医学的根拠
出典元は「続・差別用語 用語と差別を考えるシンポジウム実行委員会編 汐文社 ISBN 9784811300979」である。関東学院大学法学部教授丸山重威のWebサイト「ジャーナリズム・マスコミュニケーション・世界の平和と私たちの暮らし」の『また「戦友」を失った…「ジャーナリスト・江上茂さん」のこと[7]』では、「用語と差別を考えるシンポジウム」は1975年に日本新聞労働組合連合、日本出版労働組合連合会、日本民間放送労働組合連合会、映画演劇関連産業労組共闘会、日本放送作家組合、日本俳優連合、放送芸能者協会、全日本視覚障害者協議会の8団体が主催し、提示された用語タブーの実態や資料に本質的な問題を加えて江上茂と丸山重威が出版し、後の「続・差別用語」と「新・差別用語」は実質江上茂が手がけた。
「続・差別用語」に寄せられた精神科医、吉川修のコメントによると、あくまで毎日放送の説明であって、医学的には合点がいかないとしている。第一に、この言葉がストレス、病状悪化、ショックを与えるか否かはその情況によるからで、一般に、自分とは場面や状況で言われたこの「言葉」「音声」が患者の病状を悪化させるとは考えられないとしている。
参考
三河物語
大久保彦左衛門の『三河物語』に、「波切孫七郎ト申は、無レ隠武辺之者、又ハ気チガ(イ)者ナレバ」とある。三河一向一揆の際に、主君の徳川家康に逆心した家臣を指していたようである。
趣味
趣味などに常識を超えて没頭する者のことを「○○キチ」や「○○きちがい」と表現するが、現在ではこれらも望ましくない表現とされている。「オトキチ」、「カーキチ」[8]、「碁キチ」、「雀キチ」、「パチキチ」、「トラキチ」など(参照: マニア)。この使用法が一般には浸透しており、侮蔑の意味でもなんでもないため、テレビなどで素人が言ってしまう放送禁止用語としては最もよく見られる。古いテレビ番組や映画などでも顕著に見うけられ、放送ではよく削除されている。例外として「釣りキチ三平」があり、このことから熱烈な釣り愛好家のことを釣りきちがい、あるいはツリキチと自称する例は多い。
イタリア
イタリアでは狂人を表す語としてfolle(フォッレ)、matto(マット)、pazzo(パッツォ)があるが、屈辱的なニュアンスはほとんどない[9]。
表現使用と対応他
放送関連での対応
- ジャン=リュック・ゴダールの名作『気狂いピエロ』は、テレビではフランス語タイトルの『ピエロ・ル・フ』で放映されることが多い。こういったメディアの過剰反応に対しては、単なる言葉狩りではないかという批判的な意見もある。
- 横溝正史の『獄門島』では、主人公である金田一探偵が「季違い」と「気違い」を混同するという、作品のトリックに関する重要なシーンがある。過去に日本映画やテレビドラマとして制作されたことはあるものの、この語が放送禁止用語として指弾されてからは、テレビではそのまま放送できない。それらを放送する場合は、苦肉の策としてその部分のみ削除を行い、新たにドラマ化される場合はストーリーを改変している。
- 2007年(平成19年)5月1日に、NHK衛星第2テレビジョン「衛星映画劇場」で放送された際には、上記のような処理はまったく行なわれなかった。本編終了後、現代からすれば、配慮が必要な用語・表現などが含まれるが、「作品のオリジナリティーを尊重して、そのまま放送しました」旨の断りが表示された。
- 2016年(平成28年)11月19日にNHK BSプレミアムで放送された長谷川博己主演のドラマ版では、変更されずにそのまま用いられた。
- かつて放映されたテレビ番組などを後に再放送する際、「きちがい」の語を含む部分は編集されるか音声を消去され、程度のはなはだしい場合は放送回自体を省かれる。サブタイトルに「きちがい」の語が含まれている場合は、サブタイトルを改題する場合もある。
- テレビドラマ『東京警備指令 ザ・ガードマン』の第39話「わたしは人殺しなの」(1965年(昭和40年)12月31日放送)は、セリフに「きちがい」の語が多数登場し、また「犯罪を犯しやすい」という差別的表現があるため、再放送時に欠番となった。ただし、DVDには収録されている。
- 子供向け特撮ドラマ『怪奇大作戦』の第24話「狂鬼人間」(1969年(昭和44年)2月23日放送)は、刑法第39条第1項「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」の規定をテーマとしているため、後に円谷プロによって正式に「永久欠番指定」され、再放送は1984年(昭和59年)に岡山放送で行われた時(この際にも一部がカットされている)を最後に、ソフト化は1995年の発売当日に店頭から回収となり予約分のみが流通したLDボックスを最後に、そのエピソードの再放送はおろか、ソフト販売も一切不可とされている。
- 子供向け特撮番組『ジャンボーグA』の第26話「グロース第2号作戦 気ちがい星とノンビリゴン」(1973年(昭和48年)7月11日放送)は、ソフト化の際に「グロース第2号作戦 謎! ノンビリゴンの正体」と改題された。ただし、再放送は改題されていない。(TOKYO MX「円谷劇場」で2011年(平成23年)8月7日に放送された時には改題されていた。ただし、「番組のオリジナリティーを尊重するためそのまま放送します」と事前にテロップがあった)
- 子供向け特撮番組『クレクレタコラ』の第220話「気違い真似して気が触れたの巻」(1974年(昭和49年)8月2日放送)は、そのサブタイトルと内容により再放送で欠番となった。ただし、DVDには収録されている。
- 衛星放送にて旧作品を放送する場合、放送局によっては当該用語を消音にする局としない局がある。
- 2005年(平成17年)、塩川正十郎は日本テレビの情報番組『真相報道 バンキシャ!』に出演し、当時話題になっていた騒音おばさんの映像を見て「こりゃねえ、やっぱり狂ってますよこの人は。顔見てごらんなさい。目はつり上がってるしね、顔がぼーっと浮いてるでしょ。これ、きちがいの顔ですわ。」と発言し、即座に司会の福澤朗が「塩川さん、そういう発言はふさわしくないと思います。」と述べ、視聴者に謝罪した。
- 2009年3月4日の『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングで元タカラジェンヌの毬谷友子が「もう今、うちがきちがいみたいな…」と口にした(悪気がなく、無意識にうっかり言ってしまった模様で本人もすぐに気づいた)。しかし、タモリがすぐに話を逸らしたが、その後も別の話題で会場から「若い!」と声が上がった直後に毬谷は再び「きちがいです」と口にし、慌てて口に手を当てた。その後、番組内で本人ではなく加藤綾子アナウンサーが謝罪した。
- 2016年11月25日深夜放送の『朝まで生テレビ!』で、パネラーの孫崎享が「マティスは、きちがいみたいな言い方をしてる」と発言。番組の中盤で渡辺宜嗣アナウンサーが「先ほど、放送中に不適切な発言がありました。お詫びいたします」と謝罪するも、司会の田原総一朗が「きちがいって言葉ね。きちがい」と2回も連呼した。
- プロレス団体大日本プロレス所属の"黒天使"沼澤邪鬼は、「キチ○イの神様」と自称し、チーム「045邪猿気違's(ゼロヨンゴ・ジャンキーズ)」でタッグを組む葛西純とともに「キチ○イ」をキャッチフレーズとしている。そのため同団体の中継番組「大日大戦」では、地上波放送の際に「キチ○イ」の部分に「ピー音」がかぶせられる。当選手のマイクパフォーマンス中に観客からの「キチ○イ」コールは修正できないため、CSは修正なしのパターンもあり、地上波はシーン自体がカットとなる(キチ○イの表記については"黒天使"沼澤邪鬼を参照)。
- ニュースや報道でのインタビューで一般人が「きちがい」といった場合、字幕テロップでその発言の「きちがい」の部分が別の単語に差し替えられることがある。(例:子供が行方不明になった母親を見た人がインタビュアーに対し「きちがいのように子供を捜していた」と言う部分の『きちがい』を『夢中になって』に差し替えた。)
- ニュース番組・報道番組やドキュメンタリー番組などで、沖縄県の在日米軍基地問題を取り上げる際に使う例として「基地外」では「きちがい」と音が同じになってしまうので『基地の外(きちのそと)』と、言い換えて表現している。
放送関連以外での対応
- 藤子・F・不二雄原作の漫画作品『ドラえもん』では、「狂う」やそれに類似した言葉は版を重ねる度に改訂されており、その際は「おかしくなった」などの表記に変更されている。ひみつ道具の「狂音波発振機」や「狂時機(マッド・ウォッチ)」においては漢字を「驚」に置き換えるという改訂も行われており、後者においては漢字と英訳された読みに、意味の違いが生じている。また、『小学一年生』1970年11月号掲載の「クルパーでんぱの巻」は藤子・F・不二雄大全集収録時に「おかしなでんぱ」に改題された。
- 日本語入力システムによっては「気違い」と変換されないよう、初期設定では単語登録されていないことがある。そのため「基地外」と誤変換され、これがインターネット掲示板の「2ちゃんねる」などで使用されている。他に、「キティ・ガイ(略してキティ)」などのカタカナを用いたスラング的な表現も用いられている。詳しくは2ちゃんねる用語参照。
- 逆に、在日米軍基地や自衛隊等の軍事施設の敷地外を指す場合に、「気違い」を連想させないよう「基地外」ではなく「基地の外」(きちのそと)と言い換えられる。
- THE BLUE HEARTSの楽曲『終わらない歌』の歌詞に「終わらない歌を歌おう キチガイ扱いされた日々」というものがあるが、歌詞が該当するボーカルの部分にギターを被せ聞き取りづらくしている。また歌詞カードの表記についても「…」と表記されている。但しコンサートでは、きちんと「キチガイ」と歌っている。
- 同楽曲が使用されている日本映画「リンダ リンダ リンダ」でも同様の措置が採られた。
- 2007年7月21日、当時の外務大臣麻生太郎が「酒は『きちがい水』だとか何とか皆言うもんだから、勢いとかいろんなことありますよ」と発言したことに対して、毎日新聞が「問題発言である」と主張(毎日新聞 2007年7月21日付)。本来「きちがい水」という言い回しそのものは、古典落語にもある江戸時代からの伝統的な言い回しであるが、この時期は日本国政府関係者から、さまざまな問題発言が注目されていた時期のため、ほかと同様に過剰に問題視する人もいた。
- 任天堂のゲーム「どうぶつの森」で、手紙や掲示板に「きちがい」または「キチガイ」と入れると、自動的にその部分が削除されるようになっている。
- スクウェア・エニックス(旧エニックス)のドラゴンクエストシリーズでは名前変更時に「きちがい」と入力すると、命名神の逆鱗に触れるという警告を受け、それを無視して変更を強行すると以後名前が容易に変更できなくなる。再変更時には、ゲーム上の所持金から多額の料金を請求されることになる。なお、下品な言葉でも同様である。
その他
- 東海地方(特に名古屋弁)では、年齢の上下関係なく、ごく一般的な言葉として登場することがままある。熱烈な中日ドラゴンズファンを指して、尊敬の念をこめて「ドラキチ」と呼ぶことがある。
- 俳句の世界には「季ちがい」という言葉があり、季節外れの題材あるいは季語を用いた際に用いられる。この言葉は誤解を招くとして、報道機関・出版物では「季節違い」「季語違い」と言い直されている。
- 非常に危険であることのたとえとして、『気違いに刃物』という慣用句がある。
- 酒(日本酒)について、『きちがい水』という俗語がある。
- 黄色のことを『きちがい色』と称する場合がある。
- チョウセンアサガオには、毒性がある事から『キチガイナスビ』という異名がある。
- 日本三大奇書とされる夢野久作の長編怪奇小説『ドグラ・マグラ』に精神病院の恐ろしさを歌ったとされる「キチガイ地獄外道祭文」という一見支離滅裂な文体で構成されたパートが登場する[10]。
- ネット用語としてマジキチ、キチ、オワ吉が存在する。
脚注
- ^ 精神医学の歴史 小俣和一郎 第三文明社 ISBN 9784476012521 p120
- ^ 江戸時代後期における精神障害者の処遇[3] (PDF) 板原和子 桑原治雄 社会問題研究・第49巻第2号 2000年 p196
- ^ テレビ番組『ウルトラマン』の第2話(1966年)では科特隊のイデ隊員が自分自身を「宇宙語に関してはきちがいだ」と自慢するシーンがある。
- ^ 釣り漫画『釣りキチ三平』の「釣りキチ」とは、釣りの愛好家を指す「釣りキチガイ」の略である。
- ^ 「封印作品の謎」安藤健二 太田出版 ISBN 978-4872338874
- ^ “女優の「キチガイ」発言で謝罪「放送禁止用語」とは何”. J-CASTニュース (J-CAST). (2009年3月8日). http://www.j-cast.com/2009/03/08037204.html 2016年2月11日閲覧。
- ^ “また「戦友」を失った…「ジャーナリスト・江上茂さん」のこと”. 2012年12月18日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2010年2月25日閲覧。
- ^ オトキチはカミナリ族の勃興期、カーキチはモータリゼーションの加速期によく使われた言葉で、共に現在では自虐や冗談以外で用いられることはほとんど無い。
- ^ 精神病院を捨てたイタリア捨てない日本 大熊一夫 岩波書店 2009年 ISBN 9784000236850 「はじめに>用語について」
- ^ ドグラ・マグラより「キチガイ地獄外道祭文」夢野久作
関連項目
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