出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/08/02 17:02:04」(JST)
発掘調査(はっくつちょうさ、英語:excavation)とは、
のことをいう。
狭義には、考古学における埋蔵文化財の調査のうち、法律用語で、遺跡における遺構の検出状況と遺物の出土状況を実測図や写真に記録保存するために遺構を掘り下げる調査を指す。
広義には、地表面からは確認できない遺構の所在を確認するための試掘調査(しくつちょうさ、trial excavations)や遺構の性格の概要までを把握する確認調査(かくにんちょうさ)を含む遺跡の調査総体をいう。トレンチ(試掘坑、trial trench)とよばれる溝を、通常幅1m~2mくらいの任意の幅で、交差する二方向ないし平行に掘っていき、それによって遺構の広がりの確認をおこなう。また、10mの方眼(グリッド)を調査区全体に設定して、一定の間隔で短いトレンチを入れたり、2mの方眼を一区おきに表土をはがして、遺構の有無を確認する場合もある。
遺跡の有無を広域にわたって把握するために踏査を行なって遺物の表面採集を行なうものを一般調査(general survey、遺跡分布調査、単に分布調査ともいう。)といい、遺構や遺跡の有無を確認するために、1地点をスコップで掘り下げたり、ボーリング棒を突き刺すことがあるが、主として地表面から確認できる範囲で遺跡の所在を確認することが主体の調査であって、通常は発掘調査のカテゴリーには含まれない。
平城宮跡や藤原宮跡など、範囲が判明し、その重要性が指摘されている遺跡は、特別史跡や史跡などの文化財指定がなされ、学術調査がなされる。学術調査は、通常、年度をまたぐ調査計画が立てられ、計画にもとづき、遺跡保存を前提にしておこなわれる調査である。
いっぽう、建築物を建てる際や道路、鉄道などを通す際の土地の再利用の際に破壊が予測される遺跡を記録保存するために地方公共団体、財団法人の埋蔵文化財調査事業団もしくは埋蔵文化財センター、地方公共団体が大学教授などに依頼して組織された発掘調査団、遺跡調査会などがおこなう発掘調査を特に緊急発掘調査(あるいは単に緊急調査)[注釈 1]と呼ぶことがある。
埋蔵文化財包蔵地でなくても工事中に偶然遺跡が発見される(不時発見)ことがしばしばあるが、多くは発掘調査終了後に記録として保存されるのみで遺跡は破壊される場合が多い。しかしその中でも本来の計画を変更し、歴史公園などとして保存する例もある。そういった例では、工業団地造成のための発掘調査で大規模な集落跡が見つかった佐賀県の吉野ヶ里遺跡が特に有名である。同様に、青森市の三内丸山遺跡は野球場建設、大阪府藤井寺市のはさみ山遺跡(梨田地点)は住宅建設にともなう調査であり、いずれも保護措置(現状保存)がとられた。
なお、団地造成により発掘調査のおこなわれた遺跡には、鳥取県米子市の青木遺跡や福市遺跡、青森県八戸市の長七谷地貝塚[注釈 2]、茨城県つくば市の平沢官衙遺跡[注釈 3]、岩手県一戸町の御所野遺跡[注釈 4]、岡山県倉敷市の楯築遺跡ほかがあり、枚挙にいとまがない。これらは史跡などに指定され、保存と活用がはかられている遺跡である。
一方で、2008年に古市古墳群内で新たに、前方後円墳が発見されたにもかかわらず、開発業者によって破壊されてしまった例がある[1]。
分布調査や試掘調査から得られた資料をもとにして調査目的に沿った調査区が設定される。かつては、任意の基準点を設けて調査区を設定することがあり、そのため、現在ではその所在や広がりのわからなくなってしまった遺跡があるが、今日では国家座標を用いるため、そうした問題は解消した[2]。
調査区は方形のマス(方眼)を用いて区分する方法が一般的に採用されており、これをグリッド法と呼んでいる[2]。
今日では表土の掘り下げのため、遺構確認面のすぐ上まで油圧ショベルを用いることが多くなった。そののち、スコップや鍬で遺構確認面まで掘り下げ、鋤簾(ジョレン)を用いて遺構面を明らかにしたうえで精査する。細かい部分は片手用の移植ベラや片手ネジリ鎌を用いるが、遺構や遺物を傷つけないため、とくに記録が必要な箇所の周囲は竹ベラや刷毛(ハケ)、竹串などもそれそれのケースに応じて用いる。
実測のために杭、ピンポール、フリーポールその他の基準となる地点をつくる道具、メジャー、巻尺、バカボー(スタッフ棒)、コンベックスなどの実測具が必要で、こんにちではトータルステーションと呼ばれる光波機械も多用されるようになっている。
実測図作製の媒体となる方眼紙やメモ用の野帳(スケッチブック)などは、発掘調査用は風雨に耐えるよう工夫されている。覆土などの土層註記のため、全国統一の規格としての標準土色帖がある。カメラやフィルムなど撮影機材も必要である。遺物の取り上げのためには、大小のポリ袋と出土地点を記すための荷札その他が用いられる。また、遺構を風雨や乾燥から保護するためのブルーシート、小物を入れるための買い物カゴ、掘り上げた土を調査の邪魔にならない地点まで運ぶ手押し車(一輪車)やベルトコンベアなど、発掘現場では多種多様な道具・機材が用いられる[2]。
汚れても構わない丈夫な服が必要なこと、怪我や虫さされ防止のため夏でも長袖着用なことは、考古学調査の場合と同じである。上着にポケットがたくさんあると、小さい化石やルーペを入れたりできて便利である。採集用具としては、ハンマー、タガネが必需品である。使用するハンマーは、鎚の部分と柄が一体で一方が角面、他方が平刃となったチゼル型と他方が尖っているピック型がある。タガネには平刃のものと尖ったものがある。観察用にルーペが必要である。取り上げた資料を袋にそのまま入れると化石どうしが擦れ合うので新聞紙などで包む。地形図や磁石、野帳、撮影機材も記録保存のために必携である。
2005年度から2010年度までの6年間に、各都道府県や市町村が文化庁から補助金を受けて行った遺跡発掘調査事業のうち、29の事業について、調査報告書が未作成であるにもかかわらず「作成した」と虚偽の報告を行ったり、発掘に携わった人員に対する人件費の水増し請求などを行っていたことが判明し、文化庁は事業を実施した自治体に対し、補助金の返還を求める事態となった[3][4]。
アラゴ渓谷(フランス)での化石人骨発掘調査風景
アタプエルカ(スペイン)の考古学発掘風景
ロンドンで発見されたローマ時代の馬の骨
豊地城(兵庫県)の発掘現場
ウィキメディア・コモンズには、発掘調査に関連するカテゴリがあります。 |
|
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
リンク元 | 「mining」「鉱業」「マイニング」 |
拡張検索 | 「遺伝子発掘」 |
.