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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/02 04:46:51」(JST)
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灸(きゅう、やいと)は, 経穴(つぼ)と呼ばれる特定の部位に対し温熱刺激を与えることによって生理状態を変化させ、疾病を治癒すると考えられている伝統的な代替医療、民間療法である。中国医学、モンゴル医学、チベット医学などで行われる。
もぐさを皮膚に乗せて火を点ける方法が標準とされるが、種々の灸法が存在する(下記の「灸法の種類」を参考)。
日本では医師以外の者が灸を業として行う場合は灸師免許が必要である。
灸の起源は約三千年前の古代中国の北方地方において発明された。多くの地方に皮膚を焼くことを治療行為とする伝記は残っている。
日本において鍼、灸、湯液などの伝統中国医学概念は遣隋使や遣唐使などによってもたらされた。灸は律令制度や仏教と共に日本に伝来したが、江戸時代に「弘法大師が持ち帰った灸法」として新たな流行となり、現在も各地に弘法の灸と呼ばれて伝わっている。また他にも「家伝の灸」として無量寺の灸、四ツ木の灸などがある。これらの灸法は打膿灸と呼ばれ、特に熱刺激が強く、皮膚の損傷も激しいため、あまり一般化していない。打膿灸は日本において腰痛や神経痛など様々な症状に用いられるが、実際のところは腫れ物(癰)などに用いたのではないかとも考えられる。
鍼とは異なって、奥の細道にも『三里に灸すゆるより』とあるように、旅路での足の疲れを癒したり、徒然草にあるように「40歳以上の者は三里に灸をすると、のぼせ(高血圧)を引き下げる」というように、灸をすることは庶民へ民間療法的側面を強くしながら伝わっていった。
もちろん公家や医官の間でも灸法は発達し『名家灸選』や『灸法指南』などといった書物が編纂された。戦後に活躍し昭和の名灸師と言われた深谷伊三郎は『黄帝明堂灸経』や『名家灸選』などを読んで深谷灸法を作り上げた。彼の灸法は、中医学で行われている灸法や奇穴も取り入れており、そのツボに灸することで出る効能が現在も多くの鍼灸師に多大な影響を与えている。
子供などを強く叱る意味の言葉として『灸を据える』『やいとを据える』という言葉があったが、家庭での灸が行われなくなったため、あまり聞かれなくなった。言葉の通り指頭大の灸を四肢や背部、臀部などに据えて我慢をさせるしつけであるが、これにより「灸はやけどが残るほど熱いもの」というイメージが定着することとなった。また灸の医療としての価値が損なわれる言葉でもあった。
実際に鍼灸院などで使われている灸は米粒大・半米粒大の灸や熱くなると取る知熱灸が主流なので、人により知熱感や肌の弱さによって異なってくるが、チクリとする程度の熱さ程度ないし目に見えるか見えない程度のやけどであることが多い。 但し、上記にある弘法灸や家伝の灸のように故意に火傷や膿を形成すると、免疫力が高まると言われているが、実際に免疫力が上がるかどうかは、綿密な研究が為されていないため、安易に行うには疑問が残る。
「お灸」という言葉は、かなり昔から、「お仕置き」、あるいは「制裁」という意味の隠喩(メタファー)としても用いられてきた。90年頃までは新聞記事などにも、「汚職公務員に厳しいおキュウ」などと書かれたことがある。しかし、お灸は、東アジアの伝統的な優れた医療であり、こうした意味に使われるのは好ましくないと、日本鍼灸師会が主張、現在は使われなくなった。
ここでは灸法の一例を紹介する。灸は、皮膚の上に直接据えて灸痕を残す有痕灸と、直接は据えるが灸痕を残すことを目的としないまたは直接は据えない無痕灸とに大きく二分される。
属性 | 感受性 | |
---|---|---|
高い | 低い | |
被灸者の年齢 | 小児、老年 | 青年、壮年 |
被灸者の性別 | 女子 | 男子 |
被灸者の体質 | 虚弱な者、神経質な者 | 頑健な者、多血質な者、脂肪質な者 |
被灸者の栄養状態 | 不良な者 | 佳良な者 |
被灸者の労働 | 精神労働者 | 肉体労働者 |
被灸者の被灸経験 | 未経験者 | 経験者 |
刺激部位 | 顔、手足など | 腰、背など |
顔面部、化膿を起こしやすい部位、浅層に大血管がある部位、皮膚病の患部・妊産婦の下腹部などへの直接灸
自律神経などに作用して、内分泌に影響を与えることが確認されており、局所の火傷から出る加熱蛋白体(ヒストトキシン)は、血中に吸収され、各種幼弱白血球が増加して免疫機能が亢進することが認められている。
灸では気が少なかったり、余ったりすると気を補ったり、瀉したりすることで体を整える
項目 | 補する方法 | 瀉する方法 |
---|---|---|
艾の質 | 良質の艾を用いる | 良質でない艾を用いる |
艾の大きさ | 小さい艾を用いる | 大きい艾を用いる |
艾の硬さ | 艾を柔かく捻る | 艾を硬く捻る |
艾の形状 | 艾炷を高くし、底面を狭くする | 艾炷を低くし、底面を広くする |
艾と皮膚との距離 | 皮膚に軽く付着させる | 皮膚に密着させる |
艾の燃やし方 | 風を送らず、自然に火が消えるのを待つ | 風を送って、吹いて火を速く消す |
艾の燃焼温度 | 低くする(心地よい熱感) | 高くする(強い熱感) |
艾の足し方 | 灰の上に新しい艾を重ねて施灸する | 灰を除去しながら施灸する |
壮数(回数) | 少なくする | 多くする |
六十九難による取穴は、その臓腑の気が不足した場合はその母を補い、気が充満した場合はその子を瀉せとしている。
補法 | 瀉法 | ||
---|---|---|---|
虚経 | 取穴 | 実経 | 取穴 |
木経 | 木経の水穴、水経の水穴 | 木経 | 木経の火穴、火経の火穴 |
火経 | 火経の木穴、木経の木穴 | 火経 | 火経の土穴、土経の土穴 |
土経 | 土経の火穴、火経の火穴 | 土経 | 土経の金穴、金経の金穴 |
金経 | 金経の土穴、土経の土穴 | 金経 | 金経の水穴、水経の水穴 |
水経 | 水経の金穴、金経の金穴 | 水経 | 水経の木穴、木経の木穴 |
臓腑 | 虚証の補法 | 実証の瀉法 |
---|---|---|
肝 | 陰谷、曲泉 中封、照海 |
少府、行間 |
心 | 大敦、少衝、中衝 中封、通里、内関 |
神門、太白 |
脾 | 少府、大都、労宮 公孫、通里、内関 |
経渠、商丘 |
肺 | 太白、太淵 列缺、公孫 |
陰谷、尺沢 |
腎 | 経渠、復溜 照海、列缺 |
大敦、湧泉 |
心包 | 大敦、中衝 | 太白、大陵 |
胆 | 足通谷、侠谿 | 陽谷、陽輔 |
小腸 | 足臨泣、後谿 | 足三里、小海 |
胃 | 陽谷、解谿 | 商陽、厲兌 |
大腸 | 足三里、曲池 | 足通谷、二間 |
膀胱 | 商陽、至陰 | 足臨泣、束骨 |
三焦 | 足臨泣、中渚 | 足三里、天井 |
東洋獣医学では牛、豚、ヤギなどの家畜に対してもお灸を施す。基本的な方法は人間と同様だが、ツボの位置や数は相応に異なる。近年日本でも自然治癒力の向上、繁殖障害や食欲不振の解消を目的として、牛や豚にお灸を施す講習会などの取り組みが行われている[1]。
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