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津波(つなみ)は、主に地震や火山活動に起因する海底地形の急変により、海洋に生じる大規模な波の伝播現象である。強風により発生する高波、および気圧の低下などで起こされる高潮とは異なる。
1波1波の間隔である波長が非常に長く、波高が巨大になりやすいことが特徴である。地震による津波では波長600km、波高5m超のものが生じた事がある(津波が陸上に達するとこの値は大きく変わる)[1]。
津波という現象は、例えるならば大量の海水の塊の運動であり、気象など他の要因で生じる波とは性質が大きく異なる。大きな津波は陸地に浸入し、種々の災害を発生させる。
20世紀後半以降「Tsunami」は世界で広く一般にも使用されるようになったが、そもそも日本語における「津波」の語源(後述)は沖で被害が出なくても津(=港)で大きな被害が出ることからきている。
津波は、沖合から海岸に近づき海底が浅くなるにつれて波高が高くなり、海岸線では沖合の数倍に達する。湾口で2mのものが湾奥で5m超になった事例もある[2]。また海底が浅くなるにつれて波長は短くなるが、海岸線でも数百m - 数km程度ある[3]。
上陸した津波は、依然として大きな水圧を伴った高速の波として、数分から数十分の間押し寄せ続けたら(押し波)、今度は海水を沖へ引きずり続け(引き波)、しばらくしたら再び押し寄せて(押し波)、という具合に押し引きを繰り返し、やがて減衰していく。大きな津波は、陸上にある建物、物品、そして人間を押し流し、景色を一変させ、甚大な被害をもたらすことがある。また大きな津波は海岸に続く河川を遡るほか、海上でも被害をもたらすことがある[3]。
特にリアス式海岸の湾奥では狭く細長く深い湾が津波の威力を倍増させるため、また海に突き出た岬の先端では周囲からの回り込みの波が重なるため、他の海岸に比べて同じ津波でも被害が大きく、より小さな津波でも被害を受けることが知られている[2][4]。
また海岸では、日本の三陸海岸の港町のように津波を防ぐために防潮堤、あるいは通常の波浪を防ぐなどの目的で堤防が築かれている所があり、これらは津波の被害を軽減する役割を果たす。一例として、2011年に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0を観測)に伴う津波は沿岸の広い範囲に甚大な被害をもたらしたが、岩手県下閉伊郡普代村の普代水門(高さ15.5m)・太田名部防潮堤や同県九戸郡洋野町の太田名部防潮堤(高さ12m)は決壊せず、津波の影響を大幅に減衰させて集落進入を防いだ結果、軽微な被害にとどまっており、特に普代村においては被災民家および死者は発生しなかった[5][6][7][8]。
その一方で津波被害をカバーできない場合もある。例えば、津波を起こした地震で損壊したり地盤沈下により海面が上昇したりして、堤防の機能が弱まることがある。また防潮堤や水門は人が駆けつけることができない場合や、停電などの影響で閉められないことがある。こうした例があり、防潮堤による津波対策を再考する動きもある[9]。
海底地形や海水の体積の短時間での変化、海水への衝撃波によって引き起こされる非常に長周期の波である[注 1]。
海における津波の発生原因として、海底で接触し合っているプレート同士の弾性反発に起因する急激なずれ、つまり浅海底での地震が最も大きな割合を占める。このほか、海岸地域で起こる地滑り、海底火山の活動、海底地すべりなどの地質学的な要因があげられる。また、過去においては後述するように海洋への隕石の落下により引き起こされた事例も確認されている。
津波の原因として最も一般的なものは、海底地震すなわち震源地が海底である大地震であり、記録に残る津波の大部分はこれによるものである。
地震前のプレートの沈み込み。重い海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む。
プレートの歪みと隆起。海洋プレートは大陸プレートの先端を押し込みながら沈み込む。大陸プレートの内側上部は隆起する。
地震の発生。一瞬にして大陸プレートの先端が隆起し、津波を生じる。大陸プレートの内側上部は沈降する。
津波の伝播。両側に津波が広がっていく。
断層が活動して地震が発生した時に、海底にまで断層のずれが達して海底面が上下に変化すると、海水までもが上下に移動させられてその地形変化がそのまま海面に現われ、水位の変動がうねりとなって周囲に拡大していき、津波となる[10]。大地震においては、数十kmから時に1,000kmを超える長さ、数十kmから数百kmの幅の範囲で、数十cmから数十mという規模で、数十秒から数分の間に、海底が一気に隆起する。この体積変化のエネルギーは巨大で波長が非常に長いため、ほとんど失われることなく海水面の隆起や沈降に変換されて津波を生じる[3]。
正断層による海底の沈降によっても、逆断層による隆起によっても津波は起こる。マグニチュード8級の地震では断層の長さが100km以上になる事もあり、それに伴う地形変化も広い面積になるので、広範囲の海水が動いて大規模な津波を起こす。ただし、後述の津波地震等の津波を巨大化させる別の原理があるため、地震の大きさ・揺れの大きさと、津波の大きさは、必ずしも比例していないため防災上注意が必要である。津波という現象の発生には海底の地形が大きく変わる事が重要で、大地震による海底の断層とそれによる隆起や沈降は最も津波を起こしやすい現象といえる。ただし、海底の断層運動があっても、横ずれが卓越し隆起や沈降がなければ大きな津波は発生しない。原理は、入浴中に浴槽の下から上へ、突き上げるように湯を手で押し上げて見るのが理解し易い。押し上げられた湯は塊りとなって水面まで持ち上がってから周囲に広がるはずであり、これが巨大になったのが津波である。なお、津波を生じるためには震源がある程度浅くなければならず、震源が概ね100kmより深いものでは津波は発生しないとされている[11]。
地震津波は海溝付近で発生することが多い。海溝付近では数十年 - 数千年の間隔でマグニチュード7 - 9の海溝型地震が発生し、その際に現れる海底の大断層によって津波が発生する。20世紀後半以降、日本付近の海溝型地震は同じ地域でもその発生規模と間隔によって数種類あることが明らかになってきており、数十年間隔で海溝の中の特定の領域の1つで発生する地震(巨大地震)、数百年間隔で海溝の中の隣接した複数の領域で発生する地震(連動型巨大地震)のほか、津波堆積物による推定では数千年間隔で更に広範囲の隣接した領域で発生する地震(連動型超巨大地震)などがあると考えられている。後者ほど震源域が長いので、津波に襲われる地域は広くなる。日本付近では、千島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝、相模トラフ、南海トラフ、琉球海溝など太平洋側のすべての地域でこのタイプの津波が発生する可能性がある。
また、逆断層型や正断層型の内陸地殻内地震(断層型地震、直下型地震)や海溝型ではないプレート境界型の地震が海底で発生した場合でも津波が発生する。日本海東縁変動帯に当たる北海道・東北地方・北陸地方の日本海側はプレート境界型地震、その他では内陸地殻内地震による津波の発生の可能性がある。このタイプの津波も日本近海では過去何度も発生していて、1983年日本海中部地震や1993年北海道南西沖地震などがある。
なお、断層角が垂直に近い高角逆断層型の地震では下盤側で、正断層では上盤側でそれぞれ沈降が発生するため、その側に面した沿岸では引き波が第一波となることがある。また断層角が水平に近い低角逆断層型の地震では、断層帯の進行方向側半分で隆起、逆側半分で沈降が発生する性質がある。低角逆断層型となることが多い海溝型地震においては、大陸プレートの沿岸が沈降側にあたるが、日本の三陸や四国のように海溝から離れているところは沈降するため引き波、駿河湾や相模湾など海溝に近いところでは隆起するため押し波が第一波となることが多い。ただし、津波を生じる地震は海溝型だけではなく、同じ沿岸でも地震によっては押し波となる場合もあるので、防災上は注意を要する。
地震津波の大きさを表現する指標の1つとして「津波マグニチュード Mt」というものがある。津波の規模は地震の規模に比例するという性質を利用して、複数の地点における津波の波高と震源からの距離から、マグニチュードで規模を算出する。
また、「ゆっくり地震」或いは「津波地震」と呼ばれる、海底の変動の速さが遅い地震があることも知られている。これは、人が感じる短周期の成分では比較的小さな揺れ(地震動)しか発生しないため一見すると小規模の地震のようだが、長周期の成分が卓越しているだけであって、実は総エネルギーが大きな地震であり、海底面の変動も大規模であるため、予期せぬ大津波によって被害がもたらされる事がある。1896年(明治29年)の明治三陸沖地震津波がその例で、原因となった地震については震度分布から長らくマグニチュード 7.6[12]、あるいは短周期の地震動の観測に基づいて表面波マグニチュード Ms 7.2[13] - 7.4[14]とされてきたが、その後津波マグニチュード Mt 8.2 - 8.6[14]、あるいは津波の大きさを考慮してマグニチュード8 1/4に改められ、理科年表では2006年版以降この値が採用されるなど近年見直しがなされた。津波地震では前記の例の通り、表面波マグニチュードより津波マグニチュードの方が大きくなる。
津波地震となる要因にはいくつかあり[15]、
などが挙げられる。1,2は長周期の津波、3,4,5は短周期の津波である。上記1.の要因により津波地震は、海溝付近のプレート境界のうち海溝軸に近い浅い部分を震源域とした地震で起こりやすい。1896年の明治三陸沖地震津波は上記1.によって津波地震になったと考えられている[15]。また、2011年の東北地方太平洋沖地震津波は連動型地震であったため、地震発生初期にまずプレート境界浅部で上記1.の要因による津波を発生させたあと、プレート境界深部にも断層破壊が及んで強い地震動が発生したあと、再びプレート境界浅部で破壊が起こって津波が増幅したと考えられている[16][17][18]。
「津波地震」を参照
地震津波は大規模で、遠方まで伝わるため、地震を感じなかった地域でも津波に襲われる場合がある。これを遠隔地津波と言う。津波の到達まで時間があるので避難しやすく、人的被害防止は容易であるが、情報の伝達体制が整っていないと不意討ちを受ける形になり、被害が大きくなる。後者には1960年のチリ地震津波の際のハワイや日本、2004年のスマトラ沖地震の時のインド洋沿岸諸国、東北地方太平洋沖地震におけるハワイやアメリカ合衆国西海岸などの例がある。
球形の地球表面では、発生した津波のエネルギーは地球の反対側の地点(対蹠点)に再び集中する。そのため、チリ沿岸で発生した津波は太平洋を挟んで反対側の日本に被害を及ぼしやすい性質がある。また同様の原理により、太平洋の中心に位置していて、かつ5,000mの深海底に囲まれたハワイは、環太平洋各地からの津波を減衰しにくいまま受けるため、津波被害を受けやすい。
海岸線に近い場所で起きた火山の山体崩壊等で、大量の土砂や岩石が海になだれ込んだ際にも津波が発生する。大部分は地震津波に比べてはるかに規模は小さいが、状況によっては地震が原因の津波と遜色がないほどの大津波が発生することもあると言われ[19]、また発生地点に接して人口密集地帯があると大被害を引き起こす。雲仙岳の火山活動に起因する眉山の山体崩壊の際の、「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる、15,000人が犠牲になった 1792年(寛政4年)の有明海の津波や、1979年にインドネシアで700人から1,000人の犠牲者を出した津波などがその例である。1883年のインドネシアのクラカタウ火山の爆発では、大量の火砕流が海に流れ込んで津波が起こり、36,000人が死亡したとされる(このタイプの津波は、過去日本においては前述の雲仙岳の他に、1640年(寛永17年)の北海道駒ケ岳、1741年(寛保元年)の渡島大島の例がある)。また、山間部でも、同様に山体崩壊が起因でダム湖などの湖沼でも発生する。実際にイタリアのバイオントダムでは、地すべりにより100mの津波が発生して2,000人以上が死亡している。平成23年台風12号において、深層崩壊による山体崩壊が発生し、土砂が流れ込んだ河川で津波の性質を持つ段波が発生した。
海底火山に起因する津波もあるが、海底の地形に大きな変動がなければ、爆発活動だけでは大きな津波にはならない。また、仮に海底地形の変動があっても、その範囲が小さければ津波の波源も小さくなり、発生した津波はすぐに分散してしまう。1952年(昭和27年)の明神礁の活動に際しても、八丈島で小規模な津波が観測された程度である。海底に生じた地滑りが津波を起こすかどうかについては、専門家の中に賛否両論あるが、実際に海底地すべりで起こったことが確認された津波の例はほとんどない[20]。
巨大隕石が海に落下すれば津波が起こると考えられる(衝突津波)。歴史時代には明確に証明された衝突津波はないが、メキシコ湾・カリブ海沿岸各地には、約6550万年前の天体衝突時に発生した津波の津波堆積物が残っており、津波高は約300mと推測されている。
伊勢湾台風での事例のように台風によって津波に匹敵する威力の高波が発生することもあるが、これはあくまで高潮であり、津波とは区別される。しかしながら、台風が原因の土砂崩れによる津波は、直接の要因が土砂崩れであるため津波となる。また、サンゴ礁が存在する海岸では高潮が津波の特性を持つことがあり、波群津波(段波状サーフビート)と呼ばれる[21]。
トゥールのグレゴリウスなどの記述では西暦563年にレマン湖南西岸のジュネーヴがトレデュナム・イベント(Tauredunum event)と呼ぶ津波状の水害に襲われたとあるが、その時に地震があったとの記録はない。2012年10月28日、ジュネーブ大学の地質学者[22]は東端から流入するローヌ川によってできた厚さ5m、湖中心・最深部まで約10km長、幅約5kmの湖底堆積物が崩落して津波が発生し、シミュレーションにより70分後に襲われたとの研究結果を発表した。採取した堆積物は放射性炭素年代測定により381~612年のものと判明した。地質学者は湖でも津波は起こりうるとして再発も警鐘している[23][24][25][26]。
反射・屈折・干渉などの「波」の性質を持っていて、条件により変化するため、予測されないところで被害が生じる場合がある。波の中では孤立波、その中でも伝播中に形状や速度が変化せずお互い衝突しても安定している「ソリトン」に分類される。
津波の物理的性質は風浪や、天文潮すなわち干潮・満潮等の規則的な潮汐とは異なっている。以下、津波の諸特性について述べる。
津波は周期や波長が長いという特徴がある。これは津波の波源域が広く、波長がその影響により決まるためである。一般に水面に見られる津波でない波は、風によりできた風浪である。その風浪の周期は長いものでも10秒程度、波長は通常は150mくらいである。これに対し津波は、短い周期でも2分程度、長いものでは1時間以上にもなり、波長も100kmを越す例もある。このため、津波が内陸に押し寄せる際の水位の高まりは、あたかも海面自体が上昇したような状態になって、大きな水圧や流れによる破壊力が加わる。また津波が引く際にも、一旦高くなった海面が、沖の低くなった海面に向かって引いていく形になり、やはり大きな破壊力を見せ付ける。じっさいにもチリ津波では、函館の実例の水位差は押し波が2m、引き波が3mであり、引きが強かった。このような場合は押し波で破壊された物やもともと陸にあった物などが海に持ち去られる被害が大きくなる。
津波は通常複数回押し寄せ、10回以上に及ぶこともある。第2波、第3波が最も大きくなる傾向があり[27]、その後次第に小さくなっていく。また、第2波、第3波は1時間以上後に押し寄せてくる場合もあり、完全に津波が収まるまでに地震発生から数日を要する場合もある。
津波の高さを表す表現がいくつかある[10]。
外洋では津波の波高は数十cmから2mか3m程度であり、波長は100kmを越えるので、海面の時間変化はきわめて小さい。津波が陸地に接近して水深が浅くなると速度が落ちて波長が短くなるため波高が大きくなる。ただし、通常は、単に水深が小さくなっただけでは極端に大きな波にはならない。リアス式海岸のような複雑に入り組んだ地形の所では、局地的に非常に高い波が起きる事がある。津波の波高は水深の4乗根と水路幅の2乗根に反比例するので、仮に水深160m、幅900mの湾口に高さ1mの津波が押し寄せ、湾内の水深10m、幅100mの所に達した場合、波高は水深の減少で2倍、水路幅の減少で3倍になるため、総合すると波高は6mになる[28]。そのため、V字型に開いた湾の奥では大きな波高になりやすい。
津波の記録は一般に検潮儀で測定される。しかし、巨大津波そのものの波高を正確に測定する事は困難である。これまでの大津波の波高とされる記録は、実際には波の到達高度(遡上高)で示されている。遡上高は、陸に押し寄せた津波が海抜高度何mの高さまで達したかを示す値であるため、現場の調査によって正確に決定できる利点がある。V字型の湾など地形によっては、津波は、波高自体が高くなると共に非常に高い所にまで駆け上がることがしばしばある。つまり、津波の到達高度(遡上高)は実波高(海岸での平均海水面からの高さ)より高くなる場合が多い。日本において確実とされる津波の最大波高は1896年の明治三陸沖地震津波の際の38.2mであるが、これはV字型の湾の奥にあった海抜38.2mの峠を津波が乗り越えたという事実に基づく到達高度の値である(海岸での津波高ではない)。
1958年7月9日(現地時間)、アラスカの南端の太平洋岸にあるリツヤ湾 (Lituya bay) で岩石の崩落による津波が起き、最大到達高度は海抜520m[29]に達し、津波の波高の世界記録とされている。リツヤ湾は氷河の侵食によるフィヨルドで、幅3km、奥行き11km程の長方形に近い形で内陸に入り込んでいる。湾奥に左右に分かれた小さな入江があり、問題の津波はそのうちの北側の入江に発生したものである。波の発生を直接目撃した者はいないが、後の現地調査と模型実験により詳細が明らかにされている。地震により入江の片側のおよそ 40度の傾斜の斜面が崩壊、9,000万トンと推定される岩石が一塊になって海面に落ちたため、実高度150m以上の水しぶきが上がり、対岸の斜面を水膜状になって駆け上がって520mの高度に達したものである。その後、波は高さ15mから30mで湾奥から湾口に進み、太平洋に出ると共に急速に消滅した。以上のように、この波は津波と言うより水跳ねに近いもので、英文の報告書でも "giant wave" または "biggest splash" と表現されている。
なお、リツヤ湾では1853年か1854年に120m、1936年に147mの大波(いずれも到達高度)が起こったことも明らかになっている。これは、湾周囲の山林に植生する古い樹木を複数伐採して年輪を調べたところ、該当年の年輪の海側に、大きな外傷を受けた痕跡が残っていたことから判明したものである。
2011年12月5日アメリカ航空宇宙局は、ジェイソン1の観測により、東北地方太平洋沖地震に伴って発生した津波が太平洋の海底山脈などによって方向を変え、震源地から何千キロメートルも離れた海上で2つの波が融合した結果、より威力をもった津波となったことを初めて確認したと発表した[30]。
津波は、水深が一定の海域で発生した場合には発生源を中心に同心円状に広がって行く。しかし、地震津波の場合、多くの地震が陸地近くの海域で起こるため、波のおよそ4分の3は海岸に向かい4分の1が外洋に向かう。たとえば1960年のチリ地震津波においては、チリ沖で生じた津波は最初は同心円を描いて伝播した。その後、チリの海岸線に対し垂直方向に進む波以外は次第に進路がチリの海岸向きに屈折した。結局4分の3がチリ海岸に戻り、4分の1は太平洋を直進してハワイや日本に達したと考えられている。これは、大陸斜面を進む波は水深の大きい沖合いで速度が速く、沿岸寄りでは遅くなるためである。じっさい同じ環太平洋地域でありながら北アメリカ西岸やオセアニアなどでは目立った津波被害は起こっていない。津波は物理的にはいわゆる孤立波であり、海のソリトンとも呼ばれる。
津波の伝播する速度は水深と波高により決まる。大陸棚斜面から外洋に出ると水深は4,000m前後でほとんど一定になり、また水深に比べて波高は問題にならないくらい小さいので、外洋での津波の速度は、重力加速度(9.8m/sec²。便宜的に10m/sec² として差し支えない)に水深を乗じた値の平方根にほぼ等しい。式で表すと次のようになる。dは水深(単位はm)、速度は秒速 (m/sec) で示される。
これを時速 (km/hour) に直すには3.6倍すればよい。これにより、水深1,000mで時速360km、水深4,000mで時速720kmとなる。沿岸では水深が浅くなり、そのため津波の波高が増すので、上の式をそのまま適用すると不正確な値となるため、次の式を用いるのがよい。Hは水面上の波高である(単位はm)。
ここから、水深10m、波高6mの場合の津波の速さはおよそ時速46kmとなる。なお、1960年チリ地震津波はチリから日本まで平均時速750kmで、2011年の東日本大震災では宮古市重茂半島で平均時速115kmで、沿岸まで到達している[31]。
海水は良質な導体で有ることから地磁気の影響下で運動をすると、誘導電磁場が生じている。従って、常時流動している潮流でも発生しているが、津波の際には潮流で生じるのとは別な誘導電磁場が発生するため、この電磁場の観測を行うことで結果的に津波に伴う海水の変異が観測できる[32]。
津波による水の圧力は非常に大きく、沿岸の広い地域に被害を与える。東北地方太平洋沖地震では2m以上浸水した地域の建築物の6割が倒壊した[33]。
例として、2mの普通の波と津波との違いを比較する。2mの普通の波は、海上で普段から偏西風や低気圧(気流)、月の引力などの影響を受けるため、少なからずデコボコが生じる。このデコボコの差が2mあるだけで、波長や波を形成する水量は比較的少なく、海岸に達した所で沿岸地域に被害をもたらす事はそう多くはない。これに対し2mの津波は、地震などによる海底の隆起または沈下により海水面自体が普段より2m盛り上がり、それがそのまま海岸に向かって伝わっていく。言い換えれば、2mの急激な海面上昇が起こることに近い。
つまり、2mの普通の波は海岸に少量の海水をかける程度であるのに対して、2mの津波は何kl(キロリットル)もの海水が一気に海岸地域を襲い、自動車や多くの人を簡単に飲み込み沖へ引きずり込んでしまう程の威力がある。2mの「波」の水量は2(m)×波長数(m)×0.5×約0.5×海岸の距離(m)で、海岸1mに押し寄せる波の水量は波長3mとして1.5m3(=1500リットル)、ドラム缶数本分である。一方、2mの「津波」の水量は2(m)×波長数十km(m)×0.5×0.5×海岸の距離(m)で、海岸1mに押し寄せる津波の水量は波長10kmとして5,000m3(=5,000キロリットル)、競泳用プール2つ分となる(体積の比較参照)。2003年に発生した十勝沖地震では、実際に2mの津波に飲まれ命を落とした人が確認されている。
また、陸地に近づくと水流が建造物などを壊しながら内陸部へ進み、それらの瓦礫を巻き込むことによって破壊力を増す。人的被害では、津波の水は海底の砂や岩とともに微生物・有害物質などを巻き込んでいるので、津波に巻き込まれて助かった場合でも、骨折や打撲などの外傷だけでなく肺の中に「微生物」、「油脂」、「砂や泥」等を取り込んでしまう「津波肺」[34]の健康被害が発生することがある。
河口から河川に侵入した津波が数km上流まで遡上することがある(地理的な要因次第だが、1mの津波でも5kmは遡上すると言われる)。河川を遡上する津波は、伝播速度が速くなり、遡上距離が長くなる傾向にある。先端部の形態は砕波段波と波状段波の2種類がある。
1960年5月24日のチリ地震津波では、沖縄県石川市の石川川を遡上した津波が家屋の浸水などの被害をもたらした。2003年9月26日の十勝沖地震では、津波が波状段波を形成しながら十勝川を遡上する様子が自衛隊により撮影された。この時の津波は、河口から少なくとも11km上流まで遡上したことが確認されている。2011年東北地方太平洋沖地震の津波は、利根川の40kmを筆頭に、江戸川3km、多摩川13km、荒川28kmなど[35]、関東の深部まで到達した。このことから、海に面していない埼玉県でも地震後、津波の被害に対応する地域防災計画の検討を始めるなどしている[36]。
また、遡上する津波が高い場合は河川の堤防を決壊させて洪水を引き起こすことがある。2011年東北地方太平洋沖地震の津波では、青森県・岩手県・宮城県の計22河川が津波により同時に決壊するという未曽有の被害を生じた[37]。北上川では、河口から49km離れた旧中田町 (宮城県)にまで津波が到達し、農地の大規模浸水が起こっているほか[38]、名取川では太白区・若林区の、旧北上川では石巻市の市街地を濁流に呑み込み、甚大な被害を出した。特に旧北上川では、堤防が高台であると考えて津波を避けるため避難してきた小学校の児童たちが、遡上した津波に呑まれるという悲惨な出来事も起きている。津波の河川遡上という現象自体が一般に知られていないため、津波の際に人々が海岸から離れることはあっても、河川から遠ざかろうとすることはまれである。
河川を遡上する津波と似たような物理現象として、潮津波がある。代表的なのは、アマゾン川のポロロッカ、銭塘江(長江)の海嘯である。津波が河川に侵入するのを防ぐために、防潮水門などが設けられている(上写真)。
一般的に津波に対する警戒方法として、強弱に関わらず揺れを感じた場合は、速やかに「近くの高台や建物の上層部に避難すること」が推奨される。津波に関しては、以下のような注意が必要である。海岸や河口付近の低地には留まってはいけない。
日本などの津波警報体制が整備されている地域では、地震後速やかに津波に関する情報が発表されることが期待されるので、防災担当機関は「津波警報」「津波注意報」などが発表されたら速やかに避難するよう呼びかけている。 日本では市町村が海岸の近くに「避難場所や避難経路を示す掲示」を行っている場合があるので、その場所へ避難すれば安全が確保されると考えられる。避難場所ごとに適した災害の種類が異なる場合があるので、津波の避難場所と明示されている所がより安全である。 なお、津波の危険性がある居住地では、日頃より避難場所と経路を確認しておくことが、避難の迅速化が期待されるため推奨されている。また、平坦な場所で津波が近くに迫っている場合は緊急避難的に、一般に頑丈と考えられる鉄筋コンクリート造の3階建て以上のビルに避難し、3階以上に昇ると「ほぼ安全」(消防庁)としている[39]。
原則として地震による海底の上下変動が起きれば津波が発生する。しかし、しばしば津波に関する根拠の薄い情報が伝承された結果、人的被害が拡大した事例が数多く確認されている。地震後に津波警報が発令された場合、一刻も早く高台へ避難することが必要とされる。
飲料水・食料・医薬品などを積載しトイレを付属させた浮揚型のアルミ製の津波シェルターも開発されている[49]。
「津波警報システム」も参照
日本では、気象業務法により気象庁が津波の監視と警報の発表を行うことが規定されている。気象庁は、津波の原因となる地震活動を24時間体制で監視しており、地震が発生すると最速2分以内に津波に関する予報・警報(津波予報・津波注意報・津波警報・大津波警報)を発表する。震源が遠くても規模の大きな地震など、震度が小さい地震の場合でも津波警報等が発表される場合もある。津波警報等の発表までの時間を短縮するために、地震計をより高性能のものに置き換える作業やケーブル式海底地震計の整備等が行われている。特に、南海トラフの東南海地震と南海地震の想定震源域には、海洋研究開発機構が運用する津波観測監視システムのDONET(稼働中)とDONET2(2015年度からの運用開始を予定)が展開し24時間の監視が行われている。
なお、従来は津波警報等の発表までにかかる時間は約3分であったが、2006年10月より日本近海の地震に対しては緊急地震速報システムを活用することにより、津波警報等の発表にかかる時間を短縮し、地震発生から最速2分以内に津波警報等を発表できるようになっている(2007年3月の能登半島地震など)。なお、津波警報が発表された場合、放送局より緊急警報放送が送出される。
震源の位置、マグニチュード、断層パラメータ等から、津波の発生の有無と規模は計算可能である。地震が起きてから計算していたのでは間に合わないため、気象庁では、発生後迅速に算出できる震源位置・震源の深さ・規模から、津波の可能性のある場合に自動的に警告するデータベースでバックアップした上で、担当者が注意報・警報の発表を行っている[要出典]。
気象庁においては、予想される津波の高さに合わせて、津波警報等は以下の2区分3種類が発表される。なお、報道では「大津波の津波警報」は気象庁の会見で用いられることがあるが、報道ではかえって分かりづらいと考えて“大津波警報”を俗称として使用している。
津波警報 | 大津波 | 高いところで5m以上の津波(発表される津波の高さは5m、10m、10m以上、の3種類。また高さが速報不能の場合は「巨大」と発表) |
津波 | 高いところで3m程度の津波(速報では「高い」と表記されることもある) | |
津波注意報 | 津波注意 | 高いところで1m程度の津波(速報では高さを表記しないことも)[50] |
津波は最初の第1波が最大とは限らず、数十分〜1時間前後の間隔をおいて第2波、第3波とやってくることがあり、それらの津波が湾内で互いに共鳴して大きな津波となって陸上に浸水する恐れがある。このため、津波警報・注意報が解除されるまでは警戒・注意が必要である。巨大地震による津波では、数十時間に渡る(東北地方太平洋沖地震の例では発生直後から全て解除されるまで51時間余に渡って発令され続けた)場合もある。
また、津波警報・注意報は、日本の沿岸を細かく区切った津波予報区にしたがって、地域を指定して発表される。
津波警報や津波注意報が発表された場合は、到達時刻や予想される津波の高さ、各地の満潮時刻、津波が到達した場合の観測波高などの「津波情報」が発表される。
2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、発生3分後に宮城県に6m・岩手県および福島県に3m、28分後に岩手県に6m、44分後に東北から千葉県の太平洋沿岸に10m以上の大津波警報をそれぞれ発令した。しかし速報値M7.9であったのが実際にはM9.0で津波の高さは10m以上であった上、第1波が宮古に到達したのは地震15分後、大船渡で8mの津波が観測されたのは34分後であったため、警報の遅れと誤差が被害を拡大したとされていた。M8以上の地震の規模と津波の高さを3分以内に判定することは不可能であることから、気象庁の検討会が2012年1月31日に新しい警報案を発表した[51]。その中では、「大津波警報」という呼称を「津波警報(大津波)」と同義のものとして正式に位置づけ、同様に「津波警報」という呼称を「津波警報(津波)」と同義のものとするとした[52]。新運用による発表は2013年3月7日12時から行われる[53]。
※警報や情報文中で基本的に用いられる呼称にて表記
大津波警報 | 高さは「巨大」と表現し、「直ちに高台に避難」と呼びかける。 |
津波警報 | 高さは「高い」と表現し、「直ちに高台に避難」と呼びかける。 |
発表される高さ | 発表基準 | |
大津波警報 | 10m超 | 10m < (予想高) |
10m | 5m < (予想高) ≦ 10m | |
5m | 3m < (予想高) ≦ 5m | |
津波警報 | 3m | 1m < (予想高) ≦ 3m |
津波注意報 | 1m | 0.2m ≦ (予想高) ≦ 1m |
緊急警報放送や緊急地震速報などの施行で現在は津波情報が充実しているが、津波警報が出ても避難をしない住民が多いことはかねてから問題になっている。特に地震が頻繁に起こる北海道の釧路・根室地域は非常に多いという。そのため、制度としての警報のみならず、受ける側も教育・啓蒙されることが必要とされている。
日本を含む太平洋地域では、1960年のチリ地震による津波で、日本を含む各国に被害が出たことをきっかけに、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が中心となって、太平洋津波警報組織国際調整グループ(ICG/PTWS)が設立された。現在、日本やアメリカ、中国、オーストラリア、チリ、ロシア、韓国など26の国と地域が加盟しており、沿岸各国で地震や津波が発生した場合、データがハワイにあるアメリカ国立海洋大気局の太平洋津波警報センター (Pacific Tsunami Warning Center, PTWC)に集められ、各国に津波の規模、到達推定時刻などの警報を発する仕組みがある。太平洋津波警報センターが発表する津波警報には、地域ごとに以下のものがある[54]。
Pacific Ocean-wide Tsunami Warning (太平洋広域津波警報) |
Expanding Regional Tsunami Warning (地域拡大津波警報) |
Fixed Regional Tsunami Warning (地域固定津波警報) |
Tsunami Information Bulletin (津波情報速報) |
TSUNAMI THREAT MESSAGE | TSUNAMI THREAT FORECASTにて、高さ3m以上の地域・沿岸 |
TSUNAMI THREAT FORECASTにて、高さ1mから3mの地域・沿岸 | |
TSUNAMI THREAT FORECASTにて、高さ0.3から1mの地域・沿岸 | |
TSUNAMI INFORMATION STATEMENT | 津波の発生が予想されない場合に報じる |
PTWCは、PTWS加盟各国に対し、2014年頃を目処にして津波情報の形式や内容の改訂を行うことをアナウンス[55]しており、早ければ2013年9月頃より現在使用されている情報の形式と、改訂形式の併用を開始することを公表している。最終的な合意が年内に開かれるICG/PTWSの会議で決定の上、使用開始となる。
最も変化するのは、現状使用される「Tsunami warning is in effect」、「Tsunami watch is in eefect」と言った、警報・注意報の文言が廃止され、変わってどの程度の高さの津波が来襲するか、その地域を具体的に明示して告知するよう改められる。
近地 | Statewide Urgent Local Tsunami Warning (全州緊急近地津波警報) |
Urgent Local Tsunami Warning (緊急近地津波警報) | |
Local Tsunami Information (近地津波情報) | |
遠地 | Tsunami Warning (津波警報) |
Tsunami Watch (津波監視) | |
Tsunami Advisory (津波注意報) | |
Tsunami Information (津波情報) |
Indian Ocean-wide Tsunami Watch Bulletin (インド洋広域津波監視速報) |
Regional Tsunami Watch Bulletin (地域的津波監視速報) |
Local Tsunami Watch Bulletin (近地津波監視速報) |
Tsunami Information Bulletin (津波情報速報) |
インド洋についてはICG/IOTWS第9回総会において、BoM、INCOIS、BMKGによる情報発表が円滑に運用されていることが確認され、日本の気象庁及びPTWCに対し、2013年3月31日以降、情報提供を停止することが要請されたことを受け、インド洋地域の情報は、PTWCから情報は出ていない[56] [57] [58]。
Caribbean Sea-wide Tsunami Watch Message (カリブ海広域津波監視連絡) |
Regional Tsunami Watch Message (地域的津波監視連絡) |
Local Tsunami Watch Message (近地津波監視連絡) |
Tsunami Information Statement (津波情報発表) |
インド洋では、2004年のスマトラ島沖地震を契機として、ユネスコが中心となって政府間調整グループICG/IOTWS([2])を設立し、警報体制を構築した。インド洋では、
の3つが担当機関となり、国内および沿岸各国に対して警報を発表している。
2011年10月12日から正式な運用が始まった[59] [60]
アメリカ西海岸・アラスカ津波警報センター (WCATWC) は、海岸の地形などを考慮してアメリカと周辺地域に11の区分を設けている。アメリカ本土49州、カナダ、プエルトリコ、アメリカ領ヴァージン諸島を管轄する。それぞれに2段階(地域によっては1段階または区分なし)のTIS(Tsunami Information Statement, 津波情報発表)、3段階(地域によっては1段階)のWarning(警報)の津波情報があり、合わせて1段階〜5段階の警報レベルがある。
大西洋のうちヨーロッパ諸国と北アフリカでも、2004年のスマトラ島沖地震を契機として、ユネスコが中心となって政府間調整グループICG/NEAMTWS([61]を設立し、警報体制の構築を始めている。
2010年にRTWC(地域津波監視センター)をおき、
代替センターおよび、データ収集を行う
で行う。
カリブ海では従来よりPTWCが警報を発表し各国に通知する体制があったが、2004年のスマトラ島沖地震を受けて、同様にユネスコが中心となって政府間調整グループICG/CARIBE EWS([3])が設立、独自の警報体制を構築する動きが模索されている。
詳細は「歴史的な津波の一覧」を参照
「地震の年表」および「地震の年表 (日本)」も参照
巨大な津波は、海底の砂利(海砂)、大きな石や貝殻などを陸地に運び上げ沿岸低地にそれらを堆積させる。これらは津波堆積物と言われる。過去の地層に残された津波堆積物から、有史以前の巨大津波の存在が多くの研究によって明らかにされている[62]。 例えばノルウェー沖では、紀元前6100年にストレッガスライド(英語版)と呼ばれる巨大海底地すべりが起き、内陸80kmまで達する津波があったことが解明されている[63][64]。例えば日本では、北海道大学の平川一臣ら、および政府の地震調査委員会によって行われた宮城県気仙沼市大谷海岸の調査によると、過去6000年間に紀元前4〜3世紀頃、4〜5世紀頃、869年の貞観地震、15世紀頃、2011年の東北地方太平洋沖地震の5回、三陸から房総にかけて約600年周期で海溝型地震と津波が起こったとされる[65][66][67]。
人間が文字による記録を残すようになって以来、大きな被害を出した津波が多数記録されている。古代ギリシアの歴史家トゥキディデスは、著書『戦史』で、紀元前426年に起きた地震についての記録を残している。その中でトゥキディデスは地震が津波を引き起こしていると推測しており、これは記録に残る限りでは最古の津波と地震の関係を述べた説だとされる[68][69]。
1755年11月1日、イベリア半島沖においてリスボン地震が発生し、それに伴う津波によって約1万人が死亡し、大きな被害をもたらした。
中間とりまとめにて、南海トラフの巨大地震の最大ケースが従来の約3倍の規模であるMw9.0(暫定値)と発表した。想定震源域が約2倍に広がり、日本列島の広い範囲での被害のおそれが指摘されている[76][77]。
インド洋大津波の発生により、巨大津波に関連する人工衛星を含む様々な観測データが集められたことから、コンピュータモデルによる予測モデルの検証が可能となった。米国海洋大気局のMOST (Methid of splitting tsunami) モデルや東北大学のTSUNAMI-N2などの計算手法が開発されている。津波シミュレーション技術は、津波予報やハザードマップ作りに活用されている。また日本には世界最大の2.5mの人工津波を引き起こす事ができる、港湾空港技術研究所の大規模波動地盤総合水路があり、建造物への被害予測のデータ収集などが行われている。
潮位の観測は、沿岸の潮位計に加え、海底水圧計を用いた津波計も整備が進んでいる。従来は海底ケーブル用いて信号が送られていたが、衛星へ信号を送れる海面ブイによって信号を送るタイプの津波監視計も開発されており、より設置が容易となってきている。
2011年5月12日、地震調査委員会の島崎邦彦は日本記者クラブの講演会で日本の沿岸各地に100年以内に襲来する津波の高さ、浸水域や発生確率を予測し発表すると述べた。従来からの大学や研究機関の予測成果に東日本大震災で分かった被害の知見を加え3年後から公表を始めるとしている。これにより沿岸自治体の防災計画や住民の防災意識向上につなげる[78]。
物理的な対策として、平坦な場所では上記のような緊急避難場所となる3階以上の頑丈な建造物を設けたり、安全な高台における開けた避難場所の整備、避難場所への誘導標識を充実させることが挙げられる。「津波避難ビル等に係るガイドライン検討会」によって、津波避難ビル等を指定するための「津波避難ビル等に係るガイドライン」が公布されている。津波を工学的に防御する手段として、沿岸の集落では長大な防潮堤が築かれる場合がある。設計範囲内の津波では被害を大幅に抑えることが可能だが[79][80][81]、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では岩手県釜石市や宮古市田老で設計高さ以上の津波により防潮堤が破壊され津波が侵入した例があり、防潮堤が津波の到達を遅らせた一方、防潮堤への過信から避難が遅れたとの見方がある[9][82][83][84]。 また津波による被害が懸念される地域では、居住や土地用途を制限して被害を最小限に抑える手法もある。
「津波」の語は、通常の波とは異なり、沖合を航行する船舶の被害は少ないにもかかわらず、港(津)では大きな被害をもたらすことに由来する。「津波(浪)」の語が文献に現れる最古の例は『駿府記』[86]で、慶長16年10月28日(1611年12月2日)に発生した慶長三陸地震についての記述「政宗領所海涯人屋、波濤大漲来、悉流失す。溺死者五千人。世曰津浪云々」である。なお、表記は「津波(浪)」の他に「海立」、「震汐」、「海嘯」と書く場合があり、これらすべて「つなみ」と読む。
昭和初期までの古い記録では津波のことを「海嘯」(かいしょう)と書くこともある。これは本来は、満ち潮が波となって河川を逆流する現象(tidal bore)を指す言葉であった。中国語圏では地震津波を指す言葉として「海溢」「海漲」という表現もあるが、現在も一般的には「海嘯」と呼ぶ。
英語文献において、Tsunamiという語が使われた例は、現在のところ『ナショナルジオグラフィックマガジン』1896年9月号で明治三陸地震津波を報じた記事"The Recent Earthquake Wave on the Coast of Japan"[87]が最古とされている[88]。執筆者のエリザ・シドモアは、ポトマック河畔の植桜に尽力したことで知られる親日家である。
しかし、一般的にTsunamiの初出作品として知られているのは、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が1897年(明治30年)に出版した著作集「仏の畠の落ち穂」 (Gleaming in Budda-Fields) の中に収録された『生神様』 (A Living God) である。濱口梧陵をモデルにした『生神様』では、地震後に沿岸の村を飲み込んだ巨大な波を「Tsunami」と現地語の日本語で表現した。
その後、1904年の地震学の学会報告にはじまり、地震・気象の学術論文等に限られていた。元々英語圏では"tidal wave" [89]という語が使われてきたが、この語は本来潮汐 (tide) による波を指し、地震による波にこの語を使うのは学問的にふさわしくないとされ、現在では tsunami が用いられる。研究者の間では"seismic sea wave"(「地震性海洋波」)という語が使われることもあったが、あまり一般的ではなかった。1946年、アリューシャン地震でハワイに津波の大被害があった際、日系移民が "tsunami" という語を用いたことから、ハワイでこの語が使われるようになり、被害を受けて設置された太平洋津波警報センターの名称も1949年には Pacific Tsunami Warning Center とされたことから、アメリカ合衆国ではこの語が広く用いられるようになり、その後、1968年にアメリカの海洋学者ヴァン・ドーン (Van Dorn) が学術用語として使うことを提案し[90]、国際語化した。
「ツナミ」は学術用語として広く国際語になっていたが、スマトラ沖地震による津波が激甚な被害をもたらしたことが世界中に報道されたことを契機に、一気に各国の言語で一般語になった。
日本国外では、伊藤みどりや小林尊のように並外れた能力を持つ日本人に "TSUNAMI" とニックネームを付けることがある。
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