出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/10/01 21:21:19」(JST)
マニュアル(英語:Manual)
マニュアルないし手引書(てびきしょ)とは、ある条件に対応する方法を知らない者(初心者)に対して示し、教えるために標準化・体系化して作られた文書である[1]。
人間の行動や方法論を解説したものとしては、社会や組織といった集団における規則(ルールなど)を文章などで示したもので、一般に箇条書きなどの形でまとめられ、状況に応じてどのようにすべきかを示してある。
また取扱説明書(とりあつかいせつめいしょ)は、機械装置や道具といった工業製品などの使用方法を説明した印刷物などである。図と文章などを使って、解り易く解説してあるのが一般的である。
行動や方法論を示した手引書やマニュアルは、状況に即してどのように対応すべきかを説明したもので、これは所定の社会や組織(企業などを含む)における各個人の行動を明文化して示し、全体に一貫性のある行動をとらせるものである。
組織が巨大化すると構成員の数も増え、相対的にそれらの対応は無視できないコストを発生させる。その構成員の各々が自身の役割を理解している必要があり、これらを個別に口頭で言い聞かせて訓練し、所定の役割を行わせることは労力が必要ともなる。これを補助し労力を軽減させるのが手引書の文章である。組織内での行動が状況に応じてまとめられており、最初はその都度参照し、それらはできれば暗記し従うことが求められる。
これら手引書やマニュアルは様々な状況を想定して、それらの状況に対応する方法を示したものであるが、往々にして想定外で記載されていない現象も発生する。この場合には、問題解決のための手段として組織の統率者(または責任者)がその都度判断し個別に指示を行うなどして対応するが、優秀な手引書の場合はそういった漏れ落ちが少ない。組織に柔軟性をもたせる場合には、事細かに規定が存在すると実際の状況に合った活動に制限が発生し、かえって邪魔になることもあるため、あまり細かく定めないケースもある。(マニュアルには書いてないことなど)「想定外」の事態には全く役立たないこともありうる。
似たような「予め想定して明文化しておく文章」にはガイドラインが存在する。ただしこちらは状況への対応方法が列挙してある訳ではなく、所定の状況における考え方を予め指し示しておくという性質があり、これは手引書のように状況ごとに予め定められた行動のみに限定する性質は無い。手引書の場合は具体的な行動内容が示されているため、理解が容易く従い易いが想定外の状況に対応させ難く、ガイドラインの場合は考え方や理念という抽象的概念を理解しなければならないため扱いが難しいが、想定外の状況には類似する部分から類推して対応できるなど柔軟性がある。
書籍のジャンルとして、所定の状況下における対応をまとめたものがみられる。俗に「ハウツー本」とも呼ばれるこれらの書籍は、一般の者がそう頻繁に直面する訳ではないが、いざ直面したときには適切な対応が求められる事態において、どのように対処すべきかが書かれている。
よく見られるものでは、就職における面接や新入社員として就労する際に、あるいは冠婚葬祭といった「人生の節目」における立ち振る舞いや関係各所への連絡方法などの対応や心構えを示したものがあり、またサバイバルのような特殊な状況下における生存手段などもアウトドアの範疇で見られる。より俗なところとしては、デートにおける「相手の関心を惹く方法」などというものも(雑誌の付録的なコーナーを含め)見出せる。
これらマニュアル本は前述の通り「経験不足を補うためのもの」であるが、これらマニュアル本にしても後述するように「考えが伴っていない」と批判される要素を含んでる。ただ、それを差し引いても「のっけから非常識な行動で台無しにしてしまう」ような事態を回避するのには有効な手段ではあるため、実用向けの知識を収めた書籍の中では少なくない範囲を占めている。
マニュアルないし手引書は、想定された事態とその対応が適切かつ必要十分であれば、これに従う者を無知で訓練されていない者から熟練したといわないまでも、ある程度は適切に事態に対応できる者へと押し上げることが可能である。その一方で、これらに記載されていない事柄についてはきちんと訓練され事態に対応できる(考えが伴っている)者は、様々な事態に対応可能であるが、マニュアルや手引書に従うばかりで考えが伴っていない場合には、それらに掲載されていない事態には対応不能であったり、不適切な対処をしてしまうこともある。これを揶揄して「マニュアル人間」(「手動人間」という意味ではない)と表現することがある。文化によっても異なり、例えば、飛行士の文化の違いを喜劇にした1965年の映画『素晴らしきヒコーキ野郎』のドイツ代表は致命的な事故の最中にもマニュアルを読もうとする場面がある(あくまでステレオタイプの国民性だが)。
取扱説明書は、商品を購入した消費者が、その商品の使い方を理解するために利用するものである。多くのメーカーでは自社製品を正しく事故のないように、また設計された性能を発揮させよく利用してもらうために、製品に添付する形でこの取扱説明書を商品パッケージのなかに同梱(一緒に収めてあること)している。俗な略称は「取説」。
例えば操作方法のわからない機械は、ほとんどの消費者にとって全く魅力的ではない。一部例外的な商品もあるが、大抵の場合は使い方が判らないことには、その利便性を得ることが出来ない(そして買う意味も見出せない)ためである。
いわゆる新製品の場合には、特に従来製品と比較して操作方法を想像できないため、多くのページを割いて説明が成されている。反面、コモディティ化しているような一般的な製品では、過去に利用した同種製品から操作方法から扱い方が判断付くため、あまり詳しい説明は行われず、差別化戦略などで他社製品には無い商品の特徴的な部分が集中的に説明される。また、コモディティ化製品では消費者が操作方法を誤りなく操作し易いよう、ユニバーサルデザインなど共通化されたデザインの導入も進んでおり、取扱説明書を読まなくても利用可能な製品も少なくない。
しかし製造物責任法のような、メーカーが製品の問題に責任を求められる法律が成立した以降では、例え誤解や無理解によって消費者が誤った使い方をして損害を被っても、その責任の所在の一端に「きちんと消費者に正しい使い方を教えなかったメーカー」が位置付けられる可能性もある。このため、消費者に危害が及ぶことが想定される場合には、取扱説明書中で「危険で誤った使い方」を挙げ、そのような使用方法をしないよう求めている。
なお製品に添付されている性質上、保証期間証書のような製品に付随する書類を兼ねている取扱説明書もみられる。
取扱説明書では従来、印刷物の形で製品に付属させる形態が主で、これらは制作に際し、校正や査読を通して読者である消費者が誤解や理解不足を生まないよう配慮される。これは製品を適切に使ってその利便性を提供したいという面もあれば、誤った使い方で事故を起こしてもらいたくないという理由もある。そのいずれにおいても、一字一句といった細部にわたるまで判りやすいよう努力が払われる訳だが、往々にして様々な理由により記載漏れや誤りを含む場合もあり、その場合には従来後付けで別紙が貼付ないし同梱されることもある。
近年では、Portable Document Format(PDF)と呼ばれる電子文章フォーマットと、これを再生するためのパーソナルコンピュータ(パソコン)も広く普及しているため、ことパソコン本体や周辺機器、あるいはアプリケーションソフトウェアの内に付属させる取扱説明書を、電子書籍としてPDF形式で貼付する形式や、改訂版など最新の取扱説明書をインターネット経由でメーカーのウェブサイトからダウンロード可能なサービスを行なっているところも見られる。これはDesktop publishing(デスクトップ・パブリッシング:パソコンなどで電子的な印刷原稿を編集すること)が簡便で改定が容易なこと、また最新の版に差し替えるのも容易く、その配布経路も整備されていることなどの理由もあるが、それに加え印刷のコストを軽減できるという側面もある。
この外にも、例えばパソコンの一般家庭向け製品を目指したIBMの「Aptivaシリーズ」のような製品では、紙媒体の取扱説明書が十分に説明を凝らそうとすれば、その厚みだけで初心者に拒否感を抱かせる可能性があるところを、ビデオテープに録画された映像で、判り易くパソコンを立ち上げるまでを解説したケースもあるなど、必ずしも文章だとは限らず、今日ではDVDに録画された映像で扱いを解説する製品も様々な方面に見られ、特にDVDがランダムアクセス性に優れ、あたかも印刷媒体で目次や索引から目的のページを開くように扱うことも出来るため、状況や知りたい内容に即した映像を呼び出せるようにもなっている。
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