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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/06/22 16:24:44」(JST)
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心肺蘇生法(しんぱいそせいほう、CardioPulmonary Resuscitation; CPR)は、呼吸が止まり、心臓も動いていないと見られる人の救命へのチャンスを維持するために行う循環の補助方法である。心臓マッサージ[1]を主に行い、熟練者は呼吸の補助方法である人工呼吸も行う。
心肺蘇生法(以下CPRと略)は、特殊な器具や医薬品を用いずに行う一次救命処置(BLS; Basic Life Support )と、BLSのみでは心拍が再開しない場合に、救急車内や病院などで救急救命士や医師が気管挿入や高濃度酸素、薬剤も用いて行う二次救命処置(Advanced Life Support; ALS)の範囲がある。またBLSの範囲でも救急車内や病院などで行うCPRと、市民救助者が救急車が来るまでの間に行うCPRは異なる。訓練を受けていない市民救助者と訓練をうけている市民救助者でも一部異なる。ここでは市民救助者によるBLSの範囲のCPRについて解説する。
目次
- 1 CPRの意義
- 2 成人へのCPRの実施例
- 3 ガイドライン2010での変更点
- 4 脚注
- 5 関連項目
- 6 外部リンク
CPRの意義
CPRとは脳への酸素供給維持である。脳自体には酸素を蓄える能力がなく、呼吸が止まってから4~6分で低酸素による不可逆的な状態に陥る。そのため一刻も早く脳に酸素を送る必要がある。
人間の脳は2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度であるが、4分では50%、5分では25%程度となる(カーラーの救命曲線参照)。したがって、救急隊到着までの数分間(5~6分)に「現場に居合わせた人(これを「バイスタンダー」「市民救助者」と呼ぶ)によるCPRが行われるかどうかが救命率に大きく左右する。
成人へのCPRの実施例
以下に意識・呼吸ともに無い場合のCPRを行う手順の概略をJRC ガイドライン2010に沿って記す。 CPRは厳密にはAEDを含まないが、実際には不可分であるためここではAEDも含めたBLSの範囲で手順を説明する。各手順の詳細は一次救命処置(BLS)を参照されたい。
1.安全を確認
- 二次災害を防ぐため、まず周囲の安全を確認する。
2.意識の確認
- 意識の有無を確認する(肩を叩きながら相手の耳元で「大丈夫ですか!?」と呼びかける。また、証明書類などから名前がわかっている場合には、「○○さん、大丈夫ですか!?」と言うようにするとより効果的である。
3.応援を呼ぶ
- 119番に通報。訓練を受けていない人はその場で自分で携帯から119番通報をすれば、何を確認してどうすればよいかのアドバイスが得られる。そのアドバイスの中にAEDの手配、及び以下のCPRのやり方が含まれる。
極力まわりの人を巻き込む。例えばAEDを取りに行ってもらうとか、119番で言われた「強く早く、100回/分以上」を覚えておいてもらうとかでもよい。
4.呼吸の確認
- 見た範囲で規則的で正常な呼吸をしているか。呼吸していれば回復体位。判別不能とか不自然な呼吸、または10秒以内に確認できなければ呼吸ナシの扱い。不自然な呼吸、例えばしゃくりあげるようなゆっくりとした不規則な呼吸は死戦期呼吸といい、心停止(心室細動)直後数分の間に約半数の人に起きる。これを「呼吸有り」と安心してしまうと大切な救命のチャンスを逃してしまう。従って「呼吸ナシ」は広めにとってよい。自信が無ければ、119番の相手にどのような呼吸かを伝えればよい。119番が判断してくれる。
5.心臓マッサージ(胸骨圧迫)(C:Circulation)
- 胸の真ん中に手の付け根を置き両手を重ねて、肘を真っ直ぐ伸ばし、少なくとも100回/分以上の速さで継続出来る範囲で強く圧迫を繰り返す。推奨は「少なくとも5cm以上沈むように」であるが、その場で測れる訳ではないので、継続出来る範囲で「強く」で良い。訓練を受けていない救助者はAED、または救急隊到着までハンズオンリーCPR[2]、つまり胸骨圧迫だけを続ける。
極力ほかの人を巻き込む。それが出来るかどうかは天国と地獄ほどの差がある。秒単位で12345と数えてもらうとかでもよい。5秒の間に8回以上なら100回/分以上を満たしている(後述)。それに応じてもらえれば疲れたときに代わってもらえる可能性が高い。疲れてきたらまわりの人に1分間だけでも代わってもらう。「強く早く」を維持するためにも交代は必要である。
6.気道確保(A:Airway)
- 訓練を受けていない市民救助者は行わなくてよい。
- 訓練を受け、自信のある市民救助者の場合は、仰向けに寝かせた状態で片方の手で額を押さえ、もう片方の人差し指と中指で顎を上に持ち上げる(頭部後屈顎先挙上法)ことにより行う。口の中に異物があれば除去する。
7.人工呼吸(B:Breathing)
- 訓練を受けていない市民救助者は行わなくてよい。
- 訓練を受け、自信のある市民救助者の場合は、鼻を押さえ胸部がふくらむよう息を約1秒吹き込む。この際、感染病防止の観点から専用のポケットマスク等を患者の口に取り付けることが望ましい[4]。人工呼吸を行う間隔は胸骨圧迫30回毎に2回が目安。ただしこのための胸骨圧迫の中断は10秒以内とする。
8.AEDによる除細動(D:Defibrillation)
- AEDが到着したら使用する。体が濡れていれば拭き取る。それ以外の手順はAEDの音声ガイダンスに従えば良い。公共の場に配備されているAEDは一般の人でも使えるように操作を自動化しており、電気ショックが必要であるかどうかもAEDが自動的に判断する。
なお、アメリカ心臓協会(AHA)のTVコマーシャル では一般市民向けにもっと簡略化して「まず救急へ通報、次に胸の真ん中を強く早く押す」、だけを強調している。そして「早く」、つまり胸骨圧迫のテンポについては、ディスコ映画の「サタデー・ナイト・フィーバー」の名曲「ステイン・アライヴ」を推奨している。この曲のテンポは1分間に100回以上(「100回/分以上」)を満たしており多くの人が知っている。「強く」の程度については触れていない。とっさの場合には深さの検証など出来ないし、CPRの講習で4~5cm(旧ガイドライン)といっても初心者はおおむねそれより弱い。だから「強く」だけ意識してもらえれば良いということである。
ハンズオンリーCPR、つまり胸骨圧迫だけでも良いとするのは、人工呼吸への抵抗感からCPRを躊躇する人が多いので、胸骨圧迫だけで良いならCPRの実施率が上がること。もうひとつは、目の前で倒れた人の場合は、倒れて10分以内、救急車が来るまでの時間なら、人工呼吸の為に胸骨圧迫を中断するより、絶え間ない胸骨圧迫の方が救命率が高いか、変わらないことがあげられる。心臓マヒなどで目の前で倒れた人以外は、完璧なCPRを行っても救命率は低い。
ガイドライン2010での変更点
ポイントは胸骨圧迫を極力早く行うこととその中断を最小にすることである。またすべての救助者が訓練の有無に関わらずCPRを実施することが可能なように手順を分かりやすくしたことである。また119番側では連絡をしてきた者に胸骨圧迫のみのCPRを指導するべきであるとした[5]。手順の主な変更は次の通り。
- 気道確保は不要(訓練を受けた救助者が人工呼吸をするとき以外は)
- 呼吸確認は「見て・聞いて・感じて」が廃止された。これは簡略化よりも死戦期呼吸=心停止を見逃さないという方が大きい。
- 脈の確認はガイドライン2005から不要。医療従事者でも正確ではなくかつ時間を要する。市民救助者には心理的抵抗感も大きい。
- 胸骨圧迫最優先。ともかく早く始めて極力中断しない。ガイドライン2005までは「気道確保(A)―人工呼吸(B)―胸骨圧迫(C)」だったが、胸骨圧迫が先になり、かつ気道確保(A)と人工呼吸(B)は省略可能となった。
- 胸骨圧迫の位置は「胸の真ん中」。「両乳首の真ん中」より即座に判りやすく[6]、判断が容易であるので圧迫開始が早くなる。衣服の上からで良い。
- 胸骨圧迫の深さが「4~5cm程度」から「少なくとも5cm以上」に。(小児や乳児の場合は胸の厚みの1/3)
- 胸骨圧迫のテンポが「100回/分程度」から「少なくとも100回/分以上」に。
- 人工呼吸はやらなくても良い。市民救助者には心理的抵抗感も大きいことと胸骨圧迫中断によるマイナスを考慮した。訓練を受けた救助者の場合でも人工呼吸の為の胸骨圧迫中断は最小にすべきとしている。ただし小児や乳児は窒息の場合が多く、溺水の場合と合わせて人工呼吸を優先する。
脚注
- ^ 通常「心臓マッサージ」といわれるものは、正確には「胸骨圧迫」。
- ^ ハンズオンリーCPRに関するAHA勧告声明を参照
- ^ フェースシールドの紹介
- ^ AEDの中にはたいていは透明ビニールシートでできたフェイスシールドが入っている。ただしこれは直接口を付けることへの心理的抵抗を減らす目的のものであって、吐瀉物などをブロックする効果は無いか、または十分ではない。
- ^ JRC(日本蘇生協議会)には日本赤十字社や消防庁も加わっている。
- ^ 乳頭と乳頭を結んだ線上というのは信頼性に欠けるとする。「胸の真ん中」は誤差が少ない。
関連項目
- 一次救命処置
- バイスタンダー
- 国際ガイドライン
- 善きサマリア人の法(Good Samaritan law)
- 日本蘇生協議会(JRC)
外部リンク
メッセージビデオ
- アメリカ心臓協会メッセージビデオ・AHA Hands-Only CPR video(YouTube)
- 日本:PUSHプロジェク・メッセージビデオ
広報サイト
- 日本救急医学会・市民のための心肺蘇生
- 日本医師会・救急蘇生法
- 日本心臓財団・AEDを知っていますか
- AEDを用いた胸骨圧迫だけの心肺蘇生法 心臓病センター榊原病院外科部長兼救急部長 津島義正
その他、BLSのガイドライン等については一次救命処置の外部リンクを参照
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関連項目 |
日本の救助隊 - 赤十字社 - 国境なき医師団 - 世界の医療団 - 救世軍 - スター・オブ・ライフ
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Japanese Journal
- 当院における自動心臓マッサージ機(LUCAS)導入による心肺停止症例の検討
- 岡田 清治,太田 哲郎,中村 琢,村上 林兒
- Shinzo 44(SUPPL.2), S2_75-S2_75, 2012
- 冠攣縮性狭心症(VSA)は一般的に予後良好とされているが,稀に致死的不整脈などで心肺停止(CPA)をきたすことがある.今回,CPA2症例を経験したので報告する.<BR>症例1:44歳,男性.2010年5月安静時の胸痛発作あり,心カテーテルにてVSAと診断.内服を行い経過観察となった.同年11月に運転中に意識消失,救急隊到着時CPAで救急搬送.搬送中の車内で心室細動(VF)となり自動体外 …
- NAID 130003377230
- 虚血誘発性J波を呈し心室細動を生じた冠攣縮性狭心症の1例
- 中川 孝,八木 哲夫,滑川 明男,石田 明彦,山科 順裕,櫻本 万治郎,佐藤 英二
- Shinzo 44(SUPPL.2), S2_156-S2_156, 2012
- 患者は46歳,女性.東日本大震災で被災し体育館で避難生活をしていた.2011年4月某日の早朝,胸痛後に心肺停止となった.夫が心臓マッサージを行い,救急車内で自動体外式除細動器(AED)が作動し自己心拍が再開した.低体温療法を行い,後遺症なく回復した.AEDの記録ではJ波の出現とその著明な上昇の後に心室細動(VF)が生じていた.アセチルコリン負荷試験で右冠動脈と左前下降枝に高度な冠攣縮が誘発され,下 …
- NAID 130003377214
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- いざという時の応急手当を紹介。他に全国の病院・各種療法や薬の検索、症状からの病気検索もあり。 ... 1. 心臓マッサージを行う人は、子供のわきに座ります。 2. 子供の乳頭を結ぶ線と肋骨とが交差する部位から指1本分 ...
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- 55歳の男性。呼吸停止状態でマスクによる用手人工呼吸を受けながら救急車で搬入された。
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- 既往歴 : 特記すべきことはない。
- 現症 : 意識は清明。身長155cm、体重53kg。体温36.7℃。脈拍72/分、整。血圧120/70mmHg。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頚部に血管雑音はない。心雑音はない。右乳房上外側に辺縁が不整な2cm大の腫瘤を触知する。乳癌の可能性を示唆したところ、顔面蒼白になり意識消失し、崩れ落ちるように前に倒れた。呼びかけに反応しない。
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[正答]
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[正答]
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[★]
- 英
- cardiac massage、cardiac compression
- 関
- 心臓マッサージ
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- 英
- heart
- ラ
- cor
- 関
- 肺、循環器
性状
体表解剖
- 心臓の上縁:左の第2肋軟骨の下縁と右の第3肋軟骨を結ぶ線上
- 心臓の右縁:右の第3肋軟骨から右の第6軟骨に向かう線。この線は外側に向かって弓状をなす。
- 心臓の下縁:右縁の下端から第5肋間隙で左鎖骨中線の近くに向かう線
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機能血管
動脈
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心臓の栄養動脈 (M.92)
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心臓の静脈の特徴
- 酸素供給能 = 心臓の送血能 x 血液のHb量 x (動脈の酸素飽和度(肺) - 静脈の酸素飽和度(末梢))
- 心臓の酸素消費量と仕事
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