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重松清の小説については「ナイフ (小説)」を、日本のロックバンドについては「Naifu」をご覧ください。 |
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ナイフ(Knife)とは、対象を切削するための道具(刃物)で、切削部である刃と握りの部分で構成される。武器と工具に特化したものを除く、手に持って用いる汎用の刃物を指す。日本語の「小刀」(こがたな)のことであり、脇差を意味する しょうとう は含まない。漢語の刀子(とうす)にほぼ相当する概念である。
目次
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ナイフはヒトの使う最も基本的な道具の一つである。人類は道具を使い始めた頃から石器のナイフを使用していた。ヒトの爪や歯が退化した原因ともいわれている。
現代でも野外で活動する際に重要な道具である。動植物を解体したり、藪を切り開いたり、自然物を加工して道具を作ったりと用途に事欠かない。そして護身具として外敵との戦闘にも使われる、戦闘用に特化したナイフも作られ古代から現代まで使用され続けている。
また、諸作業のために専門性をもつナイフが発明されている。食事のため、調理のため、更には様々な創作物の制作のために用いられてきた。
硬質な素材であればどんな物からでも作成し、実用に供することができる。その素材は時代とともに変化し、より加工し易く、より硬質で磨耗しにくい物に移り変わり、その加工技術も千差万別である。機能を維持するためのメンテナンス方法も、素材に応じて異なる。
ナイフは元来、携帯しやすいよう作られ、また実際に携帯していれば、様々な状況で用いることが可能である。例えば1人の人間が文明から隔絶された環境に置かれても、ナイフがあるだけで、その生存確率は数倍にも跳ね上がる[1]。また文明社会に在っても、汎用性の高いナイフが1本あるだけで、様々な専用の器具を使用しなくても、目前の問題を解決できる局面は多い。
しかしナイフは武器としても使用でき、危険な凶器と成り得る。それ故、多くの法治国家では携帯に際して制限や規則が設けられている。
刃物は人間の生活に欠くことのできない便利な道具であり、ことナイフはその汎用性故に様々な利便性がある。また作りによって刃物は美術品たりえる存在であるが、これと同時に銃器や刀剣の個人所有に対する制限の多い日本においては、刃物類が一般個人が入手できる武器にもなりうる側面がある。なお刃物全般に関しては、国内では銃刀法により、これの所有・運搬・携帯には、厳しい制限がある。以下に挙げるのは、日本国内で刃物を持つ人間が、最低限守る必要のある決まりである。なおこれに対して、状況によって扱いが変化する例も見られ、微罪・別件逮捕だとして批判する声もある(軽犯罪法・職務質問を参照)。通常、ナイフ(飛び出しナイフを除く)は刀剣類ではなく、その他の刃物に分類される。
なお、ここでいう所持・運搬・携帯であるが、解釈は以下の通りである。
所持に関しては、運搬と携帯のどちらも、移動時に持っていればそのように見なされる。警察に職務質問を受けた際に、これらナイフ類を所持していた場合に、任意同行を求められることも少なくない。また、6cm以下であっても、場合によっては軽犯罪法により処罰を受ける可能性もある。
なおキャンプ地や釣り場に行く際にナイフを所持している場合は「正当な理由」が認められることから許容範囲とされている[3]。ただしそのような場所に到着するまでは、運搬の状態であることが社会的にも望ましいとみなされる。
「護身目的の携帯」は正当でない理由と見なされる。護身目的でナイフを携帯するとは、日常生活の道具というナイフの本来の使用法よりも、人を威嚇したり場合によっては殺傷したりするという悪用法にもっぱら注目していること、そして自衛のためであろうと他人に刃物を向けることを予め行動の選択肢に入れていることの証拠だからである。
このほか、刃物類をファッション的に持ち歩く行為に対しても社会問題視する傾向が一般に広く見られる(→有害玩具)。ことダガーのような実質的に武器として発達した形状のものに関しては、従来にてナイフの括りで販売されていたが、2008年の秋葉原通り魔事件を契機として2009年の銃刀法改正に伴い剣(武器としての刃物)として刃渡り5.5cmを超えるものの所持(所有)が禁止されるようになった[4]。
ナイフには幾つもの分類法がある。以下に、構造分類と用途分類によって、基本的なナイフの構造と用途別の種類を紹介する。
ナイフには、刃を折り畳んでしまえる物と、鞘を必要とする物がある。前者は携帯に便利な反面、可動部があるために破損・故障する可能性があり、後者はやや携帯に難があるものの、非常に堅牢である。
フォールディングナイフは、携帯に便利なように何らかの機構で柄に刃を格納できる構造のナイフをいうが、刃を折り畳んで収納する、日本では折り畳みナイフと呼ばれる構造のものが大多数であり、パラシュートナイフ、バタフライナイフなどその他の形式は特殊なものとされる。柄よりも刃の部分が短くないと刃先端(切っ先)が収納できないため、比較的小型の物が多い。
なお折りたたまれた刃をバネで固定するものでは、その刃を柄の溝からつまみ出すために、ブレード部分に「ネイルマーク」と呼ばれる細い半月形の刻みが入っているものが主流ではあるが、製品によっては突起で代用されているものや、更にはブレードを貫通する形で穴(サムホール)が設けられているもの(→スパイダルコ社)も見られ、折り畳み機構の構造もあいまって様々な形状の製品が製造・販売されている。
折りたたみナイフは、携帯時に不用意に開くことも使用時に不用意に閉じることも危険な事故につながるため、小型のものでは柄の背に板バネを内蔵して、ある程度の角度を境にそれぞれ刃が開く方向と閉じる方向に力を加える構造(スリップジョイント機構)を持つのが一般的である。また、大型のものでは板バネの機構に加えて、開いた刃が閉じないような機械的ロック機構を持つものも多い。
農場、船上等で労働者が使用する安価で粗野な大型実用折り畳みナイフをジャックナイフ[5]、小型の折り畳みナイフをポケットナイフという[6]。
ツールナイフは、刃以外にドライバーや缶切りなど、他の用途のツールブレードを持ち、付いている機能の数によって「n徳ナイフ(nは整数)」などと呼ばれる。この構造で代表的なものは、歩兵などの携帯装備として基本的な、缶切り・ドライバー・栓抜きと、メインブレード以外にツールブレードが3枚が付いているアーミーナイフであるが、しばしば一本のブレードが複数機能を持つことから、4~7徳程度の機能を持っている。例えばビクトリノックスの製品では、缶切り・栓抜きブレードとマイナスドライバー大小やワイヤーストリッパーが複合されている。
その他、ペンチやワイヤーカッター等の工具類がついているプライヤーツール、コルク抜きや釣り針外し等を持つキャンプやレジャーに便利なものなど様々な派生種類がある。赤いハンドルのスイスアーミーナイフの通称で有名なビクトリノックス社、ウェンガー社の製品には、30以上にもおよぶ機能を内蔵したものもあり、ドイツ・ゾーリンゲンに本社を置くフリードリヒ・オルバーツ社の「マイスター100」に至っては、ツールブレードを含めたブレードの数が100というものも存在している[7]。
写真はソムリエ(ワイン鑑定士)がワインの開封、抜栓に用いるソムリエナイフないしウエイターズナイフと呼ばれるもので、小ブレード、コルクスクリュー、コルク抜き梃子を持つ3徳ナイフであり、てこという特殊な利用法のために板バネを内蔵しないフリーブレード構造になっている。
シースナイフは、折りたたみ機構を持たず、保管時に刃をシース(鞘)に収めて保護する構造のナイフ。鞘をベルト等に取り付けて、そこから取り出して使うことも出来る。堅牢性や刃渡りを必要とする用途に用いられる構造。
鞘を着ける位置によって違う呼び方をする場合があり、例えばブーツに鞘を取り付けて使用するものをブーツナイフと呼ぶ。特殊な装着位置のものには、実用的な機能の他、秘匿を目的とする、後述するファイティングナイフやダガーの類がある。
ボウイナイフは1836年のアラモ砦の戦いに守備側で参加したジェームズ・ボウイ大佐が使用したナイフを原型とする、やや大ぶりで片刃のナイフである。武器であると同時に日用品としても利用でき、一般にいうところの登山ナイフやサバイバルナイフの原型となっている。
世界には多種多様なナイフが存在している。中にはある極めて限定された用途に特化したナイフもあり、こうしたナイフは本来の用途以外には使いづらい場合も多い。本節ではこれら多種多様なナイフのうち代表的なものを一部紹介する。
包丁は英語ではkitchen knifeと呼ばれ、ナイフの仲間として扱われている(和包丁や中華包丁もknifeである)。
家庭用として最も一般的なキッチンナイフ(いわゆる 文化包丁あるいは三徳包丁)はステンレス鋼製で軽量な作りをしており、刃は薄刃で野菜も肉も一通り切れるようになっている。刃の先端(切っ先)は細く、根元は広く丈夫に作られており、刃の終わりは直角になっていてジャガイモの芽を取る等の細かい作業に向く。握りが他のナイフと比べても太く握り易い形状になっているのは、キッチンナイフは濡れた手で扱われることが多いためである。薄刃になっているのは、食材を細かく切りやすいからである。
肉類専用のキッチンナイフ(筋引き)は、特に細長く作られる。肉や魚を切るためのフィレナイフは、特に生の肉類を切り分けやすく作られている。ブレッドナイフはパンの柔らかい部分が側面に張り付かないように細く、また固い外側を切るために、鋸状の刃になっている。
ヨーロッパの食文化においては独特の食卓用ナイフが広く用いられ、スプーンやフォークなどとともにカトラリーを構成する。古くは調理された肉を切り取るためにナイフ全般同様によく切れる刃がついていたが、今日広く使われるものでは細かい鋸刃を持つものがみられる。バターやジャムなどペースト状の食品をとったりパンに塗るための「バターナイフ(バタースプレダー)」もあるが、これには刃付けされていない。
テーブルセッティングでは位置皿(ディナープレート)の右側に、外側からオードブル用ナイフ、魚用ナイフ、肉用ナイフが配置される(なお、さらに外側にスープスプーンが配置される)。また、位置皿の上側にデザートナイフが配置されるほか、パン皿の位置にはバターナイフが配置される。
以上のほか、食卓で塊の肉(七面鳥の丸焼きなど)を切り分ける際にはよく切れるフィレナイフやステーキナイフが利用されるし、果物を切り分けたり皮をむく場合にはやはりよく切れるフルーツナイフが利用される。
なお機内食に供される食器ではハイジャック防止の観点から、プラスチック製の鋸刃のものが利用されているともされるが、ただ実際には、食器を使い捨てとすることで衛生的で簡便な食事の提供を目指している(→機内食)。
精肉業者が用いるナイフで、性質的には「叩き切る」という側面において鉈(なた)や斧に近く、汎用の刃物ではない。食用の獣肉を切り分けるという目的に特化した独特の構造・形状を持ち一般では利用されないが、かつて一般の家庭でもニワトリなどの家禽程度であれば屠殺が行われていた時代・地域によっては、農村部を中心に、似たような用途・形状の刃物が用意されていた。
主に電気工事士が電線の被覆剥き等の線材加工などに使うナイフ。腰に着けた工具ベルト(安全帯・胴綱)へ安全・コンパクトに収納できることから、旧来からのものは折りたたみ式であるが、高所作業の多い電気工事の現場では刃を出し入れしなければならない作業効率の悪さから、最近では折りたたみ機構を廃しベルトに吊るプラスチック製の鞘とセットになった電工ナイフがよく使用される。
突く作業がないことから先端(切っ先)が尖っておらず、鉈に似た形状をしていて刃も厚めである。多くの電工ナイフはこのような形状だが、普通のナイフのような形のものもある。力を加えて正確な作業をするため切っ先を使うことは少なく、刃の中央から手元寄りを主に使う。硬度の高さと手入れの容易さを求められることから鋼の製品が多く、通常の砥石で砥ぐことが出来る。刃付けは両刃で角度はやや鈍く、過度の切れ味より芯線を傷つけない程度の切れ味が良いとも言われるが、研ぐ電気工事士本人の錬度や好みが出る。
一般的な電工ナイフは「電工」と言っても絶縁性のある造りではなく、むやみに充電部(電気の流れている場所)に触れて工事するのは危険である。充電部への加工が必要な場合は専用の絶縁電工ナイフを使用するが、専ら特殊用途である。 柄の部分は木またはプラスチック製であるものが多く、また高所や狭い場所で取り落として作業に支障をきたしたりしないよう、鞘に脱落防止用のロック機構があったり、柄の部分に長い紐をつけて扱えるよう紐穴が設けられた製品が主である。
映像・音響用ケーブルなど被覆が柔らかく芯線も柔軟な場合では、使用する線材によってカッターナイフなどで代用される場合がある。芯線が柔軟な場合には、電工ナイフで芯線に傷をつけてしまうこともある。ただし電源用ケーブルなど配電用のものでは被覆が硬くカッターナイフでは力不足(カッターナイフでは刃が薄いため、力を入れると撓ったり折れてしまい扱いづらい)であるため、電気工事士はこの電工ナイフを使用しており、資格試験においても同ナイフの扱いが試験問題の中に見られる。
ダイバーズナイフ(ダイビングナイフ、水中ナイフとも)はスキン・ダイビング程度ではあまり必要ではないが、スキューバダイビングの場合には必須とされる。海中で使用するため、刃には錆びにくいステンレスが用いられ、中性浮力に近づけるため柄には中空で刃以上の大きさを持つ樹脂が用いられたり、コミュニケーション手段に水中でエアタンク(空気ボンベ)や石を叩いて音が出しやすいように柄の端に金属が剥き出しになっていたり、手袋をはめた手でも脱着しやすいように工夫されている。着脱に際して胴回りのスキューバ機材を傷つけると命に関わるため、装着位置は実用ナイフには珍しく、主に脛である(シースにもそのためのベルトが付いている)。
特に海中では、海草に絡まったり、網などに引っ掛かったりして、生命の危険に晒されることが多く、また素手で触ると危険な生物も多いため、これらのナイフは、ダイバーの生命を守る道具として利用される。なお、水中で物を切る場合は、空気中で物を切るよりも摩擦が少なくて、刃先が滑ることが多いため、わざと目の荒い砥石で研いで、刃先を細かい鋸刃のように加工する。
その他、数多いダイビングの楽しみの中に、魚に餌を与えるフィッティングがあるが、水中で魚の餌を切り分ける際にも、これらダイバーズナイフは利用される。
なお、潜水士は、業務中はナイフの携帯を法律で義務付けられている、唯一の職種である。
用途の面から見ると登山ナイフという分類はなく、本来は「アウトドアナイフ」という非常に広範囲で曖昧な分類が存在する。「登山ナイフ」という区分は、ナイフメーカーもナイフ愛好家も当の登山家さえ使わない言葉である。この言葉は、ナイフに興味のない人が、大型で日常では用途の見出しがたいナイフを指す時に使われる[要出典]。[8]この分類名の由来は、日本でアウトドアライフ全般を「登山」と括ってしまったことによる。さらに登山(アウトドア)にサバイバルやハンティングのイメージまで加わったことで登山ナイフという呼び方が出来た[要出典]。
たしかにかつての登山・アウトドアでは焚き火の薪取りや藪漕ぎなどで大型のナイフ・ナタを使用する場面があった。しかしその場合も「シースナイフやナタを登山に使っていた」のであり、登山ナイフと言う分類ではなかった。さらに近年では登山道の整備、携帯コンロの進歩、環境問題などから、ナイフを使って藪こぎや薪取りをする機会はほとんど無くなった。現在一般的な登山では小型の多機能ナイフなどを、ナイフとしてではなく缶切りやハサミ目的で携帯する程度である[9]。現在登山・アウトドア活動で「登山ナイフ」と形容される、刃渡り10cm以上のタイプのナイフを携行する者は年々減少して来ているとされる。
登山ナイフという分類が存在しないにも拘らず、事件報道や警察発表で登山ナイフと呼ばれると登山・アウトドアのイメージが不当に悪くなってしまう。そのため登山・アウトドア関係者は前出の多機能折りたたみナイフを「登山ナイフ」と呼び、事件で使われた大型のシースナイフ等を登山ナイフと呼ばないよう呼びかけている[要出典]。
「登山ナイフ」と呼ばれるものの用途イメージに今日最も近いものに対する、ナイフメーカー側の呼称。ユーティリティは「万能」、フィールド&ストリームは「野原と河原」の意である。主に握り易く滑りにくいハンドル(握り)をもち、多少手荒に扱っても折れたり曲がらない堅牢性を備える。また長期間風雨に晒されても性能に支障が出ず手入れもし易いよう、単純な構造の製品が主である。
登山でも職業登山家の活動や、壁面登頂や冬山登山など、あるいは狩猟などといった過酷な野外生活で、刃物が必要とされる局面において広範囲に使用することを想定した中型~やや大型の汎用ナイフで、そういった過酷な環境下ではフォールディングナイフを一々両手を使って出し入れできない事態も想定されることから、すぐ取り出せ利用できるように旧来は鞘に収めるシースナイフを腰などに吊る様式が一般的であった。
この用途には釣った魚や捕らえた動物の解体・調理も含まれるが、木を加工して道具を作成することや、危険な野生動物よりの難を逃れるための武器といった用途も含まれており、道具としても武器としても使用できる形状となっている。今日ではフォールディングナイフでも片手で扱えるものも登場するなど必ずしもシースナイフではなく、スパイダルコ社の製品を始めとして、手袋をしたまま片手で扱える製品も見られる。
なお屋外生活向けのナイフでは、ハイキングやトレッキング、またはレクリエーション的な登山や家族連れのキャンプといったような一般的な野外活動向けにキャンピングナイフと呼ばれる簡便で様々な機能がコンパクトにまとめられたナイフがあり、これは主にフォールディングナイフである。近年の製品は信頼性が高く十分な強度を持つことから、登山でもよほど本格的な冒険行をするでもなければ、キャンピングナイフのみを携行する者も少なくない。なおキャンピングナイフに類されるものでも、ユーティリティやフィールド&ストリーム同様の苛酷な環境での利用を想定し、扱い易いロック機構や握り易いハンドル形状を備えた製品も見られる。
狩猟においては、弓にせよ、銃にせよ、獲物に致命傷を負わせることは出来ても、即死させることは難しい。また、一人では運びきれない大形獣を仕留めた際には、運搬に適するようにその場で解体することもある。このため、獲物に止めを刺し、なおかつ解体作業に用いても壊れない丈夫なナイフが必要となる。
ハンティングナイフには、獣皮を切り裂く鋭い切れ味と、骨に当たっても関節に差し込んで筋を切っても折れたり欠けない丈夫さが求められる。これらの解体作業に当たっては、皮を剥いだり肉を切り出したりする用途毎に違うナイフを用いることもある。ガットフックは筋を切って解体を助け、スキナーは皮を剥ぐために刀身を薄く、形状は反り返り先端は鋭くなく作られている。またこれらハンティングナイフは、血を被っても滑りにくい、丈夫で握り易い柄の部分が必要である。
日本では、熊狩りにおいて、マタギが使うナガサと呼ばれる、伝統的なハンティングナイフも存在する。柄の後端が開いた筒状になっているものは「袋ナガサ」と呼び、熊と出くわしたりした際には立ち木を柄とする槍になる。また、アイヌ語を語源とするマキリという小型ナイフも、多用途ナイフとして北海道や東北各地に形状を変えながら使われ続けている。
重厚な作りから、ナイフコレクター等に好まれる種類でもある。
植物の密生した環境で進路を確保するために草や低木をなぎ払う藪漕ぎ等の用途に特化した鉈状の特大型の刃物。いわゆるナイフとしての汎用性は無く、その大きさ故に操作法も限られ、用途は概ね限定的である。野外生活においては汎用性に特化したユーティリティナイフが別途必要となる。保安パーツとして不可欠なシースと呼ばれる鞘には、合成樹脂製や木製、厚手の布を縫製補強した物などがあり、肩に担いで携帯するよう長いベルトが付属するものも見られる。
形状としては、先端部に行くに従って幅広で重くなるようなものが主流で、これにより勢いをつけて緩やかで大きな動作により、余り腕力を使わず重さと慣性で先端部の速度を増し、効果的に対象を切断することができる。大柄で振り下ろすことに向き、また単純な構造と壊れにくい頑健な作りである。
打ち下ろす動作で武器として大きな威力を求められるため、山中で突然に遭遇した危険動物(毒蛇や大型肉食獣)などからの自衛手段、さらに戦時における戦闘地域にあっては白兵戦に用いられることもある。
その類型にはククリと呼ばれる、生活民具から武器としても利用される東南アジアの伝統的な汎用大型刃物がある。
軍事行動中などにおいて遭難などで他の装備を失った場合、それのみで生存を計る(→サバイバル)目的で設計された、大型のシースナイフ。
サバイバル一般論で言えば、汎用のナイフがあるだけでも生存可能性を格段に高めるための手段が増えるのではあるが、サバイバルナイフではその考えを更に推し進め、生存に必要と考えられる様々な工夫が凝らされており、遭難時に風雨から身を守るためのシェルター(避難場所)を作る上で木を切るためのワイヤーソウが添付されていたり、方位磁石が組み込まれているなど、ユーティリティとしての機能性を重視した製品も数多く、それらがコンパクトかつ携帯性に優れるよう設計されている。想定される状況によって装備は異なるが、柄(グリップ)を中空にしてその中に釣り糸、釣り針など自力での食料調達のための装備や医薬品を格納したり(コンテナと呼ぶ。この場合は強度の面で、柄をハンマー代わりにすることは出来ない)、墜落した航空機からの脱出などを想定して刃の背に金属を切断する鋸刃を設けたりする、他のナイフには見られない設計が見られる。
また、戦地での「サバイバル」には当然敵兵との格闘戦も想定されるため、武器としての威力と堅牢性は設計の最優先課題の一つであり、例えば右画像に見るように米ナイフメーカーのクリス・リーブが製造するサバイバルナイフでは、剛性を高めるためコンテナを含めナイフ全体を削り出しで一体形成とした製品も見られる。このため往々にしてファイティングナイフと軍用ないしそれを意識したサバイバルナイフの境界は曖昧で、ファイティングナイフにサバイバルキットを添付した製品も見出せ、こちらでは、よりナイフとしての剛性を高めるために、全体的な重量増加は避け得ないものとはなるがハンドル部分に差し込まれたタング(刀のなかごに相当する箇所)をグリップ全体に挟み込んだ「フルタング」の様式を取るものも見られる。ガーバーのLMF2では、ナイフ形状やグリップのみならず、シース(鞘)にも工夫が凝らされ、様々な用途に利用できるよう工夫されている。
なおこういったファイティングナイフ様の機能を備えるものは、日本国内において単独での大型獣の狩猟など特別な状況を除けばアウトドア一般でもほとんど携行の正当性が見出しにくいものであり、好事家のコレクションなど実用性とは別の理由に基いた販売が成されている。
映画ランボーに登場して有名になったことから「ランボーナイフ」と呼ばれることもある。ちなみに同映画シリーズで使われたナイフは、米国のナイフ作家(カスタムナイフ製作者)であるジミー・ライル(ランボー・ランボー/怒りの脱出)、ギル・ヒブン(ランボー3/怒りのアフガン)に特別発注されたもので、刃渡りが30cm近くあり、実用性よりも映像的な見栄えが重視されている。戦闘を意識したファイティングナイフ(一種の剣)の中には同じ位の長さを持つナイフもあるが、サバイバルナイフとしては例外的に大きなサイズとなっており、実用性は考慮されないコレクター向けのナイフとなっている。
ただし、ユーティリティナイフとして梱包空けや藪漕ぎなど通常の行動用に兵士が私的に購入するために制作・販売されるナイフはあり、これは安価で質も良いものもある。
武器としての使用を主眼においたナイフはファイティングナイフと呼ばれる。脇差・短刀、ダガー、バタフライナイフ、スイッチナイフ、トレンチナイフ、銃剣[10]などがここに含まれる。
宗教的な象徴としての意味を持つナイフもある。例えばイエメンをはじめ中東~中近東といったアラビア世界では、「ジャンビーヤ」と呼ばれる湾曲したナイフがあるが、これは遊牧民が家畜をさばくような日常生活でも利用される一方、成人した証でもある。大人になった男子はこのナイフを与えられ、一人前とみなされる。こういった儀礼的ナイフは世界各地に見られ、その多くは美しく宝飾されていたり、あるいは彫金されているなど、一種のアクセサリー的な側面もある。
その一方で宗教的な行為に使用されるナイフも見られ、神秘主義の中には儀式において所定のナイフを使用するものがあるほか、ヒンドゥー教では新生児の枕元にマッチと共にナイフを置いて魔除けとするなどといった風習も見られる。北欧のブラウニー伝承がある地域では妖精による取り替え子を防ぐために妖精の嫌うナイフなど鉄製品を赤ん坊の傍に置く風習が見られる。他にも大航海時代より西欧の船員は一種の護符としてナイフを携行したという話もある。ナイフは身近で汎用性のある便利な道具であったため、このような用法も発生したと思われる。
観賞用・美術作品として制作されるナイフ。フォールティングナイフもあるが、見栄えの良い大型シースナイフやダガー形状がとられることが多い。柄や刀身に貴金属や宝石があしらわれたり、彫刻やスクリムショーが施される場合もある。ダマスカス鋼が用いられたり、制作のモチーフも日本などの東洋風、中世のヨーロッパ風などとその制作の方向性は多岐にわたる。本来の実用的なナイフの用途に使用できるものもあるが、柄と刀身という基本的形状を持つだけでまったくの観賞用というものも多い。
詳細は「葉巻きタバコ#カット方法」を参照
葉巻には喫煙のために口で吸う後端に穴を開ける必要があるため、切れ味の鋭い(汎用の)ナイフを使うことがある。ただ、専用の器具として吸い口を切るためのシガーカッター(ギロチンカッター)や吸い口に穴を開けるパンチカッターが存在し、好事家ともなると葉巻を楽しむ過程で喫煙の風味を決定しうる切り口を変化させるために、複数の器具を使い分けることもある。
21世紀初頭の現在、ナイフの多くは炭素鋼もしくはステンレス鋼のものが多い。炭素鋼は焼入れによって高い硬度を得られる反面、脆く、錆に弱い。ステンレス鋼は錆に強く粘りがあるが、そのために加工しにくく、また炭素鋼ほどの硬度は得られない。近年開発の進むファインセラミックス系の素材は、欠けやすく加工しにくいという扱いにくい所もあるが、将来的には有望視されている素材ではある。いずれにしても耐久性の面を別にすれば、加工しやすい硬質な素材はほぼ全て、ナイフの材料として用いることが出来る。
黒曜石や火打石などは打製石器の材料として利用され、それ以外のさほど脆くない岩石からは磨製石器が作られたが、これらの石を材料に製作された石器が、様々な地域で普遍的に出土している。黒曜石や火打石・石英を含む岩石は、打撃を加えることで薄く鋭く剥離し、その外縁が刃物として利用できるだけの鋭さを持つ。鋭利さに注目すればこれらは砥石で砥いた金属製の刃物を凌駕するものである。
動物の骨や角は弾力性があり、また十分に硬いため、古くはナイフの材料に、現代ではナイフの柄の材料に用いられる。骨の主成分はリン酸カルシウムや炭酸カルシウムであるが、その他にも様々な成分が密接に関係して、十分な強度を持っている。このため磨製石器よりも更に精細なナイフを製作可能である。反面、鋭さに欠け、切れ味はあまりよくなく、また耐久性も鉱石に比べると経年変化に弱い。その他、材料となる骨の大きさで製作可能なサイズも決まるため、あまり大型の物を作ることが出来ない。
青銅は、融点が低くて比較的精錬しやすい金属である銅と錫等の合金であるが、そこそこの耐久性があり、また加工も容易であるため、長く使われた歴史を持つ。これら青銅器のナイフ類は石のナイフのように簡単に砕けたりせず、骨などよりも硬いため、非常に便利が良く、広く用いられた。しかし硬度の面で難があり、やがて鉄器が普及するにつれて、次第に姿を消していった。
鉄や鋼は、近代に至るまで、広くナイフに利用され、その切れ味は研ぎ易さとあいまって、今日に至っても非常に高く評価されている。手入れさえ十分なら素材自体が入手し易く安価であるため、必要な機能を安価に実現できる。しかしこれらの素材は良く錆を生じるため、動物解体用や調理用の刃物にはあまり適さないことから、現在ではステンレス鋼が使われることも多い。
炭素鋼系がよいのかステンレス鋼系が良いのかはナイフの製造方法や使用方法を総合して考えると一長一短がある。ステンレス鋼も種類によって性質が異なり、いずれが良いかはユーザーのニーズと共にナイフメーカーの個別的選択にかかっている。そのため鋼材メーカーは幾つかの材料を取り揃えて販売をしている。ただ、機能性の高い鋼材はそれだけ高価な傾向がある。
一般向けに販売されているポケットナイフなどでは、グラインダーによる削り出し製法が主流になった関係で、炭素鋼(特に鍛造鋼)は少数派となりつつある。しかし研ぎ易く手入れさえよければ切れ味を維持することに向くため、ヨーロッパなどの伝統的なナイフメーカーが炭素鋼のナイフを製造している他、電工ナイフの中にもケーブル加工でビニール皮膜を切削する際「押し切る」という形で常に鋭さを求められることから、炭素鋼のものが出回っている。
製造の過程で鍛造工程が入るナイフも多く、この工程如何でもナイフの性能・性質が左右される。鍛造工程の中にはダマスカス鋼のように、他の金属との重ね合わせで強度を付与する場合もある。日本刀のような複合構造をもつナイフも、ナイフビルダーによって製作されている。
ステンレス鋼は鋼材の一種であり、それを構成する金属元素の組成によって様々な特性を持つ。一定の粘りがあることから、ロバート・ウォルドーフ・ラブレスのストック&リムーバル法に代表されるグラインダーによる削り出し製法に向き、大量生産する上でも有利である。また意匠を凝らしたナイフの製造も可能であることから、現代の主要なナイフメーカーから個人のカスタムナイフ製作者まで幅広い層に受け入れられている。
ステンレス製のナイフは多くの場合、鉄や鋼の刃物に比べ、研いだ時にばり(返り)が残りやすく、上手に研ぎ難い。これはある程度粘りを持っているために研いだ際に刃先からばりが反り返って取れ難くなるためであるが、特にナイフに使われる素材では耐衝撃性など耐久性が重視されるためにこの傾向が強い。このバリを取らないと、刃物としての切れ味は格段に落ちる。
これをきれいに取り除くためには熟練を必要とするが、比較的簡単な方法としては、片側を重点的に研いで、反対側は刃先から峰の方向に砥石の上で数回軽く滑らせて、研ぎ落とす方法がある。ただ、不慣れな者が行うと刃先が潰れて切れ味の悪い状態に成りかねない。刃物店などでは有償の研ぎサービスを行なっている店舗も見られる。
高級とされるナイフには、所定の組成を持つ炭素鋼やステンレス鋼が使われる。組成の中で最も重要なのは炭素、クロム、モリブデン、タングステンの配合比である。それぞれに特性が違い、用途によって使い分けられる他、価格的にも大きな差を生むこともある。
以下に参考までにナイフの素材に向かない鋼材を挙げる。ただしこれは刃そのものに関してのみの話で、ハンドル(柄)の部分に使われる場合はその限りでは無い。
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