出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/04/16 15:40:41」(JST)
密度行列(みつどぎょうれつ、英語: density matrix)は、量子力学における混合状態を表現するために使われる行列である。
ある系(ここでは時間依存は考えない)の状態が、|Ψ1〉, |Ψ2〉, ..., |Ψk〉, ... という状態ベクトルが古典的に混ざったものとして記述できるとする。つまり、ある系のどんなオブザーバブルの測定値の確率分布も、|Ψ1〉, |Ψ2〉, ..., |Ψk〉, ... での測定値の確率分布に重みをつけて平均したものとして表せるとする。
k 番目の状態が重み pk で混合されているとき、
で定義される演算子 を密度演算子 (density operator ) と言う。密度行列 (density matrix ) は、密度演算子を行列表示したものである。
ここで、|Ψk〉 は互いに直交している必要はない。たとえば、スピンの z 成分の +1 の固有状態と、y 成分の −1 の固有状態を混ぜることも可能である。
このような複数の状態が混ざってできた状態を混合状態 (mixed state ) といい、そうでない状態を純粋状態 (pure state ) という。
一般に密度演算子 はエルミート演算子で、ヒルベルト空間上の任意の状態ベクトル に対し、
を満たす。ここで Tr{ρ} は密度行列 ρ のトレース (trace) である。
一般には、密度演算子の二乗は、
となる。ここで、簡単のために状態 |Ψk〉 と状態 |Ψk'〉 は規格直交性 〈Ψk|Ψk'〉 = δk,k' を持つとした(密度行列を対角化することで、このような表示は常に可能である)。
特別な場合として、複数の状態が混ざっていない純粋状態 |Ψ〉 に対する密度行列 ρ = |Ψ〉〈Ψ| では、状態ベクトルの規格化条件 〈Ψ|Ψ〉 = 1 より、
となる。よって、純粋状態の場合は ρn = ρ(n は正の整数)であることが分かる。また、純粋状態に対する密度行列は射影演算子の形となっている。
量子力学において、純粋状態 |Ψk〉 におけるオブザーバブル の期待値は、
となる。この純粋状態が混ざってできた混合状態の期待値 は、重み pk を使って、
つまり密度行列 ρ と、オブザーバブル の行列表示 A との積の、トレースで表される。
密度演算子の時間発展は、次のフォン・ノイマン方程式 (von Neumann equation ) で記述される。フォン・ノイマン方程式は古典論におけるリウヴィル方程式 (Liouville equation ) に対応するので、リウヴィル=フォン・ノイマン方程式 (Liuville–von Neumann equation)、あるいは単に(量子)リウヴィル方程式とも呼ばれる。
ここで ħ = h/2π は換算プランク定数(h はプランク定数)、 はハミルトニアン、括弧 [·,·] は交換子である。
フォン・ノイマンの式は、純粋状態(状態ベクトル)の時間発展を記述するシュレーディンガー方程式
と密度演算子の定義式だけを用いて導出できる。ここでブラ・ベクトル 〈Ψ| はケット・ベクトル |Ψ〉 の双対であること 〈Ψ| := |Ψ〉† に注意。
統計力学においては、状態のアンサンブルを混合状態と考えることができる。量子統計力学では、エネルギー固有状態を用いて密度行列を表現すると便利である。
密度行列 ρ は、たとえばカノニカル分布では、
グランドカノニカル分布では、
で表される。ここで β = 1/kBT は逆温度、kB はボルツマン定数、Ω はグランドポテンシャル、HG はグランドカノニカル分布でのハミルトニアンである。
このときオブザーバブルの期待値 〈A〉 は、
と書くことができる。特に A が恒等演算子 A = Id の場合、
を満たす。また、A がハミルトニアン A = H の場合、ハミルトニアンの固有値を {Ei} とすれば、
と書き換えられる。
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