出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/07 03:26:57」(JST)
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声区(せいく、レジスタ、レジスター、voice-register、vocal-register)とは音楽で発声(人声及び楽器の発音)の分類に関わる語である。器楽ではパイプオルガン等で使われる言葉で、声楽用語の声区はパイプオルガンにおける概念を人の声に当てはめたものといわれる。 英語ではvoice-register等が使われる。単に「voice」というと声種[1]の意味合いが強いが声区を指していることもあるため混乱しやすい(voce(伊)やvoix(仏)Stimme(独)等、及びそれらの日本語訳の「声」にも同じことがいえる)。また、voice-registerやvocal-registerが声の「音域」などと訳されていて誤解を生むことがある。
パイプオルガンの発音源であるパイプは、全音域に渡って一種類であることはなく、高い音域は金属製のフルー管、低い音域は木製閉管リード管といった具合に、幾種類かが使い分けられていて、その組み合わせをかえて音色を調整する。この、発音体(管)の種類の違いやその組み合わせの違いによる区分がレジスタである。「ストップ(音栓)」と同じ概念とすることもあるが、どちらかといえば、ストップはレジスタを切り替えるための装置のことである。
歌唱やその訓練において、主に発声者の体感、諸器官の働き方の違いで声を分けるとき一連の声のシリーズを声区(レジスタ)と呼び、音色で分ける「声種」[1]とは区別される。
声区と声種[1]の違いは声楽の訓練を積んでいる人にもわかりにくいものである。簡単にいえば発声機構が声区で、音色(スペクトルやソナグラムに現れる)が声種である。但し、発声機構と音色との間には関連性があり、声種と声区を完全に切り離して考えることはできない。 米国のポピュラー音楽ではライトボイスとヘビーボイスの二つの「声種」に分けることが多く、「声区」という言葉は不要という指導者が多い。これは米国人の多くが換声点の目立たない発声をするため「声区」を体感しにくいことが影響している。一方で日本人、特に男性の多くは換声点が非常に目立つ発声で、逆に「声種」を理解し辛い状況にある。日本人女性には(米国人の多くと同じく)「声区」がわからないという人が多い。
話を簡単に、オルガンで低音2オクターブにリード木管が、高音部2オクターブにフルー金管が割り当てられていて1オクターブ重複しているとする(したがって全体の音域は3オクターブとなる)。このときの木管と金管の区別を声区(レジスタ)とした場合、二声区のモデルとなる。重複部分を別な声区と考えた場合は三声区のモデルとなる。 最低音から音階を序序に昇っていくとき、仮に木管だけを鳴らして昇りつづけ3オクターブめに入る瞬間、急に木管単独から金管単独の発音に移ると、音色も同時に切り換わる。これは声区と声種が同時に換わるということである。
実際のオルガンでは音色の変化が目立たぬよう、声区が重なる音域(この場合中央の1オクターブ)で木管と金管の割合をすこしずつ変化させる(声区融合)。この場合は高音域の金管単独のレジスタに移るとき、発音体の構成は変わるが音色の変化は聞き取られにくい。
この声区融合されている状態では、声区が重複する音域1オクターブを個別の声区とした場合、この声区の最低音と最高音を比べると、両の発音体が使われているのは同じだが音色に差があるわけである。また、この重複した部分では、片方のみの音色を使ったり、混ぜ合わせる配分を変えることで様々な音色を出すことが出来る。これを声区は同じで声種だけ違うとする見方ができる。
また、木管のみの音域から重複した音域に上がっても金管の音色をほとんど加えなかったり、金管のみの音域から重複した音域に下がっても木管の音色をほとんど加えなければ、音色の変化がほとんど感じられないため、声区は移るが声種は変わらないと感じられる。
声区と声区の移り目のことを換声点とかブレイクポイントなどという。パッサージオということばも有名だがこれは換声点を通過する、声区を転換する、という意味のようである。上記の例のように、(パイプオルガンにおいては、また上達した歌い手においては)各声区には重複部分があるので、声区転換は、音域的には、上の声区の最低音から下の声区の最高音までの範囲で任意の高さで行える。ロングトーンの途中で音高を変えずに声区を転換すること(メッサ・ディ・ヴォーチェ)も可能である。他方で歌の苦手な人や普段歌う機会の少ない人たちにおいては、各声区の間に自分では発声できない音高・音域がしばしば生じる。あるいはたった1つの声区だけしか歌唱に利用できない人も稀ではない。言葉柄誤解されるが、あくまで「声区を移った結果換声点が現れる」のであって、「(歌唱の初心者がしばしば誤解するように)換声点に達したから移る」のではない。声区の捉え方によって換声点にも幾つかの種類があるが、特に顕著に現れるものが一つだけ存在し、ただ「換声点」というときはこの最も顕なものをいう場合が多い。その他の換声点は無意識のうちに過ぎてしまうことも多く、専門家以外には認識しにくいものである。
声楽では胸声、頭声、中声、ファルセットの四つが一般的である。頭声、胸声などは管楽器の一部でも使われる言葉である。他にフラジオレット(スーパーヘッドボイス(極高声)、ホイッスルボイス)、シュトローバス(エッジサウンド(エッジボイス)、ボーカルフライ)などがあるが先の四つに比べれば使われるのが稀。 これらの語は声区を示すにも声種を示すにも用いられる。特に声区の場合のみ胸声区、頭声区、中声区、といういいかたもする。 日本語の地声、裏声は多くの場合声区を表し声種的に使われることは少ない。また地声区、裏声区といういいかたは特にしない。
人間の声区は本来いくつなのか、訓練の際にはいくつに分けるべきか、といったことが声楽家や音楽家、音声学者達によって度々論じられてきた。 また逆に、流儀による発声技術や指導方針の違いは、声区の解釈の違いから生じているところが大きい。 声楽においては二声区主義と三声区主義が多い。
(1)一声区主義の立場
(2)二声区(a)
(3)二声区(b)
(4)三声区(a)
(5)三声区(b)
(6)四声区、五声区
(7)無数声区
換声点で調子が外れたり音色が急変してしまうことをブレイクという。声が「裏返る」ことである。一方の声区に不慣れであったり声が大きすぎたりして発声のバランスが悪いとブレイクが目立ちやすい。
声区融合とは聴いている人にできるだけ換声点がわからないようにし、声区間を自由に行き来し、さらには複数の声区の(声種的な)特徴を兼ね備えた声を出すことである。声区融合が進めばブレイクを起こさずに歌えるようになり、より高い音をしっかりした実声で歌えるようになる。また声区融合が進むにつれ声区の分別が歌唱者本人にもわかりにくく曖昧になっていく。(19世紀前半以前の古いベルカントの訓練法では、声を鍛える過程では声区の分別を失ってはならないとし、中途半端に融合した状態は歌唱訓練に最も適さないとして忌避されるという。しかし両声区が十分に鍛えられた後には融合が図られる。)
声区融合に関連する技術に、ミックスボイス(英)、ヴワ・ミクスト(仏:voix-mixte)、ヴォーチェ・フィンタ(伊:voce-finta)、ヴォーチェ・ディ・フィンテ(伊:voce di finte)、等がある。 声区融合は日本ではボイスミックスという言葉でも知られている。ミックスボイスはボイスミックスを曲解したものだというひとがいるが基本的には別な言葉である。
声が大きく二つの声区に分かれる原因はひとの発声機構にある。発声器官には音高を調節する機構が二系統存在(主に輪状甲状筋による声帯伸展機構と甲状披裂筋による声門閉鎖機構)する。これは弦楽器でいえば、指板を押さえたうえにペグ(糸巻き)を回しながら演奏するようなものである。 発声技術が未熟なひとは、この二つの機構をそれぞれ単独で働かせているため二種類の声に分かれるのである。上級者は両機構を同時に使って発声できるが音高調節の主体がどちらになるか(ペグを巻いてから指板を押さえるか、押さえてから巻くか)で区別が残る。さらに融合が進むと音高調節が完全な協調作業となり声区の区別はつかなくなる。
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