出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/03/06 11:20:14」(JST)
地衣類(ちいるい)は、菌類(主に子嚢菌類)のうちで、藻類(シアノバクテリアあるいは緑藻)を共生させることで自活できるようになったものである[1]。一見ではコケ類などにも似て見えるが、形態的にも異なり、構造は全く違うものである。
地衣類というのは、陸上性で、肉眼的ではあるがごく背の低い光合成生物である。その点でコケ植物に共通点があり、生育環境も共通している。それゆえ多くの言語において同一視され、実際に地衣類の和名の多くに「○○ゴケ」といったものある。しかし地衣類の場合、その構造を作っているのは菌類である。大部分は子嚢菌に属するものであるが、それ以外の場合もある。菌類は光合成できないので、独り立ちできないのだが、地衣類の場合、菌糸で作られた構造の内部に藻類が共生しており、藻類の光合成産物によって菌類が生活するものである。藻類と菌類は融合しているわけではなく、それぞれ独立に培養することも不可能ではない。したがって、2種の生物が一緒にいるだけと見ることもできる。ただし、菌類単独では形成しない特殊な構造や菌・藻類単独では合成しない地衣成分がみられるなど共生が高度化している。
このようなことから、地衣類を単独の生物のように見ることも出来る。かつては独立した分類群として扱うこともあり、地衣植物門を認めたこともある。しかし、地衣の形態はあくまでも菌類のものであり、例えば重要な分類的特徴である子実体の構造は完全に菌類のものである。また同一の地衣類であっても藻類は別種である例もあり、地衣類は菌類に組み込まれる扱いがされるようになった。現在の判断では『特殊な栄養獲得形式を確立した菌類』[2]である。国際植物命名規約では、地衣類に与えられた学名はそれを構成する菌類に与えられたものとみなすと定められている。
菌類が藻類を確保することを地衣化という。地衣を構成する菌類は子嚢菌類のいくつかの分類群にまたがっており、さらに担子菌類にも存在する。したがって独立して何度かの地衣類化が起こったのだと考えられている。また、子嚢胞子など有性胞子の形成が見られないものもあり、そのようなものは不完全地衣と呼ばれる。
繁殖は有性生殖と無性生殖がある。
有性生殖は菌の所属する群に特有の胞子による。多くは子嚢菌なのでこれについて説明する。
子のう胞子は小さなキノコ状の子実体を作り、そこに形成される。子実体の形は、大きくは3通りあり、皿状の裸子器(らしき)、壺状の被子器(ひしき)、溝状に細長いリレラである。胞子はその内部の子嚢の中に減数分裂によって形成され、上に放出される。胞子が好適な場で発芽すると、藻類を取り込んで成長する。従って地衣体を構成する菌糸は単相である。
また、無性生殖のための器官として、地衣体の一部を粒状や粉状の構造として、これを分離して散布するものがある。これを芽子という。このようなものは内部に藻類を持って分散するので、すぐに成長を始めることが出来る。
地衣類はその形態から、葉状地衣類、痂状地衣類、樹状地衣類に大別される。この分け方は必ずしも分類体系を反映するものではないが、同定する上では参考になる。
薄い膜状の地衣類である。コケ植物の苔類に見られる葉状体に似ている。表面には菌糸による上皮層があり、その下には藻類を含む藻類層がある。藻類層の下には菌糸からなる髄層があり、下皮層によって下面が区切られる。基質上には下皮層から生じる偽根という根に似た構造で固着する。成長は地衣体の周辺から外に向かって伸びることで行われ、不規則な雲状の形になることが多い。子実体は地衣体表面に上向きに付くことが多い。
葉状地衣に似ているが、裏面に下皮層がなく、地衣体が基質に密着、あるいはとけ込んでいるように見えるものである。砂岩などの基質の上では、地衣体が基質と完全に一体化していることもある。多少色があることでその形がやっとわかる場合や、子実体だけが並んでいるように見えることもある。全体は円形で、外に向かって成長する。子実体は、表面に上向きに並ぶ。
前記2つとは全く異なり、枝状になって基質から立ち上がるものである。垂れ下がったり、這い回るものもある。茎状の軸は皮層に囲まれ、その内側に藻類層がある。形は様々であるが、細かい枝に分かれたり、傘状になったりするものはあるが、コケ植物の茎葉体や高等植物のように、葉のような構造を作ることはない。子実体は枝先などにつく。
見かけがコケと同じようなものであるのと同様、生育環境もコケと共通するものが多い。背の高いものが少ない点も共通である。
地表、岩の上、樹皮上などに着生するものが多い。霧のかかるような所では種類が多いことも同様である。日本の温帯林では、サルオガセが樹上から垂れ下がるのが、よく目立つ森林がある。都会でもコンクリートの表面に出るものがある。
ただし、他の植物が生育できないような厳しい環境に進出できるのも地衣類である。極地など寒冷な地域や、火山周辺など有毒ガスの出る地域にも特殊なものが生育する。この点、地衣類は菌類と藻類の共生体だが、そのどちらよりも厳しい環境に耐えることができる。
他方、大気汚染に弱いことも指摘されている。樹皮上に着生するウメノキゴケなどの地衣類は、自動車の排気ガスに弱く、樹木に着生する地衣類は大気汚染の良い指標となることが知られている。たとえば公園の樹木を見ても、大通り側の樹木には地衣類が着生していない、といった現象がたやすく観察される。そういった意味では指標生物としても利用される。
地衣類は成長が遅く、寿命が長い。個々の部分は特定の季節に急に出てきたりすることはなく、だいたいどの季節も同じような姿をしている。従って、観察はどの時期にでも出来る。
地衣類は基本的には菌類ではあるがそのような感覚では培養が難しく、また成長が非常に遅いため、そういった方法では扱い難い。大きさはコケ並みであるから野外での観察採集が可能であるから、実際には野外で探しながら採集するのが普通の収集方法である。しかし、コケと異なり、その構造が菌糸であり、一回り細かい。たとえば痂状地衣は基質に完全に密着している。樹皮につくものなら樹皮ごと削り取れば採集できるが、岩に張り付いているものはかち割らねば取れない。さらにその構造はコケより単純であり、肉眼でも虫眼鏡でも届かないレベルである。その一部は化学物質でしか区別するのは困難である。
実用的価値のあるものは少ない。
サルオガセ(Usnea)属のナガサルオガセ(Usnea longissima)やヨコワサルオガセ(Usnea diffracta Vain.)は、マツ類によく着生することから、松蘿(しょうら)ともいい、中国や韓国では、乾燥したものを、漢方薬として用いている。利尿作用や強壮作用があるという。 [1]
酸性アルカリ性の判定に使うリトマス紙は地衣類であるリトマスゴケから得られるものである。 また、ヨーロッパにおいては古くから多くの地衣類が染色用として用いられてきた。 さらにロウソクゴケはあざやかな黄色を蝋燭の染色に用いたためこの名がある。
イワタケ、バンダイキノリは食用にされる。
中国ではムシゴケ(Thamnolia vermicularis)を乾燥させたものが茶として利用されている。 [2]
極地ではハナゴケ類などがトナカイなど家畜の餌に利用されることもある。また、ハナゴケの仲間はそのままの形で緑に染めて、鉄道模型やジオラマの樹木として用いられることもある。
よくしばしば外見が似るコケ植物(蘚苔類)と混同されるが、コケ植物ではない。地衣類は菌類と藻類の共生生物である。
たいていの場合、見分けるのはさほど困難ではない。以下のような点が見分けポイントになるであろう。
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