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動物実験(どうぶつじっけん)とは、広くは動物を使う実験一般をさすが、普通はヒトに対して危険が生じる可能性のある化学物質や機器を、ヒトに適用する前にまず動物に対してこれを用いて実験することを意味する。
医療技術、薬品、化粧品や食品添加物の他に、あらゆる物質の安全性や有効性、操作の危険性を研究するために行う。やむを得ず人体実験(臨床試験)を実施せざるを得ない場合に、その実験を科学的かつ倫理的に適正に実施するため、事前に科学的知見を収集するために行われるのが動物実験であり、この文脈では前臨床試験や非臨床試験とも呼ばれる。
動物実験は、主に医学の発展のために、一部は公衆衛生に貢献するために、必要なものとしてやむを得ず実施するものである。その必要性はヒトを対象とする医学研究の倫理的原則、すなわちヘルシンキ宣言に明確に示されている。
“ | 人間を対象とする医学研究は、科学的文献の十分な知識、関連性のある他の情報源および十分な実験、ならびに適切な場合には動物実験に基づき、一般的に受け入れられた科学的原則に従わなければならない。研究に使用される動物の福祉は尊重されなければならない。 | ” |
—ヘルシンキ宣言 B章第12条(日本医師会ウェブサイト[1]より) |
かつて、非倫理的な人体実験が行われた時代を反省して、人体実験をする以前には十分な科学的知見を得ておかなければならないことを、この宣言は謳っている。
動物実験は、非倫理的であると非難されることがある。その理由は、動物実験はしばしば、動物の幸せ、つまり動物のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)、日常生活動作(ADL)、そして生活水準(SOL)を損なうからである。 また、相手の幸せが損なわれることを予見しながら、対象薬物あるいは毒物の混餌、投薬、暴露などを行うことは、広い意味で虐待にあたる。
なお、ここでいう「動物の幸せ」あるいは動物の権利とは、一つの考え方であり、人間が動物を等しく扱うことについては、議論がある。
実験に付随して与える苦痛等については、動物福祉の考えから、これを軽減、除去などに極力配慮しようとする考えがある( § 3Rも参照)。
また、動物と人間の間には厳然とした種差が存在し、動物は人間の完全な代替物とはなりえないがために、動物実験は人間の健康について誤った結論を導き出す可能性がある、という科学的な側面からの批判も存在する(例えば、HIVウイルスに対する人間とチンパンジーの反応の違い)。[要出典]
→詳細は実験動物の項目を参照のこと
実験動物はヒトに近い方が良質なデータを得られる可能性が高いと考えられるので、主に哺乳類が用いられる。大型動物としてサル、イヌ、ミニブタなどが、小型動物としてラットやマウス、モルモット、ウサギなどが用いられる。 ただし、生物学的に(進化論的に)見て「ラットよりサルの方がヒトに近い」ということをもって、「サルのほうがラットよりも良質なデータが得られる」とは一概には言い切れない。目的に応じた適切な動物種を用いることが必要とされ、さらにその”適切さ”が必ずしも既知ではない事に留意が必要である。前節との問題とも直結するが、サリドマイドの催奇性はヒトとヒツジにしか現れないことが、薬害事件の後明らかになっている。
日本では過去にイヌ・ネコに関しては、保健所へ持ち込まれたペットのイヌ・ネコや、捕獲(駆除)されたイヌの一部が全国の自治体で動物実験用に払い下げられていた。しかし、東京都を皮切りに払い下げ廃止を決定する自治体が続き、2006年(平成18年)度をもって、全国的にそのような制度は終結している。現在は、実験結果の信頼性や再現性、安定した個体数確保を目的として最初から実験用として繁殖させた動物(実験動物)を用いることが常識となっている。
このうち、マウスやラットといったげっ歯類に関しては、実験用途としてのビジネス化がひときわ進んでおり、微生物学的なコントロールにより清浄度を高めたSPF動物や、特定の疾病を発症する疾患モデル動物や無毛(ヌードマウスなど)のもの、さらには特定の遺伝子を組み換えたり(トランスジェニック動物)、欠損(ノックアウト動物)させたりした遺伝子改変動物が生産されている。
3Rは動物実験の基準についての理念で、「Replacement(代替)」「Reduction(削減)」「Refinement(改善)」の3つを表し、1959年にイギリスの研究者(Russell and Burch)により提唱された。
※3RにResponsibility(責任)、Review(審査)などを加えた4Rという概念を提唱する者もある。
3Rの理念により動物実験(個々の動物の生涯)をどこで終了させるかは重要な課題となっている。現在では実験を継続しても得られる知見より、動物への苦痛が大きいと判断された場合は原則的に動物を安楽死させる。安楽死は法律に沿って行い、できる限り処分動物に苦痛を与えない方法を用いなければならない。
動物実験に関する規制については、法律上の規制を主としたEU型と、研究者の自主規制を主としたアメリカ、カナダ型に二分される。
イギリスでは実験者、実験計画、実験施設の3つについて法律上の許認可を必要としている。
アメリカでは動物実験に関する直接の法規制は存在しないが、施設の登録と倫理委員会の設置を義務付けている。
日本は関係者がアメリカ型の自主規制路線を希望しており、環境省の基準や文部科学省・厚生労働省などの指針に従い、各研究機関が独自の基準を設けている。
近年、世界各国で動物福祉や倫理上の問題から、動物実験に反対する団体の行動が活発化している。
研究機関や製造業の業界では、動物実験そのものを最小限に抑える、必要な場合は麻酔などを用いて苦痛を最小限に抑えるほか、細菌や昆虫といった他種の生物や培養細胞、コンピュータでのシミュレーションなどに置き換える代替法を開発するなどの手法が取られつつある。こうした動きは1990年代頃から見られ、動物実験(特に、サルなどの大型動物)を多用する研究の見直しなどが進んでいる。しかしながら、培養細胞を用いた系では実際の個体内における総体的な生理的・生化学的機構と大きく異なる点も多く、全ての情報を得ることは不可能である。
近年EU圏内では、動物実験反対運動の活性化とともに「動物実験」および動物実験をした製品の販売禁止の方向に向かいつつある。
ただし、これまでも大手化粧品メーカーの反発のために上記の実現が延期されてきた経緯もあり、禁止時期が再び延期される可能性がある。しかし、EUでの動物実験禁止、及び動物実験の行われた化粧品・原料の販売禁止が実行されることは時間の問題とされており、動物実験にかわる代替法の活用は企業がグローバルな枠組みの中で成長していくなかでもはや無視しては通れない問題となっている。
動物実験を行わずに開発した化粧品や工業製品にクルエルティフリー(Cruelty-free)と表示し、差別化を図る動きも見られる。ただし、厳密には実際の開発活動を行う際に参考とした文献等の科学的蓄積は動物実験に基づいている場合が多く、間接的には動物実験に依存しているといえる。
欧米では、実験動物の取り扱いに免許が必要とされる。日本の場合、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(文部科学省告示第七十一号)」「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」などによって動物実験を実施する機関は「動物実験委員会」を設置し、実験者から提出された実験計画書の審査を行い承認の可否を決定するなど、適正な動物実験の実施を図ることが求められている。これにより、大学等の研究機関では、独自の講習会によるライセンス制度や動物実験委員会が普及し始めてはいるが、実験動物の取扱に国家資格に準じる免許制度は存在しない。
日本で関連する資格としては(社)日本実験動物協会による「実験動物技術者」認定試験がある。試験は学科試験と実地試験からなり、いずれも高度な専門性を問われる。試験内容には知識や技術だけではなく、実験動物と社会、動物福祉に関する内容についても含まれている。
受験には協会が規定した一定の実務経験を有する必要がある。一部では国による国家資格認定化が求められているが、政治的背景により、そこまでは至っていない。
企業や大学等ではある一定の基準(AAALAC等)の動物福祉への取り組み向上が進んでいる。
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