出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/10 04:05:05」(JST)
兵器(へいき)は、戦争において使用する全ての車両、航空機、船舶、設備などの事を指し、敵となった目標を殺傷、破壊するためや、敵の攻撃から防御するための機械装置である。兵器は用途別に細かく分類され、その種類は膨大な数に上る。
個人が装備する狭義の武器は兵器には含まれないとする場合もあるが、逆に兵器は広義の武器に含まれ、両者の区別はあいまいである。一般に武器は戦争以外の、例えばケンカで使用される物も含まれるが、兵器は戦争などで使用される物に限定される[1][出典 1]。
兵器はシステムとして運用されるために以下の4つの要素から構成され、下位の要素は上位の要素が有効に機能するために存在する。この「兵器がシステムである」という特徴は、単体で機能する武器とは異なる点である。
兵器の開発には多くの資金と人材が使われ、生み出された軍事技術が軍事以外の民生用途にも広がる場合が多いが、逆に軍事以外の民間で開発された技術が兵器に転用される場合もある。
兵器は民間で使用される製品に比べて、過酷な環境での使用が避けられず、長期間保管後に激しく使用される傾向があり、生産数も限られる、なによりその機能不全は人命や戦争の勝敗に直接関わるために、信頼性(Reliability)や可用性(Availability)が強く求められる。
性能向上を求めて新たな兵器が開発された場合でも、戦場での実戦使用を経なければ兵器としての完成度は不十分として扱われるのが通常であり、最新軍事技術が量産兵器となって現れるまでには5年や10年といった長い年月を必要とする。民生品での新製品開発では1年や2年といった短期間で量産へ移されるので、これと比べれば軍事技術は保守的であり、特にコンピュータ技術や無線通信技術に代表される電子装置ではこの傾向が強く、兵器の配備後十年以上経過して、民間製品としては陳腐化したようなものであっても、これに代わる新たな兵器を開発して検証・量産・訓練・配備する大きなコストやリスクを避けて、枯れた技術に基づく兵器が使用され続ける場合がある。
兵器の性能について比較が行なわれる場合があるが、兵器は使用する環境や操作する兵士の練度によって得られる成果に違いが生まれる。
兵器開発では以下の点が考慮される。
自国の技術レベルを正しく認識しながら段階を踏んだ開発が求められ、あまり急激な技術を国内開発に求めても失敗するリスクが高くなる[出典 2]。 敵国や仮想敵国の兵器性能や兵器体系も考慮されねばならない。敵国に対して過剰な性能の兵器を作る余力があれば、他の戦力の充実に振り向ける方が得策である[出典 3]。また、敵国や仮想敵国が類似兵器の開発や、技術漏洩によって開発に成功してしまった場合、その対抗手段の有無が考慮される。例えばレーダーに対するチャフなどである。ただし原子爆弾のように特殊な例外もある。
兵器の開発・量産は国営企業や民間企業が行なう。
自国単独の技術力で求める兵器の開発が可能か否かが重要な要素となり、国内での独自開発が難しい場合は他国との共同開発や、外国から兵器そのものを購入すること、製造技術の購入[出典 4]、ノックダウン生産やライセンス生産を行なうことになり、外国製兵器の模造を行なう国もある。また、他国の技術を購入してこれを改良する場合[出典 5]もある。一方で、コストよりも国内メーカーの技術育成などを考慮し、あえて自力開発やライセンス生産を行う場合もある。
兵器全体や主要部品を自国内で生産せずに他国からの輸入に頼る場合には、何らかの事情でその入手が困難になった場合に、保守整備や修理などに支障が出るリスクが考慮される。
近年は電子機器類の多用などから、兵器の開発・製造コストが高騰する傾向にある。この為、F-35の開発の様に、ほぼ同一の機体構造を用いながら様々な派生タイプの機体を開発する統合打撃戦闘機(JSF:Joint Strike Fighter)計画や、NATOのように軍事同盟を結び、一国では賄いきれない兵器コストを相互に補完しあう[4]ことで削減する試みも行なわれている[出典 6]。陸軍・海軍・空軍に分かれていた兵器も、20世紀末からはミサイルやレーダーといった技術から相互の共通化が顕著になり、21世紀には当初から2軍で共通する兵器開発が行なわれることが珍しくなくなっている[出典 1]。
日本の航空自衛隊所属のF-15J(F-15Cの日本仕様機)
三菱重工業を中心とする日本国内の多くのメーカーが関わり、ライセンス生産された
統合打撃戦闘機計画に基づき、アメリカやイギリスなどが共同で開発しているF-35
各国のF-16やF/A-18の後継として、基本型の通常離着陸機(CTOL)、艦載機(CV)、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)という3つの派生型を開発、製造を目指している
大韓民国陸軍のK1戦車
戦車開発の経験が無かったため、クライスラー・ディフェンス社(後のジェネラル・ダイナミクス社)が設計・開発を担当し、生産を韓国の現代車輌社(現代精密、後の現代ロテム)が担当した
兵器を保有する場合は、国内世論や周辺国、同盟国などの理解も得ねばならない。軍備の大幅な増強や、核兵器、空母、潜水艦の新規保有といった戦力バランスの変更が起きる場合は、周辺国の緊張を生じる危険がある。
日本では、過去に導入したイージス艦やF-4EJ改などの様に、あえて対地攻撃能力を省いた兵器を選択することで、周辺国からの緊張をまねかないように配慮した事がある。なお、こういった事情が国内外に100%理解されているかは不明。
この例のように日本だけに限らず多くの先進国では、採用される兵器が常に敵への加害性能やコストのみを考慮して採用されるとは限らず、過度に周囲の緊張を招くことで互いに軍備の拡張競争に入らない様に常に注意が払われている。
兵器ではないが、1980年代に行われたアメリカ陸軍のM1911A1の後継種(M9:9ミリ拳銃の意)のトライアルでは、欧米の各銃器メーカーが売り込みを開始した。後に四軍すべての制式拳銃採用計画へと変更した際はベレッタ社(イタリア)、SIG社(スイス)の2社が有力視され、SIG社の「SIG SAUER P226」が採用との見方が強かった。
だが、採用されたのはベレッタ社の「M92F」であった。この事態に「P226の製造が旧敵国の西ドイツの会社が行う為にM92Fが採用された」などという噂も囁かれたが、実際にはイタリアを含む地中海沿岸に対空ミサイル部隊を配置しようとしていたアメリカ政府が、反発が予想されたイタリア国民に対する懐柔を図ったためであった。しかも「M92F」は射撃をしているとスライドが割れて後方に飛んでくるという欠点が見つかり、特殊部隊などでは選定に漏れた「P226」を、海兵隊では信頼性が高かった「M1911A1」を好んでサイドアームとして使用しているという。
日本の航空自衛隊のFS-X(次期支援戦闘機:現在のF-2)国産開発に対する、対日貿易赤字などを理由としたアメリカ政府の圧力も有名である。
1938年のドイツでも、ソ連のT-34に対抗する戦車としてIII・IV号戦車の後継種開発が行われた際、ドイツ軍上層部の要求にMAN社とダイムラー・ベンツ社が設計案に基づいた模型を提出。ダイムラー社の設計は斬新であり、総統のアドルフ・ヒトラーもダイムラー社案をいたく気に入っていた。しかし、砲塔の試作が間に合わずMAN社の案(後のパンター戦車)が採用された。MAN社の案が採用されたのは、何よりT-34がドイツ戦車を次々と葬っていた為、時間がなかった(待てなかった)事が挙げられている。
この様に時間的制約やその時の同盟国との政治的衝突や経済的状況など、様々な不確定要素が障害となる可能性も十分にある。
一方で兵器の開発・製造を規制する動きもある。第一次世界大戦後の「ワシントン海軍軍縮条約」や、「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」などがある。日本の「非核三原則」や「武器輸出三原則」も一種の兵器に対する規制である。
ただし、ワシントン会議後の1920年代から1930年代の戦間期には、確かに主力艦の保有数の制限があったものの、技術開発は続けられた。また、それら条約を批准しない国があるなどの問題もある。近年ではクラスター爆弾の使用を規制する「クラスター弾に関する条約」などが有名であるが、やはり批准を拒否する国が存在する。
新たな兵器が採用されるに伴い、老朽化や旧式化した兵器は退役を迎える。兵器の寿命はその兵器の耐久年数のみならず、新たな技術革新や技術の進歩に合わせて異なる。また、新兵器の更新が進まず、老朽化した兵器の延命改修を行う場合もある。
顕著な例としては、アメリカ空軍の戦略爆撃機B-52がある。1952年の初飛行後、後継機のB-36やB-47、代用機として採用されたB-1などが登場してもなお、その「枯れた技術」を基礎とした信頼性の高さから、最終量産型であるH型は2045年までの運用が予定されている[5]。
また、第二次世界大戦時に建造されたアイオワ級戦艦「アイオワ」「ニュージャージー」「ミズーリ」「ウィスコンシン」の4隻は、1980年代の600隻艦隊構想に基づいて近代化改修が施され、冷戦が終結する1990年代前半まで運用された。
世界初の攻撃ヘリコプターとして有名なAH-1(原型のモデル209は1965年に初飛行)は、元々AH-56の開発に時間がかかる事が予想されたため、開発が完了するまでの繋ぎの暫定攻撃ヘリコプターとして採用された経緯がある。しかし、AH-56は技術面・コスト面の問題を解決することができず最終的にキャンセルされ、AH-1は主力攻撃ヘリコプターとして現在でも派生型が運用されている。
第一線から退いた兵器は、様々な余生を送ることになる。
状態の良いものはモスボール化され、有事の際に前線で兵器や物資が不足した際に再利用される。また、他国への輸出商品となる場合もある。太平洋戦争終結後、海上自衛隊にアメリカ海軍から供与された、のちにあさひ型護衛艦と呼ばれる事になるアミック(USS Amick, DE-168)とアザートン(USS Atherton, DE-169)は、元々大戦終結後に予備艦となっていたものであったし、中華民国では自国のF-104の維持のため、航空自衛隊やドイツ空軍などで退役したF-104を導入し、機体数維持や部品取りに用いた。
これらに加え、博物館などで余生を送る場合もある。しかし、アメリカ海軍のF-14艦上戦闘機などの様に[6]、退役した兵器が他国では現役で運用されている場合は、完全な形で展示されない事もある。
上記の二つは保管や維持にコストが掛るため、不必要となった兵器は最終的に解体・スクラップとなる。 ただし、兵器はその運用・設計思想から頑丈にできているため、解体自体にも多くのコストを必要とする。
ベルリンの壁崩壊によるドイツ再統一に伴い、ドイツ連邦軍は東ドイツの東側の兵器を多数保有するに至った。MiG-29などの一部の兵器はドイツ連邦空軍で引き続き運用[7]されるかインドネシアなど他国へ売却されたが、西側との規格の違いや運用コストの高さなどから多くの兵器が解体された。
映画や漫画、アニメーションといったフィクション作品、テレビゲーム、果ては伝説や神話などにも兵器は登場する。実在する兵器や実在する兵器を基としたオリジナルの兵器、実際に確立された技術を用いた架空の兵器、まったく空想の技術・素材・世界観を基とした架空の兵器など、さまざまなものが登場している。
実在の兵器の性能を忠実に再現しリアリティを高めた作品がある一方、製作者側が意図した、もしくは資料・知識不足から誤った描写がされている作品も散見される。特に兵器を所有する軍隊などからの協力が得られれば、実車や実機を登場させることができる[8]。一方で日米共同制作の「トラ・トラ・トラ!」などの様に、既に実物が存在しないため、形状が似ているものを改造し撮影に用いた例もある。この作品では練習機の「T-6 テキサン」をベースに零式艦上戦闘機や九九式艦上爆撃機が用意され、大日本帝国海軍の空母「赤城」にはアメリカ海軍の「レキシントン」が代用された。赤城の艦橋は左舷側にあるがレキシントンは右舷側にあるため、作中レキシントンのパネルを登場させ、役者に赤城であると言わせる念の入れようであった。
SF、空想科学作品等では物語を盛り上げる小道具として、実在の兵器からまったくの空想の兵器まで多数が描かれている。リアルロボット作品では、架空の素材や技術を用いた架空の兵器である巨大ロボットに、兵器としての性格(研究開発、量産、壊れれば修理・交換・破棄、破壊、新兵器の登場で退役する)を与えることで「実在感(リアリティ)」を持たせることに成功した。テレビアニメ「装甲騎兵ボトムズ」に登場する「アーマードトルーパー」は、同型機同士で戦い、破壊されれば乗り捨てるなど、徹底的に消耗品として描かれている。
歴史改変ものの架空戦記などでは、大日本帝国陸軍の四式中戦車や富嶽、ドイツ海軍のグラーフ・ツェッペリンなど、試作のみに終わった兵器や量産が間に合わなかった兵器、計画のみの兵器の登場が多くみられる。それらは時として戦局を左右することもある。
実在する軍用機が多数登場する、ナムコ(後のバンダイナムコゲームス)の「エースコンバットシリーズ」は、それまでのフライトシューティングゲームとは異なり、物理法則や操作性などに関するリアリティの多くを限界まで簡略化することによりプレイのしやすさ(プレイアビリティー)の大幅な向上に成功した。結果として、その他のフライトシューティングゲームの様なミサイルや弾丸の残弾制限や航空機の物理法則にしたがった機動や運動といったリアリティは低下したが、手軽にシューティングゲームが楽しめることからシリーズ累計販売本数が1,000万本を超える人気タイトルとなった。
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