レーシック(英語: LASIK)とは角膜屈折矯正手術の一種で、目の表面の角膜にエキシマレーザーを照射し、角膜の曲率を変えることにより視力を矯正する手術である。LASIKは、正式名称である "Laser(-assisted) in Situ Keratomileusis[1]"(英語・ラテン語・ギリシア語からなる)の略であり、「レーザー照射を本来の場所に収まったままの眼球に施し、角膜を彫り整えること」の語意がある。
近視を補正する場合、眼鏡やコンタクトレンズ等の道具を使用することが一般的だが、レーシックでは角膜を矯正手術することにより正視の状態に近づける。これにより、裸眼視力を向上することができる。1990年代にアメリカを中心にその手術方法が認知されるようになった。
目次
- 1 概要
- 2 問題点
- 3 日本での現状
- 4 視力矯正手術の種類
- 5 出典
- 6 関連項目
- 7 外部リンク
概要[編集]
レーザー機器もしくは、マイクロケラトームと呼ばれる眼球用カンナで角膜の表面を薄くスライスし、フラップ(ふた状のもの)を作り、めくる。表出した角膜実質層にエキシマレーザーを照射し、一部を削る(蒸散させる)。その後、フラップを元の状態に戻し、フラップが自然に吸着する。角膜中央部が薄くなるため、角膜の曲率が下がり(凹レンズを用いたのと同じ効果)、近視が矯正される。視力は術後直後から1日程度で矯正される。視力が安定するには1週間から1ヶ月程度を要し、90%以上の人が裸眼視力1.0以上になる。
フラップは時間の経過とともに安全な強度に近づくが、元には戻らない。強い外圧がかかるとフラップがずれる場合がある。このため格闘技の選手等、顔面に衝撃を伴う職種には向かない。フラップを作らずに角膜上皮から削ることで屈曲率を矯正するPRKや、フラップを再生させることが出来るラセックと呼ばれる同種の手術もあるので、特にスポーツ選手はこちらを選ぶこともある。
角膜に一定の厚さが必要なため、角膜が薄い場合や眼に疾患等を抱えている場合は、手術が受けられない。また、近視の進行する10代などの若年者[2]は手術が受けられない。近視遠視乱視を矯正するための手術であるので、加齢により進行する老眼には有効でない。モノビジョンと呼ばれる片方を遠視用、もう片方を近視用とする手術も存在する。
角膜屈折矯正手術後、角膜上皮の再生・治癒反応に伴い、ヘイズ(英: haze)と呼ばれる角膜の混濁が現れる可能性がある。
世界初のレーシックは1990年にギリシャで行われた。1995年にアメリカ食品医薬品局がエキシマレーザーの使用認可を出し、アメリカでは1998年以降レーシックが屈折矯正手術の主流となった。日本では、2000年1月に厚生省(現・厚生労働省)がエキシマレーザーの使用認可を出してから受けられるようになっている。歴史が浅いため、長期に渡る安全性が実証されていないとも言われるが、2009年、アメリカの医学誌「Archives of Ophthalmology(眼科学)」11月号にて近視に対するレーザー手術は長期的に見ても安全であるという研究結果が発表された[3]。
問題点[編集]
- 術後合併症等のリスクが存在する(詳細は後段)。
- 日本の場合、レーシックなどの屈折矯正手術を受けた者はパイロットの受験資格に制限がある[4]。
- 日本の場合、団体信用生命保険等の保険加入時にリスクのひとつとして取られるため、不利になる場合がある。
合併症[編集]
レーシックは角膜を手術するため、患者個人による差異はあるものの、合併症が伴う場合がある。中には深刻な合併症となる場合があり、後遺症として残る場合もある。良い条件の患者に有能かつ経験豊富な医師が手術を施した場合、深刻な合併症の起こる確率は1%未満と言われる[5]。 消費者庁は2013年12月4日、事故情報データバンクに登録された情報に基づき、安易なレーシック手術を避けるよう注意を呼びかけた[6]。事故情報データバンクとは消費者庁が国民生活センターと連携し、関係機関から事故情報や危険情報を収集し、事故防止に役立てるためのデータ収集・提供システム。
この注意によれば、2013年11月8日までに登録された情報のうち、レーシック手術を受けて危害が発生した件数は80に及んだ。最も多かったのが過矯正による遠視と頭痛、吐き気などによる体調不良だった。その他、乱視、光をまぶしく感じること、ドライアイ、目の痛みが含まれていた。重大な身体被害に至った事例としては、手術直後から2カ月間、目の表面に激しい痛みがあり、寝たきりの状態に至った40歳代の女性の例がある。
深刻でないものを含めれば合併症の起こる確率はもっと高い。手術による合併症で最も多いドライアイは深刻な合併症には当たらないが、American Journal of Ophthalmologyの2006年3月の発表によれば、レーシック後6か月の術後治療期間の後にドライアイに罹患している割合は33.36%である[7]。アメリカ食品医薬品局のウェブサイト[8]によれば、このドライアイは、後遺症として残る場合がある。人工涙液や涙点プラグなどが必要になる例もある。
手術前の屈折異常の度合いにより、術後に、暈(かさ)が見えたり、ものが二重に見えたり、コントラストが低下したり、グレアが現れる場合がある。[9]このため、一律の基準で手術を施すのではなく、個々の患者ごとに状況を判断し、手術を行うことが重要であると言われている[10]。
以下は、その他に報告されているレーシックの合併症の一部である[11][12]。
- 術前より矯正視力が低下[13]
- 過剰矯正[14]および矯正不足
- 視力の変動
- ゴースト像[15]
- フラップのしわ[16]
- フラップの下の塵や腫瘍
- フラップの穴[17]
- 上皮侵食
- 後部硝子体剥離[18]
- 黄斑円孔[19]
角膜感染症[編集]
レーシックは角膜を手術するため感染症を引き起こす場合がある。屈折矯正手術に伴う角膜感染症の発生頻度は5,000例に1例程度とされる[20]。通常、レーシックを行う場所では、手術道具の消毒等が徹底的に行われている[21]が、2008年から2009年にかけ、東京・銀座にある眼科でレーシックによる近視の矯正手術を受けた患者67人が、感染性角膜炎などに集団感染していたことが判明した。中央区などによると、2008年9月から2009年2月にかけ、「銀座眼科」でレーシック手術を受けた患者639人のうち1割に当たる67人というかなりの高い割合で感染性角膜炎などを発症し、うち2人が入院。レーシック手術に適応するかチェックせず即日に手術を行うなどずさんな事前検査の体制や、日常的に手術室が待合室から見えるほど衛生的に隔離されておらず、また医療機器の滅菌消毒が不十分だったことが集団感染の原因と見られたため、2009年2月に入って3回の立ち入り調査が行われ[22]、2010年12月7日に元院長が業務上過失傷害の容疑で警視庁に逮捕されるに至った[23]。
日本での現状[編集]
日本での歴史は、2000年にエキシマレーザー装置が医療機器の承認をうけ、販売が許可されたことから始まっている。日本国内での手術名称は「角膜屈折矯正手術」である。現在のところ治療には健康保険が適用されず、自由診療である事から手術費用は診療所や医院によって幅がある。普及当初は両目で60万円以上するのが通常であったが、手術数や手術医院等の増加等に伴い、現在は両眼で8万円から50万円程度まで開きがある[24]。そのため、その料金表示をめぐって、不祥事になった例もある。2009年8月6日、公正取引委員会は、ウェブサイトの料金表示が不当景品類及び不当表示防止法第4条第1項第2号に規定する有利誤認のおそれがあるものとして、品川近視クリニックと神奈川クリニック眼科に対し誤認するような表示を行わないよう警告を行った[25]。神奈川クリニックは2010年5月に破産し、神戸クリニックに吸収された。
手術者数は、2000年に年間2万人程度で、2008年に年間40万人程度であった[26][27]。
先述のとおり、施術の方法にはレーザー機器もしくは、マイクロケラトームによる方法がある。
一般的な手術の流れ[編集]
- ハードコンタクトレンズ1週間前、ソフトコンタクトレンズは3日前から裸眼状態にする必要がある。
- 検査は、散瞳検査で約1時間 適応検査に約10分、診察に約5分、相談および説明に約20分、そして手術待ち時間が付加される。瞳孔を目薬で開けさせ検査するため、検査状態後2-3時間は、瞳孔が開いた状態のため、まぶしく感じる。
- 手術時間は15分程度。その後は手術直後の休憩に15分程度掛かる。
- 当日以降の検査は翌日、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、1年後…と手術後も定期的に通う必要がある。
視力矯正手術の種類[編集]
- イントラレーシック(iレーシック)
- エピレーシック
- カメラインレー
- PRK
- フレックスPRK
- 放射状角膜切開術(PK)
出典[編集]
- ^ 希: κερατόμῑλευσις* = κερατο-(kerato- < κερατοειδής χιτώνας 「角膜」) + σμῑλεύω(zmīleúō 「彫刻する」)+ -σις(-sis 「~すること」)
- ^ 日本の場合、日本眼科学会のガイドラインにより18歳以上の者でなければ手術を受けられないこととなっている。
- ^ [リンク切れ] 近視レーザー手術は長期的にも安全
- ^ レーシックの手術をした者は手術後6ヶ月以上を経過し症状が安定しており、かつ国土交通大臣の判定を受ける必要がある等、一定の手続きが必要となる。
- ^ レーシック後の合併症
- ^ [1]消費者庁による2013年12月4日の報道発表資料「レーシック手術を安易に受けることは避け、リスクの説明を十分受けましょう!」(PDF)
- ^ De Paiva CS, Chen Z, Koch DD, et al. (March 2006). “The incidence and risk factors for developing dry eye after myopic LASIK”. Am. J. Ophthalmol. 141 (3): 438–45. doi:10.1016/j.ajo.2005.10.006. PMID 16490488. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0002-9394(05)01083-4.
- ^ http://www.fda.gov/MedicalDevices/ProductsandMedicalProcedures/SurgeryandLifeSupport/LASIK/ucm061354.htm
- ^ Pop M, Payette Y (January 2004). “Risk factors for night vision complaints after LASIK for myopia”. Ophthalmology 111 (1): 3–10. doi:10.1016/j.ophtha.2003.09.022. PMID 14711706. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0161-6420(03)01213-2.
- ^ "Individual Risk Factors of Halos, Loss of Contrast Sensitivity, Glare and Starbursts after LASIK." operationauge.com
- ^ "The most common complications of refractive surgery.". USAEyes.org
- ^ Knorz MC (March 2006). “[Complications of refractive excimer laser surgery]” (German). Ophthalmologe 103 (3): 192–8. doi:10.1007/s00347-006-1314-y10.1007/s00347-006-1314-y (inactive 2009-07-10). PMID 16465507.
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- ^ "Lasik Overcorrection - Unexpected, Unwanted, Desired, and Planned.". USAEyes
- ^ "Ghost or double vision after Lasik and similar vision correction surgery.". USAEyes
- ^ "Macro-striae and micro-striae complication of Lasik and All-Laser Lasik." USAEyes
- ^ "Buttonhole Incomplete Flap in Lasik and All-Laser Lasik". USAEyes
- ^ Mirshahi A, Schöpfer D, Gerhardt D, Terzi E, Kasper T, Kohnen T (February 2006). “Incidence of posterior vitreous detachment after laser in situ keratomileusis”. Graefes Arch. Clin. Exp. Ophthalmol. 244 (2): 149–53. doi:10.1007/s00417-005-0002-y10.1007/s00417-005-0002-y (inactive 2009-07-10). PMID 16044328.
- ^ Arevalo JF, Mendoza AJ, Velez-Vazquez W, et al. (July 2005). “Full-thickness macular hole after LASIK for the correction of myopia”. Ophthalmology 112 (7): 1207–12. doi:10.1016/j.ophtha.2005.01.046. PMID 15921746. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0161-6420(05)00290-3.
- ^ 屈折矯正手術合併症の実態調査報告
- ^ 日本眼科学会:レーシック術後の角膜感染症多発事件について
- ^ 読売新聞
- ^ 山本太一; 内橋寿明; 小泉大士 (2010年12月7日). “レーシック手術:「銀座眼科」元院長を逮捕 実態の解明へ”. 毎日新聞. http://mainichi.jp/select/today/news/20101207k0000e040042000c.html 2010年12月7日閲覧。
- ^ 例えば2012年10月現在、品川近視クリニック(千代田区ほか)では7.5万円から、新宿近視クリニック(新宿区ほか)は8万円から、1996年に日本で初めてレーシックを実施した錦糸眼科(港区ほか)でも8万円からレーシック手術を実施している。吉野眼科クリニック(台東区)では43万円から。大規模な病院では慶應義塾大学病院(新宿区)は231,000円から。医療機関によっては別途検査費用が必要な場合がある。
- ^ 公正取引委員会 - 広報
時事通信「視力回復手術大手に警告=「限定割引」実態なし-公取委」2009年8月6日
- ^ J-CASTニュース
- ^ 神戸新聞
関連項目[編集]
- オルソケラトロジー
- 日本眼内レンズ屈折手術学会
- 日本眼科手術学会
- 日本眼光学学会
- 日本視覚学会
- レーシック手術集団感染事件
外部リンク[編集]
- 日本眼科学会:目の病気 屈折矯正手術
- 日本眼科手術学会