出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/01 04:19:19」(JST)
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ヤギ | |||||||||||||||||||||||||||
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生息年代: 新石器時代-現世, .01–0 Ma
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家畜ヤギ
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Capra Linnaeus, 1758 | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ヤギ | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Goat |
ヤギ(山羊、野羊)は、ウシ科ヤギ属(Capra)の総称である[1]。
狭義には家畜種 Capra hircus(分類によっては C. aegagrus の亜種 Capra aegagrus hircus)を指す[1]。
ヤギは家畜として古くから飼育され、用途により乳用種、毛用種、肉用種、乳肉兼用種などに分化し、その品種は数百種類に及ぶ。ヤギは粗食によく耐え、険しい地形も苦としない。そのような強靭な性質から、山岳部や乾燥地帯で生活する人々にとって貴重な家畜となっている。ユーラシア内陸部の遊牧民にとっては、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダとともに5種の家畜(五畜)のひとつであり、特にヒツジと比べると乾燥に強いため、西アジアの乾燥地帯では重要な家畜であり、その毛がテントの布地などに使われる。ヤギの乳質はウシに近く、乳量はヒツジよりも多い。明治以降、日本でも数多くのヤギが飼われ、「貧農の乳牛」とも呼ばれたが、高度経済成長期を境として減少傾向にある。しかし、近年ではヤギの愛らしさ、粗放的飼育に耐えうる点等が再評価されつつある。これを受けて、ヤギ愛好者・生産者・研究者が一堂に会する「全国山羊サミット」[2]が年に1回、日本国内で毎年開催場所を変えて開催されており、年々盛況になっている。
ヤギは新石器時代の紀元前7千年ごろの西アジアの遺跡から遺骨が出土しており、家畜利用が始まったのはその頃と考えられている。従って、ヤギの家畜化はイヌに次いで古いと考えられる。しかしながら、野生種と家畜種の区別が難しく、その起源については確定的ではない。またパサン(ベゾアール)が家畜化されたと考えられているが、ヤギ属他種との種間雑種に由来する説もある。
従って、初めて搾乳が行われた動物はヤギと考えられ、チーズやバターなどの乳製品も、ヤギの乳から発明された。乳用のほか、肉用としても利用され、皮や毛も利用される。群れを作って移動するヤギは、遊牧民の生活にも都合が良く、肉や毛皮、乳を得ることを目的として、家畜化された結果、分布域を広げていったと考えられる。一方、農耕文明においては飼育されていたものの遊牧民ほどは重宝しなくなった。ヤギは農耕そのものには役に立たず、ヒツジの方が肉や毛皮が良質であり、また、新たに家畜化されたウシの方が乳が多く農作業に適していたからである。ただし、現在でも多くの品種のヤギが飼育されている。宗教上ウシやブタを利用しない文化においても、重要な家畜とされる。子ヤギ(キッド)の革は脂肪分が少なく、現代でも靴や手袋を作るのに用いられるが、西洋では12世紀以降、4-6週の子ヤギの革が、羊皮紙の原料としてヒツジ革と競合した。
日本の在来種については、15世紀頃に東南アジアから持ち込まれた小型山羊が起源とされる。また、ヤギは粗食に耐えることから、18 - 19世紀の遠洋航海者が重宝して船に乗せ、ニュージーランドやオーストラリア、ハワイなどに持ち込んだ経緯がある。ペリー艦隊も小笠原諸島などにヤギを持ち込んでいる。日本ザーネン種については明治以降に欧米より輸入された。1775-1776年に蘭館医師として日本に滞在したスウェーデン人カール・ツンベルク(トゥーンベリ)は、「彼らはヒツジもヤギも持っていない」と記している。ただし琉球王国や九州では、既に家畜化されていたようである。また、後述のシバヤギは、キリシタン部落と呼ばれた集落で飼われ、隠れキリシタンの貴重な食料源となっていたとされる。
牧畜を行う地域では、おおむねポピュラーな肉で羊肉と区別されずラム・マトンとして利用される。煮込み(山羊汁)が東南アジアでは普通で、ローストなどは一部特殊種類の山羊だけに見られる調理法である。南アジアではカレーに使われる。ベトナムでは薄切りにして炒め物にしたり、焼肉にしたり、鍋料理にされる。中華人民共和国では、雲南省、広西チワン族自治区などで一般的で、毛が黒い「黒山羊」を鍋料理やスープにすることが多い。台湾では屋台や専門店で出されている薬膳羊肉という煮込み料理にヤギ肉を使う店もある。地中海沿岸でも骨を煮てスープを取ることが行われる。ヤギ肉には独特の臭気があり、南アジアのエスニック料理ではにおい消しのため香辛料が発達した。
日本の内地ではあまり馴染みがないが、例外的に沖縄料理ではヤギはヒージャーと呼ばれる郷土料理であり、汁物(山羊汁)や刺身(山羊刺し)として食べられる。特に睾丸の刺身は珍重される。沖縄と同様に鹿児島県の奄美地方(奄美大島、徳之島、喜界島など)やトカラ列島などでも祝いの席の御馳走として振る舞われる事がある。
沖縄のヤギ汁は馴れない者は受けつけないほどの強烈な臭みがあり、臭み消しに大量のヨモギ等を入れるが、徳之島の島ヤギは臭みが少なく、臭み消しを大量に使う必要がないともいわれる。奄美大島の北部や徳之島では現在ヤギと呼び、喜界島ではヤジーと呼ぶが、江戸時代にはヒンジャ、ヒンザなどと呼ばれており[3]、奄美大島南部の瀬戸内町を中心にまだこの呼び方が残っている。
牧民はヤギの乳を様々に加工して用いる。ヤギ乳のチーズはシェーヴルチーズと呼び、白色で軽い食感をもち、軽い酸味と特有の香りをもつものが多い。フランスのクロタン(Crotin de Chavignol)、ピコドン(Picodon de l'Ardeche)などが有名。
ヤギ乳は、牛乳アレルギーのある人の代替飲料として好んで用いられていた。また、牛乳よりも消化性に優れ、芳醇な風味もあるため、アレルギーのいかんにかかわらず好む人は多い。また、アトピーにも有効といわれている。アメリカ合衆国では、メイヤンバーグ社がヤギのミルクや粉ミルクを広く流通させており、米国内の大手のスーパーでは大抵手に入る(粉ミルクは日本の輸入雑貨店でも売られている)。
太平洋戦争中は、牛に比べて大きさが手頃なことから、日本でも多くの民家でヤギの飼育が行われ、食肉やミルクの供給源となった。しかし、敗戦後はGHQの指導によりヤギ乳に代わって牛乳が普及したために、日本国内における現在の生のヤギ乳の生産高は少ない。
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繊維として防寒着や敷物、タペストリーに用いられる。上述のアンゴラ(モヘア)やカシミア(カシミアウール)は特に有名。
ヤギの毛は筆の素材としても用いられる。非常に柔らかく含みがよいので、直に人の顔に当てる化粧筆の素材として好まれる。書道筆や画筆とする場合も、細かい線描よりにじみやぼかしを活かす用途に適する。
ヤギ、特にシバヤギは、実験動物として利用されている。ヤギは他の実験動物よりも体が大きく、血清が大量にとれるため、ポリクローナル抗体(主に二次抗体)作製のためにもしばしば用いられる。また、遺伝子組み換え技術により、乳汁中に有用タンパク質を分泌するヤギが作成されている。性成熟が早く、泌乳量が多いことなどの点で、ヤギは他の動物に比べ優れている。
固い植物でもよく食べるので、除草に利用される[4]。 耕作放棄地に放牧することで雑草を除草し、イノシシの隠れ場所を減らすことで結果的にイノシシの農作物に対する食害を減らす試験が行われている。
ヤギは厳しい環境にもよく耐え、繁殖力も強いので特に厳しい環境下では貴重な家畜である。しかし、乾燥地帯や冬場で、餌となる植物の葉や芽の部分を食べ尽くしてしまうと、ヒツジ等とは異なり、残った樹皮や樹根も食べてしまうため、植物が再生することができず、森林破壊等の原因となることがある。
ここで言うノヤギ(野ヤギ)は、家畜ヤギが野生化した個体である。家畜化の歴史の項で述べたように、船乗りたちは昔から必要時の肉資源として、孤島などにヤギを放して利用してきた。このほか過疎化等によって無人化した孤島に、家畜のヤギが取り残されて野生化することもある。
近年、このようなヤギ(ノヤギ)の増殖による生態系の破壊が問題となっている。ことにかつて船乗りたちがヤギを置き去りにした大洋の離島においては、離島産の固有植物がヤギにより著しく食害され絶滅を危惧されるまでに至っているため、ヤギは世界の侵略的外来種ワースト100の1種に選定されている。
日本では、南西諸島、小笠原諸島の無人島の聟島列島や、伊豆諸島の無人島である八丈小島、尖閣諸島などでノヤギの数が増え、植生破壊や農業被害及び土壌流失による周辺漁場への悪影響等の問題が起こっており、外来種による生態系破壊の中でも最も深刻なケースの一つとなっている。小笠原諸島では、当初は動物愛護の観点から捕殺ではなく、ヤギを生け捕りにして、ヤギを食べる習慣のある沖縄へ送っていたが、長旅のストレスにより多くのヤギが死亡したため、生け捕り後安楽殺(薬殺)という手段に変更した[5]。八丈町は捕獲したヤギを八丈島に保護・収容して里親を募集したこともある。尖閣諸島の魚釣島では、日本の民間団体によって1978年に与那国島からヤギ(ザーネン種)(雄雌各1頭)が持ち込まれ、300頭を超えるまでに爆発的に増加した[5]。各地のヤギ対策は現在も続いている(聟島列島では完全に根絶した[6])。
中国、モンゴル等、東アジアの乾燥地帯では、ヒツジよりも利益率の高いカシミア種のヤギの飼育数が増え、砂漠化が進む一因ともなっている。また、中近東などでの砂漠の拡大にも、ヤギが影響していると考えられている。
ヤギは古くから家畜化されていたため、文化の中に様々な形で登場する。
ヤギは古くから犠牲にささげる獣(生贄)として使われることが多い。古代のユダヤ教では年に1度、2匹の牡ヤギを選び、くじを引いて1匹を生贄とし、もう1匹を「アザゼルのヤギ」(贖罪山羊)と呼んで荒野に放った(旧約聖書 レビ記16章)。贖罪山羊は礼拝者の全ての罪を背負わされ、生きたまま捨てられる点で生け贄と異なる。特定の人間に問題の責任を負わせ犠牲とすることをスケープゴート(scapegoat 生け贄のヤギ)と言うのは、これにちなんだ表現である。
現代的表現の例としては、アメリカのヤングアダルト小説の旗手であるブロック・コール『ヤギ・ゲーム』(邦訳 徳間書店、中川千尋 訳)が挙げられる。
新約聖書(マタイによる福音書)では、ヤギを悪しきものの象徴として扱うくだりがある。ヨーロッパのキリスト教文化においては、ヤギには悪魔の象徴としてのイメージが強いが、これは、ギリシャ神話のパンやエジプト神話のアモンのような山羊神、あるいは、祭司が角のついた仮面をかぶって獣の扮装をして踊り、豊穣な獲物を願うような素朴なシャーマン信仰における森林神等、キリスト教の公教化とともに駆逐された先行宗教の、邪神化された“異教”神たちのイメージから来たものであろう。ここからやがて、バフォメットのようなヤギ頭の悪魔が考え出され、悪魔崇拝者が好んでヤギの仮面をかぶったりする。また、中世では、悪魔の化身としてのヤギに乗って空を飛ぶ魔女の版画などもある。
古くはイソップ寓話にも見るように、オオカミなどに食べられる被捕食者としての弱々しいイメージをもつが、その一方で、中国では、角の形から、ねじくれた性格の象徴にもなっている。
ヤギは紙を食べる動物としても知られている。与えられれば割と積極的に食べる場合が多い。しかし、現実には、現代の紙を食べさせると消化できず、腸閉塞などを起こす可能性があり、危険である。
昔は紙の多くが植物のみでできていたので、ヤギが食べる(消化する)ことができた。このため、大事な書類や手紙などをヤギに食べられてしまうというエピソードが、童話や童謡などに登場する。
紙の主成分は、植物のフレーム部分の基本成分であるセルロースという繊維質である。セルロースを分解するのは、セルラーゼという分解酵素であり、この酵素はセルロースをオリゴ糖に分解する。セルラーゼを自前で分泌できる高等生物は存在しないが、草食哺乳類は、セルラーゼを分泌する共生微生物を胃腸内にもつことで、これを栄養源として利用することを可能にしている。他のすべての反芻動物と同様、ヤギの場合も、複数ある胃のうちの第一胃(ルーメン)に、このような微生物が蓄えられており、ここでセルロースの分解が行われる。つまり、原則としては、ヤギは紙を摂取して消化し、エネルギーを獲得することができるということになる(なお、ヒツジなどヤギ以外の草食動物は、紙を与えられても、嗜好として通常はほとんど食べることはないが、ヤギと同様にセルロースを消化する能力はある)。
しかし、洋紙をはじめとする現代の紙は、昔の紙とは成分が異なり、糖類に属しない炭酸カルシウム、ポリアクリルアミドなどの成分も多いので、ヤギが消化することができない。また、ティッシュ・ペーパーが水に溶けないようにする湿潤紙力剤、新聞紙など印刷物のインクや機械油など、その用途にこたえるためのさまざまな薬品・填料・顔料が、表面に塗布されたり、混ぜ込まれたりしている。そのような物質は、ヤギの消化器官でも消化することができない。はっきりと有害なものもあるし、そうでなくても、体外へ排出されることなく蓄積され、腸閉塞を起こしてしまうこともある。ひどい場合には、死に至ることさえあるという。
例外的に、コウゾ・ミツマタなどの植物だけを原料とする、伝統的な和紙であれば、ヤギが食べても特に問題はないと思われる。しかし、現代の日常場面で、このような和紙が登場することはまれで、和紙に似せた風合いの合成繊維の紙さえあるため、やはり紙を与えるのは避けるべきである。
また、パンなどの人間用加工食品、穀物やマメ科牧草などのいわゆる嗜好性の高い食物を大量に与えると、容易に分解されるため反芻胃で異常発酵を起こし最悪の場合は死に至る。これはヤギだけでなく反芻動物では一般的に言えることである。どの程度が大量かは種や飼育条件や飲料水の質・量などによるが、粗剛な飼料に適応しているヤギでは閾値が低く、飼育に当たり注意すべき点となっている。
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