出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/02/21 21:35:22」(JST)
軽油(けいゆ)とは、原油から精製される石油製品の一種で、主としてディーゼルエンジンの燃料として使用され、その用途のものはディーゼル燃料ともいう。軽油の名は、重油に対応して付けられたもので、「軽自動車用の燃料」という意味ではない[1]。
英語圏では「Diesel」で、軽油(ディーゼル燃料)の意味となる。日本のガソリンスタンドでは、セルフ式スタンドの普及により誤給油を防ぐ理由から「軽油」の代わりに「ディーゼル」と表記されている場合がある。中国語では「柴油」といい、「軽油」は別物の「軽質ナフサ」あるいは「軽質コールタール」を指す。
第4類危険物の第2石油類に属する。
原油の蒸留によって得られる沸点範囲が180 - 350℃程度の石油製品(炭化水素混合物)である。主成分は炭素数10 - 20程度のアルカンである。精製直後は無色であるが、出荷前にエメラルドグリーンなどに着色される(精製会社により異なる)。
主にディーゼルエンジンの燃料として用いられる。
自動車(特に大型車)・鉄道車両・船舶用のディーゼル燃料が日本の軽油の消費量の95%を占めるが、建設機械・農業機械の燃料、窯業・鉄鋼用の燃料、電力用補助燃料としても使用されている。高出力で熱効率(燃費)が良いため、負荷の大きいバスやトラック等に向いており、またガソリンよりも税金(軽油引取税等)が安い利点もある。ヨーロッパでは日本に比べると、自家用車でのディーゼルエンジン搭載車両の割合が高い(→ディーゼル自動車)。また引火・爆発の危険が低いため戦車などの軍用車輌にも使われており、中には燃料タンクを装甲の一部としている例も見られる。
ディーゼル用軽油としての要求性状は
これらをふまえた上で、軽油の規格は次のとおりとされる。
試験項目 | 試験方法 | 種 類 | ||||
特1号 | 1号 | 2号 | 3号 | 特3号 | ||
引火点 ℃ | JIS K2265 | 50以上 | 45以上 | |||
蒸留性状 90%留出 温度 ℃ |
JIS K2254 | 360以下 | 350以下 | 330以下(*1) | 330以下 | |
流動点 ℃ | JIS K2269 | +5以下 | -2.5以下 | -7.5以下 | -20以下 | -30以下 |
目詰まり点 ℃ | JIS K2288 | - | -1以下 | -5以下 | -12以下 | -19以下 |
10%残油の残留 炭素分質量% |
JIS K2270 | 0.1以下 | ||||
セタン指数(*2) | JIS K2280 | 50以上 | 45以上 | |||
動粘度(30℃) mm2/s | JIS K2283 | 2.7以上 | 2.5以上 | 2.0以上 | 1.7以上 | |
硫黄分 質量% | JIS K2541-1, JIS K2541-2, |
0.0010以下 | ||||
密度(15℃) g/cm3 | JIS K2249 | 0.86以下 | ||||
備 考 | 夏季用 | 冬季用 | 寒冷地用 |
環境規制に対応するために、自動車の触媒やディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)に悪影響を及ぼす硫黄分を減らす、低硫黄(サルファーフリー)化が1992年に5,000ppmから2,000ppmへ、1997年からは500ppmへと段階的に進められ、2003年からは50ppmへ、さらに2007年から10ppmへとさらなる低硫黄化が進められた[3]。
日本では2004年末、自動車排出ガス規制に関連する「自動車燃料品質規制値」の変更に伴い、軽油に含まれる硫黄の許容限界は、従来の0.01%質量以下から0.005%質量(50ppm)以下へと改められた[4]。2007年からは、10ppm以下へと改められた[5]。
燃料内の硫黄分は噴射ポンプと噴射ノズルの潤滑のためには必要な要素であったため、脱硫した軽油には潤滑材(剤)が添加されている。
軽油やガソリンは、特約店を通じてガソリンスタンド等で販売されるのが一般的であるが、同じ自動車燃料として使用されるガソリンと異なる点として、軽油は需要の多くがバスやトラック業者などの大口需要家で占められることから、大口需要家に対しては、元売や特約店による需要家の所有する地下タンクへの直接納入(インタンク)が行われる。 また軽油に特化した広域販売店(フリート)での販売も行われている。
軽油はディーゼルエンジン車用の燃料であり、ガソリン車に軽油を入れてエンジンを稼働した場合は、走行中にエンジンが停止するなど事故の原因になる。ディーゼル車にガソリンを入れてエンジンを稼働した場合は、噴射ポンプや噴射ノズルにダメージを与える。
SUVやRVブームが続いていた1990年代、合併して日石三菱となる前の日本石油と三菱石油、コスモ石油、三井石油が「プレミアムガソリン」に対抗して、一般的な軽油(ノーマル軽油)より付加価値の高い軽油としてプレミアム軽油を発売した[6]。このプレミアム軽油は一般的な軽油(ノーマル軽油)に対し、燃料噴射系の汚れを落とす「清浄剤」、自己着火(発火)性を向上し、低温始動時の白煙や高負荷時の黒煙を減少させるセタン価向上剤(セタン価+3程度)、防錆剤が添加されている。ただし、バスなどの中・大型自動車については、これらに対応できるガソリンスタンドで販売できるところが存在しないか、もしくは少なかったことや、コスト高の問題で全てのディーゼル車への普及には至らなかったが、黒煙を多少なりとも減らすことにとっては役立つものであった。日本石油はプレミアム軽油用の地下タンクとポンプを別に設け、消費者が両者を選択できるようにしていたのに対し、三菱石油はそれぞれを扱う店舗を分け、専売とする方針であった。日石三菱のガソリンスタンドのブランド(トレード)がENEOSに変更され、社名が新日本石油に変更された後もプレミアム軽油の販売が継続されていたが、前記の理由で全てのENEOSのサービスステーションで取り扱われていたわけではない。
なお、三井石油は2002年、ENEOSは2011年3月31日、コスモ石油は2012年3月31日をもってプレミアム軽油の販売を終了した。ENEOSではプレミアム軽油販売終了後、ノーマル軽油に軽油添加剤「ENEOSエコフォースD」[7]を、コスモ石油では「エコディー・ファイン」[8]を入れることでプレミアム軽油とほぼ同等の性能が得られると知らせている。
ディーゼル車用燃料として使われる軽油の取引には、軽油引取税という都道府県税(地方税)がかかる。ちなみに、ガソリンには、国税(中央税)のガソリン税(地方道路税を含む)がかかる。
以前は軽油引取税を脱税するために、重油や灯油などを混合してディーゼル車で使えるようにした不正軽油が製造・販売・消費されており、その排出ガスに多く含まれる煤煙や硫黄酸化物の増加によってもたらされる大気汚染も含めて社会問題化した。
軽油引取税の一般財源化(総合財源化)が審議されているが、一般財源化(総合財源化)されるのであれば道路建設目的の財源ではなくなるため、仮に軽油のみに課税することになれば、課税の公平性を保つ上で大きな争点になりうる。ただし現実にはその逆で、ガソリン税に対して、軽油税ははるかに税率が低い。この点、軽油とガソリンが同じ税率である欧州などとは異なり、日本では軽油が大幅に優遇されている。これは逆の意味で、課税の公平性を保つ上で大きな争点になりうる。
ディーゼル車の排ガスが花粉症を引き起こす一つの原因とされることもあるが、東京都の依頼を受けて調査を行ったディーゼル車排出ガスと花粉症の関連に関する調査委員会は、平成15年5月に“ディーゼル車排出ガスを多く吸っている人が花粉症になりやすいということや、ディーゼル車排出ガス濃度の高い地域ほど花粉症患者の割合が高いということは認められず、ディーゼル車排出ガスの曝露が花粉症患者の割合を増加させているという疫学的証明は得られなかった。”と発表している[9][10]。
灯油をディーゼル車に給油する場合や、軽油と混ぜて(混和)販売・消費するには、事前に各都道府県税事務所の許可が必要である。実際にディーゼル車に灯油を給油する際には燃料タンク内を空にし、空であることを都道府県税事務所所員立会いの下、目視で確認してもらってから給油が可能となる。神奈川県税事務所で確認した限りでは、混和してよい灯油は「製油所内で製造される灯油識別剤の入ってない灯油に限る。」とされているため、製油所から出荷される前に識別剤が投入されている現状ではそれを入手することは事実上不可能で、軽油引取税もタンクに入れた量をそのまま直ちに申告すればよいものではなく、購入した量、消費した量、残存量を所定の書類に記入した上で、月二回事務所に直接報告しなければならず、個人で灯油をディーゼル車に給油するメリットは全く無い。また、軽油に硫黄分が500ppm含まれていた頃、灯油は80ppm程度であったため、灯油を燃料にすれば硫黄酸化物(や黒煙)を減らせると信じられていたが、現行の軽油が10ppmまで硫黄分が減っている事と、灯油にはディーゼルエンジンに使用した場合に噴射ポンプや噴射ノズルを潤滑する成分が含まれていないため、却ってそれらを壊すこととなる。ただし、列型噴射ポンプを採用しているディーゼルエンジンの場合、燃料圧縮用カムはエンジンオイルで潤滑されるため、耐性には幾分かの余裕がある。
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リンク元 | 「ガソリン」「diesel fuel」 |
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